これなら売れる?
これなら売れる?
「おいしい!」
朱雀の声が響いた。
目の前には、天女が下界から持ち帰ってきた料理。
ゴンさんの店の料理だった。
朱雀は、さっきからずっと上機嫌だった。
「ほんとにおいしい!」
一口。
また一口。
「天女が言ってた通り!」
「お気に召したようで何よりです」
天女が微笑む。
その隣では、いつもの執事役が静かに見守っていた。
「朱雀様。あまり急いで召し上がりますと――」
「分かってるって!」
そう答えながら、また一口。
「これもおいしい!」
「朱雀様」
「なに?」
「口に物を入れたままお話しにならないでくださいませ」
「……」
朱雀は黙って食べる。
そして。
飲み込んだ。
「おいしい!」
「それは先ほどから十分伝わっております」
だが。
その場にいるのは、朱雀たちだけではなかった。
◇
「……」
「……」
「……」
朱雀陣営の配下たちが見ていた。
じーっと。
朱雀の料理を。
「……何よ」
朱雀が手を止める。
配下たちは一斉に顔を逸らした。
「何でもございません!」
「何も見ておりません!」
「お気になさらず!」
「思いっきり見てたじゃない」
「見ておりません!」
「じゃあ、今私が何食べてるか分かる?」
「ゴン殿のお料理です!」
「分かってるじゃない!」
配下たちが黙った。
一人が小さく呟く。
「……いい匂いです」
別の一人も続く。
「とても……」
朱雀は料理を見る。
配下を見る。
また料理を見る。
「……食べたいの?」
「いえ!」
即答。
だが。
全員の目が料理を追っている。
朱雀は苦笑した。
◇
「何だ、この匂いは」
声がした。
白虎だった。
その後ろから青龍。
少し遅れて玄武もやってくる。
「先ほどから気になっていた」
青龍が言う。
朱雀が少し嫌そうな顔をした。
「何よ。みんな集まってきて」
白虎が料理を見る。
「それは何だ?」
「ゴンさんの料理」
「……」
白虎の目が料理へ固定された。
「例の店か?」
「そうよ」
「天女が美味いと言っていた?」
「そう」
青龍も料理を見る。
「それを、お前だけが食べているのか?」
「そうだけど?」
白虎が朱雀を指さした。
「ずるいぞ!」
「何でよ!」
「俺たちはまだ食べたことがない!」
「知らないわよ!」
青龍も腕を組む。
「これは少々、公平性に欠けるな」
「何の公平性よ!」
「同じ四聖獣だ」
「だから何!?」
「朱雀だけが下界の料理を先に味わうというのは――」
「じゃあ、あなたたちも美緒にお願いすればいいじゃない」
「……」
青龍が止まった。
白虎も止まる。
二人が顔を見合わせた。
白虎が言う。
「その手があったか」
「待て」
青龍が止める。
「何だ?」
「朱雀がすでに頼んでいる」
「そうだな」
「我々まで次々と美緒に頼むのか?」
「……」
白虎の勢いが止まった。
青龍が続ける。
「食事を持ってきてほしい。服が欲しい。下界の物を見たい。そのたびに美緒一人へ頼むつもりか?」
白虎は少し考えた。
「……それは」
「厚かましいだろう」
「……そうだな」
朱雀が最後の一口を食べながら言う。
「じゃあ諦めれば?」
二人が同時に朱雀を見る。
「それも嫌だ!」
「面倒ねえ!」
「お前はもう食べたからそう言えるんだ!」
「そうだ!」
青龍まで白虎に同調した。
朱雀は呆れた。
◇
「ならば!」
朱雀配下の一人が声を上げた。
「我々がガチャで当たればよいのです!」
別の配下も続く。
「そうです!」
「人間から認識される資格をいただければ!」
「下界へ!」
「ゴン殿の店へ!」
「料理を!」
どんどん目的が増えている。
執事役が静かに口を開いた。
「皆様」
「はい!」
「当初の目的をお忘れではございませんか?」
「忘れておりません!」
「人間の方々から認識していただくためです!」
「そこへゴン殿のお料理が加わっただけです!」
執事役が少し考える。
「それを目的が増えたと言うのでございます」
「増えただけです!」
「今、私もそう申し上げました」
配下たちは、もう盛り上がっている。
「次こそ私が!」
「いや、私です!」
「下界へ行ったら最初にゴン殿の店へ!」
「私も!」
白虎が腕を組む。
「……俺もガチャに入りたいな」
青龍が頷いた。
「四聖獣自身を対象にする話は、早めに詰める必要がある」
「そうだろ?」
「別に料理のためではない」
「俺もだ」
朱雀が二人を見る。
「説得力ないわよ」
◇
その中で。
玄武だけは静かだった。
朱雀が見る。
「玄武は?」
「何がだ?」
「食べたくないの?」
「食事のために騒ぐものではない」
「ふーん」
朱雀が空になった包みを見る。
「じゃあ、いらないのね?」
「……」
玄武が少しだけ止まった。
白虎が見る。
青龍も見る。
朱雀がにやっとする。
「いらない?」
「いらぬとは言っていない」
「食べたいんじゃない!」
「興味はある」
「同じじゃない!」
「違う」
玄武はいつもの落ち着いた顔だった。
ただ。
心の中では。
(……四聖獣を対象に加える件は、少し早めに進めた方がよいかもしれぬな)
そう考えていた。
もちろん。
料理だけが理由ではない。
たぶん。
◇
「でも」
天女が言った。
「結局、同じ問題に戻りますね」
「何が?」
朱雀が聞く。
「下界の物を、どうやってこちらへ持ってくるかです」
「……あ」
マカロン。
服。
アクセサリー。
食べ物。
朱雀が欲しいものは、まだまだある。
青龍だって、下界の本や資料に興味がある。
