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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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第5話 いくらなら売れる?

第5話 いくらなら売れる?


「これ、いくらで売るの?」


 咲子のその一言で、三人は揃って黙り込んだ。


 目の前には、バザーで売ることに決めた品々が並んでいる。


 売るものは決まった。


 バザーへの出店申し込みも済ませた。


 当日、誰が店に立つのかも決まった。


 ここまで来れば、ずいぶん準備が進んだように思える。


 ところが――。


「いくら、と申しますと……」


 天女が困ったように首を傾げた。


「これを欲しいって言ってくれた人から、いくらもらうかってこと」


「なるほど……」


 天女は一つの品物を手に取った。


 表から見て、裏返して、また表へ戻す。


 自分で作ったものなのだから、今さら出来を確認しているわけではないのだろう。


 どうやら本気で、いくらにすればいいのか考えているらしい。


 やがて天女が顔を上げた。


「皆様に喜んでいただけるのでしたら、わたくしは――」


「ただでもいい、とか言わないでね」


 咲子が先回りした。


 天女の口が、ぴたりと止まる。


「……なぜお分かりに?」


「やっぱり言おうとしてたんだ」


 美緒が吹き出した。


「でも、天女さんっぽい」


「笑ってる場合じゃないから」


 咲子は並んでいる品々を見る。


 天女にとっては、お金を受け取ることよりも、自分たちの作ったものを下界の人間に喜んでもらうことの方が大切なのだろう。


 その気持ちは分かる。


 そもそも今回の話だって、人間の世界で働くことが難しい天女たちが、自分たちにできることを考えたところから始まっている。


 だからといって、全部ただで配ってしまったら、バザーで売るという話そのものが変わってしまう。


「ちゃんと値段つけよう。売るためにバザーへ出るんだから」


「はい」


 天女は素直にうなずいた。


「じゃあさ」


 待ってましたとばかりに、美緒が一つの品物を手に取った。


「これだったら、私なら二千円でも――」


「却下」


「まだ最後まで言ってない!」


「美緒が欲しい値段を決めるんじゃないの」


「でも、これ二千円なら普通に欲しいよ?」


「そういう人ばっかりじゃないでしょ」


「じゃあ千五百円?」


「値下げ交渉じゃないから」


「千円」


「だから、そういう話じゃないって!」


 美緒は不満そうに品物を眺める。


「でも安くない? これ、普通にかわいいのに」


「かわいいかどうかだけで決めるんじゃないの」


「かわいいは大事でしょ」


「大事だけど!」


「では」


 今度は天女が口を開いた。


「美緒様がお求めになるのでしたら、お一つ差し上げ――」


「え、いいの!?」


「駄目!」


 咲子が即座に二人の間へ割って入った。


「今それやったら、絶対値段決め終わらないから!」


「一個ぐらいいいじゃん」


「美緒は絶対一個で終わらないでしょ」


「そんなことないよ」


「本当に?」


「…………」


 美緒は目の前の品々を見回した。


「……二個?」


「増えてる!」


「では、お二つ――」


「天女さんも乗らないで!」


「三個なら?」


「美緒!」


 天女が口元を押さえて笑う。


 完全に遊ばれている気がする。


「もう。今日はお客さんとして見ないで。売る側なんだから」


「ちゃんと商品として見てるって」


「その目がもう欲しい人の目なんだよ」


「そんな目ある?」


「今してる」


 美緒は自分の目元を触った。


「普通だけど」


「そういう意味じゃない」


 このままでは本当に何も決まらない。


 咲子は一度話を仕切り直すことにした。


「まず、全部同じ値段ってわけにはいかないよね」


 そう言って、品物を一つずつ分けていく。


 比較的小さくて、手に取りやすいもの。


 少し大きく、作るのにも手間がかかっていそうなもの。


 そして、その中でも特に出来のいいもの。


「こちらとこちらでは、お値段が異なるのでございますか?」


 天女が尋ねる。


「うん。大きさも違うし、作るのにかかる手間も違うでしょ?」


「なるほど……」


 天女は感心したようにうなずいた。


 もっとも、天女たちの技術や手間を本来の価値で考えれば、そもそも人間のバザーで売るような金額では済まない。


