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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
モズキャッチャー編3

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第5話「一回、考えてから」

着ぐるみモンスター


Another Story


「もし、天狗がピコピコハンマーを投げ損ねたら」


第5話「一回、考えてから」


内田紀人 作


※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。


 数日後。


 男は。


 コンビニの中にいた。


「…………」


 仕事を探す途中。


 なんとなく立ち寄っただけだった。


 飲み物でも買おうと思って。


 店の中を歩いていた。


 その時。


「おっ」


 足が止まった。


 棚の上に。


 新発売と書かれた菓子が並んでいる。


「うまそうだな」


 男は手を伸ばす。


 そして。


 値札を見る。


「…………」


 思っていたより。


 少し高い。


 財布の中身を思い出す。


「別に、なくても困らないしな……」


 そう呟きながら。


 それでも。


 手は伸びていた。


「…………」


 その瞬間。


 頭の中に。


 何かが浮かんだ。


『取る前に、一回考えろ。』


「…………」


 男の手が止まる。


「何だっけ、これ」


 どこかで。


 聞いたような。


 いや。


 読んだような。


「…………あ」


 男はポケットに手を入れた。


 少し折れ目のついた紙が入っている。


『モズキャッチャーだった自分へ』


 その下には。


『欲しいと思うのは、別にいい。


 でも。


 取る前に、一回考えろ。』


「…………」


 男は。


 菓子を見る。


 財布を見る。


 もう一度。


 菓子を見る。


 欲しい。


 食べてみたい。


 けれど。


 今、本当に必要なのか。


 少しだけ。


 考える。


「……今日はいいか」


 男は小さく笑い。


 伸ばしていた手を引っ込めた。



 それだけだった。


 誰かに褒められるようなことでもない。


 大きな決断でもない。


 欲しいものを見つけて。


 少し考えて。


 今日はやめておく。


 ただ、それだけ。


 けれど。


 男にとっては。


 その「ただ、それだけ」が。


 少しだけ不思議だった。


 以前の自分なら。


 どうしていただろう。


 そんな疑問さえ。


 なぜか。


 胸の奥に残った。



「ありがとうございましたー」


 コンビニを出る。


 結局。


 買ったのは飲み物だけだった。


 男はペットボトルを開ける。


「…………」


 一口飲んで。


 歩き出す。


 すると。


 少し先で。


 一人の子どもがしゃがみ込んでいた。


「ん?」


 何かを拾っている。


 近づいてみると。


 小さな財布だった。


「落とし物か?」


 男が声をかける。


「うん」


 子どもが財布を見る。


「お金入ってる」


「開けたのか?」


「ちょっとだけ」


「そうか」


「…………」


 子どもは。


 財布をじっと見ている。


「どうしよう」


「交番に持ってけば?」


「でも……」


「でも?」


「ちょっと欲しい」


「…………」


 男は。


 思わず子どもの顔を見る。


「お金?」


「うん」


「…………」


 つい。


 笑いそうになった。


 数日前のことは。


 ほとんど覚えていない。


 けれど。


 なぜだろう。


 その言葉だけが。


 妙に引っかかった。


 欲しい。


「欲しい、か」


「うん」


「じゃあ」


 男は言った。


「一回、考えてみたら?」


「何を?」


「そのお金を取ったあと」


「…………」


「自分がどう思うか」


 子どもが財布を見る。


「それと」


 男は続ける。


「落とした人が、どう思うか」


「…………」


「その二つを考えて」


 少し間を置く。


「それでも取るなら……いや」


 男は首を振った。


「やっぱり取るな。それはダメだ」


「どっち?」


「人の金だからな」


「じゃあ最初からそう言ってよ」


「悪かったよ」


 子どもが笑う。


 男も笑った。



 二人で。


 近くの交番まで財布を届けた。


 交番を出ると。


 子どもが言った。


「おじさん」


「お兄さんな」


「おじさん」


「お兄さん」


「どっちでもいい」


「よくない」


「さっきの」


「ん?」


「一回考えるってやつ」


「ああ」


「誰かに教えてもらったの?」


「…………」


 男は止まった。


「誰に……」


 分からない。


 紙に書かれている言葉。


 あれは。


 自分が言ったらしい。


 でも。


 その時のことは。


 ほとんど覚えていない。


「自分かな」


「自分?」


「たぶん」


「変なの」


「ああ」


 男は笑った。


「俺もそう思う」


 子どもが走っていく。


「じゃあね、おじさん!」


「お兄さんだ!」


 最後まで訂正されなかった。



 その日の夕方。


 則人は。


 ぬらりひょんと天狗と一緒に歩いていた。


「ねえ」


「なんじゃ?」


「モズキャッチャーだった人、どうしてるかな」


「さてのう」


 ぬらりひょんが答える。


「ちゃんと一回考えてるかな」


「何をじゃ?」


「欲しいものがあった時!」


「毎回そんなことをしておったら疲れるじゃろ」


 天狗が言う。


「でも大事じゃん!」


「程度というものがある」


「天狗はもっと考えた方がいいよ」


「何をじゃ!」


「物を投げる前に!」


「まだ言うか!」


「だって投げ損ねたじゃん!」


「あれは一度だけじゃ!」


「その一回で大変だったんだから!」


「結果的にはよかったではないか!」


「それはそうだけど!」


 則人が笑う。


 天狗は。


 少しだけむっとした顔をした。


「……では」


「ん?」


「わしも投げる前に一回考えればよかったということか?」


「そう!」


「…………」


 天狗が黙る。


