第4話「忘れられた絵」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、最初の当たりが忘れ物小僧だったら」
第4話「忘れられた絵」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
数日後。
児童館で。
さとるは、一人で絵を描いていた。
机の上には。
色鉛筆。
消しゴム。
そして。
一枚の画用紙。
「…………」
さとるは何度も画用紙と見本の写真を見比べながら。
細い線を重ねていく。
少し離れた場所では。
則人がほかの子どもたちと遊んでいた。
さとると則人は。
前より話すようにはなった。
廊下ですれ違えば。
「よっ」
「……よっ」
くらいの挨拶はする。
でも。
毎日一緒に遊ぶような友達になったわけではない。
だから今日も。
さとるは一人で絵を描いていた。
◇
「…………できた」
さとるが鉛筆を置いた。
画用紙の中にいるのは。
一匹のセミ。
大きなスピーカーなんてついていない。
誰かを驚かせるほど大きな声も出さない。
木の幹にとまって。
夏の日差しの中で鳴いている。
普通のセミだった。
「…………」
さとるは少しだけ満足そうに絵を見る。
特に。
羽。
細い線を何本も重ねて。
透けて見えるように描いた。
ここが一番大変だった。
だから。
誰かに見てほしかった。
さとるは絵を持って立ち上がった。
「ねえ」
児童館の職員のところへ行く。
「うん?」
職員が振り返る。
「これ」
さとるが絵を差し出した。
「あ、絵描いてたんだね」
「うん」
職員が画用紙へ目を向ける。
「…………」
さとるは待つ。
何て言ってくれるだろう。
羽に気づくかな。
すると。
「あれ?」
職員が首を傾げた。
「…………?」
「私、何しようとしてたんだっけ」
さとるの顔が止まる。
「……絵」
「え?」
「ぼくの絵」
「ああ、そうだった」
職員がもう一度、画用紙を見る。
「…………」
けれど。
「あ、ごめんね、さとる。あとで見せてね」
「え?」
別のところから声が飛んできた。
「せんせーい!」
「はいはい、今行くよ」
職員は、そのまま歩いていった。
「…………」
さとるは。
持ち上げていた絵を。
ゆっくり下ろした。
◇
少しして。
さとるは、近くにいた子へ声をかけた。
「ねえ」
「ん?」
「これ――」
絵を見せる。
「あ、セミ?」
「うん」
「へえ」
その子は、一度は画用紙を見る。
さとるが少しだけ期待する。
「羽のところ――」
「あ!」
その子が突然、別の方を向いた。
「さっきの続きやろう!」
友達のところへ行こうとして。
ふと止まる。
「……あれ?」
さとるを見る。
「ごめん。何だった?」
「…………」
さとるは。
何も言わずに絵を胸へ抱えた。
「もういい」
「そう?」
「うん」
その子は走っていった。
「…………」
残されたさとるは。
画用紙を見る。
せっかく描いたのに。
見てほしいのに。
見てもらえない。
一度は見てくれても。
すぐに忘れられる。
「…………」
胸の奥に。
嫌な感じが広がる。
少し前にも。
こんな気持ちになった。
話を聞いてほしいのに。
途中で終わってしまう。
「あとでね」と言われて。
その「あと」がなかなか来なくて。
だんだん。
自分の話なんて。
誰も聞きたくないんじゃないかと思ってしまった。
「…………」
さとるは絵を伏せようとした。
その時。
「さとる君」
声がした。
顔を上げる。
則人が立っていた。
「どうしたの?」
「別に」
「その絵なに?」
「…………」
「見せて」
「いい」
「なんで?」
「いいから」
「でも見たい」
「…………」
さとるが則人を見る。
則人は。
本当に見たそうな顔をしていた。
「…………」
少し迷って。
さとるは画用紙を差し出した。
則人が受け取る。
「おお!」
「…………」
「セミだ!」
「うん」
「さとる君が描いたの?」
「そう」
則人は。
絵を近くで見た。
少し離して見た。
また近づける。
「うまいじゃん!」
「…………ほんと?」
「うん!」
則人が羽を指さす。
「ここすごい!」
「羽?」
「うん! なんか、本物みたい!」
「…………」
さとるの目が少し大きくなる。
「そこ」
「うん?」
「頑張った」
「やっぱり!」
則人が嬉しそうに笑う。
「細い線いっぱいあるもん!」
「うん」
さとるの口元が。
ほんの少しだけ緩んだ。
「ありがと」
「うん!」
その時だった。
◇
則人の後ろで。
忘れ物小僧が青ざめていた。
「…………あ」
「ん?」
則人が振り返る。
「どうしたの?」
「たぶん……」
忘れ物小僧が。
おそるおそる絵を指さした。
「ぼくです」
「何が?」
「さっき」
忘れ物小僧が、少し離れた机を見る。
「そこに触ったんです」
「うん」
「その時に」
「うん?」
「たぶん、その絵にも触りました」
「…………」
