第2話 ゴンさんの差し入れ
第2話 ゴンさんの差し入れ
夕方。ゴンさんの店は、今日も忙しかった。
「はいよ、刺身二つ!」
「こっちは焼き物お願い!」
「分かってる!」
ゴンさんと奥さんが店内と厨房を行き来する。咲子と美緒が働き始めてから、以前よりはずっと回りやすくなった。それでも常連の多い店だ。忙しい時間は忙しい。
そんな中、ゴンさんはふと店の端へ目を向けた。
「…………」
天女がいた。
一般の客には、その姿は見えていない。邪魔にならない場所に立ち、静かに店内を眺めている。
ゴンさんと目が合った。
「…………」
「…………」
天女は何も言わない。
そこへ咲子が料理を運んでいく。
「刺身通るよ!」
天女の目が、刺身を追った。
次は焼き物。
また目が動く。
揚げ物。
また動く。
そして美緒がデザートを運んでいくと、天女の目が今までで一番大きく動いた。
「……おい」
ゴンさんが小声で呼ぶ。
「はい?」
「食いたいのか?」
「え?」
「さっきから料理ばっか見てるだろ」
「いえ、そのような……」
そこへ別の料理が通った。
天女の目が、また動く。
「食いたいんだな」
「…………」
少し間があって。
「……少しだけ」
「素直でよろしい」
ゴンさんが苦笑した。
ただし、普通に料理を出すわけにはいかない。一般の客には天女が見えていない。誰もいない場所へ一人前の料理を置けば、さすがに不自然だ。
ゴンさんは厨房へ戻ると、小さな皿を一枚出した。刺身を少し。焼き物を少し。揚げ物も少し。最後に、小さな甘味まで乗せる。
奥さんが気づいた。
「それ何?」
「ん?」
「その皿」
「ちょっとな」
「ちょっとって何よ」
「まあ、いいだろ」
奥さんは怪しそうに見たものの、店が忙しい。
「変なことしないでよ」
「しねえよ」
ゴンさんは皿を持ち、店の端へ向かった。他の客から見えにくい場所へ、さりげなく置く。
「ほら」
天女が驚いた。
「よろしいのですか?」
「余りもんだ」
どう見ても、わざわざ少しずつ盛ったものだった。天女も、それくらいは分かる。
けれど何も言わず、嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます」
「冷める前に食え」
「はい」
天女が、まず焼き物を口へ運ぶ。
「…………!」
顔が一気に明るくなった。
「うまいか?」
「はい!」
「そうか」
ゴンさんは少しだけ満足そうに笑った。
天女は次に刺身、揚げ物と、一つずつ大事そうに味わっていく。
「下界のお料理は、本当にいろいろあるのですね」
「上にはねえのか?」
「似たものはございますが、やはり違います」
「そういうもんか」
「はい」
その時だった。
「わしにはないのか?」
ゴンさんが横を見る。
いつの間に来たのか。
ぬらりひょんが、天女の隣でお茶を飲んでいた。
「いつ来たんだよ」
「少し前からじゃ」
「声かけろよ」
「忙しそうだったからの」
「で?」
「わしにはないのか?」
「お前、いつも勝手に茶飲んでるだろ」
「茶と飯は別じゃ」
「知らねえよ」
「天女にはあるのにか?」
「天女はずっと料理見てたんだよ」
「わしも見ればよかったかの」
「そういう問題じゃねえ」
天女が思わず笑った。
「何を笑っておる」
「申し訳ありません」
「謝る必要ねえよ」
ゴンさんはぬらりひょんを見る。
「お前は今度な」
「今度か」
「期待すんな」
「期待しておこう」
「聞いてねえな、こいつ」
ゴンさんは呆れながら仕事へ戻っていった。
天女は、小さな皿に残った最後の甘味を口へ運ぶ。
「……美味しい」
ぬらりひょんは、その隣でいつも通り茶をすすっていた。
その日の後。
天女は上へ戻った。
「朱雀様」
「おお、戻ったか」
「はい」
朱雀はすぐに天女を見る。
「今日は何か面白いものはあったか?」
「ございました」
「ほう!」
天女は嬉しそうに話し始めた。
「ゴンさんのお店で、お料理をいただきました」
「何?」
朱雀の表情が変わる。
「お刺身と、焼いたものと、揚げたものと……最後に甘いものまで」
「…………」
「とても美味しかったです」
「…………」
「朱雀様?」
「わらわの分は?」
「ありません」
「なぜじゃ!」
「朱雀様はいらっしゃいませんでしたので」
「天女だけずるいぞ!」
「私がお願いしたわけではありませんよ」
「では、わらわも行けば――」
そこまで言って、朱雀が止まった。
少し前、勝手に下界へ降りて、黄龍たちから散々叱られたばかりだった。
「…………」
天女も思い出したらしい。
「朱雀様?」
「なんでもない」
「はい」
朱雀は少し考えた。
「次に行った時、伝えておけ」
「何をです?」
「次は、わらわの分も頼むとな」
「分かりました」
数日後。
天女は再びゴンさんの店へやって来た。
ゴンさんが、すぐに気づく。
「今日は何だ?」
「朱雀様から伝言がございます」
「嫌な予感しかしねえな」
「『次は、わらわの分も頼む』と」
「…………」
ゴンさんは黙った。
「自分で来い」
「それは規則で……」
「ああ」
ゴンさんが頭をかいた。
「そうだったな」
「はい」
「じゃあ今度、持って帰れるもんでも用意してやるか」
天女の顔が明るくなった。
「ありがとうございます」
「ただし」
「はい?」
「あんまり甘やかすと、また下界に来そうだからな」
「…………」
天女は否定できなかった。
「朱雀様なら……来るかもしれません」
「だよな」
ゴンさんは苦笑した。
「絶対、ぬらりひょんには黙っとけよ」
「なぜです?」
「黄龍まで話が行ったら、俺まで何か言われそうだからだよ」
その時。
「何を黙っておくのじゃ?」
「…………」
ゴンさんが、ゆっくり振り返る。
店の端では。
ぬらりひょんが、今日も当たり前のようにお茶を飲んでいた。
「……いつからいた?」
「さっきからじゃ」
「だから声かけろって言ってんだろ!」
天女の笑い声が、小さく店の中に響いた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




