第2話 いくらなら売れる? 上界。
第2話 いくらなら売れる?
上界。
天女が美緒と咲子から聞いてきた意見をもとに、配下たちは小物の手直しを進めていた。
尖っていた枝の先は丸く削られ、緩かった結び目はしっかりと結び直されている。同じ形でも木の実の種類を変えたり、貝殻の組み合わせを変えたりと、少しずつ種類も増えていた。
「どうでしょう?」
一人の配下が天女に小物を差し出す。
天女は手に取ると、先端や結び目を慎重に確かめた。
「前より丈夫になっています。それに、こちらもきれいに丸くなっていますね」
「よし!」
少し離れたところでも、次々と品物が持ち込まれている。
「こっちは?」
「もう少し結び目を強くした方がよいかもしれません」
「分かった」
美緒と咲子の意見は、すっかり配下たちの小物作りに取り入れられていた。
その中に、朱雀もいる。
「ふむ……」
朱雀は木の実を使った小物をじっと見つめると、その手を隣に置いてあった飾りへ伸ばした。
「朱雀様」
天女が呼ぶ。
朱雀の手が止まった。
「なんじゃ?」
「今、何をなさろうとしました?」
「何もしておらぬ」
「その飾りを付けようとなさいませんでしたか?」
「少しくらいよかろう。これでは地味すぎるではないか」
「また豪華になります」
そこへ、執事役の声が飛んだ。
「朱雀様」
「まだ付けておらぬ!」
「付けないでください」
「分かっておる!」
朱雀は渋々、手にしていた飾りを元へ戻した。
◇
しばらくして、青龍が並べられた小物を見回した。
「品物については、だいぶ形になってきたな」
「はい。これなら、バザーへ持っていけるものも増えそうです」
天女が嬉しそうに頷く。
「では、一つ聞きたい」
「なんでしょう?」
青龍は小物を一つ持ち上げた。
「これは、いくらで売る?」
「……」
天女が止まった。
周囲にいた配下たちも、ぴたりと動きを止める。
誰も考えていなかった。
沈黙を破ったのは朱雀だった。
「高く売ればよい!」
青龍が朱雀を見る。
「いくらだ?」
「……」
「いくらで売れば高いのだ?」
「それは……高いくらいじゃ!」
「何も分かっていないではないか」
「では、おぬしは分かるのか!」
「分からない。だから聞いている」
白虎が腕を組んだ。
「売れる値段で売ればいいだろう」
今度は青龍が白虎を見る。
「その『売れる値段』が分からないという話だ」
「面倒だな」
「人間の商売とは、そういうものなのだろう」
玄武は一つの小物を手に取り、じっくり眺めた。
「素材そのものは、木の実や枝、貝殻だ」
「そうじゃ。ならば安くてもよいのではないか?」
朱雀が言うと、玄武は首を横に振る。
「だが、これを作るには手間がかかっている」
青龍も頷いた。
「そうだな」
玄武は、より細工の細かい小物へ視線を移す。
「こちらなど、かなり時間をかけているのではないか?」
作った配下が答える。
「それは結構かかった」
「ならば、すべて同じ値段というのも違うのだろう」
「では、高いものと安いものを作ればよい」
朱雀が得意げに言った。
青龍が返す。
「だから、その『高い』と『安い』がいくらなのかという話だ」
「……」
朱雀は黙った。
少しして。
「……人間に聞くか」
「それが早いな」
青龍が答えた。
◇
下界。
再びゴンさんの店を訪れた天女は、美緒と咲子に相談していた。
「今度は値段?」
美緒が尋ねる。
「はい。皆様で考えてみたのですが、誰にも分からなくて」
咲子が苦笑した。
「まあ、普段お金を使ってないなら分からないよね」
天女が小物を並べていく。
前回指摘されたところは、きちんと直されていた。
美緒がすぐに気づく。
「あ、ここ丸くなってる!」
「はい。皆様にお伝えしました」
咲子も別の品を確かめる。
「こっちも丈夫になってる。ちゃんと直してくれたんだ」
「皆様、とても張り切っておられます」
「で、これをいくらで売るか……」
咲子は品物を見ながら考えた。
「全部同じ値段じゃなくていいと思うよ」
「違ってよいのですか?」
「うん。こっちは簡単な作りだから安め。こっちは手が込んでるから、もう少し高くてもいいんじゃないかな」
美緒も頷く。
「それに、安いのもあった方がよくない?」
「なぜです?」
「子どもとかさ。自分のお小遣いで買えるものがあった方が楽しいじゃん」
「なるほど……」
天女は感心したように品物を見る。
咲子が続けた。
「高ければ儲かるってわけでもないしね」
「朱雀様は、高く売ればよいとおっしゃっていました」
美緒が吹き出す。
「朱雀ちゃん、言いそう」
「でも、高すぎたら誰も買わないよ」
咲子の言葉に、天女が少し驚いた。
「よい物でもですか?」
「欲しくても、その値段じゃ買えないってことあるでしょ」
「なるほど……」
「逆に安すぎても、作った人が大変だし」
「高すぎてもいけない。安すぎてもいけない……」
天女は真剣な顔で考え込む。
美緒が笑った。
「難しいでしょ?」
「はい。とても」
三人は小物をいくつかの種類に分けながら、バザーで手に取ってもらいやすそうな値段を考えていった。
◇
ひと通り話がまとまった頃。
美緒が並んだ小物を眺めながら言った。
「でも、これ全部売れたら結構お金になるんじゃない?」
天女が顔を上げる。
「そのお金なのですが」
「うん?」
「手に入れた後は、どうするものなのでしょう?」
「どうするって?」
「お金を得ることが目的だとは聞いていましたが、その後のことをよく考えておりませんでした」
