第4話 バザーに出よう
第4話 バザーに出よう
「そういえばさ」
美緒が、ふと思い出したように言った。
「バザーって、いつやるの?」
「……あ」
咲子の手が止まった。
目の前には、これまで天女が作ってきた品々が並んでいる。
最初は、どれもこれも下界のバザーで売るには豪華すぎた。
天女本人はかなり質素にしたつもりだったらしい。
だが、天女にとっての「質素」と、人間にとっての「質素」には、とんでもなく大きな差があった。
普通の店に置いてあっても目を引きそうな品を前にして、
「これでしたら、十分に質素かと」
と天女が真顔で言ったときには、咲子もどう説明すればいいのか困ったほどだ。
それでも何度か作り直してもらい、美緒と咲子が一つずつ確認したことで、ようやくバザーへ持っていけそうな品は絞れてきた。
何を売るのか。
そこばかり考えていたせいで、二人とも一番基本的なことを忘れていた。
「日にち、確認してなかった……」
「私も」
「なんで二人とも忘れてたんだろ」
「商品選ぶの楽しかったからじゃない?」
「美緒は欲しい欲しい言ってただけでしょ」
「ちゃんと選んでたよ!」
美緒が抗議する横で、咲子はスマートフォンを取り出した。
以前見つけたバザーの案内を開き、開催日を確認する。
「えっと……来月だね」
「来月?」
「うん。だいたい一か月後」
「なんだ。じゃあ余裕あるじゃん」
美緒は安心したように笑った。
「一か月あったら、まだいっぱい作れるよ」
「いっぱい作る前に――」
咲子が画面を指で動かしていた手を止める。
「……待って」
「ん?」
「これ、出店するなら事前に申し込みがいる」
「え?」
「ほら。出店希望者は事前登録してくださいって書いてある」
美緒が横からスマートフォンをのぞき込む。
「あ、本当だ」
「当たり前でしょ。勝手に当日行って、空いてるところに店出せるわけないじゃん」
「いや、私もそうかなーとは思ってたけど」
「絶対今初めて知ったでしょ」
「知ってたって」
「じゃあ、なんで言わなかったの?」
「……忘れてた?」
「知らなかったんじゃん」
「似たようなものでしょ」
「全然違う」
二人のやり取りを聞きながら、天女だけが不思議そうな顔をしている。
咲子はそのまま募集について書かれた部分を読んでいった。
開催までは約一か月。
しかし、出店の申し込みには当然締め切りがある。
品物を準備することばかり考えていて、肝心の参加申し込みが間に合わなければ何の意味もない。
「これ、先に登録しちゃった方がいいね」
「じゃあ、今やろうよ」
「うん。せっかく品物を揃えても、出られませんでしたじゃ困るし」
「それは嫌だ」
そこで、話を聞いていた天女が遠慮がちに手を挙げた。
「あの……」
「どうしたの?」
「その、登録というものをしなければ、品を売ることはできないのでしょうか?」
「そうみたい」
咲子はスマートフォンを見せながら答えた。
「この日にここでお店を出します、って先に申し込んでおかないと駄目なんだって」
「なるほど……」
天女は感心したように画面を見つめる。
「下界の市場には、そのような決まりがあるのですね」
「市場っていうか、バザーね」
「ばざー」
天女が確認するように口にする。
「まあ、似たようなもの……なのかな?」
咲子自身、説明しているうちによく分からなくなってきた。
美緒はそんな二人を気にする様子もなく、
「じゃ、登録しよ」
と気軽に言った。
「そうだね」
咲子も申し込みのページを開く。
必要な項目を上から確認していく。
そして――。
「……あれ?」
また手が止まった。
「今度は何?」
「誰が売るの?」
「…………」
美緒も止まった。
「誰がって……」
二人の視線が、ゆっくり天女へ向く。
天女は自分が見られていることに気づくと、きょとんとして首を傾げた。
「わたくしの品でございますから、わたくしがお渡しするのではないのですか?」
「うん」
咲子は一度うなずいた。
「普通なら、それが一番自然なんだけど……」
「何か問題が?」
「天女さん、普通の人には見えないから」
「……あ」
天女も気づいた。
咲子には天女の姿が見えている。
美緒も今は天女と話すことができる。
しかし、バザーにやって来る大勢の客はそうではない。
普通の人間には、天女の姿そのものが見えないのだ。
美緒が腕を組んだ。
「天女さんが一人で店番したらさ」
「うん」
「お客さんから見たら、誰もいない店に商品だけ並んでるってこと?」
「そうなるね」
「で、お客さんが『これください』って言うじゃん?」
「うん」
美緒は商品を手に取る真似をした。
「そしたら、商品が勝手に動いて――」
「怖い怖い」
「お金を置いたら、そのお金も勝手に消えて――」
「完全に怪談だから」
「しばらくしたら、空中にお釣りが現れて――」
「だから怖いって!」
美緒は少し考える。
「でも、逆に人気出たりしない?」
「何の店として人気になるのよ!」
「幽霊がやってるバザー」
「天女さんを幽霊にするな!」
「わ、わたくしは幽霊ではございません」
天女まで慌てて否定する。
「分かってるから!」
三人の声が重なったあと、少しだけ静かになった。
天女は自分の作った品々を見つめる。
「では……わたくしには、売ることができないのですね」
先ほどまで楽しそうだった声が、少しだけ小さくなった。
それを聞いて、咲子はすぐに首を振る。
