第3話「欲しいもの、欲しかったもの」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、モズキャッチャーが羽衣を欲しがらなかったら」
第3話「欲しいもの、欲しかったもの」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
次の日。
「今日は実験します!」
則人が宣言した。
「またかよ」
モズキャッチャーが、面倒そうに答える。
「昨日だけじゃ、まだ分かんないもん」
「何が?」
「モズキャッチャーが、何を欲しがるのか!」
「そんなの俺にも分からない」
「だから調べるんだよ!」
則人の前には、いろいろなものが並べられていた。
きれいな石。
新品の鉛筆。
小さなボール。
カード。
お菓子。
どれも則人が家から持ってきたものだ。
「まず、これ!」
則人がカードを見せる。
「どう?」
「いらない」
「じゃあ、ボール!」
「いらない」
「お菓子!」
「いらない」
「鉛筆!」
「いらない」
「きれいな石!」
「昨日もやっただろ」
「あ、そうだった」
「忘れるなよ」
則人は腕を組んだ。
「うーん……」
昨日。
モズキャッチャーは、古い鳥のキーホルダーを欲しがった。
それも。
クレーンアームを伸ばしかけるほど、強く。
なのに。
今日並べたものには、まるで反応しない。
「やっぱり、値段じゃないんだ」
「当たり前じゃ」
ぬらりひょんが横から言った。
「高価なものを欲しがるのであれば、羽衣に興味を示さなかった説明がつかん」
「じゃあ、珍しいもの?」
「それも違うじゃろうな」
「じゃあ、何?」
「それを調べておるのではなかったか?」
「あ、そっか」
モズキャッチャーが呆れた。
「お前、本当に大丈夫か?」
「大丈夫!」
「不安になる返事だな」
「なんで!?」
◇
「じゃあさ」
則人は少し考えてから言った。
「昨日のキーホルダー、もう一回見に行こうよ」
「…………」
モズキャッチャーの表情が、ほんの少しだけ変わった。
「あっ!」
「何だよ」
「今、行きたいって顔した!」
「してない」
「した!」
「してない」
「じゃあ行かない?」
「…………」
「ほら!」
「うるさい!」
則人が笑う。
「やっぱり、まだ欲しいんだ」
「悪いかよ」
「悪くないよ」
「…………」
モズキャッチャーが則人を見る。
「人のものを勝手に取るのはダメだけど」
則人は続けた。
「欲しいって思うだけなら、悪くないでしょ?」
「…………」
「昨日、ちゃんと我慢できたし」
モズキャッチャーは何も言わなかった。
「行こう!」
「何しに?」
「見るだけ!」
「欲しくなるぞ」
「取らなきゃいいじゃん」
「簡単に言うなよ」
「じゃあ、ぼくが止める!」
「それじゃ昨日と同じだろ」
「あ」
則人が止まる。
ぬらりひょんが、くくっと笑った。
「今度は自分で止まればよい」
「…………」
モズキャッチャーがぬらりひょんを見る。
「できるか?」
「知らない」
「ならば、試してみることじゃ」
しばらく黙ったあと。
モズキャッチャーは歩き出した。
「行くの?」
「見るだけだ」
「うん!」
則人が、その後を追いかけた。
◇
昨日の店は、今日も開いていた。
店先には、いろいろな品物が並んでいる。
「あった!」
則人が指さした。
小さな箱。
その中に。
昨日と同じ、鳥をかたどった古いキーホルダーがある。
「…………」
モズキャッチャーの足が止まった。
じっと見る。
クレーンアームが。
ぴくり。
動いた。
則人も気づく。
けれど。
今日は飛びつかなかった。
黙って見ている。
「…………欲しい」
「うん」
「すごく欲しい」
「うん」
「取れる」
「取れるね」
「簡単に」
「うん」
「…………」
クレーンアームが、ゆっくり持ち上がる。
則人は何も言わなかった。
止めようともしない。
ただ。
モズキャッチャーを見ている。
「止めないのか?」
「今日は自分で止まるんでしょ?」
「…………」
アームが、また少し動く。
キーホルダーまで。
あと少し。
「…………っ」
モズキャッチャーが歯を食いしばる。
欲しい。
手を伸ばせば届く。
取ろうと思えば、簡単に取れる。
それでも。
「……取らない」
クレーンアームが止まった。
ほんの少し震えて。
やがて。
ゆっくりと引っ込んでいく。
則人の顔が、ぱっと明るくなった。
「できた!」
「大声出すな」
「だって、できたじゃん!」
「欲しいのは変わらない」
「それでもいいじゃん!」
「…………」
モズキャッチャーは、もう一度キーホルダーを見た。