美緒と咲子が顔を見合わせた。
「普通に使えばいいんじゃない?」
美緒が答える。
「使う?」
「うん。欲しいもの買ったり」
「欲しいものを?」
「お金があれば、いろんなもの買えるよ」
天女の目が少し大きくなる。
「下界の物もですか?」
「そりゃそうだよ。下界のお金なんだから」
「本も?」
「買えるよ」
「食べ物も?」
「買える」
「衣服も?」
「買える買える。まあ、お金が足りればだけど」
天女は黙った。
何か、とても大事なことに気づいたような顔をしている。
「どうしたの?」
咲子が尋ねる。
「……皆様に、お伝えしなければ」
「何を?」
「売ったお金で、下界の物を買えるということをです」
美緒と咲子が、また顔を見合わせた。
「知らなかったんだ……」
「はい」
「そっか」
咲子は苦笑した。
◇
上界へ戻った天女は、四聖獣たちに美緒と咲子から聞いたことを報告した。
「なるほど。すべて同じ価格にする必要はないということか」
青龍が頷く。
「はい。簡単なものは手に取りやすい値段にして、手の込んだものは少し高くしてもよいそうです」
白虎が腕を組んだ。
「思ったより安いな」
朱雀も不満そうだ。
「もっと高く売れぬのか?」
「高すぎると、欲しくても買っていただけないそうです」
「むう……」
玄武はしばらく考えてから頷いた。
「まずは実際に売れるか確かめるのだから、それでよいだろう」
「そうですね」
天女は頷くと、続けた。
「それから、もう一つ分かったことがあります」
「なんじゃ?」
「バザーで得たお金を使えば、下界の物を買えるそうです」
一瞬、誰も喋らなかった。
最初に反応したのは青龍だった。
「……下界の物を?」
「はい」
「本もか?」
「美緒殿は買えるとおっしゃっていました」
青龍の目が変わった。
「どのような本でも?」
「お金が足りれば、と」
「……なるほど」
朱雀が青龍を見る。
「急に食いついたな」
「下界の学問について書かれたものも手に入るということだろう」
「おそらく」
「ならば、この計画はもう少し真面目に考える必要があるな」
朱雀の眉が動く。
「今までは真面目ではなかったのか?」
「そういう意味ではない」
今度は白虎が口を開いた。
「待て」
「なんだ?」
「下界の格闘技に関するものも買えるのか?」
天女は少し考える。
「本などであれば、買えるのではないでしょうか」
「試合を記録したものは?」
「それは……美緒殿たちに聞かなければ分かりません」
「そうか」
白虎も明らかに興味を示している。
朱雀が玄武を見る。
「玄武は?」
「何がだ」
「何か欲しいものはないのか?」
「別に……」
玄武はそう答えたあと、少し黙った。
「……食べ物も買えるのか?」
全員が玄武を見る。
「なんだ」
朱雀が笑った。
「興味があるではないか!」
「食べ物について聞いただけだ」
「それを興味があるというのじゃ!」
「そうなのか?」
「そうじゃ!」
玄武は少し考え込んだ。
「ならば、興味があるのかもしれんな」
「認めるのが遅い!」
天女が笑った。
そして朱雀が胸を張る。
「ならば、わらわは――」
「朱雀様」
執事役の声が飛んだ。
「なんじゃ。まだ何も言っておらぬぞ」
「朱雀様は、すでに美緒殿とのご縁で下界の物をいろいろと手にされております」
「それとこれは別じゃ!」
「何が違うのでしょう」
「これは、わらわが考えたバザー計画で得る金じゃぞ!」
「まだ得ておりません」
朱雀が止まった。
「……これから得る」
「売れれば、ですが」
「売れる!」
「まだ分かりません」
「そなたはもう少し夢を持て!」
青龍が小さく息を吐いた。
◇
だが、話はそれだけでは終わらなかった。
いつの間にか、
『自分たちの作った物を下界で売れば、そのお金で下界の物を買える』
という話が、周囲の配下たちにも伝わっていた。
「本当か!?」
「下界の菓子も買えるのか?」
「食べ物は?」
「本も?」
「もっと売れば、もっと買えるのか?」
あっという間に大騒ぎになる。
「なら、もっと作ろう!」
「俺も作る!」
「今度はもっと売れそうなものを!」
「何が売れる?」
「貝殻をもっと集めよう!」
「木の実もいるぞ!」
天女が慌てた。
「皆様! お待ちください!」
誰も止まらない。
「もっと丈夫にすればいいんだろ?」
「色違いも作るぞ!」
「たくさん作れば、それだけ売れる!」
「皆様!」
天女がもう一度声を上げた。
「まだバザーで一つも売れておりません!」
一瞬、静かになる。
だが。
「でも、売れたら買えるんだろ?」
「はい、それは……」
「なら作ろう!」
「そうだ!」
すぐに再び騒ぎ始めた。
天女は困ったように周囲を見回す。
青龍はすでに、どんな本を手に入れるか考えている。
白虎は、下界の格闘技について何を調べてもらうか考え始めている。
玄武も、何やら食べ物のことを考えているらしい。
そして朱雀は。
「わらわは何を買おうかのう」
すっかりその気になっていた。
執事役は、そんな一同をしばらく眺めてから、静かにため息をついた。
「……皆様」
誰も聞かない。
「皆様」
それでも聞かない。
「本は何冊買える?」
「菓子ならいくつじゃ?」
「もっと作ればよい!」
「わらわの分も忘れるでないぞ!」
執事役は、もう一度ため息をついた。
「まだ一銭も稼いでいないのですが……」
その声も、盛り上がる一同には届かなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




