短編 第三話 なんで売上が伸びてるんだ
短編 第三話 なんで売上が伸びてるんだ
「ねえ、あなた」
閉店後。
ゴンさんの妻が、帳簿を見ながら声をかけた。
「ん?」
ゴンさんは厨房で片付けをしている。
「ちょっとこれ見て」
「何だよ」
「最近さ」
妻は帳簿を指でなぞった。
「お客さんの数って、そんなに変わってないわよね?」
「ああ。多少増えたり減ったりはしてるけどな」
「そうよね」
妻はもう一度、数字を見る。
「でも、売上が結構伸びてるのよ」
ゴンさんの手が止まった。
「……そうなのか?」
「ほら」
妻が帳簿を見せる。
「一人当たりの注文が増えてる」
「へえ」
「特に最近」
何人かの常連客の記録を見る。
「この人なんて、いつも定食だけだったのに、最近は必ず一品追加してるし」
「……」
「こっちの人も」
妻が楽しそうに続ける。
「前は少食だったのに、最近は二品くらい増える日もあるのよ」
「……」
「これ、すごくない?」
ゴンさんは答えなかった。
代わりに。
ゆっくり客席の方を見た。
◇
翌日。
昼。
「いただきます」
常連客が定食を食べている。
その横。
ぬらりひょん。
さらに、その近くに妖怪が二体。
ゴンさんは厨房から見ていた。
ぬらりひょんが、新しく来た妖怪へ小声で何か説明している。
「よいか」
「はい」
「この店で食べる時には、決まりがある」
妖怪が真面目な顔で頷いた。
「決まりですか」
「うむ」
ゴンさんの眉が動く。
(何の決まりだよ)
ぬらりひょんは、常連客の皿を指さした。
「同じ皿から二つも三つも取るでない」
「なぜです?」
「人間が気づくからじゃ」
「なるほど」
「一つだけにしておけ」
「一つだけ」
「そして、同じ者から何度も取るのもよくない」
「では?」
「別の席へ移る」
「なるほど!」
妖怪が感心している。
ゴンさんのこめかみに青筋が浮かんだ。
「……そんなこと教えてんじゃねえよ」
ぼそっ。
ぬらりひょんが振り返る。
「何か言ったかの?」
「……」
ゴンさんが固まった。
一般客も振り返る。
「店長?」
「あー……」
ゴンさんは咳払いした。
「独り言!」
「最近、独り言多くない?」
「ほっとけ!」
ぬらりひょんが楽しそうに笑う。
「ほっほっほ」
ゴンさんは睨みたいのを必死で我慢した。
◇
「では、やってみます」
新人の妖怪が言った。
「うむ」
ぬらりひょんが見守る。
妖怪の手が。
すーっと伸びる。
一般客の小鉢へ。
煮物を一つ。
ひょい。
ぱくっ。
「……」
客は気づかない。
妖怪が嬉しそうに言う。
「できました!」
「声を出すでない」
「あ」
「人によっては聞こえる者もおる」
「勉強になります」
ゴンさんは思った。
(何の勉強だよ!)
別の妖怪も手を伸ばす。
今度は別の客の唐揚げ。
一つ。
ぱくっ。
さらに別の妖怪。
ポテトを一つ。
ぱくっ。
ゴンさんは全部見ていた。
「……」
そして。
しばらくして。
「すみませーん」
常連客が手を上げる。
「はい」
ゴンさんが行く。
「追加で、あれ頼んでいい?」
「……はい」
別の客も。
「俺も、もう一品頼もうかな」
さらに別の客。
「なんか今日腹減ってんな」
「……」
ゴンさんの顔が引きつった。
◇
夕方。
妻がレジを確認している。
「ほら!」
「何が」
「今日もよ!」
嬉しそうに数字を見せる。
「やっぱり客単価上がってる!」
「……」
「すごいじゃない!」
「そうだな」
「何よ、その反応」
「いや」
「売上伸びてるのよ?」
「嬉しいよ」
ゴンさんは客席を見る。
ぬらりひょん。
妖怪。
妖怪。
さらに妖怪。
みんな満足そうだ。
「……嬉しいんだけどな」
妻が首を傾げる。
「何か問題ある?」
「いや」
言えるわけがない。
料理が好評だからでも。
客の食欲が突然増えたからでもない。
見えない妖怪が、少しずつ盗み食いしているからだ。
などとは。
◇
「ゴンさん!」
美緒が料理を運びながら呼ぶ。
「何だ」
「こっち、追加注文です!」
「またかよ!」
「売上上がっていいじゃないですか」
「そうなんだけどな!」
今日は美緒だけがバイトの日。
咲子は休みだった。
美緒の頭には猫耳カチューシャ。
だから。
当然。
店内の惨状が全部見えている。
美緒が妖怪を見る。
「……」
妖怪も美緒を見る。
「……」
美緒は小声で、
「一個だけにしてくださいね」
と言った。
ゴンさんが振り返る。
「お前まで何教えてんだ!」