欲しい。
昨日より。
その気持ちは、はっきりしている。
けれど。
同時に。
別の感覚も生まれていた。
欲しい。
でも。
これは、自分のものではない。
だから。
取らない。
昨日までは一つだった気持ちが。
今は二つに分かれている。
欲しいという気持ちと。
それをどうするかという、自分の意思に。
◇
「でも、なんで鳥なんだろう」
店を離れたあと。
則人が聞いた。
「知らない」
「モズだから?」
「何だよ、それ」
「鳥つながり!」
「そんな理由で欲しくなるか?」
「じゃあ違うかあ」
則人は歩きながら考える。
「昨日は、見たことある気がするって言ってたよね」
「……ああ」
「何か思い出した?」
「いや」
「ちょっとも?」
「…………」
モズキャッチャーは黙った。
思い出したわけではない。
けれど。
昨日より。
少しだけ近い。
あの鳥を見ると。
胸の奥に、妙な感覚が残る。
懐かしい。
そう言えばいいのかもしれない。
だが。
何が懐かしいのか。
それが分からない。
その時。
道の向こうから、一人の子どもが歩いてきた。
ランドセルには、いくつものキーホルダーがついている。
星。
動物。
キャラクター。
その中に。
鳥のキーホルダーがあった。
「…………!」
モズキャッチャーが立ち止まる。
「どうしたの?」
則人が振り返った。
モズキャッチャーは、子どものランドセルを見ていた。
「また欲しい?」
「…………違う」
「え?」
「欲しくない」
「鳥なのに?」
「ああ」
子どもは二人の横を通り過ぎていく。
モズキャッチャーは追わなかった。
クレーンアームも動かない。
「じゃあ、鳥なら何でもいいわけじゃないんだ」
「みたいだな」
「ますます分かんない!」
則人が頭を抱える。
その時。
モズキャッチャーが、ぽつりと言った。
「同じじゃない」
「何が?」
「あの店のやつと」
「キーホルダー?」
「ああ」
「どこが違うの?」
「分からない」
「またそれ!?」
「でも、違う」
モズキャッチャーは、自分の胸へ手を当てた。
「こっちは何とも思わない」
「…………」
「でも、あれを見ると……」
言葉が止まる。
「どうなるの?」
「…………」
モズキャッチャーは、しばらく考えた。
欲しい。
確かに欲しい。
でも。
あの気持ちは。
本当に、それだけなのだろうか。
「欲しいっていうより」
「うん」
「…………取り戻したい」
則人が目を瞬いた。
「取り戻したい?」
「…………」
自分で口にして。
モズキャッチャー自身が、一番驚いていた。
欲しい。
ずっと。
そう思っていた。
欲しいから、取る。
欲しいから、離さない。
けれど。
あの鳥のキーホルダーだけは。
何かが違う。
新しく欲しいのではない。
前から知っていた何かを。
もう一度。
自分の手に戻したい。
そんな感覚。
「それって……」
則人の顔から笑みが消える。
「前に持ってたってこと?」
「分からない」
「でも、取り戻したいって思ったんでしょ?」
「……ああ」
少し離れた場所で。
ぬらりひょんが二人を見ていた。
「なるほどのう」
「何か分かったの?」
「まだ何とも言えん」
ぬらりひょんは答える。
「じゃが」
モズキャッチャーへ視線を向けた。
「『欲しい』にも、いろいろあるということかもしれん」
「いろいろ?」
「持っておらんから欲しいもの」
「うん」
「誰かが持っているから欲しくなるもの」
「うん」
「そして――」
ぬらりひょんは、少し間を置いた。
「失くしたから、取り戻したいもの」
「…………」
モズキャッチャーは黙った。
失くした。
その言葉だけが。
妙に胸に残った。
◇
その夜。
モズキャッチャーは、一人で考えていた。
自分は。
何を失くしたのだろう。
物なのか。
誰かなのか。
それとも。
もっと別の何かなのか。
分からない。
思い出せない。
けれど。
あの鳥のキーホルダーを見た時。
確かに。
自分の中の何かが動いた。
「……取り戻したい」
もう一度。
小さく呟く。
欲しい。
今までは。
それだけだった。
欲しいものを見つける。
手を伸ばす。
取る。
けれど。
今は違う。
なぜ欲しいのか。
その理由を。
モズキャッチャー自身が、初めて考え始めていた。
欲しいもの。
欲しかったもの。
そして。
失くしてしまったもの。
その違いを見つけた時。
モズキャッチャーは。
怪人になる前の自分に。
もう一度。
出会えるのかもしれない。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




