第4話「欲しいものを見つけても」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、則人が最初に『欲しがっちゃダメ!』と言ってしまったら」
第4話「欲しいものを見つけても」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「今日は、ここまで」
モズキャッチャーは、もう一度その言葉を口にした。
「うん!」
則人が大きく頷く。
さっきまで欲しがっていた景品は、もう少し遠くにある。
それでも。
モズキャッチャーは何度か振り返っていた。
「まだ欲しい?」
「欲しい」
「すごく?」
「すごく」
「でも戻らない?」
「…………」
少し考えてから。
「戻らない」
「できてるじゃん!」
則人が嬉しそうに笑った。
モズキャッチャーも、ほんの少しだけ笑う。
「今日はな」
「明日は明日!」
「お前、それ気に入ったな」
「分かりやすいもん!」
「まあな」
二人は、また歩き始めた。
◇
しばらくして。
モズキャッチャーが、ぴたりと足を止めた。
「…………」
則人も止まる。
「どうしたの?」
返事はない。
モズキャッチャーの視線は、道の向こうへ向いていた。
そこには。
一人の人が歩いている。
手には、大きな紙袋。
袋の口から。
何かが少しだけ見えていた。
「…………欲しい」
「え?」
則人が目を凝らす。
「何が?」
「あの袋の中」
「見えるの?」
「ちょっとだけ」
「何が入ってるの?」
「分かんない」
「分かんないのに欲しいの!?」
「なんか、欲しい」
「なんかって何!」
則人が驚く。
その横で。
モズキャッチャーのクレーンアームが、少しだけ持ち上がった。
「待って!」
「分かってる」
「ほんと?」
「…………」
モズキャッチャーは紙袋を見る。
「欲しい」
「うん」
「中身も知りたい」
「うん」
「あの人が持ってる」
「うん」
「…………」
アームが。
また少し上がった。
◇
「それはダメ!」
則人が言った。
アームが止まる。
「なんで?」
「だって!」
則人は、紙袋を持っている人を指さした。
「あの人のだよ!」
「…………」
「お店に置いてあるものと違うよ!」
「でも欲しい」
「欲しくても!」
則人が一歩前へ出る。
「人のものは取っちゃダメ!」
「…………」
モズキャッチャーが紙袋を見る。
それから。
則人を見る。
「じゃあ」
「うん?」
「欲しいって思うのもダメ?」
「…………」
則人が止まった。
◇
少し前なら。
たぶん。
迷わず言っていた。
『ダメ!』
でも。
今は違う。
則人は少し考えた。
「欲しいって思うのは……」
モズキャッチャーが待つ。
「……いい」
「いいの?」
「うん」
「人のものでも?」
「…………」
則人は、さらに考える。
「欲しいって思うだけなら」
「うん」
「たぶん、いい」
「でも取っちゃダメ?」
「それは絶対ダメ!」
「何が違う?」
「だって!」
則人は、言葉を探す。
「あの人のものだから!」
「…………」
モズキャッチャーが、もう一度紙袋を見る。
その人は何も知らずに歩いている。
「俺が欲しくても?」
「うん」
「俺の方が、もっと欲しくても?」
「うん!」
「絶対?」
「絶対!」
「…………」
モズキャッチャーは黙った。
◇
少し離れたところで。
天女とぬらりひょんが、二人を見ていた。
「今度は、少し違う問題ですね」
「そうじゃの」
ぬらりひょんが頷く。
「欲しい気持ちを抑えるだけではない」
「はい」
「誰のものか」
「誰かが大切にしているものか」
「うむ」
天女は紙袋を持った人を見る。
「欲しいと思うこと自体は、止められません」
「じゃが」
ぬらりひょんが言う。
「欲しいから取ってよい、とはならん」
「…………」
天女が少し笑う。
「則人さん、そこは分かっているみたいですね」
「そこはの」
「そこは?」
「全部分かっておるように言うでない」
「ふふっ」
◇
「ねえ」
則人が言った。
「何?」
「もしさ」
「うん」
「あの人が」
紙袋の人を見る。
「それ、あげるって言ったら?」
「欲しい」
「じゃあ、もらう?」
「もらう」
「じゃあ」
則人が指を一本立てた。
「欲しいだけじゃ、決めちゃダメなんだ」
