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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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第三話 聞いてほしかっただけ

短編 第三話 聞いてほしかっただけ


「逃げろ!」


「耳、押さえて!」


「近づくな!」


人々が次々と離れていく。


男は、その光景を見ていた。


ほんの少し前まで。


誰も自分を見ていなかった。


肩がぶつかっても。


隣を通っても。


何か呟いても。


誰も足を止めなかった。


なのに今は。


みんな、自分を見ている。


「……」


遠くからスマートフォンを向けている人もいた。


「撮ってる……」


『撮ってる……!』


腹のスピーカーから声が響く。


びりびりと空気が震えた。


撮影していた人が顔をしかめる。


「うわっ!」


「やっぱヤバいって!」


「離れろ!」


人々がさらに後ろへ下がる。


男は、その様子を見ながら。


まだ少しだけ笑っていた。


「そうだよ」


『そうだよ!!』


「俺、ここにいるんだよ」


『俺、ここにいるんだよおおおおお!!』


大音量。


周囲の人間が耳を塞ぐ。


「うるさい!」


「何なんだよ!」


「やめろ!」


その言葉を聞いて。


男の笑みが、少しだけ消えた。


「……うるさい?」


『……うるさい?』


また。


大きな声。


「だから喋るな!」


「耳痛いんだよ!」


「やめろって!」


男は自分の腹を見る。


巨大なスピーカー。


「いや……」


『いや……!』


「違うんだ」


『違うんだああああ!!』


「違わねえよ!」


「もう喋るな!」


「離れろ!」


人々が逃げていく。


男は慌てて一歩踏み出した。


「待ってくれ!」


『待ってくれえええええ!!』


轟音。


近くにいた人たちが悲鳴を上げた。


「うわあっ!」


「逃げろ!」


「来るぞ!」


「違う!」


『違うううううう!!』


さらに逃げる。


「怖がらせたいんじゃない!」


『怖がらせたいんじゃないいいいいい!!』


言えば言うほど。


人が離れていく。


男は立ち止まった。


◇


「……なんだよ」


『……なんだよ』


小さく言ったつもりだった。


それでも。


普通の人間の声とは比べものにならないほど大きい。


男は腹のスピーカーを両手で押さえた。


「止まれよ……」


『止まれよ……!』


止まらない。


「もういいから……」


『もういいからああああ!!』


人々は、もうずっと遠くにいる。


それでも全員。


男を見ていた。


ずっと欲しかったはずだった。


自分を見てほしかった。


自分の話を聞いてほしかった。


今。


確かに見られている。


でも。


誰一人として。


話を聞こうとはしていなかった。


ただ。


怖がっているだけだった。


「……違う」


男は呟いた。


今度はできるだけ。


できるだけ小さく。


「こんなのじゃない」


それでも。


『こんなのじゃない……!』


と声は響いた。


◇


男は走った。


人がいる場所から離れるために。


駅前を抜ける。


大通りを外れる。


途中。


車が急停車した。


クラクション。


男が驚いて振り返る。


「ごめん!」


『ごめん!!』


運転手がびくっとする。


「何だ!?」


「違う、俺は――」


言いかけて。


男は口を閉じた。


また声を出せば。


また誰かを驚かせる。


走る。


ただ走る。


住宅街を避ける。


人の多い道を避ける。


少しずつ。


建物が減っていった。


◇


その頃。


街では、男を撮った写真や動画が少しずつ広がり始めていた。


『なんか変なのいた』


『めちゃくちゃうるさい』


『着ぐるみ?』


『動画撮ったけど音量注意』


『撮影とかじゃないの?』


『近くにいたけど耳やばかった』


誰も。


あれが人間だったとは知らない。


誰も。


中に誰かが入っているとも思わない。


ただ。


「変なものがいた」


それだけだった。


◇


男は、川沿いまで来ていた。


人影はほとんどない。


遠くに道路。


その向こうには工場。


街の音も、ここまで来るとずいぶん小さかった。


男は立ち止まる。


息を整える。


「……ここなら」


『……ここなら』


自分の声が、川の向こうまで響く。


でも。


悲鳴は聞こえない。


誰も逃げない。


誰も耳を塞がない。


男は周囲を見る。


「誰もいない」


『誰もいない……』


その言葉だけが。


広い場所へ響いていった。


「……これなら」


少しだけ安心する。


「誰にも迷惑かけない」


『誰にも迷惑かけない……!』


男は河川敷へ腰を下ろした。


◇


しばらく。


男は黙っていた。


何も言わなければ静かだった。


風の音。


川の流れる音。


遠くを走る車。


それだけ。


男は、自分の身体を見る。


改めて見れば見るほど、おかしい。


セミのような姿。


腹の大きなスピーカー。


どう見ても人間ではない。


「……これ」


口を開きかけて。


止める。


誰もいないとはいえ。


声を出すこと自体が怖くなっていた。


男は頭へ手を伸ばした。


着ぐるみの頭部を掴む。


引っ張る。


動かない。


もう一度。


力を込める。


「……っ!」


取れない。


首の辺りを探る。


何か留め具がないか。


後ろへ手を回す。


背中。


腰。


ファスナー。


ボタン。


何もない。


「なんでだよ」


『なんでだよ!!』


突然の轟音。


男自身が肩を跳ねさせた。


近くの草むらから、鳥が一斉に飛び立つ。


男は慌てて両手で口元を押さえた。


「……」


鳥たちが遠くへ飛んでいく。


また。


静かになった。


◇


男は必死になった。


頭を引っ張る。


腕の部分を引っ張る。


腹のスピーカーの周りを探る。


何度も。


何度も。


どこかに脱ぐ場所があるはずだ。


着ぐるみなんだから。


そう思った。


でも。


何も見つからない。


どこまで触っても。


どこまで引っ張っても。


自分の身体から離れない。


「……脱げよ」


『脱げよ……!』


男は歯を食いしばる。


「脱げって!」


『脱げってえええええ!!』


声が遠くまで響く。


また鳥が飛ぶ。


男は黙った。


しばらく。


そのまま動かなかった。


◇


夕方。


空が少しずつ暗くなっていく。


男は河川敷に座ったままだった。


街へ戻ることを考える。


家へ帰りたい。


風呂に入りたい。


横になりたい。


明日は仕事もある。


でも。


この姿で戻ったら。


また大騒ぎになる。


声を出したら。


またみんなが耳を塞ぐ。


「……」


男は膝を抱えた。


見てほしかった。


自分を。


聞いてほしかった。


自分の話を。


なのに。


人のいる場所では。


何も話せない。


話せば。


みんな逃げていく。


だから。


誰もいない場所まで来た。


でも。


ここには。


聞いてくれる人そのものがいない。


「……馬鹿みたいだ」


『……馬鹿みたいだ』


声が。


誰もいない河川敷に響く。


男は顔を伏せた。


◇


夜になった。


川の向こうに、街の明かりが見える。


あそこには。


人がいる。


家がある。


話している人がいる。


食事をしている人がいる。


誰かと笑っている人がいる。


男は遠くから、その明かりを見つめた。


少し前までは。


自分もあそこにいた。


「……帰りたい」


『……帰りたい』


今度は。


少しだけ声が震えていた。


「帰りたいよ」


『帰りたいよおおおおお……!』


大きな声が夜へ響いた。


誰からも返事はない。


男は、自分の口元を両手で押さえた。


そして。


もう何も言わなかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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