第2話「戻る前に」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、天狗がピコピコハンマーを投げ損ねたら」
第2話「戻る前に」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「今度は、お主が取りに来い」
天狗は、ピコピコハンマーを握ったまま言った。
「えー!」
則人が声を上げる。
「そこまで行くの?」
「そうじゃ」
「投げた方が早いじゃん」
「投げん!」
「なんで?」
「二度と失敗せんためじゃ!」
「やっぱり怖くなったんじゃん!」
「違う!」
「じゃあ投げてよ」
「断る!」
「怖いんじゃん!」
「うるさい!」
ぬらりひょんが、深いため息をついた。
「いつまでやっておる」
「だって天狗が!」
「則人!」
「ほれ。さっさと取りに行かんか」
「はーい」
則人が歩き出す。
その後ろから。
「走らんか!」
天狗の声が飛んだ。
「どっちなの!?」
モズキャッチャーが。
また少し笑った。
◇
則人が天狗のところまで行く。
「はい」
「落とすでないぞ」
「天狗に言われたくない」
「何か言ったか?」
「何でもない!」
則人は、ピコピコハンマーを受け取った。
これで。
今度こそ。
モズキャッチャーを人間へ戻せる。
「じゃあ、戻すね!」
則人が振り返る。
「…………」
モズキャッチャーは。
その場に立っていた。
「どうしたの?」
「いや」
「すぐ終わるよ」
「…………」
モズキャッチャーは、自分の身体を見る。
大きな翼。
胸の筐体。
クレーンアーム。
人間だった自分とは。
まったく違う姿。
「ねえ」
「何?」
「戻ったら」
モズキャッチャーが聞いた。
「俺、この姿だった時のこと、覚えてるのか?」
「え?」
則人の手が止まった。
「どうなんだろ」
「知らないのか?」
「うん」
「お前、戻すって言ってたじゃん」
「戻せるのは知ってるよ!」
「その後のことは?」
「…………」
「知らない?」
「…………うん」
「大丈夫なのか?」
「たぶん!」
「その『たぶん』が怖いんだけど」
「大丈夫だよ!」
「今度は『たぶん』もなくなったな」
「細かいなあ!」
ぬらりひょんが二人を見る。
「気になるか?」
「…………」
モズキャッチャーが、ぬらりひょんを見る。
「少し」
「ならば、聞いておけばよい」
「何を?」
「今、気になっておることをじゃ」
「…………」
則人も、ピコピコハンマーを下ろした。
◇
「じゃあ」
則人が言う。
「戻る前に、聞きたいことある?」
「俺が?」
「うん」
「…………」
モズキャッチャーは考える。
本来なら。
こんな時間はなかった。
天狗がハンマーを投げる。
則人が受け取る。
そして。
すぐに人間へ戻っていた。
けれど。
ハンマーが外れた。
たった、それだけで。
自分には。
考える時間ができてしまった。
「俺は……」
モズキャッチャーが、自分のクレーンアームを見る。
「何で、こんなに欲しがってたんだ?」
「え?」
「何でも」
モズキャッチャーは続ける。
「見つけたら欲しくなった」
「うん」
「欲しくなったら、取ろうとした」
「うん」
「取ったら、離したくなくなった」
「…………」
「でも」
クレーンアームが。
ゆっくり開く。
「今は、それが変だったって分かる」
則人は黙って聞いていた。
「じゃあ」
モズキャッチャーが聞く。
「どっちが俺なんだ?」
「どっち?」
「欲しがってた俺と」
少し間を置く。
「今の俺」
「…………」
則人は考えた。
難しいことは分からない。
けれど。
目の前にいるのは。
ずっと同じモズキャッチャーだ。
「どっちもじゃない?」
「え?」
「だって、どっちもモズキャッチャーでしょ?」
「そういう話じゃなくて」
「でも、そうじゃないの?」
則人は首を傾げる。
「欲しくなったのも本当で」
「…………」
「今、変だったって思ってるのも本当」
「…………」
「だったら、どっちも本当なんじゃない?」
モズキャッチャーは答えなかった。
ぬらりひょんが、少しだけ笑う。
「子どもの方が、案外難しいことを簡単に言うものじゃな」
「難しいこと?」
「お主は分からんままでよい」
「なんで!?」
「その方がお主らしい」
「それ褒めてる?」
「さてのう」
「ぬらりひょん!」
◇
モズキャッチャーは。
少し離れた場所で言い合っている二人を見た。
「…………」
不思議だった。
少し前まで。
欲しいものしか見えていなかった。
誰が何を言っても。
関係なかった。
欲しい。
取る。
自分のものにする。
それだけ。
なのに。
今は。
則人の言葉が残っている。
どっちも本当。
「…………」
モズキャッチャーが呟く。
「じゃあ、人間に戻っても……」
「ん?」
則人が振り返る。
「また何か欲しくなるのかな」
