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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
モズキャッチャー編 1

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20/21

「欲しい。でも、取らない」

着ぐるみモンスター


Another Story


「もし、則人が最初に『欲しがっちゃダメ!』と言ってしまったら」


第5話「欲しい。でも、取らない」


内田紀人 作


※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。


「今日は、ここまで」


モズキャッチャーは、もう何度目か分からないその言葉を口にした。


「うん!」


則人が頷く。


欲しいものを見つけても、すぐには手を伸ばさない。


誰のものなのか。


取っていいものなのか。


そして。


どこでやめるのか。


最初は、則人に言われなければ止まることすらできなかった。


それが今では。


ほんの少しだけ。


自分で考えるようになっていた。



「…………」


歩いていたモズキャッチャーが、突然足を止めた。


「どうしたの?」


則人も止まる。


返事はない。


モズキャッチャーは、道の向こうを見ていた。


そこを、親子が歩いている。


子どもの腕には、一体のぬいぐるみ。


「…………っ」


モズキャッチャーの目が大きくなった。


「欲しい」


「え?」


則人もぬいぐるみを見る。


「あ……」


見覚えがあった。


いや。


何度も見てきた。


モズキャッチャーが、ずっと欲しがっていたものと同じぬいぐるみだった。


「欲しい」


もう一度。


今度は、はっきりと言う。


クレーンアームが。


ぴくりと持ち上がった。



「モズキャッチャー」


則人が呼ぶ。


「分かってる」


目は、ぬいぐるみから離れない。


「あれ、ずっと欲しかったやつだ」


「うん」


「すごく欲しい」


「うん」


一歩。


モズキャッチャーが前へ出る。


則人は止めなかった。


「…………」


もう一歩。


クレーンアームが上がる。


子どもは、大事そうにぬいぐるみを抱えている。


「…………」


アームが、ゆっくりと伸び始めた。


則人が見上げる。


「ねえ」


「何だよ」


「あれ、誰の?」


「…………」


アームが止まった。


「誰のって……」


モズキャッチャーはぬいぐるみを見る。


そして。


それを抱えている子どもを見る。


「……あの子の」


「うん」


「…………」


「欲しい?」


「欲しい」


「じゃあ、どうする?」


「…………」


則人は、それ以上何も言わなかった。



少し離れた場所では。


ぬらりひょんと天女が、二人を見守っていた。


もちろん。


モズキャッチャーは、二人の存在には気づいていない。


その姿も。


その声も。


ほとんど感じ取ることができない。


天女が小さく尋ねた。


「今回は、則人さんが止めないのですね」


「うむ」


ぬらりひょんが頷く。


「ここで止めてしまえば、あやつはまた『則人に止められた』だけになる」


「では……」


「自分で決めるしかあるまい」


天女はモズキャッチャーを見る。


大きなアームは。


まだ宙に浮いたままだった。



欲しい。


ずっと欲しかった。


目の前にある。


しかも。


手を伸ばせば届く。


このクレーンアームなら、簡単に取れる。


「…………」


アームが、ほんの少し動いた。


その時。


子どもが、ぬいぐるみを抱き直した。


ぎゅっ。


「…………」


アームが止まる。


「欲しい……」


「うん」


則人が答える。


「俺だって欲しい」


「うん」


「ずっと欲しかった」


「うん」


「なのに……」


モズキャッチャーは子どもを見る。


「もう、あの子のなんだよな」


「うん」


則人は、それだけ答えた。


「…………」


モズキャッチャーが顔をしかめる。


「欲しいんだけどな」


「うん」


「すっげえ欲しい」


「うん」


「……でも」


クレーンアームが。


ゆっくりと下がり始めた。


「…………」


途中で、一度止まる。


まだ取れる。


まだ間に合う。


けれど。


アームは再び動き出した。


下へ。


下へ。


そして。


完全に下がった。


モズキャッチャーが、大きく息を吐く。


「……取らない」


則人の顔が明るくなる。


けれど今回は、大声を出さなかった。


ただ、笑って聞いた。


「なんで?」


「…………」


モズキャッチャーは少し考えた。


そして。


子どもの腕に抱かれたぬいぐるみを見る。


「俺のじゃないから」


「うん」


「欲しくても」


「うん」


「取っていいわけじゃない」


則人が、今度こそ大きく笑った。


「うん!」



親子は、そのまま歩いていく。


ぬいぐるみも一緒に遠ざかっていく。


モズキャッチャーは、しばらくその背中を見ていた。


「…………」


則人が聞く。


「まだ欲しい?」


「欲しい」


「追いかけたい?」


「ちょっと」


「取る?」


「取らない」


今度は、迷わなかった。


「今日は?」


モズキャッチャーが苦笑する。


「ここまで」


「うん!」


「お前、それ好きだな」


「だって便利だもん!」


「もう俺の言葉みたいになってるけどな」


「いいじゃん!」


「まあな」


モズキャッチャーが、少し笑った。



「なあ」


モズキャッチャーが言った。


「なに?」


「最初にさ」


「うん」


「お前、俺に言ったよな」


則人の顔が、少しだけ嫌そうになる。


「……何を?」


「『欲しがっちゃダメ』って」


「…………」


「言ったよな?」


「言った」


則人は、気まずそうに答えた。


「間違ってた?」


「…………」


則人は考える。


最初は。


欲しいと思うことそのものが悪いと思った。


