第6話 準備できた?上
数日後。
「皆様にも、きちんとお伝えしてまいりました」
天女は、これ以上ないほど自信たっぷりだった。
その前には、上の世界のみんなが協力して作った品々が並べられている。
以前の品定めを思い出した咲子は、並べられた品を見る前に、念のため確認することにした。
「ちゃんと、前に決めた感じで?」
「はい」
天女は大きくうなずく。
「豪華にしすぎず、特別なものも使わず、人の皆様がお求めになりやすい品を、と。皆様にしっかりとお伝えしてまいりました」
「おお」
美緒が感心したように声を上げた。
「完璧じゃん」
「そうだね」
咲子も少し安心する。
前回は、人間の世界へ持っていけるものと、そうではないものを一つずつ確認した。
天女たちにとっての「普通」と、人間にとっての「普通」が、まるで違うことも分かった。
さらに今回は、天女が上の世界へ戻る前にも念を押している。
豪華にしない。
特別な力を持つものは使わない。
人間のバザーで、普通の人が気軽に買えるものにする。
これだけ伝えたのだ。
さすがに同じことにはならないだろう。
「では、ご覧ください」
「うん」
「今度こそ大丈夫そう」
三人で、出来上がった品物を確認していく。
最初の一つを、美緒が手に取った。
「これ、いいじゃん」
咲子も横から確認する。
「うん。これなら大丈夫」
「本当でございますか?」
「うん。かわいいし、これなら普通に売れそう」
天女の顔が明るくなる。
「よかった……」
「じゃあ次」
二つ目。
美緒がすぐに反応した。
「これもかわいい」
「前よりちゃんと普通になってるね」
「普通……」
天女が一瞬だけ複雑そうな顔をした。
「褒めてるからね?」
「はい……」
「天女さんたちの場合、普通にする方が難しいんだから」
美緒が笑う。
「それ、褒めてる?」
「褒めてるよ」
「たぶん」
「美緒」
「褒めてるって!」
ここまでは順調だった。
前回とは違う。
ちゃんと人間の感覚が伝わっている。
咲子も少しずつ安心してきた。
そして、三つ目。
咲子が手を伸ばす。
「…………」
止まった。
「…………」
隣にいた美緒も黙った。
「どうなさいました?」
天女だけが、不思議そうに二人を見る。
咲子は、恐る恐るその品を持ち上げた。
どう見ても、先ほどまでのものとは輝きが違う。
細かな飾りも増えている。
「これ……」
「はい」
「前より豪華になってない?」
「こちらは、皆様が『この程度であれば問題ないであろう』と」
「その『この程度』が違うんだって!」
美緒が吹き出した。
「まただ!」
「笑ってる場合じゃないでしょ!」
「でも、前よりは全然いいよ」
「まあ……それはそうだけど」
確かに今回は、全部が全部駄目というわけではなかった。
むしろ、ほとんどの品は人間のバザーへ並べても問題なさそうなものになっている。
前回の品定めで説明したことは、ちゃんと伝わっていたらしい。
ただ、時々――。
上の世界の「普通」が顔を出す。
「じゃあ、これは?」
美緒が別の品を持ち上げた。
「そちらは、少々華やかさを加えたものだそうです」
「少々?」
咲子が美緒を見る。
美緒も咲子を見る。
二人でもう一度、品物を見る。
「……上の世界の『少々』って信用できないね」
「私も今まったく同じこと思った」
「でもさ」
美緒が品物を顔の近くまで持ってくる。
「これ、めっちゃかわいい」
「美緒」
「何?」
「売れるかどうかで見て」
「見てるよ」
「本当に?」
「…………」
美緒は真剣な顔で品物を見る。
表から。
横から。
裏から。
もう一度、表から。
「どう?」
「売るのは無理そうだけど、私は欲しい」
「それ前もやったから!」
「だってかわいいじゃん!」
「だから今は品定めなの!」
「ちゃんと品定めした結果だよ」
「美緒が欲しいかどうかを決める会じゃないの!」
天女がくすくすと笑う。
三人で、一つずつ確認していった。
「これは?」
「合格」
「こちらは?」
「これも大丈夫」
「では、こちらは?」
「……見送り」
「なぜでございますか?」
「光ってるから」
「ほんのわずかですが」
「ほんのわずかでも光っちゃ駄目なの!」
「こっちは?」
「大丈夫」
