第1話「届かなかったハンマー」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、天狗がピコピコハンマーを投げ損ねたら」
第1話「届かなかったハンマー」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
モズキャッチャーは。
もう、何かをつかもうとはしていなかった。
欲しい。
手に入れたい。
絶対に離したくない。
そんな気持ちに振り回されていた自分から。
ほんの少しだけ。
自分の意思で離れることができた。
「…………」
則人は、そんなモズキャッチャーを見上げる。
そして。
少し離れたところにいる天狗へ目を向けた。
天狗の手には。
ピコピコハンマーがある。
着ぐるみモンスターを、元の人間へ戻すための不思議なハンマー。
「天狗!」
「分かっておる!」
天狗が答える。
ハンマーを則人へ渡す。
あとは。
則人がモズキャッチャーを、ぽこんと叩けばいい。
それだけだった。
天狗がピコピコハンマーを持ち上げる。
「則人、いくぞ!」
「うん!」
則人が両手を出した。
「それっ!」
天狗が投げる。
ひゅん。
ピコピコハンマーが宙を飛ぶ。
則人が構えた。
「よし――」
ところが。
ハンマーは、その両手の少し上を通り過ぎた。
「え?」
「え?」
則人と天狗が、同時に声を上げる。
ぽすっ。
ピコピコハンマーは。
少し離れた植え込みの中へ消えた。
「…………」
則人が植え込みを見る。
天狗も見る。
「…………」
「…………」
それから。
則人が、ゆっくり天狗を見る。
「天狗」
「なんじゃ」
「今の……」
「…………」
「投げるの失敗した?」
「…………」
天狗が顔をそらした。
「少し手元が狂っただけじゃ」
「失敗したんだ」
「手元が狂っただけじゃ!」
「それを失敗って言うんじゃないの?」
「うるさい!」
則人は、思わず笑いそうになった。
「こんな時に失敗する?」
「誰にでも失敗くらいあるわ!」
「でも、今はダメでしょ!」
「わしだって好きで外したわけではない!」
二人が言い合う。
その横で。
モズキャッチャーは、ただ立っていた。
「…………」
何も起こらない。
当然だった。
ピコピコハンマーは、まだ誰にも当たっていない。
だから。
モズキャッチャーは。
モズキャッチャーのままだった。
◇
「取ってくる!」
則人が植え込みへ走る。
がさがさ。
「どこ?」
「今、入ったところじゃ!」
「分かってるよ!」
「なら早く探せ!」
「天狗が失敗したんだから、天狗も探してよ!」
「探しておる!」
がさがさ。
がさがさ。
「ない!」
「そんなはずはない!」
「もっと奥に入ったんじゃない?」
「そんなに強く投げておらん!」
「でも、ぼくのところ通り越したよ!」
「…………」
「結構強かったんじゃない?」
「細かいことを言うでない!」
「細かくないよ!」
ぬらりひょんが、その様子を見ながら深いため息をついた。
「何をやっておるんじゃ、お主らは」
「天狗が外した!」
「則人!」
「本当じゃん!」
「わざわざ報告するでない!」
ぬらりひょんが額を押さえる。
「まったく……」
その間も。
モズキャッチャーは。
まだそこにいる。
◇
「…………」
モズキャッチャーは、自分の身体を見る。
大きな翼。
胸の筐体。
巨大なクレーンアーム。
何一つ。
さっきまでと変わっていない。
則人が植え込みから顔を出した。
「ちょっと待っててね!」
「何を?」
「今、ハンマー探してるから!」
「ハンマー?」
「うん!」
モズキャッチャーは、植え込みを見る。
さっき。
赤いハンマーが飛んでいったのは見えていた。
「それ、何に使うんだ?」
「モズキャッチャーを戻すの!」
「戻す?」
「人間に!」
「…………」
モズキャッチャーは、自分の身体へ目を落とした。
「俺、人間に戻れるの?」
「戻れるよ!」
則人は、何でもないことのように答えた。
「これまでの着ぐるみモンスターも、みんな戻ってるもん!」
