第2話「欲しい理由」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、モズキャッチャーが羽衣を欲しがらなかったら」
第2話「欲しい理由」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「待って!」
則人が叫ぶ。
だが。
ばさっ!
モズキャッチャーは大きな翼を広げ、紙袋を持った男へ向かって飛び出した。
「もう!」
則人も慌てて追いかける。
男はまだ、背後で起きていることに気づいていない。
紙袋を片手に、ごく普通に歩いている。
その背中へ。
巨大なクレーンアームが、ゆっくりと伸びていく。
「ダメだって!」
則人がモズキャッチャーの腕へ飛びついた。
「何すんだよ!」
「それ、人のもの!」
「分かってる」
「分かってるのに取るの!?」
「欲しいから」
「それじゃダメでしょ!」
則人が必死に腕を引っ張る。
それでも。
モズキャッチャーの目は、紙袋から離れない。
「離せよ」
「離さない!」
「欲しいんだよ」
「だからって取っちゃダメ!」
「じゃあ、どうすればいい?」
「我慢する!」
「嫌だ」
「即答!?」
その騒ぎに。
ようやく男が気づいた。
振り返った瞬間。
「うわっ!?」
顔が引きつる。
無理もない。
大きな翼。
胸についた筐体。
そして、巨大なクレーンアーム。
そんなモズキャッチャーが、自分の紙袋へ腕を伸ばしている。
その腕には、小学生くらいの少年が必死にしがみついていた。
「な、なんだ!? そいつ!」
「あっ! すみません!」
「すみませんって、何なんだよ!?」
「えっと……!」
則人が答えに詰まる。
その間にも。
モズキャッチャーのクレーンアームが、ぴくりと動いた。
男は反射的に紙袋を胸へ抱え込む。
「ひっ!」
「モズキャッチャー! 動かさない!」
「欲しい」
「今はそれ言わないで!」
男は二人から距離を取ると、逃げるようにその場を離れていった。
紙袋も。
一緒に遠ざかっていく。
「…………」
モズキャッチャーの視線だけが、その背中を追っていた。
「行くなよ」
則人が言う。
「…………」
「絶対、行くなよ」
「…………」
「モズキャッチャー?」
「欲しい」
「それはもう聞いた!」
則人は腕にしがみついたまま、大きくため息をついた。
◇
「で」
少しして。
則人はモズキャッチャーの前に立っていた。
「何が欲しかったの?」
「分からない」
「…………」
「…………」
「分からないのに、あんなに追いかけたの?」
「うん」
「なんで?」
「欲しかったから」
「それじゃ分かんないよ!」
則人が頭を抱える。
その横から。
ぬらりひょんが口を挟んだ。
「ならば、順番に考えてみればよかろう」
「順番?」
「何を見て、欲しいと思ったのかじゃ」
「あ、そっか!」
則人はすぐにモズキャッチャーを見る。
「何を見たの?」
「袋」
「袋が欲しかった?」
「違う」
「じゃあ、中身?」
「たぶん」
「何が見えた?」
「少しだけ」
「だから、その少しが何だったの?」
「分からない」
「また戻った!」
則人が叫ぶ。
ぬらりひょんは、呆れたように髭を撫でた。
◇
それから。
則人は、モズキャッチャーの「欲しい」を調べることにした。
「じゃあ、これは?」
則人が小石を持ち上げる。
「いらない」
「これは?」
木の枝。
「いらない」
「これは?」
落ちていた、形のきれいな葉っぱ。
「いらない」
「じゃあ、これ!」
則人がポケットから小さなおもちゃを取り出す。
「…………」
モズキャッチャーが見る。
「どう?」
「いらない」
「全然欲しがらない!」
「いらないものはいらない」
「羽衣もいらなかったし……」
則人は腕を組んだ。
空を飛べる羽衣。
きれいな葉っぱ。
小さなおもちゃ。
どれにも興味を示さない。
「じゃあ、何なら欲しいんだろ」
「知らない」
「自分のことでしょ!」
「欲しくなるまで分からない」
「そんなの調べられないじゃん!」
則人が頬を膨らませる。
けれど。
ぬらりひょんは、黙ってモズキャッチャーを見ていた。
「欲しくなるまで分からん、か」
「何?」
「いや」
ぬらりひょんは、それ以上何も言わなかった。
◇
その日の夕方。
