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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
アリア編1

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第二話 強い私

第三章 ANOTHER

第二話 強い私


 翌日。


 咲子は、再び道場の前に立っていた。


「…………」


 見上げる。


 昨日。


 自分が天井をぶち抜いて入った道場。


 あのときは、とにかくもう一度組手がしたかった。


 自分がどこまで強くなったのか。


 確かめたかった。


 そして。


 勝った。


 ずっと勝てなかった相手に。


 あまりにも簡単に。


「…………」


 咲子は、自分の拳を見る。


 昨日と変わらない。


 大きな拳。


 強い身体。


 結局。


 この力を手放さなかった。


「……もう少しだけ」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 この身体で。


 もう少しだけ。


 確かめたい。


 咲子は道場へ入った。


     ◇


「…………」


 当然。


 道場にいた全員の視線が、一斉に咲子へ集まった。


「咲子……?」


「おはようございます」


 咲子は、いつも通りに頭を下げた。


 ただし。


 その姿は昨日、突然天井をぶち抜いて現れた怪人のままだ。


「まだ……そのままなのか?」


「うん」


「戻れるんじゃなかったのか?」


「戻れるわ」


「じゃあ、どうして……」


 咲子は少し迷った。


 それから。


 自分の腕を見る。


「もう少し、この身体で空手をやってみたいの」


「…………」


 道場が静かになる。


 誰も、すぐには答えなかった。


 咲子の胸に、小さな不安が生まれる。


 昨日。


 あれだけみんなを怖がらせた。


 当然だ。


 もしかしたら。


 もう組手をしてもらえないかもしれない。


 そのとき。


「やるか?」


「え?」


 声がした。


 あの男子だった。


「組手」


「…………」


「やりたいんだろ?」


 咲子の表情が明るくなる。


「うん!」


     ◇


 二人が向かい合う。


 礼。


 そして。


 構える。


「…………」


 昨日と同じ相手。


 ずっと追いかけてきた相手。


「始め!」


 男子が踏み込んだ。


 速い。


 ――はずだった。


「…………」


 咲子には、遅く見えた。


 拳が来る。


 見える。


 どこを狙っているのか。


 身体のどこに力が入っているのか。


 次にどう動こうとしているのか。


 分かる。


 ほんの少し。


 身体をずらした。


 男子の拳が、頬の横を通り抜ける。


「なっ――」


 その瞬間。


 咲子は踏み込んだ。


 一歩。


 たったそれだけで。


 もう相手の懐にいる。


「……!」


 拳を放つ。


 そして。


 男子の顔の直前で止めた。


 寸止め。


「…………」


「…………」


「そこまで!」


 終わった。


 あまりにも。


 簡単に。


「…………」


 咲子は自分の拳を見る。


 昨日より。


 少しだけ。


 この身体の動かし方が分かってきた。


「もう一回」


「え?」


 咲子が顔を上げる。


「もう一回、お願い」


 男子は少し驚いたあと。


「分かった」


 そう言って、もう一度構えた。


     ◇


 二回目。


「始め!」


 今度は男子も警戒している。


 すぐには踏み込んでこない。


 間合いを取る。


 こちらの出方を見る。


「…………」


 咲子は。


 少し楽しくなってきた。


 いつもなら。


 自分が考えていたことだった。


 どうやって入ろう。


 どうすれば、あの長い腕を越えられる。


 どの瞬間なら届く。


 どうすれば。


 どうすれば。


 それを今は。


 相手の方が考えている。


「…………」


 男子が動いた。


 前へ出ると見せかける。


 フェイント。


 直後。


 逆から拳が来た。


「!」


 咲子は受ける。


 衝撃。


 でも。


 痛くない。


 そのまま相手の腕を払う。


「うわっ!」


 男子の身体が崩れた。


 咲子が踏み込む。


 また。


 拳が止まる。


 寸止め。


「そこまで!」


 二回目も。


 咲子の勝ちだった。


「…………」


 胸の奥が、少し高鳴る。


 強い。


 本当に。


 自分は強い。


     ◇


「もう一回!」


「まだやるのか?」


「うん」


 三回目。


