第2話「欲しいままじゃダメ?」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、則人が最初に『欲しがっちゃダメ!』と言ってしまったら」
第2話「欲しいままじゃダメ?」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「…………」
則人は、まだ羽衣を見ていた。
欲しい。
できれば、ずっと使っていたい。
空を飛べる。
ふわふわしている。
何より――楽しい。
でも。
これは天女から借りたものだ。
だから、返す。
そこまでは分かっている。
問題は――。
目の前にいる、モズキャッチャーだった。
◇
「ねえ」
則人が顔を上げた。
「何?」
「まだ、あれ欲しい?」
モズキャッチャーは、店先に並んだぬいぐるみを見る。
「欲しい」
「そっか」
「ダメ?」
「…………」
則人は、すぐには答えなかった。
少し前なら。
迷わず言っていた。
『ダメ!』
でも、今は――。
「分かんない」
「またそれ?」
「だって、ぼくも欲しいし」
則人は、自分の羽衣に触れた。
「じゃあ同じじゃん」
「だから、それを考えてるの!」
「考えて、答え出た?」
「まだ!」
「遅いな」
「うるさい!」
モズキャッチャーが、少し笑った。
ほんの少し前まで。
則人に何を言われても、苛立っているように見えた。
けれど今は。
ちゃんと、則人と話している。
◇
「じゃあさ」
モズキャッチャーが言った。
「何?」
「お前、その羽衣」
「うん」
「欲しいけど、返すんだよな?」
「うん」
「なんで?」
「だから、ぼくのじゃないから」
「それだけ?」
「それだけって?」
「すごく欲しいんだろ?」
「欲しいよ」
「返したくないって思わないの?」
「…………」
則人は羽衣を見る。
返したくない。
そう思わないと言ったら、嘘になる。
もっと飛びたい。
もっと使いたい。
「……ちょっと思う」
「ほら」
「でも返す!」
「なんで?」
「約束したから」
「誰と?」
「天女さん」
「…………」
モズキャッチャーは、少し考えた。
「約束したから返すの?」
「うん」
「欲しいのに?」
「うん」
「…………」
モズキャッチャーが、もう一度ぬいぐるみを見る。
「俺は」
「うん?」
「欲しいって思ったら、取らないと気が済まなかった」
「うん」
「取れなかったら、もっと欲しくなった」
「うん」
「取っても」
「うん」
「次が欲しくなった」
「…………」
則人は、黙って聞いていた。
「だから」
モズキャッチャーが続ける。
「欲しいって思うのがダメだって言われたら」
「うん」
「じゃあ、俺は何も欲しいって思っちゃいけないんだって思った」
「…………」
「それってさ」
少しだけ、声が低くなる。
「結構、きついぞ」
「…………」
則人は。
何も言えなかった。
◇
少し離れたところで。
天女が、小さく息を吐いた。
「ちゃんと話していますね」
「うむ」
ぬらりひょんが頷く。
「先ほどよりはの」
「則人さん」
「なんじゃ」
「最初は完全に間違えましたね」
「言ってやるな」
「でも、間違えましたよね」
「言ってやるなと言っとる」
天女が、くすりと笑った。
ぬらりひょんは則人を見る。
「間違えること自体は、悪いことではない」
「はい」
「大事なのは」
ぬらりひょんが、少し目を細める。
「間違えたあとに、どうするかじゃ」
天女も、二人へ目を向けた。
◇
「ねえ」
則人が言った。
「何?」
「じゃあ、欲しいって思うのは……いいのかな」
「俺に聞くなよ」
「だって、一緒に考えるって言ったじゃん!」
「俺、怪人だぞ」
「怪人でも考えるくらいできるでしょ!」
「まあ……できるけど」
「じゃあ考えて!」
「お前も考えろ!」
「考えてる!」
二人は、しばらく黙った。
「…………」
「…………」
先に口を開いたのは、則人だった。
「ぼくさ」
「うん」
「KIDの新しいおもちゃとかも欲しいよ」
「そうなの?」
「うん!」
則人の声が、少し明るくなる。
