行きたいのに行けない!
行きたいのに行けない!
一方、その頃。
「…………」
朱雀は辺りを見回した。
静かだった。
誰もいないわけではない。だが、いつもと比べれば明らかに数が少なく、普段ならあちらこちらから聞こえてくる声も、今日は妙にまばらだった。
「……少なくないか?」
「何がです?」
近くにいた執事が答える。
「皆だ。朝から妙に静かではないか」
「出かけておりますので」
「どこへ」
「下界へ」
「…………」
朱雀の眉がぴくりと動いた。
「バザーか?」
「バザーへ行かれた方も多いでしょうね。それ以外の場所へ出かけた方もいらっしゃいますが」
「…………」
「認識資格をお持ちの方々は、それぞれ好きな場所へ行かれております」
朱雀は少し黙った。
そして、何でもないことを聞くような顔で尋ねる。
「天女は?」
「バザーへ」
「…………ちっ」
執事が朱雀を見る。
「今、舌打ちしました?」
「しておらぬ」
「しましたよね?」
「しておらぬ!」
「そうですか」
「何だ、その顔は!」
「何も」
朱雀は不満そうに腕を組んだ。
「天女め……」
「昨日から楽しみにしておられましたからね。今頃、随分と楽しまれているでしょう」
「お主、わざと言っておるだろう」
「何のことでしょう」
「…………ちっ」
「二度目です」
「数えるな!」
朱雀はますます機嫌を悪くした。
自分はここにいる。
天女は下界でバザーを楽しんでいる。
しかも、ほかの認識資格を持つ配下たちも、それぞれ好きな場所へ出かけている。
考えれば考えるほど面白くない。
「今頃、何をしておるのだろうな」
「天女様ですか?」
「別に天女とは言っておらぬ」
「では、どなたのことです?」
「…………」
「天女様ですね」
「うるさい!」
執事は小さく息を吐いた。
◇
朱雀はしばらく黙っていたが、ふと何かに気づいたように執事を見る。
「ところで」
「はい」
「なぜお主はここにおる?」
「…………」
「お主も認識資格を持っておるだろう」
「持っております」
「ならば下界へ行けばよかろう。バザーでも何でも好きに見てくればよい」
「私もそうしたいのですが」
「ならば行け」
「朱雀様がおられますので」
「…………」
今度は朱雀が黙った。
「なぜ我が理由になる」
「本当に分かりません?」
「分からぬ」
「以前、勝手に下界へ行かれましたよね」
「…………」
「しかも人間の姿になって、随分と楽しそうに遊んでおられましたよね」
「昔の話ではないか」
「前科は前科です」
「前科と言うな!」
朱雀が声を上げた。
「今回は違う!」
「何が違うのです?」
「見るだけだ!」
執事が黙る。
「…………」
「…………」
朱雀が目を逸らした。
「まだ行くとも聞いていませんでしたが」
「…………」
「やはり行くつもりだったのですね」
「今のは違う!」
「何が違うのです?」
「言葉のあやだ!」
「便利な言葉ですね」
「お主、今日いつもより腹が立つぞ!」
「私も本当なら下界へ行けたのですが」
「根に持っておるではないか!」
「何のことでしょう」
執事は涼しい顔をしている。
本来なら、執事も今日は自由に下界へ行くことができた。
しかし、過去に一度ルールを破って下界へ行った朱雀を、一人で残すわけにはいかない。
「我は子供か!」
「一人にすると勝手に下界へ行く方を、どう扱えばよろしいので?」
「行かぬ!」
「本当に?」
「…………たぶん」
「だから残っているのです」
「信用がなさすぎる!」
「信用を失うようなことをなさったのは朱雀様です」
「正論を言うな!」
◇
「しかしだな」
朱雀はまだ諦めていなかった。
「何です?」
「今回は本当に見るだけだ」
「先ほどから聞いております」
「バザーというものがどのようなものか、少し確認するだけだ」