 今度は。


 男子も少し笑った。


「分かったよ」


 礼。


 構える。


「始め!」


 男子が動く。


 咲子も動く。


 拳。


 蹴り。


 かわす。


 受ける。


 踏み込む。


 離れる。


 それでも。


 やっぱり。


 届かない。


 男子の攻撃が。


 咲子にではなく。


 咲子がさっきまでいた場所へ届く。


「……っ!」


 咲子の蹴りが。


 男子の横で止まる。


「そこまで!」


 三回目も。


 勝った。


「…………」


 咲子は、ほとんど息も乱していない。


 男子は肩で息をしていた。


「強すぎるだろ……」


 誰かが言った。


「昨日より慣れてないか?」


「全然、相手にならないな」


「…………」


 咲子は、その言葉を聞く。


 誰も。


「女の子だから」


 とは言わない。


 誰も。


「仕方ない」


 とは言わない。


「…………」


 口元が、少し緩んだ。


 嬉しい。


 こんなふうに言われたことはなかった。


「強すぎる」


「相手にならない」


 その言葉が。


 今は。


 自分へ向けられている。


     ◇


 そのあとも。


 咲子は怪人の身体で稽古を続けた。


 突き。


「……速い」


 蹴り。


「そんなに上がるのか?」


 踏み込み。


「一歩でそこまで?」


「…………」


 できる。


 何でも。


 今まで苦労していた動きが。


 簡単にできる。


 身体が軽い。


 力がある。


 速い。


 遠くまで届く。


 以前なら。


 もっと腰を入れなければならなかった。


 もっと深く踏み込まなければならなかった。


 何度も失敗して。


 何度もやり直して。


 ようやく身体に覚えさせてきたこと。


 それが。


 今は。


 思っただけで。


 身体が応えてくれる。


「…………」


 咲子は笑っていた。


 楽しい。


 昨日。


 勝ったときは。


 少しも嬉しくなかった。


 でも。


 今は、少し違う。


 勝つことではない。


 今までできなかったことが。


 できる。


 届かなかったところに。


 届く。


 それが。


 楽しかった。


     ◇


 稽古が終わる頃。


「咲子」


「なに?」


 あの男子が声をかけてきた。


「もう一回やるか?」


「…………」


 咲子は。


 わずかに動きを止めた。


「え?」


「さっき三回やったけど」


 男子が笑う。


「今度はもう少し考える」


「…………」


 いつもなら。


 すぐに答えていた。


「やる」


 負けたら。


 もう一回。


 また負けたら。


 また、もう一回。


 それが。


 咲子だった。


「…………」


 でも。


 今は。


 結果が分かっている。


 男子がどう攻めても。


 見える。


 受けられる。


 かわすこともできる。


 自分が踏み込めば。


 簡単に届く。


 そして。


 最後には。


 自分が勝つ。


「…………」


「咲子?」


「あ……」


 咲子は我に返った。


「どうする?」


「…………」


 男子が待っている。


 咲子は。


 自分の巨大な拳を見た。


 勝てる。


 きっと。


 また。


「……今日は」


「ん?」


「もういいかな」


「そうか?」


「うん」


「分かった」


 男子は、それ以上何も言わなかった。


 特に気にした様子もなく。


 その場を離れていく。


「…………」


 咲子だけが。


 そこに残った。


 少し前まで。


 あれほど。


 もう一回。


 もう一回。


 と願っていた相手なのに。


 勝てると分かっただけで。


 急に。


 やりたいと思えなくなった。


「…………」


 咲子は自分の拳を見つめる。


 強い。


 誰よりも。


 少なくとも。


 この道場では。


 そう思えるほどに。


「…………」


 それなのに。


 胸の奥に。


 ほんの小さな違和感が生まれていた。


 昨日とは違う。


 昨日は。


 勝ったのに嬉しくなかった。


 今日は。


 強くなった自分が楽しかった。


 できなかったことができるのも。


 周りから「強い」と言われるのも。


 嬉しかった。


 なのに。


 もう一度戦いたいとは思えない。


 勝てる。


 絶対に。


 そのことが。


 どうしてなのか。


 少しだけ。


 つまらなかった。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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