「なるんじゃない?」
則人は即答した。
「人間だって欲しいものあるもん」
「お前も?」
「あるよ!」
「何が欲しい?」
「えっとね――」
則人が考える。
「新しいゲーム!」
「…………」
「あと、お菓子!」
「…………」
「それから、かっこいい変身ポーズ!」
「それは買えないだろ」
「練習するの!」
「欲しいものなのか、それ」
「欲しい!」
モズキャッチャーが笑った。
「変なやつ」
「だからモズキャッチャーに言われたくない!」
則人も笑う。
それから。
少しだけ真面目な顔になった。
「でも」
「ん?」
「欲しいって思っても、取っちゃダメなものは取らないよ」
「…………」
「お金がいるなら買うし」
「うん」
「買えなかったら我慢する」
「うん」
「たまに、お母さんにお願いする」
「最後だけ急に子どもだな」
「子どもだもん!」
「そうだった」
「忘れないでよ!」
モズキャッチャーは。
自分のクレーンアームを見る。
「欲しくなることが悪いんじゃないのか」
「ぼくはそう思うけど」
「じゃあ」
モズキャッチャーが言った。
「欲しくなった後に、どうするか?」
「うん!」
「それを自分で決める?」
「そう!」
「…………」
欲しいという気持ちそのものは。
なくならないのかもしれない。
人間に戻っても。
きっと。
何かを欲しいと思う。
それでも。
その先は。
自分で選べる。
「…………」
その言葉が。
少しだけ。
自分の中に残った。
◇
「さて」
ぬらりひょんが言った。
「そろそろよいかの?」
「あ」
則人が、自分の手を見る。
まだ。
ピコピコハンマーを持っていた。
「忘れてた!」
「忘れるな!」
天狗が叫ぶ。
「誰のせいでこんな話になったと思ってるの!」
「わしのせいではない!」
「投げ損ねたじゃん!」
「それとこれとは別じゃ!」
「同じだよ!」
「もうよい!」
ぬらりひょんが二人を止める。
則人は。
改めてモズキャッチャーを見る。
「今度こそ、戻す?」
「…………」
モズキャッチャーは。
すぐには答えなかった。
そして。
自分の姿を。
もう一度見る。
翼。
筐体。
クレーンアーム。
この姿になって。
欲しいという気持ちに振り回された。
誰かのものを取ろうとした。
自分でも。
止められないほどに。
それでも。
最後には。
自分で止まることができた。
「…………」
「モズキャッチャー?」
「覚えておきたい」
「何を?」
「今のこと」
「…………」
「人間に戻っても」
モズキャッチャーは言った。
「俺が、こうなったこと」
「うん」
「欲しいものばっかり追いかけてたこと」
「うん」
「それで」
少しだけ。
クレーンアームを握る。
「自分で止まれたことも」
則人が笑った。
「じゃあ、忘れないようにしよう」
「どうやって?」
「え?」
「人間に戻ったら覚えてるか、分からないんだろ?」
「…………」
「…………」
「どうしよう?」
「お前、そこまで考えてなかったのか?」
「今から考える!」
「またそれか」
モズキャッチャーが笑った。
◇
「そうだ!」
則人が声を上げた。
「何じゃ?」
天狗が聞く。
「何か残せばいいんだよ!」
「残す?」
「うん!」
則人はモズキャッチャーを見る。
「人間に戻って忘れちゃっても、見たら思い出せるもの!」
「そんなものあるのか?」
「今から作る!」
「何を?」
「それは……」
則人が止まる。
「…………」
「…………」
「今から考える!」
「やっぱりそれか!」
モズキャッチャーの笑い声が。
今度は。
はっきり聞こえた。
本来なら。
もう。
人間へ戻っていたはずだった。
天狗がピコピコハンマーを投げる。
則人が受け取る。
そして。
モズキャッチャーを元の姿へ戻す。
ほんのわずかな時間で。
終わっていたはずだった。
けれど。
天狗が。
たった一度。
ピコピコハンマーを投げ損ねた。
その失敗が。
モズキャッチャーに。
本来なら存在しなかった時間を与えた。
人間へ戻る前に。
自分が何をしていたのか。
何を感じていたのか。
何を間違えたのか。
そして。
何を忘れたくないのか。
考えるための時間。
失敗したから。
生まれた時間。
もし。
あのハンマーが。
最初からきれいに則人の手へ届いていたら。
この時間は。
どこにも存在しなかった。
「何を残そうか?」
則人が聞く。
「知らない」
「一緒に考えようよ!」
「お前、さっき自分で考えるって言ってただろ」
「一人より二人の方がいいじゃん!」
「都合いいな」
「いいの!」
「…………」
モズキャッチャーは。
また少し笑った。
人間へ戻るまで。
あと少し。
けれど。
その「あと少し」は。
思っていたより。
大切な時間になるのかもしれなかった。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




