第3話 作りすぎ!
第3話 作りすぎ!
上界。
天女は、目の前に広がる光景を見て立ち尽くしていた。
「……これは」
昨日までとは、まるで違っている。
木の実や貝殻、細い枝。それらを使った小物が、あちらにもこちらにも並んでいた。
作っている配下の数も、明らかに増えている。
「天女殿! これを見てくれ!」
「こっちもできたぞ!」
「これはどうだ?」
「待ってください! 順番に――」
言い終わる前に、また別の小物を差し出される。
天女は目を丸くした。
「皆様、いつの間にこれほど……」
「昨日から作ってた!」
「売れたら下界の物が買えるんだろ?」
「俺は菓子が欲しい!」
「私は本!」
「下界の食べ物も食べてみたい!」
次々に声が上がる。
少し離れたところでは、以前から小物を作っていた配下が、新しく参加した者に作り方を教えていた。
「そこは強く結ばないと取れるぞ」
「こうか?」
「違う違う。貸してみろ」
いつの間にか、上界の一角は小さな工房のようになっていた。
◇
「ずいぶん増えたな」
青龍がやってきて、周囲を見回した。
その後ろから現れた白虎も、山のような小物を見る。
「いいんじゃないか? 多ければ、それだけ売れるだろ」
「全部売れればな」
「売れないのか?」
「その可能性もある」
白虎が黙った。
「……そうなのか?」
「まだ一つも売っていないだろう」
そこへ朱雀が勢いよくやってくる。
「ならば、たくさん作って、たくさん売ればよい!」
青龍が朱雀を見る。
「今の話を聞いていたか?」
「聞いておった!」
「では、なぜそうなる」
「たくさんあれば、たくさん売れる可能性があるではないか!」
「売れ残る可能性も増える」
「おぬしはなぜ、そう悪い方ばかり考えるのじゃ!」
玄武はそんな二人をよそに、積み上がった品物を眺めていた。
「それ以前に、これをすべて下界へ持っていけるのか?」
朱雀が止まる。
天女も止まった。
白虎が品物の山を見る。
「無理だな」
青龍も頷く。
「無理だろうな」
朱雀は少し考えてから言った。
「何度かに分けて運べば――」
「バザーへ持っていく量の話をしている」
「……そうであった」
◇
天女は、とりあえず完成した品を確認することにした。
「では、順番に見せてください」
「これ!」
一人の配下が差し出した小物を手に取る。
「……あの」
「どうだ?」
天女は結び目を軽く引っ張った。
するり。
取れた。
「……」
「……」
「こちらは、もう一度作り直しましょう」
「駄目か?」
「美緒殿と咲子殿に、丈夫にするよう教えていただいたではありませんか」
「数を作った方がいいと思って……」
天女は次の品を見る。
枝の先が尖っていた。
「こちらもです」
「えっ?」
「先を丸くしてください」
「でも、昨日だけで十個作ったぞ」
「十個ともです」
「全部!?」
「全部です」
別の品は左右の大きさがまるで違う。
さらに別の品は、少し触っただけで飾りが外れた。
天女の表情が、だんだん困ったものになっていく。
「皆様……」
周囲が静かになった。
「これでは、前に戻っております!」
青龍が一つを手に取る。
「数を増やすことばかり考えた結果だな」
「でも、たくさん売りたくて……」
「売れない物を百個作っても意味がない」
「……はい」
天女も頷く。
「急がなくてよいのです。まずは、買ってくださった方が困らないものを作りましょう」
配下たちは少し反省した様子で、自分たちの品を見直し始めた。
◇
ところが、問題はそれだけではなかった。
「なら、これはどうだ!」
別の配下が自信満々に持ってきたものを見て、天女が固まる。
「……これは、何を使ったのですか?」
「きれいだろ?」
確かにきれいだった。
木の実や普通の貝殻とは明らかに違う輝きを放っている。
「高く売るものも必要なんだろ?」
「これは、どこで?」
「向こうにあった」
「向こうとは?」
配下が指差す。
天女はその方向を見てから、もう一度小物へ目を落とした。
「これは駄目です」
「なんで!?」
「下界へ持っていってよいものか分かりません」
「でも、きれいだぞ?」
「きれいだからよいという話ではありません」
その会話を聞いていた青龍が近づいてくる。
「他にも、普通ではない素材を使った者はいるか?」
何人かの配下が、そっと目を逸らした。
青龍が眉を寄せる。
「いるのだな」
「高く売れるかと思って……」
天女がため息をついた。
◇
その話は、黄龍のところまで持ち込まれることになった。
黄龍の前には、四聖獣と天女、そして問題のある小物がいくつか並べられている。
黄龍は一つずつ確認した。
「なるほど。下界で売る以上、何を持ち込んでもよいというわけにはいかないな」
「私もそう思う」
青龍が頷く。
黄龍は、下界へ持ち込む品について条件を整理していった。
「まず、普通の自然素材であること」
「はい」
天女が頷く。
「妖力や特殊な力を帯びているものは使わない」
玄武も頷いた。
「人間に危険を及ぼす可能性があるものも駄目だ」
白虎が言う。
青龍も続けた。
「下界へ出すことで、人間たちを混乱させるようなものも避けるべきだろう」
黄龍が頷く。
「それでよい」
朱雀が手を挙げた。
「では、ほんの少しだけ力を帯びたものなら――」
「駄目だ」
青龍。
「駄目だな」
白虎。
「避けるべきだ」
玄武。
「おやめください」
執事役。
朱雀が立ち上がった。
