↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/85

見たいけど、つけたくない!


見たいけど、つけたくない!


「ねえ、則ちゃん」


「なに?」


「……ほんとに、そこにいるの?」


「いるよ?」


 則人は不思議そうな顔で答えた。


 その視線の先を悟も見る。しかし、やはり何も見えない。少なくとも悟の目には、いつもと変わらない景色が広がっているだけだった。


「こっち?」


「もうちょっと左」


「こっち?」


「行きすぎ」


「じゃあ、ここ?」


「そこ!」


 言われた場所をじっと見つめる。目を細めてみても、少し角度を変えてみても、結果は同じだった。


「……ほんとに?」


「ほんとだよ」


「今、悟君に手を振ってるよ」


 横からミオが言った。


「えっ、どこ!?」


「だから、そこ」


「見えないよ!」


 悟が振り返ると、ミオの頭にはいつものカチューシャがついている。


 則人には妖怪が見える。そして、本来なら見えないミオも、認識を助けるカチューシャをつけている今は普通にその姿を見ることができる。


 いつもの三人の中で、見えていないのは自分だけだった。


「……また僕だけじゃん」


「え?」


 則人が首を傾げる。


「何が?」


「妖怪!」


 悟は少しむっとして二人を見る。


「則ちゃんは見えるじゃん!」


「うん」


「ミオちゃんも見えるじゃん!」


「うん。これつけてるからね」


 ミオが自分のカチューシャを指さした。


「でも見えるじゃん!」


「悟君、見えないもんね」


「だから言ってるの!」


 思わず声が大きくなり、則人とミオが顔を見合わせる。


「この前だってそうだったし……」


 悟はもう一度、何も見えない場所へ目を向けた。


 二人には、そこにいる妖怪が見えているらしい。妖怪が何かを話せば二人が返事をし、ときどき楽しそうに笑っている。


 そのたびに悟は、「今、何て言ったの?」と聞かなければならない。


 同じ場所にいるのに、自分だけが一歩外にいるような気がした。


「どんな顔してるの?」


「えっとね――」


 則人が説明しようとすると、悟は首を振った。


「そうじゃなくて!」


「え?」


「僕も自分で見たいの! いつも僕だけ見えないじゃん!」


「あ」


 ミオが何かに気づいたように、自分の頭へ手をやった。


「じゃあ、これ使う?」


「…………え?」


 ミオは何でもないことのようにカチューシャを外した。


「これつければ見えるよ」


「…………」


「はい」


 目の前に差し出されたカチューシャを、悟はじっと見つめる。


 確かに、これをつければ見える。


 解決方法は目の前にある。


「よかったじゃん!」


 則人が嬉しそうに笑った。


「これで悟君も見えるよ!」


「…………」


「悟君?」


「……いい」


「え?」


 ミオが目を瞬く。


「いらない」


「何で?」


「別に……見えなくてもいい」


「さっき『僕も見たい』って言ったじゃん」


「言ってない!」


「言ったよ」


「言ってない!」


「言ってたよ?」


 則人まで加わった。


「二人ともうるさい!」


 悟はぷいっと顔を背ける。


 ついさっきまで「自分も見たい」と騒いでいたことくらい、自分でも分かっている。


 それでも、差し出されたものを素直に受け取ることはできなかった。


     ◇


「何で嫌なの?」


 則人が聞いた。


「嫌じゃない!」


「じゃあつければ?」


「それは嫌!」


「嫌なんじゃん」


「違う!」


 自分でも何を否定しているのか、だんだん分からなくなってきた。


 ミオは手に持ったカチューシャと悟を交互に見る。


「これが嫌なの?」


「…………」


「カチューシャ」


「…………」


「悟君?」


 悟はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。


「……女の子のじゃん」


「え?」


「それ!」


 悟がカチューシャを指さす。


「女の子がつけるやつじゃん!」


「そう?」


 ミオは手元のカチューシャを眺める。


「そうだよ!」


「でも、つけたら見えるよ?」


「そういうことじゃないんだよ!」


 悟にとっては大問題なのに、ミオにはまるで伝わっていない。


 隣にいる則人も同じだった。どうしてそれが問題になるのか、本当に分からないらしく首を傾げている。


「見たいんでしょ?」


「見たいよ!」


「じゃあ、つければいいじゃん」


