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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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短編 第二話 二つある

短編 第二話 二つある


「美緒ー!」


猫耳カチューシャから、元気な声が響いた。


「朱雀さん?」


美緒が振り返る。


今日はゴンさんの店でバイト中。


頭には、いつもの猫耳カチューシャ。


少し離れたところでは、咲子も注文を取っている。


今日は二人とも勤務の日だった。


『聞こえる?』


「聞こえますよ」


『ねえ、今日聞きたいことがあるの!』


「何ですか?」


『ゴンさんって人の料理、そんなにおいしいの?』


美緒が少し目を丸くした。


「急ですね」


『天女が言ってたのよ!』


「天女さんが?」


『すっごくおいしいって!』


「まあ、おいしいですよ」


厨房。


ゴンさんの手が、ほんの一瞬だけ止まった。


もちろん。


聞いていない。


聞こえていない。


そういうことになっている。


美緒は続ける。


「常連さんも多いですし」


『何がおいしいの?』


「何って言われてもなあ」


『おすすめ!』


「うーん……」


美緒が厨房を見る。


ゴンさんは料理を作っている。


見ていない。


聞いていない。


そういう顔をしている。


「ゴンさん、何が一番おすすめですか?」


「何だ急に」


「聞かれたんで」


「誰にだよ」


「……友達です」


「ふーん」


ゴンさんは、それ以上聞かなかった。


いや。


聞けなかった。


『ねえ、美緒!』


「はい」


『私も食べてみたい!』


「朱雀さんが?」


『うん!』


「じゃあ、今度天女さんに――」


『持ってきてもらえる!?』


「聞いてみますね」


『やった!』


厨房。


ゴンさんの包丁が。


とん。


とん。


とん。


いつもより少しだけ力強く、まな板を叩いていた。


◇


しばらくして。


朱雀との話は終わった。


美緒は仕事へ戻る。


「美緒」


咲子が小声で言う。


「さっき朱雀様だった?」


「うん」


「今度は何の話?」


「ゴンさんの料理食べたいって」


「……ああ」


咲子は妙に納得した。


「それ、言いそう」


「でしょ?」


厨房。


ゴンさんは皿を拭いていた。


顔は向けない。


何も聞いていない。


聞いていないはずである。


美緒が厨房の近くを通る。


「天女さん、今日来るかな」


「来たら聞けば?」


「そうする」


ゴンさんは黙っていた。


◇


夜。


店が少し落ち着いた頃。


「美緒」


「はい?」


ゴンさんが呼ぶ。


手には、持ち帰り用の包みがあった。


一つ。


そして。


もう一つ。


「ほら」


美緒が受け取る。


「ありがとうございます」


いつものことだった。


バイトが終わったあと。


ゴンさんが持ち帰り用に料理を包んでくれることがある。


ゴンさんとしては。


美緒が家で食べる。


翌日の朝飯にする。


そういう体である。


実際に、その料理がどこへ行っているのか。


ゴンさんは知らない。


見えていない。


ということになっている。


美緒は二つの包みを見た。


「……あれ?」


ゴンさんの肩が、わずかに動く。


「何だよ」


「今日、二つある」


「……」


一瞬。


間があった。


「多い方がいいだろ」


「いつも一つじゃないですか」


「今日は二つだ」


「何で?」


「何でって……」


ゴンさんは考える。


「明日の朝飯だ!」


「一個で足りますよ」


「じゃあ昼も食え!」


「学校ありますけど」


「弁当にしろ!」


「これ、結構重いですよ?」


「若いんだから食えるだろ!」


美緒がじっとゴンさんを見る。


「……何で今日そんなに食べさせたいんですか?」


「別に食わせたいわけじゃねえよ!」


「じゃあ何で二つ?」


「……」


ゴンさんは詰まった。


◇


美緒は包みを見る。


「まあいいや」


「ん?」


「あとで食べよう」


ゴンさんも少し安心した。


「おう」


そこで。


余計な一言が出た。


「彼氏にでもやるのか?」


美緒が止まった。


「……」


ゴンさんも止まる。


「……何だよ」


美緒が、ゆっくり顔を上げた。


「私」


「おう」


「彼氏いませんよ」


「……」


「いませんけど?」


少し。


声が低い。


