第5話「本当に欲しかったもの」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、モズキャッチャーが羽衣を欲しがらなかったら」
第5話「本当に欲しかったもの」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
次の日。
則人は、モズキャッチャーを探していた。
「どこ行ったんだろ……」
昨日までなら。
あの店にいる。
そう思った。
鳥のキーホルダー。
モズキャッチャーが「欲しい」ではなく。
「取り戻したい」
そう感じたもの。
けれど。
店の前に、モズキャッチャーはいなかった。
「あれ?」
則人は辺りを見回す。
店先の箱には。
あのキーホルダーが、まだ残っている。
「じゃあ、どこ行ったんだろ」
その時。
「則人」
後ろから、ぬらりひょんの声がした。
「ぬらりひょん! モズキャッチャー知らない?」
「知らん」
「そっか……」
「じゃが」
「何?」
「探す必要はないかもしれんぞ」
「え?」
ぬらりひょんが、則人の後ろを見る。
則人も振り返った。
「あっ!」
道の向こうから。
モズキャッチャーが歩いてくる。
「どこ行ってたの?」
「ちょっとな」
「ちょっとって?」
「…………」
モズキャッチャーは答えなかった。
代わりに。
クレーンアームを開く。
その中に。
硬貨があった。
「え?」
則人が目を丸くする。
「お金?」
「ああ」
「どうしたの、それ!?」
「もらった」
「誰に!?」
「荷物を運んだ」
「…………」
「…………」
「働いたの!?」
「大声出すな!」
「だって!」
則人が硬貨を見る。
「どうやって?」
「昨日、店から帰る途中で荷物を運んでる人がいた」
「うん」
「重そうだった」
「うん」
「これなら持てると思った」
モズキャッチャーがクレーンアームを見る。
「運んだら、礼だって渡された」
「…………」
則人の顔が、少しずつ明るくなる。
「それって……」
「何だよ」
「キーホルダー買うため?」
「…………」
モズキャッチャーが顔をそらした。
「やっぱり!」
「うるさい」
「買うんだ!」
「まだ足りない」
「じゃあ、もっと貯めるの?」
「…………」
「モズキャッチャー?」
「そのつもりだ」
「すごい!」
「だから大声出すな!」
ぬらりひょんが、くくっと笑った。
◇
それから。
モズキャッチャーは、自分にできることを探し始めた。
重い荷物を運ぶ。
高いところに引っかかったものを取る。
落としてしまったものを拾う。
大きなクレーンアームは。
欲しいものを奪うためではなく。
誰かの役に立つために使われるようになった。
「ありがとう!」
「助かったよ!」
「すごいな、その腕!」
そのたびに。
モズキャッチャーは、少し困ったような顔をした。
まだ。
「ありがとう」と言われることには慣れない。
けれど。
嫌ではなかった。
「…………」
手の中に、硬貨が増えていく。
一枚。
また一枚。
欲しいものへ伸ばしていた腕が。
今は。
欲しいものを手に入れるために。
誰かのために伸びている。
「あとちょっと?」
則人が聞く。
「ああ」
「楽しみだね!」
「お前が買うんじゃないだろ」
「でも楽しみ!」
「変なやつ」
「モズキャッチャーに言われたくない!」
「何でだよ!」
二人の声が響いた。
◇
そして。
数日後。
「足りた」
モズキャッチャーが言った。
「ほんと!?」
「ああ」
クレーンアームの中には。
必要な分の硬貨がある。
「じゃあ行こう!」
「お前も来るのか?」
「もちろん!」
「何で?」
「最初から見てたから!」
「関係あるか?」
「ある!」
「ないだろ」
「あるの!」
言い合いながら。
二人は、あの店へ向かった。
◇
店が見えてきた。
「あった!」
則人が声を上げる。
店先の小さな箱。
その中に。
鳥のキーホルダーは――。
「…………」
なかった。
「あれ?」
則人の足が止まる。
「…………」
モズキャッチャーも動かない。
何度見ても。
ない。
昨日まで。
確かにそこにあった。
あの鳥のキーホルダーが。
なくなっていた。
「ちょ、ちょっと待って」
則人が箱を覗き込む。
「下に入ってるかも」
探す。
けれど。
ない。
「…………」
モズキャッチャーは、黙ったままだった。
店員が出てきた。
「あれ? この前の」
「あの!」
則人が聞く。
「ここにあった鳥のキーホルダーは?」
「ああ、あれ?」
「はい!」
「さっき売れたよ」
「…………」
則人が固まる。
「さっき……?」
「うん。ほんの少し前」
「…………」
則人は、モズキャッチャーを見る。
モズキャッチャーは。
何も言わなかった。
◇
店を離れてからも。
二人は、しばらく無言だった。
「…………」
「…………」
先に口を開いたのは。
則人だった。
「ごめん」
「何でお前が謝るんだよ」
「だって……」
「お前のせいじゃないだろ」
「でも」
「売り物なんだから、誰かが買うこともある」
