第4話「忘れても、残ってる」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、天狗がピコピコハンマーを投げ損ねたら」
第4話「忘れても、残ってる」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
光が。
ゆっくりと消えていく。
「…………」
則人は。
目の前に立つ男を見上げていた。
もう。
大きな翼はない。
胸の筐体も。
巨大なクレーンアームもない。
そこにいるのは。
一人の人間だった。
「戻った……」
則人が呟く。
男は。
自分の手を見る。
「…………」
右手。
左手。
一本ずつ、確かめるように指を動かす。
「俺……」
それから。
自分の身体へ目を落とした。
「戻ったのか?」
「うん!」
則人が笑う。
「戻ったよ!」
「…………」
男は。
もう一度、自分の手を見る。
さっきまで。
そこにあったはずの巨大なクレーンアーム。
今はもう。
普通の人間の手しかない。
「そっか」
男は。
小さく呟いた。
◇
「ねえ!」
則人が男の顔を覗き込む。
「覚えてる?」
「何を?」
「モズキャッチャーだった時のこと!」
「…………」
男の表情が止まった。
「モズ……?」
「モズキャッチャー!」
「…………」
聞き覚えがある。
そんな気はする。
けれど。
その言葉をつかもうとすると。
指の間からこぼれ落ちるように。
輪郭が消えていく。
「俺が?」
「うん!」
「…………」
男は首を傾げた。
「全然覚えてない?」
「全然っていうか……」
額に手を当てる。
「何かあった気はする」
「ほんと!?」
「ああ。でも」
男は眉を寄せた。
「ぼんやりしてる」
「どんな感じ?」
「夢を見てたみたいな」
「夢?」
「起きた直後は覚えてるのに」
「うん」
「思い出そうとすると、どんどん消えていく感じ」
「…………」
則人の顔から笑みが消えた。
やっぱり。
忘れてしまうのかもしれない。
だから。
残しておいた。
「待って!」
則人が突然振り返る。
「どこ行くんだ?」
「あるから!」
「何が?」
「しるし!」
◇
則人が持ってきたのは。
一枚の写真と。
一枚の紙だった。
「これ!」
「…………?」
男が写真を見る。
そこには。
大きな翼。
胸の筐体。
巨大なクレーンアーム。
そして。
少し照れたように笑っているモズキャッチャー。
「…………」
男の顔が固まった。
「これ……」
「モズキャッチャー!」
「俺?」
「うん!」
「…………」
写真を見る。
自分を見る。
また写真を見る。
「本当に?」
「本当だよ!」
「俺、こんな姿だったのか」
「すごかったよ!」
「どこが?」
「大きかった!」
「そこ?」
「あと、翼があった!」
「見れば分かる」
「クレーンアームも!」
「それも見れば分かる」
則人が笑う。
「でもね」
「ん?」
「これだけじゃないよ」
則人は。
もう一枚の紙を差し出した。
◇
『モズキャッチャーだった自分へ』
男は。
最初の一行を読んだ。
「…………」
その下。
『欲しいと思うのは、別にいい。
でも。
取る前に、一回考えろ。』
「…………」
男は。
しばらく何も言わなかった。
「それ」
則人が言う。
「モズキャッチャーが言ったんだよ」
「俺が?」
「うん」
「お前が書いたんじゃなくて?」
「書いたのはぼくだけど!」
「じゃあ、お前じゃん」
「言ったのはモズキャッチャー!」
「…………」
「ほんとだよ!」
「分かった分かった」
「信じてない!」
「いや」
男は。
もう一度、紙を見る。
「何か……」
「何?」
「変な感じがする」
「思い出した?」
「そうじゃない」
男は胸に手を当てた。
記憶は戻らない。
それなのに。
紙に書かれた言葉だけが。
妙に胸の奥へ引っかかる。
「これ」
男が呟く。
「俺が言いそうな気がする」
「ほんと!?」
「分からないけど」
「やった!」
「何でお前が喜ぶんだよ」
「残ってたから!」
「何が?」
「モズキャッチャーだった時の気持ち!」
「…………」
男は。
紙を見つめたまま。
少しだけ笑った。
◇
少し離れたところで。
ぬらりひょんと天狗が、その様子を見ていた。
「覚えておらんようじゃな」
天狗が言う。
「そのようじゃ」
ぬらりひょんが答える。
「では、写真と手紙を残した意味はあったのか?」
「さあのう」
「さあ、とは何じゃ」
「記憶そのものが戻らずとも」
ぬらりひょんは男を見る。
「残るものはある」
「残るもの?」
「経験というものは」
少し間を置く。
「すべてを覚えておらねば意味がない、というものでもあるまい」
「…………」
天狗は黙った。
男には。
二人の姿は見えていない。
声も届いていない。
ただ。
則人が時々。
誰もいないように見える場所へ顔を向けるのを。
不思議そうに見ていた。
◇
「なあ」
男が言った。
「なに?」
「お前、さっきから時々そっち見てるけど」