「え?」
「あ」
ゴンさんが止まった。
美緒も止まる。
一般客が見る。
「……店長?」
「いや!」
ゴンさんは慌てた。
「一個ずつ注文取れってことだ!」
美緒が首を傾げる。
「私、何も注文の話してませんけど」
「仕事しろ!」
「してます!」
ぬらりひょんがまた笑っていた。
◇
そのうち。
店の中は、本当に狭くなってきた。
もちろん。
人間の客数が急に増えたわけではない。
妖怪が増えたのである。
ぬらりひょん。
天女。
下界へ来た妖怪たち。
認識資格を得た者。
まだ一般の人間には見えない者。
店の隅。
カウンター横。
通路。
壁際。
そこかしこに妖怪。
ゴンさんの妻が、料理を持って歩きながら首を傾げた。
「最近さ」
「何だよ」
「なんか店、狭くない?」
ゴンさんが止まった。
「……気のせいだ」
「そう?」
「そうだ」
妻が一歩進む。
そこに妖怪。
妖怪が慌てて避ける。
妻は当然気づかない。
「でも、なんか歩きにくいのよね」
「気のせいだ!」
「何でそんな必死なの?」
「必死じゃねえよ!」
妻は不思議そうだった。
◇
その日の夕方。
また新しい妖怪が店へ入ってきた。
「ここがゴン殿の店か」
先にいた妖怪が頷く。
「そうだ」
「下界へ来たら、まずここへ来ればよいと聞いた」
ゴンさんの手が止まる。
(誰がそんな話広めた!)
妖怪が続ける。
「ぬらりひょん様もおられる」
「天女殿も来られる」
「人間側とも話せる者がおる」
「そして料理が美味い」
「ただし」
新人妖怪が真剣に聞く。
「ただし?」
先輩妖怪が声を潜める。
「同じ皿から二つ取ってはいけない」
「……」
ゴンさんの額に青筋。
「盗み食いのルールを広めるな……」
また。
ぼそっと出た。
ぬらりひょんが笑う。
「何か言ったかの?」
「言ってねえ!」
「ゴンさん?」
美緒が見る。
「何でもねえ!」
「誰と喋ってるんです?」
「独り言だよ!」
「また?」
「悪いか!」
もう誰も深く突っ込まなかった。
◇
閉店後。
妻は今日の売上を確認していた。
「あなた」
「今度は何だ」
「今日もいいわよ」
「そうか」
「最近ほんと調子いいわね」
嬉しそうに帳簿を閉じる。
「このままいけば、結構いい感じよ」
「……」
ゴンさんは客席を見る。
人間の客はもういない。
だが。
妖怪はまだ何体か残っている。
ぬらりひょんもいる。
当然のように。
茶を飲んでいる。
妻が言う。
「お客さん増えてないのに売上増えるなんて、理想的じゃない?」
「……まあな」
「何か秘訣でもあるのかしら」
ゴンさんは答えない。
ぬらりひょんと目が合った。
ぬらりひょんが、にこっと笑う。
「持ちつ持たれつじゃな」
ゴンさんの口が。
反射的に動いた。
「誰が持ちつ持たれつだ!」
「……」
妻が振り返る。
美緒も振り返る。
残っていた妖怪たちも見る。
ゴンさんが固まった。
妻が聞く。
「誰と話してるの?」
「……」
「あなた?」
「あー……」
ゴンさんは顔を逸らした。
「独り言!」
妻が呆れる。
「最近ほんと独り言多いわよ」
「疲れてんだよ!」
「ちゃんと休んだ方がいいんじゃない?」
「誰のせいだと――」
言いかけて。
妖怪たちを見る。
止めた。
「……何でもねえ」
妻は首を傾げながら奥へ戻っていった。
◇
ぬらりひょんが茶を飲む。
「よい店になったのう」
「……」
ゴンさんは返事をしない。
見えていない。
聞こえていない。
まだ。
その設定は守る。
つもりだった。
店の入口。
また妖怪が一体、顔を出す。
「失礼する」
先にいる妖怪が手招きする。
「こちらだ」
「ここへ来ればよいと聞いた」
ゴンさんの眉が動く。
(また増えた……)
ぬらりひょんが楽しそうに言う。
「随分賑やかになったのう」
ゴンさんは拳を握る。
「誰のせいだと思って――」
止まる。
「……」
ぬらりひょんを見る。
妖怪たちを見る。
そして。
深く息を吐いた。
「……何でもねえ!」
新しく来た妖怪が不思議そうに聞く。
「ゴン殿は誰と話しておるのだ?」
ぬらりひょんが答える。
「独り言じゃ」
「なるほど」
「最近多い」
「ほう」
ゴンさんのこめかみに青筋が浮かぶ。
それでも。
今日も店は繁盛している。
妖怪たちのたまり場になりつつあることを除けば。
たぶん。
普通の店だった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