則人が絵を見る。
忘れ物小僧を見る。
もう一度。
絵を見る。
「じゃあ」
則人が目を丸くする。
「みんながこの絵を忘れちゃうのって……」
忘れ物小僧が。
しょんぼりとうつむいた。
「ぼくのせいです」
「…………」
さとるは二人の様子を見ている。
もちろん。
忘れ物小僧の姿は、まだはっきりとは見えていない。
則人が。
誰もいないところと話しているように見える。
「則人?」
「ちょっと待ってね!」
則人は忘れ物小僧へ向き直った。
「戻せる?」
「はい」
「じゃあ戻して」
「いいんですか?」
「うん」
忘れ物小僧が。
そっと画用紙へ触れた。
ふわっ。
目には見えない何かが。
絵からほどけていく。
「これで大丈夫です」
「ほんと?」
「たぶん」
「たぶん!?」
「大丈夫です!」
「今、たぶんって言ったじゃん!」
「大丈夫です!」
忘れ物小僧が強く言い切った。
◇
しばらくして。
「さとる」
声がした。
さとるが振り返る。
さっきの職員が戻ってきていた。
「あ」
「その絵」
職員が笑う。
「まだ、ちゃんと見せてもらってなかったね」
「…………」
さとるは。
少しだけ驚いた顔をした。
「見る?」
「もちろん」
職員が絵を受け取る。
今度は。
すぐに目をそらさない。
じっくり見る。
「すごいね」
「…………」
「セミ、よく描けてる」
「ほんと?」
「うん」
そして。
羽のところで目を止めた。
「ここ、細かく描いたんだね」
「……うん」
「頑張った?」
「うん」
さとるが少しだけ胸を張る。
「そこ、一番頑張った」
「やっぱり」
職員は笑った。
「ちゃんと見て描いたんだね」
「うん」
「すごくいいと思うよ」
「…………」
さとるが。
照れくさそうに笑った。
◇
少し離れたところで。
忘れ物小僧は、その様子をじっと見ていた。
「どうしたの?」
則人が聞く。
「…………」
忘れ物小僧は自分の手を見る。
「ぼくの力って」
「うん」
「人を困らせることもあるんですね」
「あるね」
則人はあっさり答えた。
忘れ物小僧が則人を見る。
「すぐ言いますね」
「だって、さっき困ってたじゃん」
「そうですけど……」
「でも」
則人は。
自分の大きなバッグを見る。
「便利なこともあるよね」
「あります」
「じゃあいいじゃん」
「え?」
忘れ物小僧が首を傾げる。
「便利な時に使って」
「はい」
「困る時は使わなければいいんだよ」
「…………」
忘れ物小僧は少し考える。
「どうやって見分けるんです?」
「え?」
「便利かどうか」
「…………」
今度は則人が止まった。
「使ってみないと分からないこともありますよ」
「…………」
「今日みたいに」
「…………」
則人は腕を組んだ。
少し考える。
そして。
「じゃあ」
「はい」
「一緒に考えよう!」
「…………え?」
「使う前に!」
則人が笑う。
「これ大丈夫かなーって」
忘れ物小僧は。
少し驚いた顔をした。
それから。
小さく笑う。
「はい」
「分かんなかったら、ぬらりひょんに聞けばいいし!」
「最後は人任せですか?」
「だって詳しいもん!」
その時。
少し離れた場所から。
さとるが二人の方を見ていた。
◇
「……則人」
「なに?」
「また妖怪?」
「うん!」
則人が普通に答える。
さとるは。
則人の隣を見る。
「そこにいるの?」
「いるよ」
「…………」
さとるが目を細める。
何もいない。
ように見える。
でも。
「…………」
じっと。
じっと見る。
すると。
なんとなく。
本当に。
なんとなくだけれど。
小さな影があるような気がした。
「…………あ」
「見えた!?」
則人が嬉しそうに聞く。
「分かんない」
「えー!」
「でも」
さとるは、もう一度目を凝らす。
「何かいる……かも」
忘れ物小僧が自分を指さした。
「ぼくですか?」
「声はまだ聞こえてないみたい」
則人が言う。
忘れ物小僧が。
少し残念そうな顔をした。
さとるは。
ぼんやりした小さな影を見つめる。
「ねえ」
「なに?」
「さっきの絵」
「うん」
「戻してくれたの?」
則人が忘れ物小僧を見る。
忘れ物小僧は頷いた。
「そうだよ」
則人が答える。
「…………」
さとるは。
小さな影に向かって。
少しだけ頭を下げた。
「……ありがと」
「…………」
忘れ物小僧が目を丸くする。
まさか。
自分に言われるとは思っていなかったらしい。
しばらくして。
少し照れくさそうに笑った。
「どういたしまして」
「…………」
さとるが、少し首を傾げる。
「今……」
「え?」
「何か聞こえたような……」
「ほんと!?」
則人が身を乗り出す。
「分かんない」
「えー!」
「でも」
さとるは。
ぼんやりとした影を見る。
そして。
なぜか。
少し笑った。
忘れ物小僧も。
それを見て。
もう一度、笑った。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