 ぬらりひょんが笑った。


「どうした?」


「いや」


 天狗が腕を組む。


「なんとなく腹が立つ」


「なんで!?」


「お主に言われたからじゃ!」


「ひどい!」



 その時。


 道の向こうを。


 一人の男が歩いていた。


「あ」


 則人が足を止める。


「どうした?」


 天狗が聞く。


「モズキャッチャー!」


「…………」


 男が。


 則人の声に気づいた。


「ん?」


 そして。


 少し驚いた顔をする。


「あの時の子か」


「うん!」


 則人が走っていく。


「元気?」


「ああ」


「写真持ってる?」


「最初に聞くの、それ?」


「手紙は?」


「持ってるよ」


「ほんと!?」


「ほら」


 男がポケットから紙を出す。


「ちょっとくしゃくしゃになってるけど」


「持ってた!」


「持って帰るって言っただろ」


「写真は?」


「家」


「捨ててない?」


「捨ててない」


「よかった!」


 男が苦笑する。


「そんなに大事なのか?」


「大事だよ!」


「そっか」


「うん!」


 則人が笑う。


 男も。


 少しだけ笑った。



「そういえば」


 男が言った。


「ん?」


「今日、その言葉使ったよ」


「その言葉?」


「これ」


 紙を見せる。


『取る前に、一回考えろ。』


「使った?」


「ああ」


 男は。


 今日あったことを簡単に話した。


 コンビニで。


 欲しいものを買う前に少し考えたこと。


 そして。


 財布を拾った子どもにも。


 一回考えてみろと言ったこと。


「すごい!」


 則人の顔が明るくなる。


「何が?」


「残ってる!」


「何が?」


「モズキャッチャーだった時のこと!」


「いや、覚えてないぞ」


「でも!」


 則人は紙を指さす。


「これ!」


「…………」


「モズキャッチャーが考えたことが」


 則人が笑う。


「ちゃんと残ってる!」


「…………」


 男は。


 手元の紙を見る。


「そうなのかな」


「そうだよ!」


「記憶はないけど」


「うん」


「それでも?」


「うん!」


 男は。


 しばらく紙を見ていた。


 そこに書かれているのは。


 昔の自分からの言葉。


 覚えていない自分から。


 今の自分へ届いた言葉。


 そして。


 小さく笑った。


「じゃあ」


「ん?」


「忘れても、全部なくなるわけじゃないんだな」


「うん!」


「…………」


 男は。


 紙を丁寧に折り直した。



「ところで」


 男が言った。


「ん?」


「前から気になってたんだけど」


「何?」


「お前」


 則人の後ろを見る。


「さっきから誰と話してるんだ?」


「天狗とぬらりひょん!」


「…………」


「そこにいるよ!」


 男は。


 則人の指さした先を見る。


「…………」


 何も見えない。


「やっぱり見えない?」


「何も」


 天狗が男の目の前まで来る。


「これでもか?」


「天狗、近いよ!」


「これほど近くても見えぬのか?」


「見えないって!」


 男が。


 則人を不思議そうに見る。


「誰に言ってるんだ?」


「天狗!」


「…………」


「今、目の前にいる!」


「…………」


 男は一歩下がった。


「俺、帰っていい?」


「なんで!?」


「なんか怖くなってきた」


「大丈夫だよ!」


「何が大丈夫なんだよ!」


 則人が笑う。


 天狗は不満そうに腕を組んだ。


「まったく失礼な男じゃ」


「聞こえてないよ」


「分かっておる!」


 ぬらりひょんが。


 静かに笑った。



 ほんの小さな失敗だった。


 ピコピコハンマーを。


 投げ損ねただけ。


 本来なら。


 それだけのことだった。


 けれど。


 その失敗で。


 少しだけ。


 時間が生まれた。


 本来なら。


 存在しなかった時間。


 その中で。


 モズキャッチャーは考えた。


 欲しいと思うこと。


 欲しいものを取ること。


 そして。


 その間には。


 自分で考える時間を。


 作ることができる。


 人間へ戻れば。


 その記憶は。


 ほとんど消えてしまった。


 けれど。


 考えたことまで。


 全部消えたわけではなかった。


 一枚の写真。


 一枚の手紙。


 そして。


 たった一つの言葉。


『取る前に、一回考えろ。』


 その言葉は。


 モズキャッチャーだった男から。


 人間へ戻った男へ。


 そして。


 今度は。


 別の子どもへ。


 少しだけ。


 渡っていった。


 もし。


 天狗が。


 あの時。


 きれいにピコピコハンマーを投げていたら。


 写真も。


 手紙も。


 この言葉も。


 残らなかったかもしれない。


「じゃあ、またね!」


 則人が手を振る。


「ああ」


 男も手を上げる。


 そして。


 数歩歩いたところで。


 振り返った。


「なあ」


「なに?」


「天狗って」


「うん?」


「本当にいるの?」


「いるよ!」


「…………」


 男は少し考えた。


「そっか」


 それ以上は聞かなかった。


 そして。


 また歩き出す。


 その後ろで。


 天狗が胸を張った。


「当然じゃ!」


「聞こえてないってば!」


「分かっておるわ!」


 則人の笑い声が。


 夕暮れの道に響いた。


 失敗は。


 できれば。


 しない方がいい。


 けれど。


 失敗したからこそ。


 見えるものもある。


 失敗したからこそ。


 生まれる時間もある。


 大切なのは。


 失敗しないことだけではない。


 失敗した。


 そのあと。


 どうするのか。


 何を残すのか。


 そして。


 次に同じことが起きた時。


 どうするのか。


 その前に。


 一回。


 考える。


 たったそれだけで。


 昨日とは。


 少し違う自分になれるのかもしれない。


――Another Story 完

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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