第3話「どこでやめる?」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、則人が最初に『欲しがっちゃダメ!』と言ってしまったら」
第3話「どこでやめる?」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「欲しい」
「うん」
「でも、取らない」
「うん!」
モズキャッチャーは、店先のぬいぐるみを見つめたまま。
大きなクレーンアームを下ろしていた。
欲しい気持ちは。
まだ消えていない。
それでも。
取らない。
たった、それだけのこと。
けれど。
モズキャッチャーにとっては、それがひどく難しいらしい。
「…………」
しばらくして。
ようやく、ぬいぐるみから目をそらした。
「よし」
「できた?」
「たぶん」
「やった!」
則人が嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もう大丈夫だね!」
「…………」
モズキャッチャーが則人を見る。
「何?」
「お前さ」
「うん」
「すぐ『大丈夫』って言うよな」
「だって今、取らなかったじゃん!」
「一回だけだぞ」
「でも、一回できた!」
「次もできるとは限らないだろ」
「…………」
則人が止まる。
「そうなの?」
「俺に聞くなよ」
「だって、モズキャッチャーのことでしょ?」
「俺だって、こんなの初めてなんだよ」
「そっか」
二人とも。
まだ。
何も分かっていなかった。
◇
「じゃあ」
則人が言った。
「もう一回やってみよう!」
「何を?」
「欲しいものを見つけても、取らないやつ!」
「練習みたいに言うなよ」
「練習すれば、上手になるかもしれないじゃん!」
「そんなものなのか?」
「分かんない!」
「またそれかよ!」
則人が笑う。
モズキャッチャーも、少し呆れたように笑った。
その時だった。
「…………あ」
モズキャッチャーの顔が止まった。
「どうしたの?」
返事がない。
視線の先。
少し離れた店の前に、大きな箱が積まれていた。
その一番上。
よく目立つ場所に、派手な色の景品が飾られている。
「…………」
クレーンアームが。
ぴくり。
動いた。
則人が、その小さな動きを見逃さなかった。
「欲しい?」
「…………欲しい」
「じゃあ、練習!」
「早いな!」
「取らなければいいんでしょ?」
「…………」
モズキャッチャーが景品を見る。
「欲しい」
「うん」
「さっきのより欲しい」
「うん」
「…………」
一歩。
足が前へ出た。
「あ」
モズキャッチャーが止まる。
「…………」
もう一歩。
「動いてるよ!」
「分かってる!」
「取らないんじゃなかったの?」
「まだ取ってない!」
「でも、近づいてる!」
「見るだけ!」
「ほんと?」
「…………」
返事はなかった。
◇
一歩。
また一歩。
景品へ近づいていく。
則人も、その隣を歩く。
「ねえ」
「何?」
「どこまで行くの?」
「近くで見るだけ」
「そのあと?」
「…………」
「そのあと、取る?」
「取らない」
「ほんと?」
「たぶん」
「たぶん!?」
則人が慌てる。
気づけば。
景品は、もう目の前だった。
「…………」
大きなクレーンアームが上がる。
「待って!」
則人が叫んだ。
アームが止まる。
「取るの?」
「…………」
「取らないって言ったじゃん!」
「分かってる!」
「じゃあ下げてよ!」
「今やってる!」
モズキャッチャーの声が荒くなる。
アームが震えていた。
上げたい。
下げたい。
二つの気持ちが、一本の腕を引っ張り合っているようだった。
「取りたい」
「うん」
「さっきより、ずっと取りたい」
「うん」
「もう目の前なんだぞ」
「うん」
「手を伸ばしたら取れる」
「…………」
モズキャッチャーが、苦しそうに顔を歪める。
「なのに、取らないって……」
アームがまた少し震えた。
「どうやるんだよ」
「…………」
則人は。
答えられなかった。
◇
少し離れたところで。
天女とぬらりひょんが二人を見守っていた。
「難しくなってきましたね」
「当然じゃ」
「最初は、少し遠くから見ているだけでしたから」
「うむ」
「でも今は、手を伸ばせば届く」
ぬらりひょんが頷く。
「欲というものはの」
「はい」
「遠くにある時より、手が届きそうになった時の方が、強くなることもある」
天女がモズキャッチャーを見る。
「助けなくていいのでしょうか」
「助けておるじゃろう」
「則人さんが?」
「うむ」
「何も言えていませんけど」
「言葉が出ない時もある」
「…………」
ぬらりひょんは則人を見る。
「それでも、隣におる」
そして。
少しだけ笑った。
「今は、それで十分じゃ」
◇
「…………」
則人は。
モズキャッチャーの隣に立っていた。
