第3話「忘れないためのしるし」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、天狗がピコピコハンマーを投げ損ねたら」
第3話「忘れないためのしるし」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「何を残そうか?」
則人は腕を組み、うーんと唸った。
「…………」
モズキャッチャーも考えている。
少し離れたところでは。
天狗がピコピコハンマーを持ったまま、じっと待っていた。
「まだか?」
「待って!」
「さっきからずっと待っておるぞ!」
「大事なこと考えてるんだから!」
「それは分かるが、なぜわしがずっとハンマーを持ったまま待たねばならんのじゃ!」
「また投げたら、なくすでしょ」
「もう投げんわ!」
天狗の声を背中で聞きながら。
則人は、もう一度考える。
「うーん……」
人間に戻ったあと。
もし。
モズキャッチャーだった時のことを忘れてしまったら。
何かを見れば。
思い出せるようにしたい。
今ここで考えたことを。
人間に戻った自分へ届けたい。
「……あ!」
則人の顔がぱっと明るくなった。
「写真!」
「写真?」
「うん! モズキャッチャーの写真を撮っておく!」
「俺の?」
「そう!」
則人の目が輝く。
「人間に戻って忘れちゃっても、自分の写真を見たら思い出すかもしれないじゃん!」
「…………」
モズキャッチャーは、自分の姿を見る。
大きな翼。
巨大なクレーンアーム。
胸についた筐体。
人間だった頃とは。
まるで違う姿。
「これを?」
「うん!」
「写真に残すのか?」
「うん!」
「…………」
モズキャッチャーが、少し嫌そうな顔をした。
「何で?」
「恥ずかしくない?」
「今さら!?」
「今まで気にしてなかったから」
「じゃあ大丈夫!」
「何が大丈夫なんだよ」
則人が笑った。
◇
「はい、そこ立って!」
「ここ?」
「もうちょっと右!」
モズキャッチャーが右へ動く。
「行きすぎ!」
「じゃあ、どこだよ!」
「ちょっと左!」
「面倒くさいな!」
「写真なんだから、ちゃんとして!」
「何でお前が仕切ってるんだよ!」
則人は何度も位置を確かめる。
「翼、広げて!」
「こう?」
ばさっ。
「おおー!」
「撮るんじゃなかったのか?」
「あ、そうだった!」
「大丈夫か?」
「大丈夫!」
「その返事、不安になるんだよな」
「いくよ!」
則人が構える。
「笑って!」
「嫌だよ」
「じゃあ、かっこいい顔!」
「どうやって?」
「こう!」
則人が眉を寄せ。
ものすごく真剣な顔を作る。
「…………」
「どう?」
「変な顔」
「ひどい!」
思わず。
モズキャッチャーが吹き出した。
「あっ! 今!」
「え?」
ぱしゃっ。
「撮った!」
「お前、勝手に!」
「笑ってる方がいいじゃん!」
「消せ!」
「嫌!」
「消せ!」
「絶対残す!」
則人が逃げる。
「待て!」
モズキャッチャーが追う。
「こら! 人間に戻す前に何をやっておる!」
ぬらりひょんの声が響いた。
◇
しばらくして。
則人は撮った写真を見ていた。
「これなら大丈夫!」
「何が?」
「見たら、きっと思い出すよ」
「本当に?」
「たぶん!」
「また、たぶんか」
モズキャッチャーも写真を見る。
そこには。
大きな翼とクレーンアームを持った自分がいる。
けれど。
欲しいものへ手を伸ばしていた時の顔ではない。
笑っている。
「…………」
「どう?」
「変な顔」
「自分で言うの!?」
「でも」
モズキャッチャーは、もう一度写真を見る。
「これだけじゃ分からないかも」
「何が?」
「何で俺がこうなったのか」
「…………」
則人も写真を見る。
確かに。
姿は残る。
けれど。
この姿で。
何をして。
何を間違えて。
最後に何を考えたのか。
そこまでは。
一枚の写真だけでは分からない。
「じゃあ……」
則人が言った。
「書けばいいじゃん!」
「書く?」
「うん!」
「何を?」
「モズキャッチャーが、忘れたくないこと!」
◇
則人は紙とペンを用意した。
「はい!」
「俺が書くの?」
「もちろん!」
「何て?」
「それは自分で考えるんだよ!」
「さっきまで全部お前が考えてただろ」
「これは自分で考えないとダメ!」
「…………」
モズキャッチャーはペンを見る。