モズキャッチャーは街を歩いていた。
人間だった頃。
自分は、何を欲しがっていたのだろう。
何かが欲しかった。
何かを手に入れたかった。
そんな気はする。
けれど。
それが何だったのか。
今は、うまく思い出せない。
「…………」
道の向こうに、小さな店が見えた。
店先には、いろいろな品物が並んでいる。
モズキャッチャーは何気なく、その前を通り過ぎようとした。
欲しくない。
これも。
あれも。
別にいらない。
その時だった。
「…………!」
足が止まった。
店の隅。
小さな箱の中に、いくつかの古いキーホルダーが並んでいる。
その中の一つ。
鳥をかたどった、小さなキーホルダー。
「…………」
なぜか。
目が離せない。
胸の奥が、ざわつく。
理由は分からない。
なのに。
「……欲しい」
クレーンアームが、ゆっくりと動き始めた。
「見つけた!」
後ろから、則人の声が飛んでくる。
「また勝手に行った!」
「…………」
「何してるの?」
則人がモズキャッチャーの視線を追う。
そして。
鳥のキーホルダーに気づいた。
「これ?」
「欲しい」
「また?」
「うん」
「じゃあ――」
則人は店を見る。
「買えばいいじゃん」
「買う?」
「そうだよ。お店のものなんだから」
「…………」
「お金ある?」
「ない」
「じゃあ、今は買えないね」
「…………」
クレーンアームが伸びる。
「取るのもダメ!」
則人が即座に腕を押さえた。
「じゃあ、どうするんだよ」
「欲しくても、手に入らないことだってあるよ」
「…………」
「それに」
則人はキーホルダーを見る。
「本当に欲しいなら、ちゃんと手に入れた方がいいじゃん」
「ちゃんと?」
「うん。人のものを勝手に取るんじゃなくて」
モズキャッチャーは、もう一度キーホルダーを見る。
欲しい。
やっぱり欲しい。
手を伸ばせば。
簡単に取れる。
今までなら。
もう取っていた。
「…………」
クレーンアームが止まった。
ほんの少し。
震える。
前へ伸ばそうとする力と。
止めようとする力が。
一本の腕の中で、ぶつかっているようだった。
「…………っ」
やがて。
アームが。
ゆっくりと引っ込んでいく。
則人の目が大きくなった。
「……我慢した」
「うるさい」
「自分で止めた!」
「うるさいって」
「すごいじゃん!」
「欲しいのは変わってない」
「それでも取らなかった!」
「…………」
モズキャッチャーは、不満そうに顔をそらした。
けれど。
クレーンアームは。
もう動かなかった。
◇
店を離れてからも。
モズキャッチャーは引き返さなかった。
「ねえ」
則人が隣を歩きながら聞く。
「なんで、あれが欲しかったの?」
「分からない」
「またそれ?」
「でも……」
モズキャッチャーが足を止めた。
「何?」
「見たことがある気がした」
「キーホルダーを?」
「分からない」
「じゃあ、あの鳥?」
「…………」
モズキャッチャーは答えなかった。
けれど。
あの小さな鳥を見た瞬間。
確かに。
何かが引っかかった。
思い出せない。
何だったのかも分からない。
ただ。
何も知らないものを見た時とは違った。
「欲しいものを調べれば」
則人が言う。
「モズキャッチャーが元に戻る方法も、分かるかもしれないね!」
「そうかな」
「分かんないけど!」
「分かんないのかよ」
「でも、調べよう!」
「お前、楽しんでない?」
「ちょっと!」
「やっぱり」
モズキャッチャーが呆れたように言う。
則人は笑った。
羽衣は欲しくなかった。
けれど。
中身の分からない紙袋には惹かれた。
そして。
古い鳥のキーホルダーにも。
欲しい。
その気持ちは同じなのに。
欲しくなるものと。
欲しくならないものがある。
その違いは。
いったい、どこから生まれるのか。
まだ。
答えは分からない。
ただ一つ。
今日。
確かに変わったことがある。
モズキャッチャーは。
初めて自分から。
欲しいものへ伸ばした手を止めた。
欲しい。
だから、取る。
今までなら。
その二つの間には、何もなかった。
けれど今は。
そこに。
ほんの少しだけ。
考える時間が生まれていた。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




