第4話「欲しいものを見つけても」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、モズキャッチャーが羽衣を欲しがらなかったら」
第4話「欲しいものを見つけても」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
次の日。
モズキャッチャーは、またあの店の前にいた。
「…………」
店先の小さな箱。
その中には。
昨日と同じ、鳥のキーホルダーがある。
「まだあった」
後ろから声がした。
モズキャッチャーが振り返る。
「……お前、いつからいた?」
「今来た!」
則人だった。
「また見に来たの?」
「見るだけだ」
「ほんと?」
「取らない」
「まだ何も言ってないよ」
「言う顔してた」
「どんな顔!?」
則人はモズキャッチャーの隣に並んだ。
二人で、鳥のキーホルダーを見る。
「やっぱり欲しい?」
「ああ」
「昨日より?」
「分からない」
「じゃあ、取り戻したい?」
「…………」
モズキャッチャーは答えなかった。
ただ。
キーホルダーから目を離せない。
欲しい。
手に入れたい。
その気持ちは変わらない。
けれど。
昨日までとは、少し違っていた。
クレーンアームが動かない。
「今日は動かないね」
「何が?」
「腕」
「…………」
モズキャッチャーが、自分のクレーンアームを見る。
「本当だ」
「自分で気づいてなかったの!?」
則人が驚く。
「昨日は、すぐ伸びてたじゃん」
「そうだったか?」
「そうだよ!」
モズキャッチャーは、もう一度キーホルダーを見る。
欲しい。
それでも。
手は動かない。
「変なの」
「いいことじゃない?」
「欲しいのに?」
「欲しいからって、絶対取らなきゃいけないわけじゃないでしょ」
「…………」
モズキャッチャーは黙った。
◇
その時だった。
「すみませーん!」
店の奥から声がした。
一人の店員が、大きな箱を抱えて出てくる。
箱の中には、店頭へ並べるらしい商品がぎっしり入っていた。
「よいしょ……っと」
店員が箱を置く。
その拍子に。
ころん。
何かが地面へ落ちた。
「あっ」
則人が気づいた。
小さなキーホルダーだった。
店員は気づかない。
そのまま店の中へ戻っていく。
「落ちたよ」
則人が言う。
「…………」
モズキャッチャーも見ていた。
地面に落ちたキーホルダー。
鳥ではない。
小さな車の形をしている。
「どう?」
「何が?」
「欲しい?」
「いらない」
「じゃあ、拾ってあげよう」
則人が近づこうとした。
だが。
その前に。
クレーンアームが伸びた。
「え?」
がしっ。
アームがキーホルダーをつかむ。
則人が目を丸くした。
「モズキャッチャー?」
「いらない」
「でも取ったよ?」
「…………」
モズキャッチャーは、自分のアームを見る。
確かに。
キーホルダーをつかんでいる。
「欲しくないのに取ったの?」
「…………」
「なんで?」
「分からない」
モズキャッチャーの顔が曇る。
欲しくない。
なのに。
目の前にあるものを、反射的につかんでいた。
「…………」
則人も黙った。
昨日まで。
二人は「欲しいもの」のことばかり考えていた。
けれど。
もしかしたら。
問題は、そこだけではないのかもしれない。
「返そう」
則人が言った。
「…………」
「それ、お店の人のだから」
「ああ」
モズキャッチャーは店へ向かった。
◇
「これ」
店員が振り返る。
「え?」
目の前に立つモズキャッチャーを見て、一瞬ぎょっとする。
そのクレーンアームには、店の商品がつかまれていた。
「落ちた」
「あ……!」
店員が気づく。
「それ、さっきの箱から?」
「たぶん」
「拾ってくれたの?」
「…………」
モズキャッチャーが少し考える。
「勝手につかんだ」
「え?」
「でも、いらないから返す」
「モズキャッチャー!」
則人が慌てる。
「もうちょっと言い方あるでしょ!」
「本当のことだろ」
「そうだけど!」
店員は二人を交互に見て。
それから。
少しだけ笑った。
「ありがとう」
「…………」
モズキャッチャーが止まった。
「ありがとう?」
「うん。落としたの、気づいてなかったから」
「…………」
「助かったよ」
店員はキーホルダーを受け取った。
モズキャッチャーは、空になったクレーンアームを見つめる。
「どうしたの?」
則人が聞いた。
「分からない」