「…………」
「分かってる」
モズキャッチャーは、自分のクレーンアームを見る。
そこには。
一生懸命集めた硬貨が残っている。
「欲しかったな」
「……うん」
「すごく欲しかった」
「うん」
「取っておけばよかったのかな」
則人が顔を上げる。
「…………」
モズキャッチャーは、前を向いたままだった。
「最初に見つけた時なら、簡単に取れた」
「…………」
「誰も止められなかった」
「うん」
「そうしてたら」
少しだけ。
声が止まる。
「あれは今、俺のものだった」
則人は何も言えなかった。
それは。
本当だった。
奪っていれば。
手に入っていた。
我慢したから。
手に入らなかった。
正しいことをしたからといって。
欲しいものが、必ず手に入るわけではない。
「…………」
モズキャッチャーが足を止める。
「でも」
クレーンアームを開く。
そこにある硬貨を見る。
「これも、なかった」
「え?」
「取ってたら」
モズキャッチャーが言う。
「荷物を運ぶこともなかった」
「…………」
「落としたものを拾うこともなかった」
「…………」
「ありがとうって言われることも」
少し間を置く。
「なかった」
則人が、モズキャッチャーを見る。
「だから」
モズキャッチャーは硬貨を握る。
「分かんない」
「何が?」
「どっちがよかったのか」
「…………」
「あれは欲しかった」
「うん」
「今でも欲しい」
「うん」
「でも」
モズキャッチャーは。
少しだけ笑った。
「取らなくてよかった気もする」
則人も。
少しだけ笑った。
「そっか」
◇
「では」
ぬらりひょんが言った。
「結局、お主が本当に欲しかったものは何だったのじゃろうな」
「分からない」
「またそれ?」
則人が笑う。
「でも」
モズキャッチャーは、自分のクレーンアームを見る。
「前よりは分かる」
「何が?」
「欲しいものを見つけたら」
ゆっくり。
アームを開く。
「取ればいいと思ってた」
「うん」
「取れば、自分のものになる」
「うん」
「でも」
モズキャッチャーは続ける。
「自分のものになったら、それで終わりだった」
「…………」
「欲しいから取る。また欲しくなる。また取る」
「…………」
「ずっと、それだけだった」
ぬらりひょんが黙って聞いている。
「でも今は」
モズキャッチャーは、手の中の硬貨を見る。
「これをどうするか、考えられる」
「何か買う?」
「まだ分からない」
「じゃあ貯める?」
「それも分からない」
「また分からない!」
「うるさい」
則人が笑った。
モズキャッチャーも。
ほんの少しだけ。
笑った。
◇
夕方。
二人は並んで歩いていた。
「ねえ」
「何だよ」
「もし、またあのキーホルダー見つけたら?」
「…………」
「欲しくなる?」
「なる」
「取る?」
モズキャッチャーは少し考えた。
「取らない」
「じゃあ?」
「買う」
「お金足りなかったら?」
「貯める」
「その間に売れちゃったら?」
「…………」
「…………」
「悔しがる」
「そこは普通なんだ!」
「当たり前だろ!」
二人が笑う。
少し後ろを歩いていたぬらりひょんも。
小さく笑った。
もし。
あの時。
モズキャッチャーが羽衣を欲しがっていたら。
物語は、本編と同じ方向へ進んでいたのかもしれない。
けれど。
この世界のモズキャッチャーは。
羽衣を欲しがらなかった。
だから。
則人は知ることになった。
欲しいと思うことは。
悪いことではない。
欲しいという気持ちは。
なくさなくてもいい。
けれど。
欲しいものを。
どうやって手に入れるのか。
手に入らなかった時。
どうするのか。
そして。
自分の手を。
何のために使うのか。
それを決めるのは。
自分自身なのだと。
その時。
風が吹いた。
「あっ!」
少し離れたところで。
子どもの帽子が飛ばされた。
帽子は風に乗り。
高い木の枝に引っかかった。
「どうしよう……」
子どもが困った顔で見上げる。
「…………」
モズキャッチャーが立ち止まった。
クレーンアームが伸びる。
以前なら。
欲しいものへ伸びていた腕。
今は。
誰かが困っている場所へ。
まっすぐ伸びていく。
がしっ。
帽子をつかむ。
枝から外し。
ゆっくりと。
子どもの前まで下ろした。
「取れたぞ」
「ありがとう!」
帽子を受け取った子どもが笑う。
「…………」
モズキャッチャーは。
空になったクレーンアームを見る。
何も。
手に入らなかった。
何も。
自分のものにはならなかった。
それなのに。
胸の奥には。
何かが残っていた。
「モズキャッチャー?」
「何でもない」
「ほんと?」
「ああ」
モズキャッチャーは歩き出す。
則人も、その隣を歩く。
空になったクレーンアームが。
夕日の中で揺れていた。
何もつかんでいない。
けれど。
もう。
何も持っていないようには。
見えなかった。
――Another Story 完
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