白虎も、プロレスや空手について知りたがっている。
だが。
そのたびに美緒へ、
「あれを買ってきて」
「これを持ってきて」
と頼むわけにはいかない。
運ぶ天女にも限界がある。
「じゃあ」
朱雀が腕を組む。
「やっぱり、バザー?」
青龍が頷いた。
「自分たちで対価を得る方法を作るのは悪くない」
白虎も頷く。
「一方的にもらうよりは、その方がいいな」
玄武も同意する。
「問題は、何を売るかだ」
◇
朱雀は自分の配下たちを見た。
「何かない?」
「何か、とは?」
「下界で売れそうなもの!」
その瞬間。
配下たちの目が輝いた。
「お任せください!」
「朱雀様のために!」
「必ずや!」
執事役が小さく息を吐く。
「嫌な予感がいたします」
朱雀が振り返る。
「何でよ」
「皆様、張り切りすぎておりますので」
そして。
その予感は当たった。
◇
「こちらはいかがでしょう!」
最初の配下が持ってきたものを、青龍が見る。
「……これは駄目だ」
「なぜです!?」
「下界には存在しない素材だ」
朱雀も覗き込む。
きらきらと光っている。
どう見ても普通ではない。
「これ、持っていったらどうなるの?」
「価値がつけられん可能性がある」
「そんなに?」
「そもそも、下界へ持ち込むべきかどうかから考える必要がある」
「じゃあ駄目!」
「そんな!」
次。
「こちらを!」
白虎が見る。
「……何だ、この金属は」
「加工して飾りにいたしました!」
青龍が確認する。
「駄目だ」
「また!?」
「人間側にないものを簡単に持ち込むな」
次。
「この布なら!」
朱雀が触る。
「すごく綺麗!」
「でしょう!」
青龍が見る。
「駄目だ」
「何でよ!」
「素材は?」
「こちらで採れる――」
「駄目だ」
「最後まで聞いてください!」
次。
次。
次。
出てくる物は。
良い。
非常に良い。
だが。
良すぎる。
朱雀が頭を抱えた。
「何でみんな、そんなすごい物ばっかり持ってくるのよ!」
配下たちが困惑する。
「良い物を売るのでは?」
「良すぎるの!」
「難しい……」
白虎が腕を組む。
「下界で普通に売っても問題にならないものが必要なんだな」
「そういうことね」
青龍も頷く。
「価値が高すぎず、技術的にも不自然ではなく、向こうの社会へ影響を与えないもの」
朱雀がため息をつく。
「そんなのある?」
◇
「……あの」
小さな声がした。
一人の妖怪が、遠慮がちに手を上げている。
「何?」
朱雀が見る。
「これは……駄目でしょうか」
妖怪が差し出した。
小さな飾りだった。
派手ではない。
きらきら光る不思議な素材も使っていない。
貝殻。
木の実。
細い枝。
それらを丁寧に組み合わせて作った、小さな小物。
朱雀が手に取る。
「……かわいい」
妖怪が少し照れた。
「趣味で作っているだけなのですが」
別の物も出す。
小さな髪飾り。
簡単な腕飾り。
素朴な置物。
どれも。
特別な力はない。
珍しい素材でもない。
でも。
どこか温かみがあって。
少し、おしゃれだった。
青龍が一つ手に取る。
「素材は?」
「貝殻や木の実などです」
「特殊なものは?」
「使っておりません」
白虎も覗き込む。
「これなら、下界にあってもおかしくないな」
玄武が頷いた。
「人間が手作りした品として見ても、不自然ではあるまい」
朱雀の顔が明るくなる。
「これよ!」
「え?」
「これ!」
周囲の配下たちも集まってくる。
「確かに!」
「これなら我々にも作れるかもしれない!」
「私もやってみたいです!」
「別の形も作れそうだ!」
一気に盛り上がった。
◇
天女が小物を手に取る。
「まずは、下界の方が本当に欲しいと思われるかを確かめた方がよさそうですね」
朱雀が頷く。
「そうね」
「でしたら」
天女は微笑んだ。
「美緒さんと咲子さんに相談してみます」
「お願い!」
朱雀がすぐに答える。
青龍も言う。
「値段についても、人間側の感覚を聞いておいた方がいい」
玄武が続ける。
「どのような場所で売るのが自然なのかもな」
白虎も口を挟む。
「本当に買ってもらえるかどうかも聞いてくれ」
天女が苦笑した。
「一度にたくさん頼まないでください」
三人が黙る。
朱雀が言った。
「とりあえず、これがかわいいか聞いてきて!」
「はい」
天女は試作品をいくつか受け取った。
大量ではない。
美緒や咲子に見てもらうための、ほんの数個。
「では、行ってまいります」
天女が下界へ向かう。
◇
その後ろ姿を見送りながら。
朱雀は考えていた。
「これ、売れたらマカロン買えるかな」
執事役が答える。
「まずは売れるかどうかを確かめるところからでございます」
青龍が言う。
「下界の書物も購入できるようになるかもしれんな」
白虎も続く。
「プロレスを見に行く費用にも――」
「まだ一つも売れておらぬ」
玄武が静かに止めた。
朱雀が二人を見る。
「みんな気が早いわよ」
執事役が即座に言う。
「朱雀様が一番でございます」
「私はちゃんと現実的よ!」
全員が朱雀を見る。
「……なによ?」
誰も答えなかった。
その横では。
配下たちが早くも貝殻や木の実を並べている。
「これはどうだ?」
「もう少し小さい方がいい!」
「人間はどんなものを好むのだろう」
バザーが本当にできるのか。
まだ。
誰にも分からない。
それでも。
下界と彼らを繋ぐ新しい方法が。
少しだけ。
形になり始めていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




