午前中の売れ筋・前編
午前中の売れ筋・前編
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
商品を受け取った女性が店を離れていく。
ミオはその後ろ姿を見送ってから、机の上へ目を戻した。
「あれ?」
「どうしたの?」
「こっち、結構減ってない?」
ミオが指さしたのは、千円から二千円ほどの値段をつけた商品が並んでいる一角だった。
咲子も売上の記録と残っている商品を確認する。
「ほんとだ」
「やっぱり!」
最初の一個が売れたときには、それだけで二人とも大騒ぎだった。
それから時間が経ち、何人もの客を相手にしているうちに、少しずつ売れ方にも違いが見え始めている。
「これも売れたでしょ?」
「うん」
「こっちも」
「それ、さっきの人」
「じゃあ、この辺かなり売れてるじゃん!」
「そうみたい」
朝には商品で埋まっていた場所に、少しずつ隙間ができていた。特に千円台の商品はよく動いている。
二千円前後の商品も、気に入った客が手に取って、そのまま購入していくことが何度かあった。
「なんか意外」
「何が?」
「もっと安いのから売れると思ってた」
ミオが五百円ほどの商品を見る。
もちろん一つも売れていないわけではない。けれど、今のところ大人の客がよく手に取っているのは、もう少し値段の高い商品だった。
「安ければ何でも売れるってわけじゃないんだね」
「アクセサリーだからじゃない?」
「どういうこと?」
「大人の人だったら、ちょっとちゃんとしたのが欲しいんじゃない?」
「ああ……」
ミオは改めて商品を見比べる。
「こっちの方が少し作りが細かいもんね」
「値段だけ見て選んでるわけじゃないってことじゃない?」
「なるほど」
準備しているときには、安い物ほど買ってもらいやすいと思っていた。
実際に売ってみると、そう単純ではないらしい。
◇
「ねえ、これとこっち、どっちがいいと思う?」
二人連れの女性が、色の違う商品を一つずつ手に取って見比べていた。
「私はこっちかな」
「でも、こっちもかわいくない?」
「服に合わせるならそっちじゃない?」
「うーん……」
ミオと咲子は少し離れたところから様子を見る。
最初の頃なら、商品を二つも手に取ってくれた時点で「二つとも売れるかも」と期待していたかもしれない。
今は、迷っている客を急かさず待つことも少しずつ覚えていた。
「すみません」
「はい!」
呼ばれ、ミオがすぐに近づく。
「これ、ほかの色もあります?」
「あります。ちょっと待ってください」
ミオが商品を確認する。
「これと、こっちですね」
「あ、これもいい」
「ほんとだ」
二人の相談がまた始まった。
しばらく三つを見比べたあと、一人が千五百円の商品を選ぶ。
「じゃあ、私はこれにします」
「私もこっち買おうかな」
「ありがとうございます!」
二人とも購入することになった。
会計を済ませ、客を見送る。
「二つ売れた!」
「声」
「ごめん!」
ミオは慌てて声を落とす。
「でも、ああやって比べて選ぶんだね」
「アクセサリーだもん。色とか気になるんじゃない?」
「同じ値段でも?」
「値段だけで選んでないって、さっき自分で言ってたじゃん」
「あ、そうだった」
商品が減った場所を整えながら、ミオは少し考える。
客が見ているのは値札だけではない。
色や形、自分に似合うか、普段使えるか、誰かに贈れるか。
同じくらいの値段でも、選ぶ理由はいろいろあるようだった。
◇
次に来た女性は、二千円ほどの商品を手に取った。
「これ、素敵ですね」
「ありがとうございます」
「普段でも使えそう」
商品を自分の服へ近づけるようにして、連れの女性へ聞く。
「どう?」
「似合うと思う」
「ほんと?」
「うん。そっちの色の方がいいんじゃない?」
女性は少し考えてから、もう一度商品を見る。
「じゃあ……これください」
「ありがとうございます!」
会計を済ませながら、ミオは少し嬉しくなった。
値段だけを見て買うのではなく、「自分が使うところ」を想像して選んでくれている。
商品が一つ減ったあと、ミオが小声で言った。
「今の人、値札より先に自分に似合うか見てたね」
「うん」
「なんか嬉しい」
「何が?」
「ちゃんと欲しいって思って買ってくれてる感じするから」
咲子も少し笑った。