「駄目です」
「人間には何もせぬ」
「駄目です」
「人間の姿にもならぬ」
「当たり前です」
「すぐ戻る」
「駄目です」
「まだ何もしておらぬではないか!」
「しようとしているから止めているのです」
朱雀は納得できない様子で腕を組む。
「天女はよくて、なぜ我は駄目なのだ」
「天女様は認識資格をお持ちです」
「ガチャで当たっただけではないか!」
「そのガチャがルールです」
「ぐぬぬ……」
「朱雀様も当選されれば堂々と行けますよ」
「いつになるか分からぬではないか!」
「それは私に言われても」
「黄龍に何とかさせろ!」
「不正をさせるおつもりですか?」
「…………」
「先日のガチャで不正操作がないことが、あれだけ綺麗に示されたばかりですが」
「言ってみただけだ!」
「そうですか」
「何だ、その顔は!」
◇
「何を騒いでいる」
そこへ白虎がやってきた。
「ちょうどよいところに来た!」
朱雀の表情が一気に明るくなる。
「白虎! お主、バザーへ行きたくないか?」
「なぜ我が」
「気にならぬのか?」
「別に」
「皆、下界へ行っておるぞ」
「そうか」
「天女もバザーへ行った」
「そうか」
「今頃、人間どもが品を選んでおる」
「そうか」
「どの商品が売れるのか気にならぬか?」
「…………」
白虎が少し黙る。
朱雀がにやりとした。
「気になっておるな?」
「別に」
「ならば、なぜ黙った」
「考えていただけだ」
「何を?」
「…………」
「バザーのことだろう!」
「うるさい」
執事が小さく息を吐いた。
「朱雀様、白虎様まで巻き込まないでください」
「巻き込んでおらぬ! 本人も行きたいのだ!」
「誰が言った」
「顔に書いてある!」
「書いておらぬ」
「ならば我と一緒に――」
「行かぬ」
「まだ最後まで言っておらぬ!」
「下界へ行く話だろう」
「そうだ!」
「なら行かぬ」
「つまらぬ奴だ」
白虎は朱雀を無視するように腕を組んだ。
ところが、少しすると口を開く。
「……どの程度、人間が集まるものなのだ?」
朱雀が振り返る。
「ほら!」
「何がだ」
「気になっておる!」
「一般的なバザーについて聞いただけだ」
「では自分で見ればよかろう!」
「なぜそうなる」
「見た方が早い!」
「朱雀様」
執事が止める。
「何だ!」
「白虎様をこちら側へ引き込もうとしないでください」
「こちら側とは何だ!」
「下界へ行きたくて仕方がない側です」
「白虎もこちら側だ!」
「勝手に決めるな」
「では気にならぬのか!」
「…………」
「また黙った!」
「考えているだけだ!」
◇
少しして、白虎がぽつりと言った。
「……認識されなければ、見るだけなら問題ないのではないか?」
「白虎様」
執事の声が低くなった。
「何だ」
「余計なことを言わないでください」
「ほら!」
朱雀が勢いよく白虎を指さした。
「白虎も同じことを考えておるではないか!」
「同じにするな」
「今、見るだけならと言った!」
「可能性の話だ」
「ならば試せばよい!」
「朱雀様を煽らないでください!」
「誰が煽っている」
「十分煽っています!」
朱雀はすっかり勢いを取り戻した。
「二人で行けばよかろう!」
「人数の問題ではありません」
「白虎がおるのだぞ!」
「白虎様がおられれば、朱雀様の前科が消えるのですか?」
「消えぬ!」
「ご自分で答えないでください」
「では、どうすれば消える!」
「消そうとしないでください」
白虎が横でわずかに笑った。
「笑うな、白虎!」
「笑っておらぬ」
「絶対に笑った!」
◇
「見るだけだぞ」
「もちろんだ!」
「何もするな」
「分かっておる!」
「人間に余計なことをするな」
「せぬ!」
「人間の姿になって遊ぶな」
「なぜそこまで言う!」
