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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
モズキャッチャー編3

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第4話「忘れても、残ってる」

着ぐるみモンスター


Another Story


「もし、天狗がピコピコハンマーを投げ損ねたら」


第4話「忘れても、残ってる」


内田紀人 作


※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。


 光が。


 ゆっくりと消えていく。


「…………」


 則人は。


 目の前に立つ男を見上げていた。


 もう。


 大きな翼はない。


 胸の筐体も。


 巨大なクレーンアームもない。


 そこにいるのは。


 一人の人間だった。


「戻った……」


 則人が呟く。


 男は。


 自分の手を見る。


「…………」


 右手。


 左手。


 一本ずつ、確かめるように指を動かす。


「俺……」


 それから。


 自分の身体へ目を落とした。


「戻ったのか?」


「うん!」


 則人が笑う。


「戻ったよ!」


「…………」


 男は。


 もう一度、自分の手を見る。


 さっきまで。


 そこにあったはずの巨大なクレーンアーム。


 今はもう。


 普通の人間の手しかない。


「そっか」


 男は。


 小さく呟いた。



「ねえ!」


 則人が男の顔を覗き込む。


「覚えてる?」


「何を?」


「モズキャッチャーだった時のこと!」


「…………」


 男の表情が止まった。


「モズ……?」


「モズキャッチャー!」


「…………」


 聞き覚えがある。


 そんな気はする。


 けれど。


 その言葉をつかもうとすると。


 指の間からこぼれ落ちるように。


 輪郭が消えていく。


「俺が?」


「うん!」


「…………」


 男は首を傾げた。


「全然覚えてない?」


「全然っていうか……」


 額に手を当てる。


「何かあった気はする」


「ほんと!?」


「ああ。でも」


 男は眉を寄せた。


「ぼんやりしてる」


「どんな感じ?」


「夢を見てたみたいな」


「夢?」


「起きた直後は覚えてるのに」


「うん」


「思い出そうとすると、どんどん消えていく感じ」


「…………」


 則人の顔から笑みが消えた。


 やっぱり。


 忘れてしまうのかもしれない。


 だから。


 残しておいた。


「待って!」


 則人が突然振り返る。


「どこ行くんだ?」


「あるから!」


「何が?」


「しるし!」



 則人が持ってきたのは。


 一枚の写真と。


 一枚の紙だった。


「これ!」


「…………?」


 男が写真を見る。


 そこには。


 大きな翼。


 胸の筐体。


 巨大なクレーンアーム。


 そして。


 少し照れたように笑っているモズキャッチャー。


「…………」


 男の顔が固まった。


「これ……」


「モズキャッチャー!」


「俺?」


「うん!」


「…………」


 写真を見る。


 自分を見る。


 また写真を見る。


「本当に?」


「本当だよ!」


「俺、こんな姿だったのか」


「すごかったよ!」


「どこが?」


「大きかった!」


「そこ?」


「あと、翼があった!」


「見れば分かる」


「クレーンアームも!」


「それも見れば分かる」


 則人が笑う。


「でもね」


「ん?」


「これだけじゃないよ」


 則人は。


 もう一枚の紙を差し出した。



『モズキャッチャーだった自分へ』


 男は。


 最初の一行を読んだ。


「…………」


 その下。


『欲しいと思うのは、別にいい。


 でも。


 取る前に、一回考えろ。』


「…………」


 男は。


 しばらく何も言わなかった。


「それ」


 則人が言う。


「モズキャッチャーが言ったんだよ」


「俺が?」


「うん」


「お前が書いたんじゃなくて?」


「書いたのはぼくだけど!」


「じゃあ、お前じゃん」


「言ったのはモズキャッチャー!」


「…………」


「ほんとだよ!」


「分かった分かった」


「信じてない!」


「いや」


 男は。


 もう一度、紙を見る。


「何か……」


「何?」


「変な感じがする」


「思い出した?」


「そうじゃない」


 男は胸に手を当てた。


 記憶は戻らない。


 それなのに。


 紙に書かれた言葉だけが。


 妙に胸の奥へ引っかかる。


「これ」


 男が呟く。


「俺が言いそうな気がする」


「ほんと!?」


「分からないけど」


「やった!」


「何でお前が喜ぶんだよ」


「残ってたから!」


「何が?」


「モズキャッチャーだった時の気持ち!」


「…………」


 男は。


 紙を見つめたまま。


 少しだけ笑った。



 少し離れたところで。


 ぬらりひょんと天狗が、その様子を見ていた。


「覚えておらんようじゃな」


 天狗が言う。


「そのようじゃ」


 ぬらりひょんが答える。


「では、写真と手紙を残した意味はあったのか?」


「さあのう」


「さあ、とは何じゃ」


「記憶そのものが戻らずとも」


 ぬらりひょんは男を見る。


「残るものはある」


「残るもの?」


「経験というものは」


 少し間を置く。


「すべてを覚えておらねば意味がない、というものでもあるまい」


「…………」


 天狗は黙った。


 男には。


 二人の姿は見えていない。


 声も届いていない。


 ただ。


 則人が時々。


 誰もいないように見える場所へ顔を向けるのを。


 不思議そうに見ていた。