「これは?」
美緒が先に手を伸ばす。
「かわいい!」
「美緒」
「分かってるって。えっと……」
しばらく考える。
「……欲しい」
「分かってない!」
いつの間にか、美緒が欲しがったものだけ別の場所へ集まり始めていた。
「ちょっと待って」
美緒が気づいた。
「なんで私が欲しいって言ったのだけ、そこに集めてるの?」
「勝手に持って帰らないように」
「信用ないなあ」
「今までの自分の発言思い出して」
「ちゃんとお金払うよ」
「買う気なんじゃん!」
「だって売らないんでしょ?」
「だからって美緒に売るって決まってないから!」
「では、美緒様には差し上げ――」
「天女さん、あげなくていいから!」
「はい」
「えー」
「えー、じゃない!」
前にも似たようなことをした気がする。
けれど、今回は前回よりもずっと早く品定めが進んだ。
上の世界のみんなも、人間の感覚を少しずつ理解してくれている。
完全ではない。
時々、妙に豪華なものが混ざる。
時々、わずかに光る。
時々、美緒が欲しがる。
最後の一つは上の世界の問題ではない気もするが、とにかく前回よりはずっと順調だった。
やがて、バザーで売る品だけが一か所へまとまった。
「これなら、数も大丈夫そうだね」
咲子が一つずつ確認する。
「足りなさそうなものもないし」
「値段も決めたし」
美緒が続ける。
「値札も作ってるし」
「うん」
「いよいよだね」
美緒は満足そうに、並んだ品々を眺めた。
品物は揃った。
必要な数もある。
値段も決まっている。
値札も準備中。
出店の申し込みも済んでいる。
これなら本当にバザーへ出られそうだ。
そう思ったところで。
「……ねえ」
美緒が首を傾げた。
「何?」
「これ、私たち二人で全部売るんだよね?」
「そうだけど」
「大丈夫かな」
「何が?」
「だってさ」
美緒は並んでいる品々を指さす。
「お客さんが一気に来たらどうするの?」
「…………」
咲子が止まった。
「一人がお金もらって、一人が商品渡して」
「うん」
「袋にも入れるんでしょ?」
「……うん」
「その途中で別のお客さん来たら?」
「…………」
「さらにもう一人来たら?」
「…………」
「トイレ行きたくなったら?」
「…………」
「ご飯は?」
「…………」
「休憩は?」
「…………」
「ずっと二人で店にいられるの?」
「……それ、先に考えた方がよかったね」
「だよね」
二人は顔を見合わせた。
これまで、何を売るのか、いくらで売るのか、どう並べるのか。
商品のことばかり考えていた。
けれど実際に店を出すなら、それだけでは済まない。
お客さんが一人ずつ、ゆっくり来てくれるとは限らない。
お金を受け取る。
商品を渡す。
袋へ入れる。
質問されたら答える。
商品が減ったら補充する。
それを二人だけでやる。
「……急に不安になってきた」
「私も」
天女が遠慮がちに手を挙げた。
「でしたら、わたくしもお手伝いを――」
「天女さんは普通の人から見えないでしょ」
「……そうでございました」
天女の肩がしゅんと下がる。
「いや、手伝ってもらえないって意味じゃないからね」
咲子は慌てて続けた。
「準備とか、いっぱい助けてもらってるし」
「そうそう」
美緒も続ける。
「天女さんたちがいなかったら、そもそも売るものないし」
「はい」
「ただ、お客さんの相手は私たちがやらないと」
「……はい」
「でも二人だけかあ」
美緒が腕を組む。
「ちょっと怖いね」
「うん」
咲子も素直に認めた。
しばらく考える。
そして、一人の顔が浮かんだ。
「……ゴンさんたちに相談してみる?」
「あ、それいいかも」
美緒がすぐに反応する。
二人とも、ゴンさんの店で働いている。
ゴンさんと奥さんなら、実際に毎日店を切り盛りしている大人だ。
「バザーで店やるときに何がいるか、聞いてみようよ」
「うん。それがいい」
◇
アルバイトの日。
仕事が一段落したところで、美緒がゴンさんへ声をかけた。
「ゴンさん、ちょっと聞きたいことあるんだけど」
「なんだ?」
「今度、私たちバザーに出るんだ」
「バザー?」
ゴンさんが意外そうな顔をする。
「お前らが?」
「うん」
「二人で?」
「その予定」