「まだ最後まで言っておらぬ!」
黄龍が朱雀を見る。
「最後まで聞いても駄目だ」
「黄龍まで!」
天女は笑いをこらえていた。
◇
「ところで」
朱雀が得意げに立ち上がる。
「おぬしら、わらわの作品をまだ見ておらぬな」
天女の笑顔が消えた。
「朱雀様……作られたのですか?」
「当然じゃ! 見よ!」
朱雀が大切そうに小物を取り出す。
一見すれば、木の実と貝殻を使ったものだった。
天女が受け取る。
「……朱雀様」
「なんじゃ?」
「これは?」
「少し飾った」
「この部分です」
「少し飾っただけじゃ」
青龍が覗き込む。
「少し?」
白虎も見る。
「派手だな」
玄武も見る。
「かなり派手だ」
朱雀が反論する。
「これくらいあった方が美緒も喜ぶ!」
天女は首を横に振った。
「駄目です」
「まだ説明しておらぬ!」
青龍が言う。
「説明する必要があるのか?」
「おぬしは黙っておれ!」
白虎も続く。
「作り直しだな」
「作り直しだろう」
玄武も頷いた。
そして最後に執事役。
「作り直してください」
朱雀が周囲を見回す。
「全員で言うな!」
黄龍が小さく笑った。
◇
大量の品を整理しているうちに、天女はもう一つの問題に気づいた。
「……これは、どなたが作られたのでしょう?」
誰も答えない。
「こちらは?」
「……」
「では、こちらは?」
「それ、俺だったかな?」
「いや、俺じゃないか?」
「似たの作ったぞ」
天女は頭を抱えた。
人数が増えすぎて、誰がどの品を作ったのか分からなくなっていた。
青龍が言う。
「これでは、下界で評判が良かったものがあっても、作った者に伝えられないな」
「直すところを教えていただいても、誰に伝えればよいか分かりません」
玄武が少し考える。
「作り手ごとに分けて管理すればよいのではないか」
「それがよいですね」
商品そのものに作り手の名前を出す必要はない。
ただし、上界では誰が作ったものか分かるようにしておく。
配下ごとに品物を分け、天女が確認していった。
「これで、誰のものか分かります」
「俺のが売れたら分かるのか?」
一人の配下が聞く。
「はい」
「じゃあ、誰のが一番売れたかも分かる?」
「……おそらく」
途端に周囲がざわついた。
「俺のが一番売れる!」
「いや、こっちだ!」
「勝負だな!」
「競争ではありません!」
天女が慌てて止める。
朱雀が大きく頷いた。
「そのとおりじゃ!」
執事役が朱雀を見る。
「朱雀様がそれをおっしゃいますか?」
「なんじゃ!」
◇
その時、一人の配下がふと尋ねた。
「そういえば、自分が作った物が売れたら、そのお金は自分のものになるのか?」
一同が止まった。
天女も答えられない。
青龍も、白虎も、玄武も考え込む。
そして朱雀が、すっと手を挙げた。
「それについては――」
「朱雀様」
執事役が止める。
「まだ何も言っておらぬ!」
青龍が朱雀を見る。
「今から何を言おうとした?」
「このバザー計画を考えたのは、わらわだから――」
「言っているではないか」
「まだ最後まで言っておらぬ!」
黄龍が口を開いた。
「その話は、実際に売れてから考えよう」
朱雀が振り返る。
「じゃが――」
「まだ一つも売れていない」
「……」
執事役が小さく頷く。
「そのとおりです」
朱雀は不満そうだったが、それ以上は言わなかった。
◇
それから、大量に作られた小物の選別が始まった。
安全であること。
普通の素材であること。
妖力などを帯びていないこと。
一定以上の丈夫さがあること。
そして、バザーで売るのに向いていること。
条件を満たしたものだけを、天女たちは選んでいく。
「これは?」
「今回は駄目です」
「直したら?」
「次なら大丈夫かもしれません」
「分かった。直す!」
別の配下も聞く。
「俺のは?」
「こちらは大丈夫です」
「よし!」
選ばれなかった者も、そこで諦めるわけではない。
駄目だったところを直せば、次は選ばれるかもしれない。
いつの間にか、ただ数を作ればいいという空気も少しずつ変わっていた。
◇
そして、ようやくバザーへ持っていく小物がまとまった。
箱や包みの中には、選ばれた品々がきれいに収められている。
天女が嬉しそうに言った。
「これで、バザーへ持っていく品物は揃いました」
配下たちから歓声が上がる。
「やった!」
「いよいよだ!」
「売れるかな?」
朱雀も胸を張った。
「いよいよじゃな!」
青龍が言う。
「まだ売っていない」
白虎が続く。
「でも、今度こそ売れるだろ」
玄武は首を傾げる。
「売れると決まったわけではない」
朱雀が三人を見る。
「おぬしらは、なぜそう水を差す!」
その時、一人の配下が尋ねた。
「で、いつ売るんだ?」
「……」
全員が止まった。
天女も止まる。
朱雀が天女を見る。
「天女?」
「……そういえば」
「なんじゃ?」
「バザーの日を、まだ聞いておりません」
沈黙。
「何じゃと!?」
朱雀の声が響いた。
天女は慌てて立ち上がる。
「咲子殿に聞いてまいります!」
執事役が静かに言った。
「まず、そこから確認するべきでしたね」
朱雀が振り返る。
「今から分かればよい!」
商品は揃った。
売る準備も、少しずつ整ってきた。
ただし。
肝心のバザーがいつなのかだけは、まだ誰も知らなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




