第1話「それはいらない」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、モズキャッチャーが羽衣を欲しがらなかったら」
第1話「それはいらない」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「返すね」
則人は、肩にまとっていた羽衣へ手をかけた。
天女から借りた、不思議な羽衣。
まとえば身体がふわりと浮かび、空を自由に飛ぶことができる。
名残惜しそうに手を添えてから、則人は羽衣を外した。
「ありがとう! すっごく楽しかった!」
「どういたしまして」
天女が柔らかく微笑む。
則人は両手で羽衣を差し出した。
その瞬間。
「…………」
ちらりと横を見る。
そこには、モズキャッチャーがいる。
大きな翼。
胸についた筐体。
そして、欲しいものをつかみ取るための巨大なクレーンアーム。
則人は思わず、羽衣を胸元へ引き寄せた。
モズキャッチャーは、欲しいものを見つけると止まらない。
欲しい。
そう思ったものへ、迷わず手を伸ばす。
だったら。
空を飛べる、こんな珍しい羽衣を見たら――。
「…………」
則人は身構えた。
ところが。
「…………?」
何も起こらない。
モズキャッチャーは羽衣を見ている。
確かに見ているのだが。
アームを伸ばさない。
一歩たりとも近づいてこない。
「……ねえ」
「何?」
「これ」
則人が羽衣を少し持ち上げた。
「欲しくないの?」
「いらない」
「…………え?」
則人の目が丸くなった。
◇
「いらないの!?」
「いらない」
「これ、飛べるんだよ!?」
「そうなんだ」
「空だよ!? 空!」
「うん」
「すっごく高いところまで行けるんだよ!?」
「へえ」
「ふわふわしてるし!」
「そう」
「…………」
則人は羽衣を見る。
モズキャッチャーを見る。
もう一度、羽衣を見る。
どう考えてもすごい。
少なくとも。
則人なら欲しい。
「なんで?」
「何が?」
「なんで欲しくないの?」
今度は、モズキャッチャーが不思議そうに首を傾げた。
「欲しくないから」
「でも、すごいよ?」
「俺にはいらない」
「ちょっとくらい触ってみたくない?」
「思わない」
「使ってみたいとか!」
「別に」
「じゃあ、もらえるって言われたら?」
「いらない」
「…………」
則人が固まった。
その横で、天女がくすっと笑う。
「則人さん」
「なに?」
「欲しいものは、人によって違うのではありませんか?」
「…………あ」
則人が目を瞬いた。
◇
モズキャッチャーは、何でも欲しがる。
則人は、いつの間にかそう思い込んでいた。
けれど。
どうやら違う。
何でも欲しいわけではない。
自分が「欲しい」と感じたものだけを、強く欲しがる。
「じゃあ」
則人が聞いた。
「モズキャッチャーって、何でも欲しいわけじゃないの?」
「当たり前だろ」
「そうなの!?」
「お前、俺を何だと思ってたんだよ」
「欲しいものを見つけたら、全部取る人」
「…………」
モズキャッチャーが少し考える。
「だいたい合ってるのが腹立つな」
「やっぱり!」
「でも、欲しくないものまで取らない」
「そっかあ……」
則人は感心したように頷いた。
それから、改めて天女へ羽衣を差し出す。
「はい!」
「ありがとうございます」
羽衣が天女の手へ戻った。
モズキャッチャーは、その様子を見ても何も言わない。
クレーンアームも動かない。
本当に興味がないらしい。
◇
「ふむ……」
少し離れたところで、ぬらりひょんが髭を撫でていた。
「どうしたの?」
則人が聞く。
「いや。少々、興味深いと思っての」
ぬらりひょんの視線は、モズキャッチャーへ向いている。
「欲しいものなら、どこまでも追いかける」
「うん」
「じゃが、欲しくないものには手を出さん」
「うん」
「ということは――」
ぬらりひょんは少し考えてから続けた。
「あやつの中にも、何かしらの基準があるということじゃ」
「基準?」
「何を欲しいと思い、何をいらないと思うのか。その境目じゃな」
「…………」
則人がモズキャッチャーを見る。
「何で決めてるの?」
「知らねえよ」
モズキャッチャーが答えた。
「見て、欲しいと思ったら欲しい。それだけだ」
「じゃあ、羽衣は?」
「思わなかった」
「なんで?」
「だから知らねえって!」
「変なの」
「お前に言われたくない」
「なんで!?」
天女が、また小さく笑った。
◇
その時だった。
「…………」
モズキャッチャーの視線が、ふっと別の方向へ向いた。
「あ」
則人もすぐに気づく。
さっきまでとは、明らかに顔つきが違う。
「どうしたの?」
返事はない。
少し離れた場所を、一人の男が歩いていた。
手には、小さな紙袋。
袋の口から何かが、ほんのわずかにのぞいている。
「…………欲しい」
モズキャッチャーが呟いた。
「え?」
則人が目を丸くする。
ついさっきまで。
空を飛べる羽衣には、まったく興味を示さなかった。
それなのに。
今度は。
クレーンアームが、ぴくりと動いた。
「何が欲しいの?」
「あれ」
「どれ?」
「あの袋」
「袋?」
「中に何か入ってる」
則人が目を凝らす。
「でも、ほとんど見えてないじゃん」
「ちょっと見える」
「何が入ってるの?」
「分かんない」
「分かんないのに欲しいの!?」
「欲しい」
「なんで!?」
「欲しいから」
「…………」
則人は、口を開けたまま固まった。
天女も不思議そうに紙袋を見る。
ぬらりひょんだけは何も言わず、モズキャッチャーの様子を観察していた。
◇
「羽衣はいらないのに?」
則人が聞く。
「いらない」
「でも、何が入ってるか分からない袋は欲しい?」
「欲しい」
「…………」
則人には、ますます分からなくなった。
空を飛べる、不思議な羽衣。
それはいらない。
中身すらよく分からない紙袋。
それは欲しい。
「なんでだろ……」
則人がぽつりと呟く。
「さてな」
ぬらりひょんが答えた。
「ぬらりひょんにも分かんないの?」
「人が何を欲しがるかなど、そう簡単に決められるものではない」
「…………」
「必要だから欲しいとは限らん」
「うん」
「高価だから欲しいとも限らん」
「じゃあ、なんで欲しいの?」
「それが分かれば苦労はせん」
ぬらりひょんは、じっとモズキャッチャーを見る。
「じゃが――」
「うん?」
「何を欲しがるのか」
少し間を置く。
「なぜ、それを欲しいと思うのか」
「…………」
「そこに、あやつが元へ戻る手がかりがあるのかもしれん」
「…………!」
則人もモズキャッチャーを見る。
その間にも。
巨大なクレーンアームは、ゆっくりと持ち上がっていた。
「モズキャッチャー」
「何?」
「それ」
則人がアームを指さす。
「取りに行くの?」
「…………」
モズキャッチャーは。
ほんの少しだけ笑った。
「欲しいからな」
次の瞬間。
ばさっ!
大きな翼が開く。
「待って!」
則人が叫んだ。
羽衣には。
まったく興味を示さなかった。
だから。
ほんの少しだけ。
安心してしまっていた。
けれど。
モズキャッチャーの「欲しい」が、消えたわけではない。
何でも欲しいわけではない。
ただ。
何かが心に引っかかった瞬間。
その「欲しい」は。
やはり止まらない。
空を飛べる羽衣には心を動かされず。
中身すら分からない紙袋へ手を伸ばす。
その違いは、どこにあるのか。
則人には。
まだ分からなかった。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