「…………」
「だから、ちょっと待ってて!」
則人はまた植え込みへ潜る。
がさがさ。
「どこ行ったのー!」
「もっと右じゃ!」
「右って、どっちから見て!?」
「わしから見てじゃ!」
「分かんないよ!」
「そこじゃ! そこ!」
「ないって!」
また。
騒がしい声が始まった。
◇
モズキャッチャーは。
一人。
自分のクレーンアームを見つめた。
人間に戻る。
さっきまで。
そんなことは、ほとんど考えていなかった。
欲しいものを見つける。
取る。
離さない。
そればかりだった。
けれど。
今は。
その「欲しい」から。
ほんの少しだけ離れている。
そして。
次には。
人間へ戻る。
そのはずだったらしい。
「…………」
なのに。
ハンマーは見つからない。
「変なの」
モズキャッチャーが呟く。
ほんの少し前までなら。
自分がこんな姿でいることさえ、気にならなかった。
けれど。
「人間に戻る、か……」
言葉にすると。
急に。
その先のことが気になった。
人間に戻ったら。
自分は、どうするのだろう。
何をするのだろう。
そして。
何を欲しがるのだろう。
「…………」
答えは。
まだ出なかった。
◇
「あったー!」
則人の声が響いた。
「本当か!?」
「……あ」
「どうした?」
「違った」
則人が植え込みから出てくる。
手には。
赤いもの。
「何じゃ、それは」
「おもちゃのスコップ」
「なぜそんなものが入っておる!」
「ぼくに聞かないでよ!」
天狗が頭を抱える。
モズキャッチャーは、その様子を見て。
ふっと笑った。
「…………?」
則人が気づく。
「今、笑った?」
「別に」
「笑ったよね?」
「笑ってない」
「笑った!」
「うるさいな」
則人も笑った。
そして。
ふと気づく。
もし。
天狗がちゃんとハンマーを投げていたら。
今頃。
モズキャッチャーは、もう人間へ戻っていた。
こんなふうに。
少し笑ったり。
話したり。
そんな時間は。
なかったのかもしれない。
◇
「ねえ」
則人が聞いた。
「何?」
「人間に戻ったら、何したい?」
「…………」
モズキャッチャーが止まる。
「何って?」
「だって、戻るんでしょ?」
「たぶん」
「だったら、そのあと」
「…………」
考えたことがなかった。
人間だった頃。
何をしていたのか。
何が好きだったのか。
何を大切にしていたのか。
何を欲しがっていたのか。
「分からない」
「そっか」
「…………」
「じゃあ、戻ってから考えればいいね!」
「簡単に言うな」
「だって、まだ戻ってないし!」
「それは、お前らがハンマーなくしたからだろ」
「ぼくじゃないよ! 天狗だよ!」
「則人!」
植え込みの向こうから天狗の声が飛ぶ。
「本当のことじゃん!」
「何度も言うでない!」
ぬらりひょんが、また深いため息をついた。
◇
本来なら。
ここで。
すぐに終わるはずだった。
天狗がピコピコハンマーを投げる。
則人が受け取る。
そして。
モズキャッチャーは、人間へ戻る。
ただ。
それだけ。
けれど。
天狗が。
ほんの少しだけ。
投げ損ねた。
それだけで。
モズキャッチャーには。
人間へ戻るまでの。
少しだけ余分な時間ができた。
たった数分かもしれない。
けれど。
本来なら、なかったはずの時間。
その時間の中で。
モズキャッチャーは。
初めて。
人間へ戻ったあとの自分を。
ほんの少しだけ考え始めていた。
「則人!」
「なに?」
「あったぞ!」
「ほんと!?」
「今度こそ本物じゃ!」
「じゃあ投げて!」
「…………」
「どうしたの?」
「…………」
天狗は。
ピコピコハンマーを握ったまま。
則人を見る。
「今度は」
「うん?」
「お主が取りに来い」
「投げないの!?」
「二度と失敗せんためじゃ!」
「それ、失敗するの怖くなっただけじゃない?」
「うるさい!」
本来ならなかったはずの時間は。
もう少しだけ。
続くことになった。
――つづく
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




