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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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はじめてのお昼休み

はじめてのお昼休み


「じゃあ、お願いします!」


「お願いします!」


 ミオと咲子が揃って頭を下げる。


「分かったから、早く行ってこい。朝からずっと立ってたんだろ」


 ゴンさんが手を振った。


「ちゃんと飯食ってこいよ」


「はーい!」


「それと、戻る時間」


 咲子が隣を見る。


「ミオ」


「分かってるって!」


「ほんとに?」


「今日は遅刻しない!」


「今は戻る時間の話!」


 奥さんが二人のやり取りを見て笑った。


「こっちは大丈夫だから、少しくらいゆっくりしてきなさい」


「ありがとうございます!」


「お願いします!」


 二人はもう一度頭を下げ、ようやく自分たちの店を離れた。


 朝からずっと机の向こう側に立ち、客の反応ばかり気にしていた。


 同じバザー会場なのに、今からは自分たちも客として歩ける。


     ◇


 二人を見送ったゴンさんが、改めて机の上の商品を眺めた。


「俺たち、値段くらいしか分からんぞ」


「値段が書いてあるなら、会計は何とかなるでしょう」


「それだけならな」


 奥さんが答えたところで、一人の女性が店の前で足を止めた。


「いらっしゃいませ」


 奥さんが自然に声をかける。


 女性は商品を一つ手に取り、しばらく眺めてから尋ねた。


「これ、ほかの色あります?」


「…………」


 ゴンさんと奥さんが顔を見合わせた。


「あるの?」


「俺に聞くな」


「あなた、何も聞いてないの?」


「店番を頼まれただけだぞ」


 女性が思わず笑った。


「あ、分からなかったら大丈夫ですよ」


「ちょっと待ってくださいね」


 奥さんが並んでいる商品を確認する。


「これ、同じものじゃない?」


「色が違うぞ」


「色違いを探してるんでしょう」


「ああ、そうか」


「あなた大丈夫?」


「今来たばかりだ!」


 似た商品をいくつか並べて見せると、女性は楽しそうに見比べ始めた。


「あ、これ好きです」


 一つを選ぶ。


「これにします」


「ありがとうございます」


 会計そのものは問題なかった。


 奥さんがお金を受け取り、釣り銭を確認する。商品を袋へ入れて渡し、女性を見送った。


 ゴンさんが売上を記録する。


「……意外と難しいな」


「会計はできても、商品について聞かれると困るわね」


「二人は朝からこれやってたのか」


「そういうこと。しかも自分たちで並べて、値段も決めてるんでしょう?」


「まあ、よくやってるな」


「あら、ちゃんと褒められるじゃない」


「本人たちの前では言わん」


「どうしてよ」


 そのとき、また一人の客が足を止めた。


 二人はすぐに店番へ戻る。


 ミオと咲子が休んでいる間も、店は動き続けていた。


     ◇


「いい匂い!」


 その頃、ミオは食べ物を扱う店が並ぶ一角で目を輝かせていた。


「何食べる?」


「いきなりそれ?」


「だってお腹すいた!」


「私もだけど」


 二人は軽食を見ながら歩く。


「あ、あれおいしそう」


「こっちも」


「両方食べる?」


「食べすぎ!」


「半分ずつなら?」


「……それならいいかも」


「でしょ?」


 売る側だったときには、周囲の店を見る余裕などなかった。


 客側に回ってみると、同じ会場なのに見え方がまるで違う。


「あ、この店、値札大きい」


「ほんとだ。見やすいね」


「ここの並べ方もいいなあ」


「種類ごとに分けてるんだ」


「私たち、最初全部前に出そうとしてたよね」


「ゴンさんに止められたけど」


「止めてもらってよかったね」


「うん」


 昼食を探しているはずなのに、いつの間にか他店の陳列や値札まで観察していた。


「ねえ、咲子」


「何?」


「私たち、休憩してるよね?」


「してるよ」


「ずっとお店のこと考えてない?」


「ミオが言う?」


「咲子も見てたじゃん!」


「……まあ、ちょっと気になる」


 朝から自分たちで店をやっていたせいか、ほかの店がどんな工夫をしているのか、自然と目に入ってしまう。


 二人は顔を見合わせて笑った。


     ◇


「あっ、天女!」


 少し離れた店の前に、見覚えのある姿があった。


「あっ、ミオさん! 咲子さん!」


 天女が嬉しそうに近づいてくる。


「まだ見てたの?」


「はい!」


「全部見るつもり?」


「できれば!」


「本気なんだ……」


 咲子が苦笑する。


「お二人はどうしたんです?」


「休憩」


「ゴンさんたちが店番してくれてるの」


「そうなんですね」


 天女が二人の持っている食べ物を見る。


「それは何です?」


「これ?」


 ミオが見せる。


「食べてみる?」


「いいんですか?」


「ちょっとくらいいいじゃん」


「いただきます!」


「もう食べる気満々だし」


 天女が一口食べる。


 途端に目を輝かせた。


「おいしいです!」


「でしょ?」


「これは、いくらなのです?」


「これ? 五百円」


「五百……」


 天女が少し考え込む。


「それは高いのですか?」