「うん」
「何かいるの?」
「いるよ」
「…………」
「ぬらりひょんと天狗」
「…………」
男が。
則人の指さした先を見る。
何も見えない。
「どこ?」
「そこ!」
「…………」
「見えない?」
「見えない」
「やっぱりかあ」
「やっぱり?」
「うん。そういうの、あんまり感じられない人だから」
「俺が?」
「うん!」
「何で知ってるんだよ」
「知ってるから!」
「説明になってないぞ」
男が首を傾げる。
天狗が不満そうな顔をした。
「まったく見えておらんぞ」
「仕方あるまい」
ぬらりひょんが言う。
「人には人の見え方がある」
「わし、すぐそこにおるんじゃが」
「諦めよ」
「何か腹が立つのう」
もちろん。
その会話も。
男には聞こえなかった。
◇
「じゃあ」
男が写真を見る。
「俺は、この姿で何してたんだ?」
「えっとね」
則人が指を折る。
「欲しいものを見つけて」
「うん」
「取りに行って」
「うん」
「絶対離さなくなって」
「…………」
「いろいろ大変だった!」
「…………」
男の顔が引きつる。
「俺、そんなことしてたの?」
「してた」
「人のものも?」
「取ろうとしてた」
「最悪じゃん」
「でも!」
則人が慌てて続ける。
「最後は自分で止まったよ!」
「自分で?」
「うん!」
「…………」
「欲しいって思っても、取るかどうかは自分で決めるって」
男が紙を見る。
『取る前に、一回考えろ。』
「…………」
「だから」
則人が笑う。
「ちゃんと戻れた!」
「そのハンマーで?」
「うん!」
「…………」
男が。
則人の持つピコピコハンマーを見る。
「これで?」
「そう」
「普通のおもちゃにしか見えないんだけど」
「すごいんだよ!」
「本当に?」
「ほんと!」
「…………」
男は。
少しだけ疑わしそうにハンマーを見る。
則人が頬を膨らませた。
「ほんとだって!」
「分かったよ」
「信じてない!」
「今の俺からしたら、急に全部信じろって方が無理だろ」
「むー……」
「でも」
男は。
手紙を折らないように持ち直した。
「これは持って帰る」
則人の顔が明るくなる。
「ほんと?」
「ああ」
「写真も?」
「…………」
男は。
笑っているモズキャッチャーの写真を見る。
「これは、ちょっと恥ずかしい」
「ダメ! それが一番大事!」
「何でだよ」
「笑ってるから!」
「余計恥ずかしい!」
「持ってって!」
「分かったって!」
男は苦笑しながら。
写真も受け取った。
◇
帰ろうとして。
男は足を止めた。
「なあ」
「なに?」
「俺」
少しだけ考える。
「人間だった時も」
「うん」
「欲しいものばっかり追いかけてたのかな」
「…………」
則人には。
答えられなかった。
モズキャッチャーになる前の男のことを。
全部知っているわけではない。
「分かんない」
「そっか」
「でも」
則人が言う。
「これからは、一回考えればいいんじゃない?」
「…………」
男が紙を見る。
「取る前に?」
「うん!」
「欲しくなったら?」
「うん!」
「一回考える」
「そう!」
「簡単に言うなあ」
「難しい?」
「たぶん」
「じゃあ」
則人が笑う。
「練習すればいいじゃん!」
「何を?」
「一回考える練習!」
「そんな練習あるのか?」
「今作った!」
「お前、本当に適当だな」
「適当じゃない!」
男が笑った。
「じゃあ」
写真と手紙を持って。
歩き出す。
「やってみるよ」
「うん!」
則人が大きく手を振った。
「またね!」
「…………」
男は少し迷ってから。
振り返った。
「ああ」
小さく手を上げる。
「またな」
◇
本来なら。
なかったはずの写真。
なかったはずの手紙。
そして。
なかったはずの会話。
天狗が。
ピコピコハンマーを。
たった一度。
投げ損ねた。
その失敗で生まれた。
ほんの少しの時間。
本来なら。
すぐに人間へ戻って。
消えていたはずの時間。
その時間が。
人間に戻った男の手に。
二つのしるしを残した。
記憶は。
ぼんやりしている。
モズキャッチャーだった時のことも。
その時に感じたことも。
少しずつ。
遠ざかっていく。
けれど。
写真は残る。
言葉も残る。
『欲しいと思うのは、別にいい。
でも。
取る前に、一回考えろ。』
男は。
歩きながら。
もう一度。
その言葉を読んだ。
「…………一回、考えるか」
何かを。
思い出したわけではない。
過去が。
はっきり戻ったわけでもない。
それでも。
その言葉だけは。
なぜか。
誰かに教えられた言葉ではなく。
自分自身が。
自分へ残した言葉のように。
感じられた。
忘れたものは。
戻らないかもしれない。
けれど。
忘れても。
残るものはある。
少なくとも。
男の手には。
一枚の写真と。
一枚の手紙が。
確かに残っていた。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




