第5話「一回、考えてから」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、天狗がピコピコハンマーを投げ損ねたら」
第5話「一回、考えてから」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
数日後。
男は。
コンビニの中にいた。
「…………」
仕事を探す途中。
なんとなく立ち寄っただけだった。
飲み物でも買おうと思って。
店の中を歩いていた。
その時。
「おっ」
足が止まった。
棚の上に。
新発売と書かれた菓子が並んでいる。
「うまそうだな」
男は手を伸ばす。
そして。
値札を見る。
「…………」
思っていたより。
少し高い。
財布の中身を思い出す。
「別に、なくても困らないしな……」
そう呟きながら。
それでも。
手は伸びていた。
「…………」
その瞬間。
頭の中に。
何かが浮かんだ。
『取る前に、一回考えろ。』
「…………」
男の手が止まる。
「何だっけ、これ」
どこかで。
聞いたような。
いや。
読んだような。
「…………あ」
男はポケットに手を入れた。
少し折れ目のついた紙が入っている。
『モズキャッチャーだった自分へ』
その下には。
『欲しいと思うのは、別にいい。
でも。
取る前に、一回考えろ。』
「…………」
男は。
菓子を見る。
財布を見る。
もう一度。
菓子を見る。
欲しい。
食べてみたい。
けれど。
今、本当に必要なのか。
少しだけ。
考える。
「……今日はいいか」
男は小さく笑い。
伸ばしていた手を引っ込めた。
◇
それだけだった。
誰かに褒められるようなことでもない。
大きな決断でもない。
欲しいものを見つけて。
少し考えて。
今日はやめておく。
ただ、それだけ。
けれど。
男にとっては。
その「ただ、それだけ」が。
少しだけ不思議だった。
以前の自分なら。
どうしていただろう。
そんな疑問さえ。
なぜか。
胸の奥に残った。
◇
「ありがとうございましたー」
コンビニを出る。
結局。
買ったのは飲み物だけだった。
男はペットボトルを開ける。
「…………」
一口飲んで。
歩き出す。
すると。
少し先で。
一人の子どもがしゃがみ込んでいた。
「ん?」
何かを拾っている。
近づいてみると。
小さな財布だった。
「落とし物か?」
男が声をかける。
「うん」
子どもが財布を見る。
「お金入ってる」
「開けたのか?」
「ちょっとだけ」
「そうか」
「…………」
子どもは。
財布をじっと見ている。
「どうしよう」
「交番に持ってけば?」
「でも……」
「でも?」
「ちょっと欲しい」
「…………」
男は。
思わず子どもの顔を見る。
「お金?」
「うん」
「…………」
つい。
笑いそうになった。
数日前のことは。
ほとんど覚えていない。
けれど。
なぜだろう。
その言葉だけが。
妙に引っかかった。
欲しい。
「欲しい、か」
「うん」
「じゃあ」
男は言った。
「一回、考えてみたら?」
「何を?」
「そのお金を取ったあと」
「…………」
「自分がどう思うか」
子どもが財布を見る。
「それと」
男は続ける。
「落とした人が、どう思うか」
「…………」
「その二つを考えて」
少し間を置く。
「それでも取るなら……いや」
男は首を振った。
「やっぱり取るな。それはダメだ」
「どっち?」
「人の金だからな」
「じゃあ最初からそう言ってよ」
「悪かったよ」
子どもが笑う。
男も笑った。
◇
二人で。
近くの交番まで財布を届けた。
交番を出ると。
子どもが言った。
「おじさん」
「お兄さんな」
「おじさん」
「お兄さん」
「どっちでもいい」
「よくない」
「さっきの」
「ん?」
「一回考えるってやつ」
「ああ」
「誰かに教えてもらったの?」
「…………」
男は止まった。
「誰に……」
分からない。
紙に書かれている言葉。
あれは。
自分が言ったらしい。
でも。
その時のことは。
ほとんど覚えていない。
「自分かな」
「自分?」
「たぶん」
「変なの」
「ああ」
男は笑った。
「俺もそう思う」
子どもが走っていく。
「じゃあね、おじさん!」
「お兄さんだ!」
最後まで訂正されなかった。
◇
その日の夕方。
則人は。
ぬらりひょんと天狗と一緒に歩いていた。
「ねえ」
「なんじゃ?」
「モズキャッチャーだった人、どうしてるかな」
「さてのう」
ぬらりひょんが答える。
「ちゃんと一回考えてるかな」
「何をじゃ?」
「欲しいものがあった時!」
「毎回そんなことをしておったら疲れるじゃろ」
天狗が言う。
「でも大事じゃん!」
「程度というものがある」
「天狗はもっと考えた方がいいよ」
「何をじゃ!」
「物を投げる前に!」
「まだ言うか!」
「だって投げ損ねたじゃん!」
「あれは一度だけじゃ!」
「その一回で大変だったんだから!」
「結果的にはよかったではないか!」
「それはそうだけど!」
則人が笑う。
天狗は。
少しだけむっとした顔をした。
「……では」
「ん?」
「わしも投げる前に一回考えればよかったということか?」
「そう!」
「…………」
天狗が黙る。
ぬらりひょんが笑った。
「どうした?」
「いや」
天狗が腕を組む。