「それは分かる」
「ただ安いから買ってくれるのとは違うんだね」
「安いから買うのが悪いわけじゃないけどね」
「それもそうか」
ミオは頷いた。
売れれば何でも同じだと思っていたわけではない。
それでも、実際に目の前で一つの商品を迷いながら選んでもらうと、売上の数字だけでは分からない嬉しさがあった。
◇
一方で、三千円ほどになると客の反応が少し変わった。
「これ、かわいい」
一人の女性が商品を手に取る。
連れの女性も覗き込んだ。
「いいじゃん」
「でも三千円かあ……」
「悩むね」
「そうなんだよね」
商品を見る。
値札を見る。
また商品を見る。
「ほか一周してから決めようかな」
「そうする?」
二人は商品を元の場所へ戻した。
「ありがとうございました」
客が離れてから、ミオが咲子を見る。
「今の、値段だよね」
「たぶんね」
「三千円くらいになると、ちょっと考えるんだ」
「買ってくれる人もいるけど、千円台より迷う人は多いね」
「うん」
しばらくして、先ほどとは別の客が同じ商品を手に取った。
「これ、いくらですか?」
「三千円です」
「ああ……」
値札を見直す。
「かわいいんだけどなあ」
その人も、しばらく悩んだあと元へ戻した。
さらに別の客は、同じくらいの価格の商品を手にしたまま店の前を離れず、何度もほかの商品と比べている。
「こっちなら二千円か……」
最後には二千円の商品を選んだ。
「こっちください」
「ありがとうございます」
客を見送ったあと、ミオは三千円の商品を見る。
「負けた」
「何と戦ってるの?」
「こっちとこっち」
「商品同士で勝負させないの」
「でも値段でこっちになったよね?」
「それだけじゃないかもしれないでしょ」
「うーん……」
まだ簡単に答えは出ない。
それでも、千円台と三千円台では客の迷い方が少し違うことだけは、二人にも分かり始めていた。
◇
さらに値段の高い商品になると、その違いはもっとはっきりした。
「わあ、これすごい」
一人の女性が、五千円を超える商品を手に取った。
「細かいですね」
「ありがとうございます」
「きれい……」
かなり気に入っているようで、角度を変えながら何度も眺めている。
ミオは少し期待した。
女性が値札を見ると、その手が止まった。
もう一度商品を見る。
また値札を見る。
「五千円かあ……」
小さく呟く。
「すごくいいんだけど……ちょっと考えますね」
「はい」
女性は名残惜しそうに商品を戻した。
その場を離れたあとも、一度振り返って商品を見ている。
「……すごく気に入ってくれてたよね」
「うん」
「でも売れなかった」
「この値段だと、気に入っただけですぐ買うのは難しいんじゃない?」
「そうだよね」
少しして、別の女性も同じ価格帯の商品を手に取った。
「これ、素敵ですね」
「ありがとうございます」
「プレゼントにもよさそう」
しばらく眺める。
「……もう少し安かったらなあ」
そう言って戻す。
また別の客は、値札を見た瞬間に「あ、結構するんだ」と呟いた。それでもすぐには戻さず、しばらく商品を眺めている。
高価格帯の商品は、興味を持ってもらえていないわけではない。
むしろ、長く見てもらえることも多い。
けれど購入となると、そこで一度止まる。
「ねえ、咲子」
「何?」
「こっち、高くつけすぎたかな」
「うーん……」
咲子も今度はすぐに否定しなかった。
「ちょっと高かったのかもしれないね」
「下げる?」
「まだ午前中だよ」
「でも、もう少し安かったらって言われたよ」
「だからって今すぐ変える?」
「うーん……」
「気に入ってくれる人はいるんだから、もう少し様子見ようよ。午後まで全然動かなかったら、そのとき考えればいいでしょ」
「そっか」
「途中で慌てて変えるより、まず見てみよう」
「うん」
ミオも頷いた。
売れないから、すぐ安くする。それでは、本当に値段だけが原因だったのか分からないままだ。
今日はまだ長い。
千円台、二千円台、三千円台、そして五千円以上。
同じように商品を気に入ってくれても、値段によって客の迷い方は少しずつ違っている。
その違いを二人が初めて実感したところで、午前のバザーはまだ続いていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