「だから!」


 悟は思わず頭を抱えた。


「則ちゃんには分かんないんだよ!」


「何が?」


「それが分かんないんだよ!」


「?」


 則人はますます分からないという顔をした。


 ミオが少し笑いながら、カチューシャを持ち上げる。


「一回つけてみる?」


「やだ!」


「似合うかもしれないよ」


「もっとやだ!」


「何でよ!」


 ミオがカチューシャを持って近づくと、悟はすぐに一歩下がった。


「来ないで!」


「ちょっとだけ!」


「やだって!」


「つけないと見えないよ!」


「見たいけど、これは嫌なの!」


「どっちなの?」


「両方なの!」


 悟が逃げると、ミオが追いかける。


「待って!」


「待たない!」


「悟君!」


「やだー!」


 二人がぐるぐると走り回る様子を眺めながら、則人がぽつりと言った。


「見たいなら、つければいいのに」


「則ちゃんは黙ってて!」


     ◇


 しばらくして、ようやく悟は逃げるのをやめた。


「もう追いかけない?」


「追いかけないよ」


「ほんと?」


「ほんと」


 ミオはカチューシャを手に持ったまま、その場に立っている。悟は少し離れたところから、まだ警戒するように見ていた。


「でも、何でそんなに嫌なの?」


「だから……」


「女の子のだから?」


「……うん」


「別に誰も気にしないと思うけど」


「気にするよ!」


「誰が?」


「学校のやつとか!」


「学校じゃないじゃん、ここ」


「そういうことじゃないんだよ!」


 悟はむっとした。


 今ここで学校の友達に見られるわけではない。それくらいは悟にも分かっている。


 けれど、九歳の悟にとって「女の子みたい」と思われることは、それだけで十分に恥ずかしいことだった。


 少し迷ってから、ようやく本音を口にする。


「女みたいって言われたら嫌なんだよ」


 今度は、ミオも笑わなかった。


「そっか」


「……うん」


「じゃあ、無理につけなくてもいいよ」


「え?」


 ミオはあっさり自分の頭へカチューシャを戻そうとする。


「嫌なのに無理につけなくてもいいじゃん」


「…………」


 悟は黙った。


 つけなくていい。


 それなら恥ずかしい思いもしなくて済むし、誰かに似合うとか、かわいいとか言われる心配もない。


 でも、それでは結局、今までと同じだった。


 則人とミオには見えているものが、自分にだけは見えないままになる。


 そのとき、則人がまた妖怪の方へ顔を向けた。


「え?」


「どうしたの?」


 ミオもそちらを見る。


 悟には何が起きているのか分からない。


「何?」


 則人が何かを聞いている。


「ねえ、何て言ってるの?」


「あ」


 則人が悟を見る。


「悟君に、ちゃんと姿を見てほしいって」


「……僕に?」


「うん」


 悟は、何も見えない場所へ目を向けた。


「僕が見えないの、分かってるの?」


「分かってるって」


「…………」


 そこにいることは、もう知っている。今だって同じ場所にいて、自分たちの話を聞いている。


 ただ、自分だけがその姿を見ることができない。


 悟はミオが持っているカチューシャへ視線を戻した。


 見たい。


 でも、つけるのは恥ずかしい。


 どちらも本当の気持ちだった。


 少し前なら、恥ずかしいというだけで「いらない」と言って終わっていたかもしれない。


 けれど今は、見えないままでいることの方が少しだけ嫌だった。


「……貸して」


「え?」


 ミオが聞き返す。


 悟の顔が赤くなる。


「だから! 貸して!」


「カチューシャ?」


「それ以外ないでしょ!」


「いいよ」


 ミオは笑って、もう一度カチューシャを差し出した。


「はい」


「…………」


 悟は受け取ったものの、すぐにはつけなかった。


 則人がじっと見ている。


「……見ないでよ」


「何で?」


「いいから!」


 悟は二人に少し背を向け、カチューシャを頭へ持っていく。


 そこで一度、手が止まった。


 やっぱり恥ずかしい。


 誰も笑っていないと分かっていても、つける瞬間だけは見られたくなかった。


 それでも、今まで見えなかったものを自分の目で見てみたい気持ちの方が、ほんの少しだけ勝った。


 悟は目をぎゅっと閉じ、思い切ってカチューシャを頭につけた。


「……つけた」


「うん」


「見える?」


「まだ目閉じてるから分かんない!」


「あ、そっか」


「もう!」


 悟は恐る恐る目を開けた。


