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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
アリア編1

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まだ、この力を

第三章 ANOTHER

第一話 まだ、この力を


 道場を出た咲子と則人は、人目のない場所まで歩いてきた。


 咲子は、自分の両腕へ視線を落とす。


 人間だった頃とは比べものにならない、大きな腕。


 蜂を思わせる力強い形。


 背中には蝶の羽。


 そして顔は、蟻を思わせる異形の姿へと変わっている。


 ほんの少し前まで。


 自分がこんな姿になるなど、想像したことすらなかった。


「ここなら、だいじょうぶかな」


 則人が辺りを見回した。


「何が?」


「へんしん」


「ああ……」


 道場では、ゴンさんとの約束があるから変身できない。


 だから二人で、人目のない場所まで出てきたのだ。


 則人が咲子の前へ立つ。


「じゃあ、いくよ」


「う、うん」


「配信開始!」


 元気よく決め台詞を口にした――直後。


「ちょっと待ってね」


「……え?」


 則人が、何もない場所へ手を伸ばした。


 そして。


 そこから突然、着ぐるみを取り出した。


「ちょ、ちょっと待って!」


「なに?」


「その着ぐるみ、どこから出てきたの!?」


「袋から」


「袋?」


「うん」


「……袋???」


 咲子には何も見えない。


 けれど則人には、そこに袋があるらしい。


 さらに。


 どこからともなく、お着替えを応援する声まで聞こえてくる。


 そこから先は――。


 咲子にとって、とても、とても長い時間だった。


 則人はいたって真面目に。


 いつも通り、一つずつ着ぐるみを身につけていく。


 待って。


 待って。


 さらに待って。


「…………」


 途中から咲子は、自分がいったい何をしているのか分からなくなってきた。


 怪人になってしまった自分を元に戻してもらうために。


 九歳の男の子が着ぐるみに着替えるところを、延々と見守っている。


「私……一体、何やってるんだろ……」


 そして、ようやく。


「お待たせ〜!」


「本当に待ったわよ!」


 思わず即答してしまった。


「え?」


「なんでもない!」


 咲子は小さく息を吐く。


 これで。


 本当に自分を元に戻せるのだろうか。


 今のところ咲子の目には、則人が着ぐるみに着替えただけにしか見えない。


     ◇


「ほう」


「!」


 突然聞こえた声に、咲子が振り返った。


「誰!?」


 そこには。


 老人のような姿をした者が立っていた。


「…………」


 人間ではない。


 それくらいは、もう咲子にも分かった。


「ぬらりひょんだよ」


 則人が当たり前のように言う。


「ぬらりひょん!?」


「うん」


「本当にいるの!?」


「いるよ?」


「そういう意味じゃなくて!」


 狐に続いて。


 今度は、ぬらりひょん。


 少し前まで、妖怪なんて物語の中だけの存在だと思っていた。


 それが今日は。


 次から次へと目の前へ現れる。


「…………」


 咲子は額に手を当てた。


 本当に。


 何がどうなっているのだろう。


 けれど。


 今は、それよりも――。


「おねえちゃん」


「……なに?」


 則人が咲子を見上げた。


 さっきまでの調子とは、少し違っていた。


「ほんとうに、もどっていいの?」


「…………」


 咲子は黙った。


「このちから」


 則人が続ける。


「なくなっちゃうよ?」


「…………」


 その言葉に。


 咲子は自分の拳を見た。


 巨大な拳。


 少し前。


 この身体で、ずっと勝ちたかった相手と組手をした。


 相手の攻撃は、ほとんど通用しなかった。


 こちらから踏み込めば、簡単に届いた。


 自分でも怖くなるほど。


 強かった。


 そして。


 勝った。


「…………」


 嬉しくなかった。


 ずっと欲しかった勝利だったはずなのに。


 怪人の力で圧倒しても、少しも嬉しくなかった。


 だから。


 元に戻る。


 そのつもりだった。


「…………」


 なのに。


 咲子の口から、言葉が出てこない。


 もう一度。


 自分の腕を見る。


 強い。


 今の自分なら。


 あの男子の拳を怖がる必要もない。


 届かなかった距離にも届く。


 押し負けることもない。


 何度やっても。


 きっと勝てる。


『女の子だから仕方ないよ』


「…………」


 あの言葉が蘇った。


 ずっと嫌だった。


 女だから。


 仕方がない。


 そんなふうに言われることが。


 今なら。


 誰にも言わせない。


 男だから。


 女だから。


 そんなことすら関係ないほど。


 自分は強い。


「おねえちゃん?」


「…………」


「ほんとうにいい?」


 咲子は答えようとした。


「うん」


 そう言えばいい。


 元に戻してもらえばいい。


 そして。


 また自分で練習すればいい。


 そう思っていた。


 けれど。


 拳を握る。


 力が伝わってくる。


 あれほど欲しかったものが。


 今。


 自分の身体にある。


 これを手放したら。


 もう二度と。


 この力を使うことはできないかもしれない。


「…………」


 咲子は長い間、黙っていた。


 やがて。


「……ごめんなさい」


「え?」


 則人が首を傾げる。


「私……」


 咲子は巨大な拳を胸元へ引き寄せた。


「もう少しだけ」


 一度。


 言葉を止める。


 口にしてしまえば。


 元へ戻るはずだった道から、外れてしまう。


 それでも。


 咲子は最後まで言った。


「このままでいたい」


「…………」


 則人は、黙って咲子を見上げた。


「もどらないの?」


「……今は」


「そっか」


「え?」


「じゃあ、まだやめとく」


 あまりにも簡単な返事だった。


 咲子が戸惑う。


「いいの?」


「だって」


 則人は不思議そうに言った。


「おねえちゃんのからだでしょ?」


「…………」


 九歳の男の子から。


 あまりにも当たり前のこととして返された言葉。


 咲子は何も言えなくなった。


 ぬらりひょんも。


 しばらく咲子を見ていたが、急かすことはなかった。


 ピコピコハンマーも。


 まだ必要ない。


 今日。


 咲子は人間へ戻らない。


「…………」


 もう一度。


 自分の手を見る。


 強い身体。


 大きな拳。


 それが、まだ自分のものだと思うと。


 胸の奥で。


 ほんの少しだけ。


 ほっとした。


 そのことに気づいて。


 咲子自身が、一番驚いた。


 怪人の力で勝っても。


 嬉しくなかったはずなのに。


 それでも。


 この力を失わずに済んだことには。


 安心している。


「…………」


 自分でも。


 まだ、自分の気持ちが分からない。


「おねえちゃん」


「なに?」


 則人が、もう一度聞いた。


「ほんとうに、それでいい?」


「…………」


 咲子は。


 今度こそ頷いた。


「うん」


 けれど。


 その返事は。


 自分が思っていたよりも。


 ずっと小さかった。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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