「え?」


 ミオと咲子が顔を見合わせた。


「天女、五百円が高いか安いか分かんないの?」


「数字が五百だということは分かりますよ。でも、それが人間の方にとって多いのか少ないのかは……」


「分からない?」


「はい!」


 妙に元気のいい返事だった。


「そっか。天女たちって、人間のお金で買い物したことないもんね」


「ありません」


 天女にとって値札の数字は読めても、その金額が人間にとってどの程度の価値なのかまでは分からない。


「じゃあ、値札見ても何となく数字が書いてあるくらいに思ってたの?」


「何か意味があるのだろうとは思っていました」


「そこからだったんだ……」


「人間のお金、難しいですね」


「物によっても高いとか安いとか変わるからね」


「さらに難しくなりました」


 三人は笑った。


     ◇


 少し休める場所を見つけ、三人で昼食を取ることにした。


 天女はミオたちから分けてもらった軽食を興味深そうに眺めている。


「これは?」


「こっちは三百円」


「先ほどより数字が小さいですね」


「うん」


「では、こちらの方が安い?」


「値段はね」


「値段は?」


 天女が首を傾げる。


 咲子が説明する。


「三百円でも、それが高いか安いかは物によるの」


「物による?」


「同じ三百円でも、何を買うかで感じ方が違うっていうか……」


「…………」


 天女が真剣な顔で考える。


「難しいです」


「でしょ?」


「数字の大きさだけ覚えればよいわけではないのですね」


「そういうこと」


「でも」


 天女が手にした食べ物を見る。


「これはおいしいです」


「そこは分かりやすいんだ」


「はい!」


 三人が笑った。


     ◇


「午前中、結構売れたよ」


 食べながらミオが話す。


「そうなんですか?」


「うん。特に千円とか二千円くらいのが――」


 そこまで言って、ミオが止まった。


「……って言っても、天女にはよく分かんないか」


「数字は分かります!」


「でも高いか安いかは?」


「分かりません!」


「やっぱり」


 咲子が笑う。


「じゃあ値段じゃなくて……作りがちょっと細かい小物がよく売れたの」


「なるほど」


「もっと簡単な感じのものは、まだ結構残ってる」


「人間の方は、細かく作られたものを好むのですか?」


「今のところはね」


 咲子が答える。


「でも午後になったら変わるかもしれない」


「どうしてです?」


「来る人が変わるかもしれないから」


「なるほど……」


 天女は楽しそうに頷いた。


「人間の方が何を選ぶのか、見ているだけでも面白いですね」


「だから朝からずっと見てるんだ」


「それだけではありません!」


「ほかのお店も見たいから?」


「はい!」


「やっぱり」


     ◇


 食事を終えると、三人は少しだけ会場を見て回った。


「あ、これかわいい」


 今度はミオが足を止める。


「ミオが買う側になってる」


「見るくらいいいじゃん」


 ミオは商品を眺め、値札を見る。


「……なるほど」


「何?」


「ちょっと考える気持ち分かった」


「でしょ?」


「欲しいけど、ほかも見てからにしようかなってなる」


「朝のお客さんと同じ」


「ほんとだ」


 ミオは商品を元の場所へ戻した。


 少し歩く。


 それでも気になって、もう一度振り返る。


「あ」


「何?」


「また見ちゃった」


「それも朝のお客さんと同じ」


「ほんとだ!」


 売る側にいたときは、商品を戻して去っていく客を見て「気に入らなかったのかな」と不安になった。


 けれど自分が客になってみると、気に入っていてもすぐには買わないことがある。


 ほかも見たい。


 少し考えたい。


 それでも気になれば、また戻ってくるかもしれない。


「お客さんの気持ち、ちょっと分かったかも」


「勉強になったね」


「休憩なのに?」


「ミオが勝手に勉強してるんでしょ」


     ◇


「あっ、あれかわいいですね」


 今度は天女が小さな雑貨を見つけた。


「欲しい?」


 ミオが聞く。


「え?」


「買ってあげようか?」


「ミオ」


 咲子がすぐに止める。


「何?」


「天女、朝から何個『かわいい』って言ったと思う?」


「……いっぱい」


「でしょ?」


「でも一個くらい」


「いいんです!」


 天女が笑った。


「見ているだけでも楽しいですから」


「ほんと?」


「はい。それに、次のお店も気になります!」


 天女の視線は、もう隣の店へ向いている。


「……やっぱり何か一つ欲しいんじゃなくて、全部見たいんだ」


「はい!」


「即答なんだ」


 ミオが笑う。


「じゃあ、もうちょっと見て回ろっか」


「戻る時間は忘れないでよ」


「分かってるって!」


 三人は再び歩き出した。


 ミオと咲子にとっては、朝から初めて客として楽しむバザー。


 そして天女にとっては、人間の食べ物も、お金も、並んでいる品物も、何もかもが珍しい。


「ミオさん、あちらにも何かありますよ!」


「ほんとだ!」


「ミオ、走らない!」


 短い昼休みは、もう少しだけ続きそうだった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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