「前にやったからです!」
朱雀が言葉に詰まる。
「……今回はやらぬ」
「信用できません」
「なぜだ!」
「前科がありますから」
「また前科と言ったな!」
「事実ですので」
白虎が執事を見る。
「本当に見るだけでも駄目なのか?」
「駄目です」
「なぜだ」
「認識資格を得ていないからです」
「認識されなければよいだろう」
「そうやって例外を作り始めると、この方が何をするか分かりませんので」
「なぜ我を見る!」
「前科がありますから」
「何度言うつもりだ!」
「朱雀様が諦めるまででしょうか」
「ならば永遠に言うことになるぞ!」
「威張るところではありません」
◇
結局、朱雀はまだ一歩も下界へ降りられていなかった。
「見るだけだと言っておろう!」
「駄目です」
「すぐ戻る!」
「駄目です」
「人間の姿にもならぬ!」
「当たり前です」
「何も買わぬ!」
「お金を持っていないでしょう」
「ならば問題ないではないか!」
「そういう問題ではありません」
白虎まで隣で何やら考え込んでいる。
執事は二人を交互に見て、深いため息をついた。
「……私もバザーへ行きたかったのですが」
「ならば行けばよい!」
「誰のせいで残っていると思っているのです?」
「我ではない!」
「朱雀様です」
「即答するな!」
「では、ほかに誰が?」
「…………」
「いませんよね」
「お主、本当に今日いつもより腹が立つぞ!」
執事は答えず、静かに朱雀を見た。
下界では、認識資格を持つ妖怪たちが、それぞれ思い思いに人間の世界を楽しんでいる。
天女はきっと今頃も、バザーの店から店へと目を輝かせて歩き回っているのだろう。
その光景を想像したのか、朱雀がまた不満そうな顔になる。
「…………ちっ」
「三度目です」
「だから数えるな!」
「聞こえるようになさらなければよろしいのでは?」
「そういう問題ではない!」
「朱雀」
白虎が口を開いた。
「何だ」
「……本当に見るだけなのだな?」
朱雀の目が輝いた。
「もちろんだ!」
「白虎様!?」
「認識されなければ問題ないという話をしているだけだ」
「先ほどから少しずつ朱雀様側へ寄っておりますよ!」
「寄っておらぬ」
「では、なぜ確認したのです!」
「念のためだ」
「何の念ですか!」
朱雀が白虎の肩へ手を回そうとする。
「やはりお主は分かっておる!」
「触るな」
「二人なら心強い!」
「行くとは言っておらぬ」
「もう半分行く顔をしておる!」
「どんな顔だ!」
「お二人とも」
執事が二人の間へ入った。
「駄目です」
「まだ何もしておらぬ!」
「今からしそうだから言っているのです!」
「見るだけだ!」
「その言葉は本日何度目です?」
「数えておらぬ!」
「私は数えています」
「暇なのか!」
「朱雀様を見張っているせいで暇なのです!」
「我のせいにするな!」
「朱雀様のせいです!」
白虎がとうとう声を立てて笑った。
「白虎!」
「すまぬ」
「絶対にすまぬと思っておらぬだろう!」
執事は深く、深くため息をついた。
今日はまだ長い。
そしてバザーが終わるまで、朱雀が諦める気配はまるでない。
認識資格を持つ者たちが自由に下界を楽しむ一方で、資格を持たない朱雀と白虎、そして二人を見張ることになった執事。
上界では、バザーとはまったく別の騒ぎが続いていた。
「なあ、執事」
「駄目です」
「まだ何も言っておらぬ!」
「どうせ『少しくらいなら』でしょう」
「……なぜ分かった」
「何度聞いたと思っているのです」
朱雀はしばらく黙った。
そして、ぼそりと呟く。
「……少しくらいなら」
「駄目です!」
執事の声が、静かな上界によく響いた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