欲しがらなければ。


取ろうともしない。


そうすれば、全部解決する。


でも。


自分だって欲しいものはある。


KIDのおもちゃ。


お菓子。


天女から借りた羽衣だって。


もっと使っていたかった。


「…………」


則人が頷く。


「うん」


「やっぱり?」


「たぶん、間違ってた」


「たぶん?」


「だって!」


則人が少しむきになる。


「欲しいって思うの、止められないもん!」


「そうだな」


「でも」


則人は、さっき遠ざかっていった親子を見る。


「欲しいからって、取るかどうかは別」


「…………」


「人のものなら取らない」


「うん」


「借りたものなら返す」


「うん」


「手に入らない時は、諦める」


「うん」


「それで――」


則人が笑う。


「自分で『今日はここまで』って決める!」


「…………」


モズキャッチャーも、少しだけ笑った。


「それなら」


「うん?」


「俺にもできるかもな」



その時だった。


ひゅん。


何かが空から飛んできた。


「え?」


則人が見上げる。


モズキャッチャーも、遅れて顔を上げた。


「何だ?」


空から。


ピコピコハンマーが落ちてくる。


「ピコピコハンマー!」


「なんで!?」


「分かんない!」


則人には。


その先にいる存在が見えていた。


けれど。


モズキャッチャーには何も見えない。


ただ突然、空からハンマーが飛んできたようにしか見えなかった。


「ちょっ――」


ぽこん!


ピコピコハンマーが、モズキャッチャーの頭に当たった。


「…………」


「…………」


モズキャッチャーが頭を触る。


「痛くない」


「ピコピコだからね!」


「そういう問題か?」


その直後。


身体が、淡い光に包まれた。



大きな翼が消えていく。


胸の筐体も。


クレーンアームも。


少しずつ。


形を失っていく。


「…………え?」


モズキャッチャーだった男が、自分の身体を見る。


そして。


光が消えた時。


そこに立っていたのは。


一人の青年だった。


「…………」


普通の手。


普通の身体。


翼も。


クレーンアームもない。


「俺……」


何度も自分の手を見る。


「戻った……?」


「戻った!」


則人が声を上げた。


青年は、しばらく自分の身体を確かめていた。


そして。


ふと。


さっき親子が歩いていった方向を見る。


もう、ぬいぐるみは見えない。


「…………」


それでも。


欲しい。


その気持ちは、まだ残っている。


則人が聞く。


「まだ欲しい?」


青年は少しだけ笑った。


「欲しいよ」


「そっか」


「でも」


自分の手を見る。


もう。


欲しいものを無理やりつかみ取るためのアームではない。


「今日は、ここまで」


「うん!」


則人が嬉しそうに笑った。



「それにしても」


青年が首を傾げる。


「さっきのハンマー、何だったんだ?」


「天狗が投げたんだよ!」


「…………天狗?」


「うん!」


青年が辺りを見る。


「どこに?」


「あそこ!」


則人が指をさす。


「…………」


青年は、何もない場所をじっと見る。


「誰もいないけど」


「いるよ!」


「…………」


「天狗!」


「…………」


青年が則人を見る。


「お前、さっきから誰と話してるんだ?」


「え?」


今度は則人が、不思議そうな顔をした。


少し離れたところで。


ぬらりひょんが額を押さえる。


「やはり見えんか」


天女が小さく笑った。


「本当に、こういうものへの勘が弱い方なのですね」


もちろん。


その会話も。


青年には届いていなかった。



「まあ、いいや」


青年が言った。


「いいの?」


「見えないものは仕方ないだろ」


「天狗いるのに」


「だから見えないんだって」


「そっか」


「それより」


青年が則人を見る。


「ありがとな」


「何が?」


「…………」


少し考えて。


青年は笑った。


「最初は間違ったこと言ってたけど」


「またそれ言う!」


「でも」


青年が続ける。


「一緒に考えてくれただろ」


「…………」


「だから、ありがとな」


則人も笑った。


「うん!」


青年が歩き出す。


数歩進んで。


一度、振り返る。


「じゃあな」


「うん! またね!」


「あと」


「なに?」


青年が笑う。


「次からは、いきなり『欲しがっちゃダメ』って言うなよ」


「分かってるよ!」


「ほんとか?」


「ほんと!」


「じゃあな」


青年は笑いながら歩いていった。



欲しい気持ちは。


消えなかった。


消す必要もなかった。


欲しいと思うことと。


それを手に入れることは。


同じではない。


誰のものなのか。


取っていいものなのか。


そして。


どこでやめるのか。


その間に。


ほんの少しだけ。


考える時間を作る。


最初から、うまくできたわけではない。


何度も迷った。


何度も、手を伸ばしかけた。


それでも最後は。


誰かに止められたのではなく。


自分で。


アームを下ろすことができた。


則人もまた。


最初に自分が言った言葉が。


少し違っていたことを知った。


欲しがっちゃダメ。


そうじゃない。


欲しいと思ってもいい。


大切なのは。


その次に。


自分が何を選ぶのか。


そして。


どこで。


「ここまで」と決めるのか。


それを。


二人は少しだけ知った。


もし。


あの時。


則人が最初に、


「欲しがっちゃダメ!」


と言ってしまったら。


少し遠回りをして。


少し違う答えにたどり着く。


そんな物語になっていたのかもしれない。


――Another Story 完

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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