何と言えばいいのか分からない。
「取るな!」
そう言うだけなら簡単だった。
けれど。
それでは。
最初と同じ気がした。
「…………」
モズキャッチャーのアームが。
また少し上がる。
則人は景品を見る。
そして。
さっきまで身につけていた羽衣を思い出した。
欲しかった。
もっと使いたかった。
それでも。
返した。
どうして。
自分は返せたんだろう。
「…………あ」
則人が顔を上げた。
「ねえ」
「何?」
「ぼくさ」
「今忙しい」
「聞いて!」
「何だよ!」
「羽衣」
「…………?」
「もっと使いたかったけど、返したよ」
「見てた」
「でも」
則人は、考えながら言葉を探す。
「ずっと我慢するって考えてたわけじゃない」
「何が言いたいんだよ」
「だから……」
則人は景品を見る。
「ずっと我慢するって思うから、大変なんじゃない?」
「…………」
モズキャッチャーが則人を見る。
「どういうこと?」
「今日は取らない」
「…………」
「今は取らない」
「…………」
「ここまでって決める」
「ここまで?」
「うん!」
◇
則人は、足元を指さした。
「ここ!」
「何?」
「ここまで来た!」
「うん」
「景品も見た!」
「うん」
「欲しいって思った!」
「うん」
「でも」
則人は。
地面に一本の線を引くように、指を動かした。
「今日は、ここまで」
「…………」
モズキャッチャーが、その場所を見る。
何もない。
ただの地面。
「そんなのでいいの?」
「分かんない!」
「またか!」
「でも!」
則人が笑う。
「ずっと『欲しちゃダメ』って思うより、できそうじゃない?」
「…………」
モズキャッチャーは黙った。
もう一度。
景品を見る。
欲しい。
すぐそこにある。
アームを伸ばせば届く。
「…………」
それから。
足元を見る。
ここまで。
今日は。
ここまで。
「…………」
ゆっくり。
本当に、ゆっくりと。
クレーンアームが下がっていく。
最後まで下がると。
モズキャッチャーは、大きく息を吐いた。
「……今日は」
「うん」
「ここまで」
「うん!」
則人が、大きく頷いた。
◇
モズキャッチャーは。
景品に背を向けた。
一歩。
歩く。
「…………」
止まる。
振り返る。
「欲しい」
則人が笑った。
「うん!」
また。
一歩。
二歩。
三歩。
「…………」
もう一度振り返る。
「まだ欲しい」
「うん!」
「何で嬉しそうなんだよ」
「だって、取ってないじゃん!」
「欲しいけどな」
「欲しいままでいいんでしょ?」
「…………」
モズキャッチャーが。
少し笑った。
「お前が言ったんだろ」
「そうだった!」
二人は。
また歩き始めた。
◇
しばらくして。
モズキャッチャーが聞いた。
「でもさ」
「なに?」
「明日になったら?」
「え?」
「明日、また欲しかったら」
「…………」
則人が止まった。
考える。
すごく考える。
「…………」
モズキャッチャーが待つ。
「…………」
まだ考える。
「長いな」
「今考えてる!」
「分かった、分かった」
しばらくして。
則人が言った。
「明日は」
「うん」
「明日、決めればいいんじゃない?」
「…………」
「今日決めるのは、今日の『ここまで』」
「明日は?」
「明日の『ここまで』」
「毎回決めるの?」
「たぶん!」
「たぶんかよ!」
「でもさ」
則人は笑った。
「ずっと先まで全部決めるの、難しいじゃん」
「…………」
モズキャッチャーは。
少し考えた。
「まあ」
「うん」
「それなら、できるかも」
「でしょ!」
則人が胸を張る。
後ろから。
ぬらりひょんの声が飛んできた。
「今のは、少しだけまともじゃったな」
「少しだけって何!」
「そのままの意味じゃ」
「ひどい!」
天女が、くすくす笑った。
◇
モズキャッチャーは。
もう一度だけ。
後ろを振り返った。
遠くなった景品。
まだ。
欲しい。
気持ちは。
何も消えていない。
それでも。
アームは上がらなかった。
「…………」
今日。
ここまで。
たった、それだけ。
けれど。
今までの自分には。
なかった考え方だった。
欲しいものを手に入れるまで続ける。
ではなく。
自分で。
終わる場所を決める。
「ねえ」
モズキャッチャーが言った。
「何?」
「さっきの」
「うん?」
「ここまでってやつ」
「うん」
「覚えとく」
則人の顔が明るくなる。
「うん!」
「忘れたら?」
「また言う!」
「うるさそうだな」
「何回でも言うよ!」
「やっぱり、うるさい」
二人は笑った。
欲しいものは。
まだ。
そこにある。
欲しい気持ちも。
まだ。
残っている。
それでも。
今日は。
自分で。
そこから離れることができた。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