ゴンさんが一歩引いた。


「いや、別に確認しただけだろ」


「何で確認するんですか?」


「何となくだよ!」


「彼氏いるように見えました?」


「そういう意味じゃねえ!」


少し離れたところで、咲子が吹き出した。


「さっちゃん!」


「ごめん」


笑っている。


「でも美緒、ちょっと怖い」


「だって急に彼氏とか言うんだもん!」


ゴンさんが頭を掻いた。


「悪かったよ!」


「ほんとですよ」


美緒は包みを抱える。


「まあ、別にいいですけど」


「……おう」


「いませんからね」


「分かったって!」


「念のため」


「何の念だよ!」


咲子がまた笑った。


◇


その時。


美緒が、ふと思い出した。


「あ」


「何?」


「そうだ」


二つの包みを見る。


「ちょうどいいや」


ゴンさんの顔が少し引きつる。


「何が?」


「一個、友達にあげます」


「……友達?」


「はい」


ゴンさんは平静を装う。


「へえ」


「欲しがってたから」


「そうか」


「すごく食べたがってたし」


「……そうか」


ゴンさんは、それ以上聞かない。


聞いてはいけない。


美緒が誰に渡すのか。


本当は知っている。


でも。


知らない。


「好きにしろ」


「ありがとうございます」


美緒は二つを持って、店の奥へ向かった。


◇


そこには。


ちょうど天女が来ていた。


「天女さん」


「はい?」


「これ、お願いします」


美緒が二つの包みを渡す。


天女が目を丸くする。


「二つも?」


「一個はいつもの」


「はい」


「もう一個、朱雀さんに」


「ああ」


天女が笑う。


「朱雀様、喜ばれます」


「さっきずっと食べたいって言ってたんですよ」


「そうでしたか」


「お願いします」


「分かりました」


天女が二つの包みを受け取る。


少し離れた厨房。


ゴンさんは。


当然。


見ていない。


見えていない。


ただ皿を拭いている。


(よし)


心の中だけで、小さく安心した。


何とかごまかせた。


朱雀の分を作ったことも。


天女へ渡すことを知っていることも。


全部。


知らないまま。


ということになった。


◇


「ゴンさん」


咲子の声。


ゴンさんの手が止まる。


「何だよ」


咲子がじっと見ている。


「……二つ作ったんですよね」


「作ったな」


「いつも一つなのに」


「今日は二つだったんだよ」


「何でですか?」


「だから朝飯と昼飯だ!」


「美緒、さっき普通にまかない食べてましたよ」


「知ってるよ!」


言った。


一瞬。


静かになった。


咲子が眉を上げる。


「……知ってたんですか?」


「……」


ゴンさんの顔が固まる。


咲子は少し笑った。


「へえ」


「何だよ!」


「別に」


「何だ、その顔!」


「何でもないですよ」


「仕事しろ!」


「してます!」


ゴンさんは厨房へ戻った。


咲子はまだ少し笑っている。


(危ねえ……)


今日だけで。


何回危なかったか分からない。


◇


その頃。


朱雀のところ。


天女が包みを差し出していた。


「朱雀様」


「なに?」


「こちらを」


朱雀が包みを見る。


「……これ!」


「ゴンさんのお店のお料理です」


朱雀の目が輝いた。


「ほんと!?」


「はい」


「美緒が?」


「持たせてくださいました」


「やったー!」


朱雀は早速、包みを開く。


「いい匂い!」


隣では、いつもの執事役が見ていた。


「朱雀様」


「なに?」


「まずは落ち着いてお召し上がりください」


「分かってるわよ!」


一口。


朱雀の目がさらに大きくなる。


「おいしい!」


「でしょう?」


天女が笑う。


「ほんとにおいしい!」


朱雀は夢中で食べ始めた。


「また食べたい!」


執事役が即座に言う。


「毎回お願いしてはなりません」


「なんで?」


「ゴン殿のお店でございます」


「じゃあ、お金払えばいい?」


執事役が少し考える。


「……その方がまだ筋は通ります」


「じゃあそうする!」


朱雀はすっかりその気だった。


天女が苦笑する。


「まずは、今日の分を召し上がってください」


「はーい!」


朱雀はまた一口。


「おいしい!」


その声は。


しばらく止まりそうになかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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