 以前見せてもらった品の中には、普通の人間が気軽に手を出せるようなものではないと、咲子にも分かるものがあった。


 だから今回は、人間の世界で売っても問題のないものを選んだ。


 それでも、天女たちが一つずつ作った品であることに変わりはない。


「バザーなんだから、買いやすい値段にはしたいけど……」


 咲子は一つの品物を手に取る。


「だからって、何でも百円とかにするのも違うと思う」


「わたくしは構いませんが……」


「私が気になるの」


「咲子、そういうところ真面目だよね」


 美緒が言った。


「美緒が適当すぎるの」


「失礼な」


「じゃあ、これいくら?」


「二千円」


「ほら!」


「だって欲しいんだもん!」


「それをやめてって言ってるの!」


 結局、美緒の意見は参考にはするものの、そのまま採用しないことになった。


「これは小さいから、このくらいかな」


「それ安くない?」


「じゃあ、少し上げる?」


「もうちょっと」


「美緒が買いたいだけじゃないよね?」


「半分ぐらいはちゃんと考えてる」


「半分しかないの!?」


「さっきより正直になったでしょ」


「そこ褒めるところじゃないから」


 三人で相談しながら、一つずつ値段を決めていく。


 天女は、人間界のお金の感覚を覚えるように、二人の話を真剣に聞いていた。


「この品と、この品は、同じほどの大きさに見えますが」


「こっちの方が作るの大変だった?」


「はい。こちらには少々細かな作業が必要でございました」


「じゃあ、少し分けた方がいいかな」


「でも値段の種類、増やしすぎても面倒じゃない?」


 美緒が珍しく現実的なことを言った。


 咲子が振り返る。


「……美緒がまともなこと言った」


「どういう意味?」


「いや、ちょっとびっくりして」


「私だって考えてるからね!」


 言われてみれば、その通りだった。


 一つ一つ細かく違う値段をつければ、売る側も分かりにくくなる。


「じゃあ、ある程度まとめようか」


「うん。その方が買う人も分かりやすいと思う」


「なるほど……」


 天女がうなずく。


「下界で品を売るというのは、難しいものなのですね」


「私も今そう思ってる」


 咲子が苦笑した。


「作れば終わりじゃないんだね」


「でも、楽しくない?」


 美緒はむしろ楽しそうだった。


「だんだん本当のお店みたいになってきたじゃん」


 そう言いながら、美緒は紙とペンを持ってきた。


「じゃあ次、値札作ろうよ」


「値札?」


「うん。値段決めても、当日ずっと『これいくらですか?』って聞かれるの大変でしょ?」


「ああ、それはそうだね」


「せっかくなら、かわいくしたい」


 美緒は小さな紙を一枚取り、試しに数字を書こうとする。


 ところが、途中で手を止めた。


「いや、これだけじゃつまんないな」


「値段が分かればいいんじゃない?」


「駄目だよ」


「駄目なの?」


「せっかくこんなにかわいいもの並べるんだから、値札だけ適当だったらもったいないじゃん」


 美緒は品物を見ながら考え始める。


「ただ数字書くだけじゃなくて、ちょっと飾ったり、品物ごとに雰囲気変えたりした方が絶対いいよ」


 咲子が少し意外そうに美緒を見る。


「そういうの好きなんだ」


「好きだよ」


 美緒は当たり前のように答えた。


「服とか小物とか、どう見せたらかわいく見えるか考えるの」


 そう言いながら、今度は二つの品物を手に取った。


 並べてみる。


 少し離す。


 また近づける。


「ほら。これとこれ、一緒に置いた方がよくない?」


「なんで?」


「色が合うから。こっちを隣にすると、両方かわいく見えるじゃん」


「……あ、本当だ」


 咲子も少し離れたところから見てみる。


 確かに、ただ適当に並べていたときよりもまとまって見えた。


 天女も興味深そうに、美緒の手元をのぞき込んでいる。


「同じ品でも、置き方によって見え方が変わるのでございますか?」


「全然変わるよ」


 美緒の返事は早かった。


「こっちは一緒に置いて、これは少し離した方がいいかな」


「なぜでございますか?」


「その方が目立つから」


「なるほど……!」


 天女の目が輝いた。


「では、こちらは?」


 今度は天女自身が別の品を動かしてみる。


「それは……うん、そこいいかも」


「こちらは?」


「それは隣のと近すぎるかな」


「では、こちらへ」


「うんうん。そっちの方がいい」


 いつの間にか、二人は値札の話から品物の並べ方へ移っていた。


 美緒は次々に場所を変えていく。