「また?」
「でも……」
モズキャッチャーは、自分の胸へ手を当てた。
「今のは、嫌じゃなかった」
「返したこと?」
「たぶん」
「そっか」
則人が笑った。
「取るだけじゃなくて、返すこともできるんだね」
「当たり前だろ」
「昨日までできなかったじゃん」
「うるさい」
「できなかったじゃん!」
「二回言うな!」
◇
店を離れようとした時。
モズキャッチャーの足が、また止まった。
「…………」
あの鳥のキーホルダー。
まだ。
そこにある。
則人も気づいた。
「欲しい?」
「ああ」
「取る?」
「取らない」
今度は。
迷わなかった。
則人が少し驚く。
「すぐ答えた」
「取ったら、あいつのものじゃなくなる」
「お店の人?」
「ああ」
「売り物だからね」
「それに」
モズキャッチャーは、さっき商品を返した自分のアームを見る。
「取るより」
「うん」
「返した方が、変な感じがしなかった」
「変な感じ?」
「うまく言えない」
「じゃあ、いい感じ?」
「それも違う」
「難しいなあ」
「お前が聞いたんだろ」
則人は笑った。
そして。
もう一度、鳥のキーホルダーを見る。
「いつか、ちゃんと買えるといいね」
「…………」
「欲しいんでしょ?」
「ああ」
「だったら、取らないで手に入れようよ」
「どうやって?」
「お金を貯める!」
「俺、金ないぞ」
「だから貯めるんだよ!」
「どうやって?」
「え?」
則人が止まる。
「…………」
「…………」
「どうしよう?」
「考えてなかったのかよ」
「今から考える!」
「大丈夫か?」
「大丈夫!」
「その返事、前にも聞いたぞ」
「今度は大丈夫!」
「余計不安だ」
二人は店を離れた。
◇
帰り道。
ぬらりひょんが待っていた。
「どうじゃった?」
「取らなかったよ!」
則人が答える。
「ほう」
「それだけじゃないよ。落ちた商品を拾って、お店の人に返した!」
「ほうほう」
「でも最初は勝手につかんだ」
「それは言わなくていいだろ!」
モズキャッチャーが叫ぶ。
ぬらりひょんが、くくっと笑った。
「なるほどのう」
「何が?」
「少しずつ変わっておるということじゃ」
「俺が?」
「そうじゃ」
「何も変わってない」
「そうかのう?」
ぬらりひょんは、モズキャッチャーのクレーンアームを見る。
「以前のお主なら、手にしたものを返したか?」
「…………」
「欲しいものを目の前にして、自分から手を伸ばさずにいられたか?」
「…………」
モズキャッチャーは答えない。
「欲しいという気持ちが消えたわけではない」
「うん」
則人が頷く。
「じゃが、それでよいのかもしれん」
「え?」
「欲しいと思うことと、奪うことは別じゃ」
モズキャッチャーが顔を上げる。
「欲しいものを見つけても」
ぬらりひょんは言った。
「その後どうするかは、自分で決められる」
「…………」
モズキャッチャーは、しばらく自分のクレーンアームを見つめていた。
◇
その日の夜。
モズキャッチャーは、一人だった。
目を閉じる。
浮かんでくるのは。
あの鳥のキーホルダー。
欲しい。
今でも。
欲しい。
けれど。
もう。
勝手に取りに行こうとは思わなかった。
「…………」
代わりに思い出したのは。
店員の言葉だった。
『ありがとう』
たった一言。
なのに。
妙に残っている。
「……変なの」
モズキャッチャーは呟いた。
取った時より。
返した時の方が。
胸の中に何かが残った。
欲しいものを手に入れたわけでもない。
何かをもらったわけでもない。
それなのに。
「…………」
クレーンアームを見る。
これは。
ものを取るためだけの腕なのだろうか。
欲しいものをつかむためだけの腕なのだろうか。
今日。
この腕は。
初めて。
誰かのものを、その人のところへ返した。
欲しいものを見つけても。
取らない。
手が届いても。
伸ばさない。
そして。
つかんでしまっても。
返すことができる。
欲しいという気持ちは。
まだ消えていない。
消す必要も。
ないのかもしれない。
大切なのは。
欲しいと思った、その次に。
自分が何を選ぶのか。
取るのか。
諦めるのか。
それとも。
いつか、ちゃんと手に入れるのか。
少しずつ。
本当に少しずつ。
モズキャッチャーの中で。
「欲しい」の意味が。
変わり始めていた。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