そして。
自分の手を見る。
巨大なクレーンアーム。
「これで?」
「あ」
「…………」
「…………」
則人もクレーンアームを見る。
「書けないね」
「今気づいたのか?」
「じゃあ、ぼくが書く!」
「結局お前かよ」
「言って! ぼくが書くから!」
則人は紙の前に座った。
「何て書く?」
「…………」
モズキャッチャーは考える。
人間に戻った自分へ。
何を伝えたいのか。
何を忘れたくないのか。
「欲しいものを……」
「うん」
則人がペンを構える。
「全部取るな」
「…………」
「何?」
「なんか先生みたい」
「お前が書けって言ったんだろ!」
「続きは?」
「…………」
モズキャッチャーは、少し考える。
「欲しいって思うのは……」
「うん」
「別にいい」
則人が書く。
「でも」
「うん」
「取る前に」
言葉が止まる。
ほんの少し。
考えて。
「一回、考えろ」
則人のペンが止まった。
「それでいいの?」
「ああ」
「もっとかっこよくしなくていい?」
「何で?」
「『心の声を聞け!』とか!」
「いらない」
「『その手は奪うためにあるんじゃない!』とか!」
「お前が書きたいだけだろ」
「ちょっと!」
「普通でいい」
「そっか」
則人は。
ゆっくりと続きを書いた。
『欲しいと思うのは、別にいい。
でも。
取る前に、一回考えろ。』
モズキャッチャーが読む。
「…………」
「どう?」
「いい」
「ほんと?」
「ああ」
則人が笑った。
◇
「最後に名前!」
「名前?」
「誰が書いたか分からなくなるでしょ」
「俺が言ったんだけど」
「じゃあ、『モズキャッチャーより』?」
「人間に戻った俺が見たら、意味分かるのか?」
「…………」
「…………」
「じゃあ、どうしよう」
「そこまで考えてなかったな」
「うん」
「認めるの早いな」
則人は考える。
そして。
紙の下に、大きく書いた。
『モズキャッチャーだった自分へ』
「これなら?」
「…………」
モズキャッチャーが、その文字を見る。
「変な感じだな」
「なんで?」
「まだ俺、モズキャッチャーなのに」
「今はね」
「…………」
「でも、人間に戻ったら」
則人が言う。
「昔の自分から届いた手紙みたいになるよ」
「昔って、数分前だろ」
「細かいことはいいの!」
「お前、よくそれ言うな」
二人が笑った。
◇
則人は。
写真と手紙を並べた。
「よし!」
「これで終わり?」
「うん!」
「今度こそ?」
「たぶん!」
「おい」
「今度こそ!」
則人が慌てて言い直す。
天狗が、待ちくたびれた顔で口を開いた。
「もうよいか?」
「いいよ!」
「本当じゃな?」
「うん!」
「途中でまた何か思いつくなよ!」
「分かってる!」
則人は。
ピコピコハンマーを握る。
そして。
モズキャッチャーの前へ立った。
「じゃあ」
「…………」
「今度こそ戻すね」
モズキャッチャーは。
写真を見る。
手紙を見る。
それから。
自分のクレーンアームを見る。
「…………」
欲しいものを見つけるたび。
何でもつかもうとした腕。
欲しくなったら。
止まれなかった。
けれど。
最後には。
自分で止めることができた。
欲しいと思っても。
その次に。
考えることができた。
「うん」
モズキャッチャーが答えた。
「頼む」
則人が。
ピコピコハンマーを持ち上げる。
ぽこん。
今度は。
ちゃんと。
モズキャッチャーに当たった。
「…………!」
身体が。
淡い光に包まれる。
大きな翼が。
ゆっくりと消えていく。
胸の筐体も。
巨大なクレーンアームも。
少しずつ。
人間の形へ戻っていく。
「戻る……!」
則人が声を上げた。
光が。
さらに強くなる。
モズキャッチャーは。
消えていく自分のクレーンアームを見る。
欲しいものを。
つかむために伸ばし続けた腕。
最後には。
自分の意思で。
止めることができた腕。
「…………」
忘れたくない。
そう思った。
この姿そのものではない。
この姿で。
自分が何をしたのか。
何を間違えたのか。
そして。
最後に。
何を選んだのか。
そのことだけは。
忘れたくなかった。
次の瞬間。
光が。
すべてを包んだ。
写真と。
短い手紙だけを。
そこに残して。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