「なあ」


 男が言った。


「なに?」


「お前、さっきから時々そっち見てるけど」


「うん」


「何かいるの?」


「いるよ」


「…………」


「ぬらりひょんと天狗」


「…………」


 男が。


 則人の指さした先を見る。


 何も見えない。


「どこ?」


「そこ!」


「…………」


「見えない?」


「見えない」


「やっぱりかあ」


「やっぱり?」


「うん。そういうの、あんまり感じられない人だから」


「俺が?」


「うん!」


「何で知ってるんだよ」


「知ってるから!」


「説明になってないぞ」


 男が首を傾げる。


 天狗が不満そうな顔をした。


「まったく見えておらんぞ」


「仕方あるまい」


 ぬらりひょんが言う。


「人には人の見え方がある」


「わし、すぐそこにおるんじゃが」


「諦めよ」


「何か腹が立つのう」


 もちろん。


 その会話も。


 男には聞こえなかった。



「じゃあ」


 男が写真を見る。


「俺は、この姿で何してたんだ?」


「えっとね」


 則人が指を折る。


「欲しいものを見つけて」


「うん」


「取りに行って」


「うん」


「絶対離さなくなって」


「…………」


「いろいろ大変だった!」


「…………」


 男の顔が引きつる。


「俺、そんなことしてたの?」


「してた」


「人のものも?」


「取ろうとしてた」


「最悪じゃん」


「でも!」


 則人が慌てて続ける。


「最後は自分で止まったよ!」


「自分で?」


「うん!」


「…………」


「欲しいって思っても、取るかどうかは自分で決めるって」


 男が紙を見る。


『取る前に、一回考えろ。』


「…………」


「だから」


 則人が笑う。


「ちゃんと戻れた!」


「そのハンマーで?」


「うん!」


「…………」


 男が。


 則人の持つピコピコハンマーを見る。


「これで?」


「そう」


「普通のおもちゃにしか見えないんだけど」


「すごいんだよ!」


「本当に?」


「ほんと!」


「…………」


 男は。


 少しだけ疑わしそうにハンマーを見る。


 則人が頬を膨らませた。


「ほんとだって!」


「分かったよ」


「信じてない!」


「今の俺からしたら、急に全部信じろって方が無理だろ」


「むー……」


「でも」


 男は。


 手紙を折らないように持ち直した。


「これは持って帰る」


 則人の顔が明るくなる。


「ほんと?」


「ああ」


「写真も?」


「…………」


 男は。


 笑っているモズキャッチャーの写真を見る。


「これは、ちょっと恥ずかしい」


「ダメ! それが一番大事!」


「何でだよ」


「笑ってるから!」


「余計恥ずかしい!」


「持ってって!」


「分かったって!」


 男は苦笑しながら。


 写真も受け取った。



 帰ろうとして。


 男は足を止めた。


「なあ」


「なに?」


「俺」


 少しだけ考える。


「人間だった時も」


「うん」


「欲しいものばっかり追いかけてたのかな」


「…………」


 則人には。


 答えられなかった。


 モズキャッチャーになる前の男のことを。


 全部知っているわけではない。


「分かんない」


「そっか」


「でも」


 則人が言う。


「これからは、一回考えればいいんじゃない?」


「…………」


 男が紙を見る。


「取る前に?」


「うん!」


「欲しくなったら?」


「うん!」


「一回考える」


「そう!」


「簡単に言うなあ」


「難しい?」


「たぶん」


「じゃあ」


 則人が笑う。


「練習すればいいじゃん!」


「何を?」


「一回考える練習!」


「そんな練習あるのか?」


「今作った!」


「お前、本当に適当だな」


「適当じゃない!」


 男が笑った。


「じゃあ」


 写真と手紙を持って。


 歩き出す。


「やってみるよ」


「うん!」


 則人が大きく手を振った。


「またね!」


「…………」


 男は少し迷ってから。


 振り返った。


「ああ」


 小さく手を上げる。


「またな」



 本来なら。


 なかったはずの写真。


 なかったはずの手紙。


 そして。


 なかったはずの会話。


 天狗が。


 ピコピコハンマーを。


 たった一度。


 投げ損ねた。


 その失敗で生まれた。


 ほんの少しの時間。


 本来なら。


 すぐに人間へ戻って。


 消えていたはずの時間。


 その時間が。


 人間に戻った男の手に。


 二つのしるしを残した。


 記憶は。


 ぼんやりしている。


 モズキャッチャーだった時のことも。


 その時に感じたことも。


 少しずつ。


 遠ざかっていく。


 けれど。


 写真は残る。


 言葉も残る。


『欲しいと思うのは、別にいい。


 でも。


 取る前に、一回考えろ。』


 男は。


 歩きながら。


 もう一度。


 その言葉を読んだ。


「…………一回、考えるか」


 何かを。


 思い出したわけではない。


 過去が。


 はっきり戻ったわけでもない。


 それでも。


 その言葉だけは。


 なぜか。


 誰かに教えられた言葉ではなく。


 自分自身が。


 自分へ残した言葉のように。


 感じられた。


 忘れたものは。


 戻らないかもしれない。


 けれど。


 忘れても。


 残るものはある。


 少なくとも。


 男の手には。


 一枚の写真と。


 一枚の手紙が。


 確かに残っていた。


――つづく

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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