「…………」
「もらっていいか」
「…………」
「取っていいか」
「…………」
「それが大事なんじゃない?」
モズキャッチャーが、少し考える。
「誰が決めるんだ?」
「持ってる人!」
「俺じゃなくて?」
「うん!」
「なんで?」
「その人のものだから!」
「…………」
則人は少し考えて。
自分の話を始めた。
「ぼくだってさ」
「うん」
「KIDのおもちゃ持ってて」
「うん」
「誰かに欲しいって思われても」
「うん」
「勝手に持ってかれたら怒る!」
「すごく怒りそうだな」
「怒るよ!」
「泣く?」
「泣かない!」
「ほんとか?」
「泣かない!」
「…………」
「たぶん!」
「泣くじゃん」
「泣かないって!」
モズキャッチャーが少し笑った。
◇
その時。
紙袋を持っていた人が、信号の前で立ち止まった。
モズキャッチャーとの距離が、さっきより近くなる。
「…………」
袋の口から。
中身が、さらに少し見えた。
大きなぬいぐるみ。
「…………っ」
モズキャッチャーの目が大きくなる。
「欲しい」
「うん」
「すごく欲しい」
「うん」
「さっきのより欲しい」
「うん」
「…………」
クレーンアームが上がる。
「モズキャッチャー」
則人が呼ぶ。
「分かってる!」
「…………」
「分かってるけど!」
アームが震える。
「欲しい!」
「うん!」
「あれ、欲しい!」
「うん!」
「取りたい!」
「うん!」
「でも!」
モズキャッチャーは、歯を食いしばるようにアームを止めた。
「…………」
信号が変わる。
紙袋を持った人が歩き始めた。
一歩。
二歩。
少しずつ。
遠ざかっていく。
「…………」
モズキャッチャーは。
追いかけなかった。
アームが。
ゆっくり下がっていく。
◇
「行っちゃった」
則人が言った。
「うん」
「欲しい?」
「欲しい」
「追いかける?」
「…………」
モズキャッチャーは、遠ざかっていく紙袋を見る。
「追いかけたい」
「うん」
「でも」
一度。
大きく息を吐く。
「……あの人のだから」
則人の顔が、ぱっと明るくなる。
「そう!」
「うるさい」
「でも今、自分で言った!」
「言った」
「すごい!」
「そんなに褒めることか?」
「だって前だったら取ってたでしょ?」
「…………」
モズキャッチャーは少し黙った。
「たぶん」
「ほら!」
「うるさいって」
けれど。
その顔は。
少しだけ嬉しそうだった。
◇
二人は、また歩き始めた。
しばらくして。
モズキャッチャーが言った。
「欲しいって」
「うん」
「結構、面倒だな」
「そう?」
「欲しいものを見るたびに、考えないといけない」
「取っていいかなって?」
「うん」
「誰のかなって?」
「うん」
「今日はここまでかなって?」
「それも」
「…………」
則人が笑った。
「でもさ」
「何?」
「前は考えてなかったんでしょ?」
「…………」
モズキャッチャーは少し考える。
「そうかも」
「欲しい!」
則人が両手を広げる。
「取る!」
今度は片手を伸ばす。
「次!」
もう片方の手を伸ばす。
「そんな感じ?」
「お前、ちょっと楽しんでるだろ」
「ちょっと!」
「やっぱりな」
二人が笑う。
◇
少し先。
また何かが目に入った。
モズキャッチャーが反射的に見る。
「…………」
則人も、その視線を追う。
「欲しい?」
「…………」
モズキャッチャーは。
すぐには答えなかった。
見る。
誰のものか。
取っていいものか。
本当に欲しいのか。
少しだけ。
考える。
そして。
「……ちょっと欲しい」
「取る?」
「取らない」
「なんで?」
「人のもの」
「よし!」
「だから、うるさい!」
「でも、できてる!」
「まだ途中だって」
「じゃあ」
則人が笑う。
「今日はここまで?」
「…………」
モズキャッチャーも。
少し笑った。
「今日は、ここまで」
欲しいものを見つけても。
すぐに手を伸ばさない。
誰のものか。
取っていいものか。
自分はどうするのか。
ほんの少しだけ。
考える。
それだけで。
モズキャッチャーが見る世界は。
昨日までとは。
少し違って見え始めていた。
――つづく
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