「違う違う。売れないんじゃなくて、店に立つ人を別にすればいいんだよ」
「別に?」
「天女さんが作ったものを、見える人間が代わりに売ればいいってこと」
「あ」
天女の表情が明るくなる。
すると、美緒が自分の胸を指さした。
「じゃあ、私たちでやればいいじゃん」
「……私たち?」
「私と咲子」
「やっぱりそうなる?」
「他に誰がいるの?」
「いや、まあ……そうなんだけど」
咲子は改めて考えた。
天女たちだけでは、普通の人間が集まるバザーへ店を出すことは難しい。
だからこそ、最初から咲子たちを通して品物を売る話になったのだ。
ならば、当日の販売まで自分たちが担当するのが一番自然だった。
「私たちが売って、お金を預かって、天女さんに渡せばいいんだよね」
「うん。それなら問題ないと思う」
「決まり!」
美緒はもうすっかり店員になった気分なのか、楽しそうに両手を合わせた。
「なんか楽しそう!」
「遊びじゃないんだからね」
「分かってるって」
「本当に?」
「もちろん」
咲子がじっと見る。
「……たぶん」
「今たぶんって言った」
「気のせい」
「聞こえたから」
天女はそんな二人を見て、くすくすと笑った。
「わたくしの作ったものを、お二人が人の皆様へ届けてくださるのですね」
「そういうこと」
咲子もうなずく。
「だから、まずはちゃんとバザーに出られるようにしよう」
「はい!」
天女が嬉しそうに返事をした。
申し込み画面へ戻り、必要な項目を一つずつ確認していく。
誰が出店するのか。
どんな品物を扱うのか。
必要な情報を入力しながら、分からないところは二人で相談する。
天女に確認できることは天女にも聞いた。
ただし、天女に人間界の住所やら連絡先やらを尋ねても、
「上界ではいけませんでしょうか?」
「たぶん駄目」
というやり取りになってしまう。
「住所、上界」
美緒が笑いをこらえている。
「笑わないの」
「だって宅配便とか届くのかなって」
「届かないでしょ」
「届けられる人いたらすごくない?」
「どこの配達員よ」
そんなことを話しながらも、入力は少しずつ進んでいった。
美緒が横から余計なことを書こうとして咲子に止められたり、天女が下界特有の言葉の意味を尋ねたり。
思っていたより時間はかかった。
そして、ようやく最後の確認画面までたどり着く。
「……よし」
咲子が画面を上から下まで見直した。
「間違いない?」
「大丈夫!」
「ちゃんと見た?」
「見た見た」
「本当に?」
「咲子、心配性だなあ」
「美緒が適当すぎるの」
結局、もう一度二人で確認した。
「じゃあ、押すよ?」
「押そう!」
咲子が送信の表示に指を置く。
ほんの一瞬だけためらってから――。
「……えい」
押した。
画面が切り替わる。
三人が揃ってスマートフォンを見つめた。
「…………」
「…………」
「…………」
数秒後。
咲子が表示された内容を最後まで読んだ。
「……申し込み、できた」
「おおー!」
美緒が拍手する。
天女も意味はよく分かっていないようだったが、美緒につられてぱちぱちと手を叩いた。
「これで、わたくしの品を人の皆様へお渡しできるのですね」
「まだ申し込んだところだけどね」
「でも、一歩前進!」
美緒は嬉しそうだった。
咲子も、改めて並べられた品々を見る。
ついさっきまで、ただ「バザーで売れたらいいね」と話していただけだった。
それが今、本当に出店へ向けて動き始めた。
開催は約一か月後。
まだ先のようにも思える。
けれど、品物を揃えて、当日の準備もして――。
「じゃあ、あとは当日までに必要な数を――」
そこまで言って。
咲子は止まった。
「……あ」
今日、三度目だった。
美緒が露骨に嫌そうな顔をする。
「何?」
「……まだあった」
「今度は何?」
咲子は、並んでいる品物の一つを手に取った。
「値段」
「…………」
美緒が黙った。
天女も黙った。
三人の視線が、同時に品物へ向く。
売るものは決まった。
売る人も決まった。
バザーへの申し込みも済ませた。
けれど――。
「これ、いくらで売るの?」
咲子が尋ねる。
天女が、きょとんとした。
「いくら……と申しますと?」
「これを欲しいっていう人から、いくらもらうかってこと」
「なるほど」
天女は品物を見る。
咲子を見る。
また品物を見る。
しばらく真剣に考えたあと、天女は困ったように首を傾げた。
「……どのくらいがよろしいのでしょう?」
「それを今から決めるの」
「じゃあさ!」
美緒が勢いよく品物を一つ手に取った。
「これだったら――」
「美緒」
「何?」
「自分が欲しいからって、高くしても駄目だからね」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「顔に書いてある」
「書いてない!」
「前も全部欲しいって言ってたでしょ」
「だって欲しいものは欲しいんだから仕方ないじゃん!」
「だから美緒の欲しい値段を決めるんじゃないの!」
二人の言い合いを聞きながら、天女が楽しそうに笑う。
バザーまで、あと約一か月。
売る品は決まった。
出店の申し込みもした。
誰が売るのかも決まった。
それでも、準備しなければならないことは、まだ残っている。
次は――値段。
どうやらバザーへの道は、思っていたよりずっと長そうだった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




