準備出来た? 下
少しだけ店の空気が和らいだところで、奥さんが話を戻した。
「でも、本当に困ったら早めに相談しなさいね」
「やっぱり手伝ってくれる?」
美緒が期待したように尋ねる。
「そこまでは言ってねえ」
ゴンさんがすぐに返した。
「こっちの店もあるんだからな」
「なんだ」
「なんだじゃねえよ」
「でも、二人だけじゃ難しそうなら、何か方法を考えればいいのよ」
奥さんが続ける。
「初めてなんだから、最初から全部二人だけで完璧にやろうとしなくてもいいの」
「……はい」
咲子は素直にうなずいた。
確かにそうだった。
自分たちはバザーに店を出すこと自体が初めてなのだ。
何を売るのか。
いくらで売るのか。
どう並べるのか。
それだけでも、ここまで何度も考え直してきた。
だったら、実際に店をどう回すのか分からないことがあるのも当然なのかもしれない。
「それに、開催までまだ時間あるんでしょ?」
「はい。一か月くらいあります」
「なら大丈夫。今のうちに一つずつ準備しておけばいいのよ」
「よし」
美緒が両手を握る。
「じゃあ、全部準備しよう」
「急にやる気出たね」
「だって、ここまで来たらちゃんとやりたいじゃん」
「それは私も」
二人は顔を見合わせた。
ゴンさんが、そんな二人を見ながら鼻を鳴らす。
「最初からそのくらい考えとけ」
「初めてなんだから仕方ないでしょ」
「開き直るな」
「でもゴンさん」
「なんだ?」
「相談してよかった」
「……そうかよ」
ゴンさんはそれだけ言うと、仕事へ戻っていった。
その背中を見ながら、美緒が小さく笑う。
「照れてる?」
「聞こえてんぞ!」
「聞こえてた!」
奥さんがまた笑った。
◇
それから、美緒と咲子は教えてもらったことを一つずつ準備していった。
まず、値札。
美緒が中心になって作ったものを、咲子が確認する。
「どう?」
「かわいい」
「でしょ?」
「でも、ここの数字もうちょっと大きくしよう」
「えー、このくらいの方がまとまって見えるのに」
「ゴンさんたちに言われたでしょ。値段が分からなかったら意味ないって」
「……じゃあ、ちょっとだけ」
「もうちょっと」
「これくらい?」
「うん」
「デザインと実用性の戦いだ……」
「そんな大げさな話?」
次に、商品を入れる袋。
売上を入れておくもの。
釣り銭。
必要なものを書き出して、一つずつ確認していく。
商品の並べ方も考え直した。
「全部並べない方がいいって言ってたよね」
「うん。減ったら出せばいいって」
「じゃあ、最初はこれくらいかな」
美緒が実際に品物を並べてみる。
以前よりも少し数を減らし、種類ごとに見やすく配置する。
「どう?」
「前より見やすい」
「でしょ?」
美緒は少し離れたところから全体を眺め、また一つ動かした。
「こっちの方がいいかな」
「それ、さっきから何回動かしてるの?」
「納得するまで」
「当日もずっとやってそう」
「それはないって」
「本当に?」
「……たぶん」
「また『たぶん』」
咲子は笑いながら、補充分の商品を別の箱へ入れていった。
上の世界から届いた品々も、最終的にバザーへ持っていくものと、今回は使わないものに分ける。
すると、美緒が見送りになった品の方をじっと見ていた。
「……何?」
「何も」
「欲しいんでしょ」
「何も言ってないじゃん」
「顔に書いてある」
「その言い方便利だよね」
「分かりやすいんだもん」
「バザー終わったあとならいい?」
「天女さんと相談して」
「やった」
「まだいいって言ってないからね!」
そんなやり取りをしながら、準備は少しずつ形になっていった。
商品。
値札。
袋。
釣り銭。
売上を入れるもの。
補充分を入れる箱。
当日の並べ方。
そして、二人がどう動くのか。
最初は、ただ天女たちの品を人間の世界で売れないか、という話だった。
それがいつの間にか、本当に一つの店を出す準備になっている。
◇
「……よし」
すべてを一通り揃えたところで、咲子はメモを開いた。
美緒と天女が、その左右からのぞき込む。
「最終確認するよ」
「はーい」
「お願いいたします」
咲子が一つずつ読み上げる。
「商品」
「よし」
「はい」
「値段」
「よし」
「はい」
「値札」
「完璧」
「美緒基準じゃなくて?」
「ちゃんと読めるって!」
「じゃあ、よし」
「最初から信用してよ」
「出店申し込み」
「よし」
「商品を入れる袋」
「よし」
「釣り銭」
「よし」
「売上を入れるもの」
「よし」
「補充分」
「よし」
「商品の並べ方」
美緒が胸を張る。
「完璧」
「そこだけ返事が強いね」
「任せてって言ったでしょ」
「じゃあ、最後」
咲子が画面を見る。
「当日の動き方」
「…………」
美緒が少し考えた。
「……たぶん、よし?」
「そこだけ弱い!」
「だって、お客さん何人来るか分からないじゃん」
「まあ……そうなんだけど」
「混んだら二人でできることやる。どっちかが忙しかったら、もう一人が手伝う」
「奥さんが言ってた通りだね」
「でしょ?」
「じゃあ、それでよし」
咲子は最後の項目にも印をつけた。
天女が期待するように二人を見る。
「では、これで準備は整ったのでございますか?」
「…………」
咲子はすぐには答えなかった。
もう一度メモを見る。
箱を見る。
値札を見る。
これまで何度も、「これで大丈夫」と思った。
そのたびに、何か一つ忘れていることが見つかった。
品物を選んだら、出店の申し込み。
申し込みをしたら、値段。
値段を決めたら、必要な数。
数が揃ったと思ったら、今度は店をどう回すのか。
だから今度は、少し慎重に答えた。
「……たぶん、大丈夫」
美緒が目を見開いた。
「咲子が『たぶん』って言った!」
「だって、また何か出てきそうなんだもん!」
「前は私が言ったら怒ったじゃん!」
「あのときとは違う!」
「何が違うの?」
「今の『たぶん』は、ちゃんと全部確認したあとの『たぶん』なの!」
「同じじゃん!」
「違う!」
「同じ!」
二人の言い合いを聞きながら、天女が楽しそうに笑う。
「では、わたくしも『たぶん』と申し上げればよろしいのでしょうか?」
「天女さんまで真似しなくていいから!」
「でも、たぶん大丈夫だよ」
「美緒!」
三人の笑い声が重なった。
バザーまで、あと約一か月。
上の世界のみんなにも協力してもらった。
下の世界では、店を切り盛りしている大人たちにも相談した。
商品は揃った。
値段も決まった。
値札もできた。
必要な道具も準備した。
当日の動き方も、一応は考えた。
今度こそ――少なくとも三人が思いつく限りでは――準備完了だった。
まだ一か月ある。
その間に何が起こるのかは、誰にも分からない。
けれど、バザーの日が来れば、美緒と咲子は自分たちの店に立つ。
そして天女たちが作った品が、初めて普通の人間たちの手へ渡ることになる。
美緒は積み上げた箱を見ながら、楽しそうに言った。
「早く一か月経たないかな」
「まだ先だよ」
「分かってる。でも楽しみじゃん」
咲子も箱を見る。
「……うん」
少しだけ笑った。
「私も楽しみ」
天女はそんな二人を見つめ、嬉しそうに微笑んでいた。
準備は終わった。
あとは、その日を待つだけだった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