 最初は何が変わったのか分からなかった。


 けれど、さっきまで何もなかった場所へ目を向けた瞬間、悟の目が大きくなる。


「……いた」


 そこには、確かに妖怪がいた。


「ほんとにいた……!」


 則人が笑った。


「いたでしょ?」


「うん! こんな顔だったんだ!」


 さっきまで感じていた恥ずかしさなど、一瞬でどこかへ飛んでいった。


 今まで「そこにいる」と教えてもらうことしかできなかった相手が、ちゃんと自分の目の前にいる。


「ずっとここにいたの?」


 悟が問いかけると、妖怪が答える。


 今度は則人に教えてもらわなくても、その言葉が自分に届いた。


「聞こえた!」


 悟が嬉しそうに振り返る。


「ミオちゃん! 僕にも聞こえた!」


「でしょ?」


「すごい!」


 悟はすぐに妖怪へ向き直った。


「ねえ、さっき僕に何て言ったの?」


 妖怪がもう一度答える。


「……うん。僕もちゃんと見たかった!」


 今までも同じ場所にいた。


 妖怪の存在を知らなかったわけでもない。


 それでも、自分で見て、自分で聞いて、自分の言葉で返事をするだけで、まるで初めて同じ輪の中へ入れたような気がした。


「ねえ、則ちゃん。さっき手振ってたって言ってたよね?」


「うん」


「もう一回やって!」


 悟が妖怪に頼む。


 妖怪が手を振る。


「あ、本当だ!」


 悟も大きく手を振り返した。


「見える! ちゃんと見える!」


「そんなに嬉しい?」


 ミオが笑う。


「嬉しいよ! だって今まで全然見えなかったんだもん!」


 今度は悟自身が、妖怪の仕草を則人やミオへ話し始める。


 さっきまで二人に教えてもらう側だったのに、すっかり立場が逆になっていた。


     ◇


 しばらく妖怪との会話を楽しんでいた悟だったが、ふと何かを思い出したように自分の頭へ触れた。


「あ」


「どうしたの?」


 則人が聞く。


「…………」


 カチューシャをつけていることを、すっかり忘れていた。


 さっきまであれほど嫌がっていたのに、妖怪が見えるようになった途端、一度も気にしていなかった。


 思い出した途端に恥ずかしさが戻ってきて、悟は則人を見る。


「……変じゃない?」


「何が?」


「これ」


 悟がカチューシャを指さす。


「別に」


「ほんと?」


「うん」


 則人は、本当にどうでもよさそうだった。


「女の子みたいじゃない?」


「悟君は悟君でしょ?」


「…………」


 悟は少しだけ拍子抜けした。


 今度は妖怪の方を見る。


「……変?」


 妖怪も、何を気にしているのか分からないというように首を傾げる。


「…………なんだ」


「何が?」


「何でもない」


 悟は少しだけ安心した。


 つける前は、カチューシャをつけた瞬間にみんなから何か言われるような気がしていた。


 けれど実際には、則人も妖怪もほとんど気にしていない。


 自分が思っていたほど、大変なことではなかったのかもしれない。


 だったら、もう少しくらいこのままでもいい。


「でも悟君」


 ミオが言った。


「何?」


「結構似合ってるよ!」


「それ言うなよ!」


 悟の顔が一気に真っ赤になった。


「えー! いいじゃん!」


「よくない!」


「かわいいよ!」


「もっと言うな!」


「じゃあ返す?」


 ミオが手を出す。


「…………」


 悟はカチューシャへ手をかけた。


 今すぐ外して返せば、もう「似合う」も「かわいい」も言われない。


 けれど、そのまま妖怪を見る。


 こちらを見ながら笑っている姿が、今はちゃんと見えている。


 これを外せば、また見えなくなる。


 悟は少し迷ったあと、カチューシャから手を離した。


「……もうちょっとだけ貸して」


「いいよ!」


「でも、似合うとか言うなよ!」


「はいはい」


「絶対だからね!」


「分かったって」


「分かってない顔してる!」


 ミオが笑い、則人も妖怪もつられて笑う。


「笑うなよ!」


 悟はまだ顔を赤くしていた。


 恥ずかしくなくなったわけではない。


 女の子みたいと言われるのは、やっぱり嫌だった。


 それでも今は、カチューシャを外すことより、このまま妖怪の姿を見ていたい気持ちの方が少しだけ強い。


 悟は照れくさそうにカチューシャへ触れながら、もう一度妖怪の方を向いた。


「ねえ、それでさっきの話の続きは?」


 今度はもう、誰かに通訳してもらう必要はなかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。