 そのたびに、天女が理由を尋ねる。


 美緒は楽しそうに説明する。


 咲子は少し離れたところから、その様子を眺めていた。


 美緒が服や小物を見るのが好きなのは知っていた。


 けれど、ただ「かわいい」と言っているだけではなかったらしい。


 どう並べればよく見えるのか。


 何と何を組み合わせれば魅力が増すのか。


 そういうことを考えている美緒は、さっきまで値段を決めながら「欲しい」と騒いでいたときとは、少し違って見えた。


「……なんか本当に店っぽくなってきたね」


「でしょ?」


 美緒が嬉しそうに振り返った。


「当日、絶対かわいくするから」


「売るのも忘れないでね」


「分かってるって」


「商品全部自分で買わないでね」


「それは……努力する」


「そこは約束して!」


 天女がまた楽しそうに笑った。


 値段は、ひとまず決まった。


 値札も作ることになった。


 商品の見せ方も、少しずつ見えてきた。


 残る問題は、当日までに必要な数を揃えることだった。


「今ある分だけじゃ、さすがに少ないよね」


 咲子が品物を数えながら言う。


「当日どれくらい人が来るか分からないけど、もう少しは必要かな」


「でしたら」


 天女が、ぱっと顔を明るくした。


「上の皆様にもお伝えしてまいります」


「みんなにも作ってもらうの?」


「はい。皆様にもご協力いただければ、十分な数をご用意できるかと」


「それなら安心じゃん」


 美緒が言った。


 確かに、天女一人ですべてを用意する必要はない。


 上の世界には、ほかにも協力してくれる者たちがいる。


 皆で手分けして作ってもらえば、数については何とかなりそうだった。


 しかし。


「…………」


 咲子の頭に、以前の光景が浮かんだ。


 人間の世界では、どう考えても普通に売れそうにない品々。


 天女たちにとっては、それでも十分に「質素」だった品々。


 人間から見れば豪華なのに、本人たちは本気で「普通」だと思っていた。


「……待って」


「どうなさいました?」


 天女が首を傾げる。


「みんなに、何でも好きなもの作っていいって言わないでね」


「え?」


「ちゃんと今日決めたものを基準にしてもらって」


 美緒も思い出したらしい。


「ああ……」


 声が低くなった。


「確かに」


「でしょ?」


「またすごいのいっぱい持ってこられても困るね」


「すごいの……でございますか?」


 天女が不思議そうな顔をする。


「人間のバザーで売れないくらいすごいの」


 咲子が答えた。


「前にもあったでしょ?」


「……あ」


 天女もようやく思い出したらしい。


「だから、今日決めたものと同じくらいの感じでお願い」


「はい」


「豪華にしなくていいからね」


「はい」


「飾りを増やしたりもしなくていいから」


「はい」


「珍しい材料とかもいらないから」


「はい」


「特別な力とか、絶対つけなくていいから」


「もちろんでございます」


「本当に普通のでいいからね」


「承知いたしました」


 天女は、自信たっぷりにうなずいた。


「皆様にも、しっかりとお伝えしてまいります」


「お願いね。本当に」


「お任せください」


 あまりにも自信満々だった。


 だからこそ、咲子はなぜか不安になった。


「…………」


 隣を見る。


 美緒も同じような顔をしていた。


「……大丈夫かな」


 咲子が小声で言う。


「どうだろうね」


 美緒も小声で返す。


「聞こえておりますよ?」


「あ」


 二人が天女を見る。


 天女は頬を少し膨らませていた。


「ちゃんとお伝えいたします」


「ごめんごめん」


「信用してるよ」


「美緒、その言い方が一番信用してないみたいに聞こえる」


「そんなことないって」


 三人で顔を見合わせる。


 やがて、誰からともなく笑い出した。


 バザーまで、あと約一か月。


 値段は決まった。


 値札も作る。


 商品の並べ方も考え始めた。


 必要な品物は、上の世界のみんなにも協力してもらうことになった。


 準備は確実に進んでいる。


 問題があるとすれば、一つだけ。


 上の世界のみんなが、人間の言う「普通」を本当に理解してくれるのか。


 それは――。


 実際に出来上がった品物を見てみるまで、誰にも分からなかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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