第5話「忘れられない妖怪」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、最初の当たりが忘れ物小僧だったら」
第5話「忘れられない妖怪」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
それから。
忘れ物小僧は、少しだけ慎重になった。
「これ、触っていいですか?」
「ダメ!」
「これは?」
「それもダメ!」
「じゃあ、これは?」
「何それ?」
「テレビのリモコンです」
「絶対ダメ! お母さん怒る!」
忘れ物小僧が首を傾げる。
「便利だと思うんですけど」
「なくしたら困るものはダメ!」
「なくなるわけではないですよ?」
「忘れちゃったら同じでしょ!」
「なるほど」
少し離れたところで聞いていたぬらりひょんが、感心したように頷いた。
「ほう。少しは学んだようじゃな」
「ぼくが?」
則人が自分を指さす。
「二人ともじゃ」
「ぼくも!?」
「お前が一番じゃ」
「えー!」
忘れ物小僧と則人が顔を見合わせる。
「ぼくたち、そんなに危なかった?」
「かなりな」
即答だった。
「忘れ物小僧」
「はい」
「お前もじゃ。何でもかんでも触るでない」
「はい」
「則人」
「はい」
「面白そうだからという理由で、何でも試すでない」
「…………はい」
「今の間はなんじゃ」
「ちゃんと考えてた!」
「何をじゃ!」
忘れ物小僧が、くすっと笑った。
◇
しばらくして。
則人は部屋の隅に置かれた、大きなKIDのバッグを見つめていた。
「じゃあ、これは?」
忘れ物小僧もバッグを見る。
「KIDのバッグですね」
「これなら、みんなから忘れられてた方が便利かも」
「前に誰かぶつかってましたよ」
「今度はちゃんと持ってる!」
則人はバッグの持ち手をぎゅっと握った。
「置きっぱなしにしない!」
「なるほど」
「持ってれば、誰かがぶつかりそうになっても避けられるし」
「それなら前より安全ですね」
ぬらりひょんが横から口を挟む。
「人の邪魔になるところへ置きっぱなしにせんことじゃ」
「分かってるって!」
「本当に分かっとるのか?」
「分かってる!」
前にも似たようなやり取りをした気がする。
だが今回は、則人もちゃんと考えていた。
KIDの着ぐるみが入ったバッグは大きい。
児童館へ持っていけば、どうしても目立つ。
かといって。
どこかへ置いてくるわけにもいかない。
なら。
バッグそのものを消すのではなく。
周囲の人が、気に留めにくくなるだけなら。
「これ、いい使い方じゃない?」
忘れ物小僧は少し考えてから頷いた。
「いいと思います」
「じゃあ、お願い!」
「はい」
忘れ物小僧がバッグへ手を置く。
ぺた。
見た目は。
何も変わらない。
大きさも。
重さも。
そこに存在していることも。
何ひとつ変わっていない。
「これで?」
「忘れられやすくなりました」
「おお……!」
則人がバッグを持ち上げる。
「これなら児童館でも目立たない!」
「便利ですね」
「変身する時も困らない!」
「着替えですよね?」
「変身!」
「着替えです」
「変身!」
「着替え」
「ぬらりひょん!」
則人が助けを求める。
ぬらりひょんは即座に顔をそらした。
「わしを巻き込むな」
「どっちだと思う?」
「知らん」
「変身だよね?」
「自分で着ぐるみを着とるじゃろうが」
「でも変身!」
「着替えですね」
「二人ともひどい!」
忘れ物小僧が笑った。
則人も。
少し遅れて笑った。
◇
その日の帰り道。
大きなKIDのバッグを持った則人が歩いていると。
向こうから、さとるがやってきた。
「よっ」
「よっ」
二人は軽く手を上げる。
それだけだった。
前よりは話す。
顔を合わせれば挨拶もする。
でも。
まだ毎日一緒に帰るほどの仲ではない。
二人は、そのまますれ違った。
一歩。
二歩。
三歩。
すると。
「ねえ」
さとるが立ち止まった。
則人も振り返る。
「なに?」
「この前の妖怪」
「忘れ物小僧?」
「うん」
さとるが、則人の周りを見る。
「まだいる?」
則人の隣で。
忘れ物小僧が目を丸くした。
「いるよ」
「そこ?」
「そこ」
則人が隣を指さす。
さとるは目を細めた。
「…………」
じっと見る。
何もいない。
ように見える。
それでも。
前とは違った。
ぼんやりと。
本当に、ぼんやりと。
何かがいる。
小さな影。
前に見た時よりも。
ほんの少しだけ輪郭がはっきりしている。
「…………」
さとるが一歩近づいた。
「どう?」
則人が聞く。
「前より……」
「うん!」
「分かる気がする」
「ほんと!?」
則人が嬉しそうに声を上げる。
忘れ物小僧は自分を指さした。
「ぼくが見えてるんですか?」
さとるは反応しない。
則人が答える。
「声はまだ聞こえてないみたい」
「そうですか……」
忘れ物小僧は少し残念そうにする。
すると。
さとるが言った。
「この前」
「ん?」
「絵のこと」
則人が黙る。
さとるは。
ぼんやりと見える小さな影へ顔を向けた。
「ありがと」
「…………」
忘れ物小僧が固まった。
自分へ向けられた言葉だと気づくまで。
少し時間がかかった。
やがて。
忘れ物小僧が、小さく笑う。
「どういたしまして」
さとるが、わずかに眉を動かした。
「……今、何か言った?」
「えっ?」
則人が身を乗り出す。
「聞こえた!?」
「分かんない」
「えー!」
「なんか……聞こえた気がしただけ」
則人は忘れ物小僧を見る。
「『どういたしまして』だって」
「そっか」
さとるは。
ぼんやりした影をもう一度見る。
そして。
少しだけ笑った。
「じゃあね」
「うん。またね」
二人は、今度こそ反対方向へ歩き始めた。
◇
忘れ物小僧は。
しばらく、さとるの背中を見つめていた。
「どうしたの?」
則人が聞く。
「ぼく」
「うん」
「忘れ物小僧なのに」
「うん?」
忘れ物小僧は。
遠ざかっていくさとるを見る。
「忘れられなかったみたいです」
則人は少し考えてから。
笑った。
「よかったじゃん」
「…………」
忘れ物小僧も。
小さく笑う。
「はい」
二人は歩き出した。
則人の手には、大きなKIDのバッグ。
道ですれ違う人たちは。
それを一度見ても。
すぐに気にしなくなる。
けれど。
則人は忘れない。
バッグがそこにあることを。
忘れ物小僧が隣にいることを。
そして。
見てもらえないこと。
気づいてもらえないこと。
忘れられてしまうことが。
思っていたより、ずっと寂しいことも。
「ねえ、忘れ物小僧」
「はい?」
「これから触る時は、ちゃんと一緒に考えようね」
「何をです?」
「忘れられても困らないものかどうか!」
「はい」
「分かんなかったら、ぬらりひょんに聞こう!」
「結局そこなんですね」
「だって詳しいもん!」
後ろから。
ぬらりひょんの声が飛んできた。
「最初から自分で考えんか!」
「考えてるよー!」
「なら、わしに丸投げするでない!」
忘れ物小僧が笑う。
則人も笑った。
忘れ物小僧は。
人から何かを忘れられやすくする妖怪だった。
けれど。
少なくとも今日。
一人の少年は。
その小さな妖怪のことを覚えていた。
そして。
もう一人の少年も。
まだぼんやりとしか見えないその姿を。
少しずつ。
覚え始めていた。
――Another Story 完
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