「なんとなく腹が立つ」
「なんで!?」
「お主に言われたからじゃ!」
「ひどい!」
◇
その時。
道の向こうを。
一人の男が歩いていた。
「あ」
則人が足を止める。
「どうした?」
天狗が聞く。
「モズキャッチャー!」
「…………」
男が。
則人の声に気づいた。
「ん?」
そして。
少し驚いた顔をする。
「あの時の子か」
「うん!」
則人が走っていく。
「元気?」
「ああ」
「写真持ってる?」
「最初に聞くの、それ?」
「手紙は?」
「持ってるよ」
「ほんと!?」
「ほら」
男がポケットから紙を出す。
「ちょっとくしゃくしゃになってるけど」
「持ってた!」
「持って帰るって言っただろ」
「写真は?」
「家」
「捨ててない?」
「捨ててない」
「よかった!」
男が苦笑する。
「そんなに大事なのか?」
「大事だよ!」
「そっか」
「うん!」
則人が笑う。
男も。
少しだけ笑った。
◇
「そういえば」
男が言った。
「ん?」
「今日、その言葉使ったよ」
「その言葉?」
「これ」
紙を見せる。
『取る前に、一回考えろ。』
「使った?」
「ああ」
男は。
今日あったことを簡単に話した。
コンビニで。
欲しいものを買う前に少し考えたこと。
そして。
財布を拾った子どもにも。
一回考えてみろと言ったこと。
「すごい!」
則人の顔が明るくなる。
「何が?」
「残ってる!」
「何が?」
「モズキャッチャーだった時のこと!」
「いや、覚えてないぞ」
「でも!」
則人は紙を指さす。
「これ!」
「…………」
「モズキャッチャーが考えたことが」
則人が笑う。
「ちゃんと残ってる!」
「…………」
男は。
手元の紙を見る。
「そうなのかな」
「そうだよ!」
「記憶はないけど」
「うん」
「それでも?」
「うん!」
男は。
しばらく紙を見ていた。
そこに書かれているのは。
昔の自分からの言葉。
覚えていない自分から。
今の自分へ届いた言葉。
そして。
小さく笑った。
「じゃあ」
「ん?」
「忘れても、全部なくなるわけじゃないんだな」
「うん!」
「…………」
男は。
紙を丁寧に折り直した。
◇
「ところで」
男が言った。
「ん?」
「前から気になってたんだけど」
「何?」
「お前」
則人の後ろを見る。
「さっきから誰と話してるんだ?」
「天狗とぬらりひょん!」
「…………」
「そこにいるよ!」
男は。
則人の指さした先を見る。
「…………」
何も見えない。
「やっぱり見えない?」
「何も」
天狗が男の目の前まで来る。
「これでもか?」
「天狗、近いよ!」
「これほど近くても見えぬのか?」
「見えないって!」
男が。
則人を不思議そうに見る。
「誰に言ってるんだ?」
「天狗!」
「…………」
「今、目の前にいる!」
「…………」
男は一歩下がった。
「俺、帰っていい?」
「なんで!?」
「なんか怖くなってきた」
「大丈夫だよ!」
「何が大丈夫なんだよ!」
則人が笑う。
天狗は不満そうに腕を組んだ。
「まったく失礼な男じゃ」
「聞こえてないよ」
「分かっておる!」
ぬらりひょんが。
静かに笑った。
◇
ほんの小さな失敗だった。
ピコピコハンマーを。
投げ損ねただけ。
本来なら。
それだけのことだった。
けれど。
その失敗で。
少しだけ。
時間が生まれた。
本来なら。
存在しなかった時間。
その中で。
モズキャッチャーは考えた。
欲しいと思うこと。
欲しいものを取ること。
そして。
その間には。
自分で考える時間を。
作ることができる。
人間へ戻れば。
その記憶は。
ほとんど消えてしまった。
けれど。
考えたことまで。
全部消えたわけではなかった。
一枚の写真。
一枚の手紙。
そして。
たった一つの言葉。
『取る前に、一回考えろ。』
その言葉は。
モズキャッチャーだった男から。
人間へ戻った男へ。
そして。
今度は。
別の子どもへ。
少しだけ。
渡っていった。
もし。
天狗が。
あの時。
きれいにピコピコハンマーを投げていたら。
写真も。
手紙も。
この言葉も。
残らなかったかもしれない。
「じゃあ、またね!」
則人が手を振る。
「ああ」
男も手を上げる。
そして。
数歩歩いたところで。
振り返った。
「なあ」
「なに?」
「天狗って」
「うん?」
「本当にいるの?」
「いるよ!」
「…………」
男は少し考えた。
「そっか」
それ以上は聞かなかった。
そして。
また歩き出す。
その後ろで。
天狗が胸を張った。
「当然じゃ!」
「聞こえてないってば!」
「分かっておるわ!」
則人の笑い声が。
夕暮れの道に響いた。
失敗は。
できれば。
しない方がいい。
けれど。
失敗したからこそ。
見えるものもある。
失敗したからこそ。
生まれる時間もある。
大切なのは。
失敗しないことだけではない。
失敗した。
そのあと。
どうするのか。
何を残すのか。
そして。
次に同じことが起きた時。
どうするのか。
その前に。
一回。
考える。
たったそれだけで。
昨日とは。
少し違う自分になれるのかもしれない。
――Another Story 完
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




