第3話「宿題を忘れさせろ!」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、最初の当たりが忘れ物小僧だったら」
第3話「宿題を忘れさせろ!」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
その日の夜。
則人は机の前に座っていた。
目の前には。
今日出された宿題。
そして、その横には――。
忘れ物小僧。
「これ」
則人が宿題のノートを指さした。
「はい」
「お母さんから忘れられる?」
「できます」
「先生からも?」
「できます」
「すごい!」
則人の目が輝く。
忘れ物小僧は、当たり前のように頷いた。
「触れば、忘れられやすくできます」
「じゃあ――」
則人が身を乗り出す。
「これ、忘れてもらったら」
「はい」
「宿題やらなくても――」
「則人」
背後から声がした。
「…………」
則人の動きが止まる。
忘れ物小僧も止まる。
ゆっくり。
振り返る。
そこには。
ぬらりひょんが立っていた。
「何をしようとしておる」
「な、何も」
「その顔で何もしておらんは無理があるぞ」
「ほんとに何もしてないよ」
「では、そのノートと忘れ物小僧は何じゃ」
「…………」
則人がノートを見る。
忘れ物小僧を見る。
もう一度、ぬらりひょんを見る。
「宿題を」
「うむ」
「ちょっとだけ」
「うむ」
「忘れてもらおうかなーって」
「却下じゃ」
「えー!」
「えー、ではない!」
忘れ物小僧が首を傾げる。
「でも、できますよ」
「できるかどうかの話ではない!」
「じゃあ何の話?」
則人が聞く。
「やるべきことから逃げるために、妖怪の力を使うなという話じゃ!」
「でも先生が忘れたら怒られないよ?」
「だから、そういう問題では――」
ぬらりひょんが言いかけて。
止まった。
忘れ物小僧の手が。
すでに宿題のノートに触れていた。
「…………」
「…………」
「…………」
三人の間に。
嫌な沈黙が流れる。
ぬらりひょんが額を押さえた。
「遅かったか……」
忘れ物小僧が申し訳なさそうに言う。
「触っちゃいました」
「なぜ先に触る!」
「話してる間に」
「話を聞け!」
則人はノートを見る。
いつもと何も変わらない。
「これで忘れるの?」
「たぶん」
「へえー」
「感心するな!」
翌日。
学校。
「それでは、宿題を出してください」
先生の声に。
則人の肩が、ぴくっと動いた。
「…………」
昨日の宿題。
ちゃんと机の中に入っている。
実は。
ぬらりひょんに怒られたあと。
結局、則人は宿題をやった。
全部。
最後まで。
だから。
出せないわけではない。
問題は。
先生が。
本当に忘れるかどうかだった。
「…………」
則人は恐る恐るノートを机の上に置いた。
先生が一人ずつ宿題を確認していく。
前の席。
その隣。
さらに隣。
少しずつ近づいてくる。
則人はノートと先生を交互に見る。
「…………」
来た。
先生が則人の机の前へ立つ。
ノートを見る。
「…………」
一瞬。
手が伸びた。
則人が息を止める。
ところが。
「あれ?」
先生の手が止まった。
「…………」
少し首を傾げる。
そして。
そのまま。
隣の子のノートを取った。
「はい。ちゃんとやってあるね」
「…………!」
則人の目が大きくなる。
先生が離れていく。
則人は、自分のノートを見る。
「すごい……!」
小さな声で呟く。
忘れられている。
本当に。
そこにあるのに。
先生の意識から、すぐに抜けてしまう。
少しして。
先生がもう一度、則人の机の近くへ戻ってきた。
「あれ?」
今度こそ。
ノートを見た。
「あ、内田くんの宿題――」
先生が手を伸ばす。
しかし。
「…………」
また止まる。
「何しようとしてたんだっけ」
先生は少し考え。
「まあ、いいか」
そのまま離れていった。
「…………」
則人は口元を押さえる。
笑いそうだった。
放課後。
「宿題、出さなくても怒られなかった!」
則人が嬉しそうに言った。
「よかったですね」
忘れ物小僧も頷く。
「よくない!」
ぬらりひょんの声が飛んできた。
「でも怒られなかったよ?」
「そこではない!」
「じゃあ、どこ?」
ぬらりひょんは則人の持っている宿題のノートを指さした。
「お前、それをちゃんとやったんじゃろう?」
「うん」
「なら、先生に見てもらうためにやった部分もあるじゃろう」
「…………」
「間違っていたら教えてもらう」
「うん」
「頑張って書いたなら、ちゃんと見てもらう」
「うん」
「それなのに」
ぬらりひょんはノートを見る。
「誰にも気づかれん」
「…………」
則人の笑顔が、少し消える。
「先生がお前の宿題を見なければ、間違っていても教えてもらえん」
「…………」
「せっかく頑張って書いても、誰にも届かん」
「…………」
その時。
少し離れたところにいたさとるが。
ゆっくりと顔を上げた。
「それ」
則人が振り返る。
「さとる君?」
「嫌だよ」
「え?」
さとるは、則人の宿題を見る。
「頑張ってやったのに、誰も見てくれないんでしょ?」
「……うん」
「それって」
さとるは少しだけ黙った。
「頑張って話したのに、誰も聞いてくれないのと同じじゃん」
「…………」
則人は何も言えなくなった。
少し前。
さとるは。
自分の話を聞いてほしくて。
声を大きくして。
セミスピーカになった。
誰にも気づいてもらえない。
誰にも見てもらえない。
誰にも聞いてもらえない。
「…………」
則人は。
机の上のノートを見る。
最初は。
先生が忘れるのが面白かった。
怒られないのも。
すごいと思った。
でも。
今は。
少しだけ違って見えた。
「……そっか」
則人が呟く。
忘れ物小僧を見る。
「戻して」
「いいんですか?」
「うん」
「先生に怒られるかもしれませんよ」
「…………」
則人の顔が少し曇る。
「それは」
「はい」
「ちょっと嫌だけど」
「はい」
「でも」
則人はノートを抱えた。
「見てもらえない方が、もっと嫌」
忘れ物小僧は。
しばらく則人を見る。
そして。
小さく頷いた。
「分かりました」
そっと。
宿題のノートへ触れる。
ふわっ。
目には見えない何かが。
ゆっくりとほどけていった。
翌日。
「内田くん」
「はい!」
先生に呼ばれた。
則人は少し緊張しながら机の前へ行く。
「昨日の宿題なんだけど」
「…………」
やっぱり怒られるのかな。
則人は少し身構えた。
先生がノートを開く。
赤いペンで。
一か所。
丸ではない印がついていた。
「ここ、間違ってたよ」
「え?」
則人がノートを覗き込む。
「あ」
本当に。
間違えていた。
「ここは、こうするんだよ」
先生が説明する。
則人は聞きながら。
少しだけ笑った。
「やっぱり間違ってた!」
「なんで嬉しそうなの?」
「なんでもない!」
則人はノートを受け取った。
間違いを指摘された。
本当なら。
少し嫌なはずなのに。
ちゃんと見てもらえた。
ちゃんと気づいてもらえた。
それが。
なんだか。
少しだけ嬉しかった。
――つづく
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
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本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