ゴンさんは少し考えた。
「何売るんだ?」
「小物とかです」
咲子が答える。
「知り合いが作ったものを売ることになって」
「知り合い?」
「はい」
「……ふーん」
ゴンさんはそれ以上聞かなかった。
美緒も咲子も、その反応を特に気に留めない。
「それでさ、二人だけで大丈夫かなって話になって」
「初めてなんです」
咲子も続ける。
「だから、何を準備したらいいのか聞いておこうと思って」
「なるほどな」
話を聞いていた奥さんも、二人のところへやって来た。
「二人だけでやるつもりなの?」
「はい」
「今のところは」
「それなら、ちゃんと準備しておかないと大変よ」
「やっぱり?」
「当たり前だろ」
ゴンさんが腕を組んだ。
「で、釣り銭は?」
「…………」
美緒と咲子が止まった。
「袋は?」
「…………」
「売った金、何に入れる?」
「…………」
「一人が席外したらどうする?」
「…………」
「雨降ったら?」
「え?」
「屋外なら天気のことも考えとけ」
「…………」
ゴンさんが二人の顔を交互に見る。
「お前ら、商品と値段のことしか考えてなかっただろ」
「……はい」
二人の声が揃った。
「店ってのはな、物並べて『いらっしゃい』って言ってりゃ終わりじゃねえんだぞ」
「今、すごく分かりました……」
咲子が小さくなる。
「まあまあ」
奥さんが笑った。
「初めてなんだから、知らなくても仕方ないわよ。今気づいたなら、まだ間に合うんだし」
「ですよね!」
美緒がすぐに元気になる。
「お前はもうちょっと反省しろ」
「してるって」
「してる顔じゃねえな」
「顔で決めないでよ」
「じゃあ、まず釣り銭ね」
奥さんが話を戻した。
「お客さんがちょうどのお金を出してくれるとは限らないんだから、ちゃんと用意しておくこと」
「はい」
咲子がスマートフォンを取り出してメモする。
「それから、商品を入れる袋」
「袋……」
「売上を入れるものも必要ね」
「箱とか?」
「何でもいいけど、お金なんだからちゃんと管理できるものにしなさい」
「はい」
「それと、商品を全部最初から並べなくてもいいのよ」
「そうなの?」
美緒が尋ねる。
「たくさん並べすぎても見にくくなるでしょ。減ったら補充すればいいの」
「なるほど……」
美緒が急に真剣な顔になった。
「それ、並べ方考え直した方がいいかも」
「美緒、そこは得意そうだね」
「任せて」
「ただし」
ゴンさんが口を挟む。
「値札はちゃんと見えるようにしろよ」
「もう作ってるよ」
「かわいくする方に夢中になって、数字小さくしてねえだろうな」
「してないって!」
「お前ならやりそうだから言ってんだ」
「失礼な!」
「でも、値段は大きく分かりやすくね」
奥さんが言う。
「かわいいのはいいけど、お客さんが困ったら意味ないから。毎回『これいくらですか』って聞かれたら、二人も大変でしょ?」
「はーい」
「それから、二人でやるなら役割を決めすぎないこと」
「決めない方がいいんですか?」
咲子が尋ねる。
「ある程度は決めていいの。でも、お金を受け取る人、商品を渡す人って完全に分けても、混んだらその通りにはいかないから」
「なるほど」
「お互い、できる方をやる。片方が手いっぱいなら、もう片方がそっちを手伝う」
咲子がまたメモする。
釣り銭。
袋。
売上を入れるもの。
商品の補充。
休憩。
客が重なったときの対応。
天気。
話を聞けば聞くほど、自分たちが考えていなかったことが出てくる。
「……結構あるね」
美緒が咲子のスマートフォンを横からのぞき込んだ。
「そりゃそうだ」
ゴンさんが言う。
「店やるってのは、そういうことだ」
「毎日これやってるんだよね、ゴンさんたち」
「当たり前だろ。ここ何だと思ってんだ」
「居酒屋」
「分かってんじゃねえか」
「じゃあゴンさん、すごいんだ」
「今まで何だと思ってたんだ、お前」
「特撮の話になると仕事忘れる人」
「誰が仕事忘れてんだ!」
奥さんが吹き出した。
「そこは否定できないでしょ」
「お前まで言うのかよ!」
美緒と咲子も笑う。
少しだけ
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