「新しいベルトとか! 剣とか! 限定のやつとか!」
「いっぱい欲しいじゃん」
「うん!」
「じゃあ、お前も結構欲しがりじゃん」
「…………あ」
則人が止まった。
「そうかも」
「だろ?」
「でも」
則人は少し考える。
「全部、買ってもらえるわけじゃないよ」
「まあな」
「欲しいって言っても、お母さんがダメって言う時あるし」
「その時どうするの?」
「えーって言う」
「そのあと」
「欲しいって言う」
「そのあと」
「お願いする」
「そのあと」
「…………」
則人は、少し気まずそうな顔をした。
「……諦める」
「できるんじゃん」
「でも、欲しいよ?」
「それでいいんじゃないの?」
「…………」
則人の目が。
少しだけ、大きくなった。
◇
欲しい。
でも、手に入らない。
欲しい。
でも、取らない。
欲しい。
でも、返す。
「…………」
則人は。
少しずつ、何かをつかみ始めていた。
「もしかして」
「何?」
「欲しいって思うのと」
一つずつ、確かめるように言う。
「絶対に取るっていうのは」
「うん」
「違うのかな」
「…………」
モズキャッチャーが、ぬいぐるみを見る。
「俺は」
「うん?」
「ずっと一緒だった」
「何が?」
「欲しいって思ったら、取る」
「…………」
「取れなかったら、もっとやる」
「うん」
「取ったら、次」
「…………」
モズキャッチャーが、自分のクレーンアームを見る。
「だから」
少し困ったように言った。
「分け方が分からない」
「分け方?」
「欲しいのに、やめるってやつ」
「…………」
則人は、自分の羽衣を見る。
自分だって。
簡単じゃない。
欲しい。
返したくない。
でも。
返す。
「じゃあ」
則人が言った。
「一緒にやってみる?」
「何を?」
「欲しいまま、やめるの」
「…………」
モズキャッチャーが則人を見る。
「できるの?」
「分かんない」
「また分かんないのかよ」
「やってみないと分かんないじゃん!」
「適当だな」
「適当じゃないよ!」
「じゃあ、どうするの?」
則人は、ぬいぐるみを見る。
「まず」
「うん」
「欲しいって思っていい」
「…………」
「でも」
則人が、クレーンアームを指さした。
「取らない」
「…………」
モズキャッチャーは、自分のアームを見る。
それから。
ぬいぐるみを見る。
「欲しい」
「うん」
「すごく欲しい」
「うん」
「今すぐ取りたい」
「うん」
「…………」
クレーンアームが、少しだけ上がる。
則人が身構えた。
けれど。
途中で止まった。
「…………」
アームが、小さく震えている。
「取りたい」
「うん」
「すげえ取りたい」
「うん」
「でも……」
ゆっくり。
少しずつ。
アームが下がっていく。
「……取らない」
「…………!」
則人の顔が、ぱっと明るくなった。
「できた!」
「まだ一回だけだぞ」
「でも、できた!」
「すげえ疲れる」
「そうなの?」
「お前もやってみろよ」
「え?」
モズキャッチャーが。
則人の羽衣を見る。
「それ」
「…………」
「欲しいんだろ?」
「うん」
「じゃあ」
少しだけ意地悪そうに笑う。
「返せる?」
「…………」
則人の笑顔が。
ぴたりと止まった。
◇
「今?」
「今」
「まだ、ちょっと使いたい」
「欲しいんだろ?」
「欲しい」
「じゃあ」
モズキャッチャーが言う。
「欲しいまま、やめるんだろ?」
「…………」
則人は、羽衣をぎゅっと握った。
さっき。
自分が言った。
欲しいって思っていい。
でも。
取らない。
だったら。
自分も――。
「…………」
天女を見る。
「天女さん」
「はい?」
「これ」
羽衣へ手をかけた。
「返す」
天女が、少し驚いた顔をする。
「もうよろしいのですか?」
「…………」
則人は羽衣を見る。
本当は。
もっと飛びたい。
もう少しだけ使いたい。
「……よくない」
「え?」
「もっと使いたい」
天女が、少し笑った。
「はい」
「でも」
則人は。
ゆっくりと羽衣を外した。
「返すって決めたから」
両手で。
天女へ差し出す。
「ありがとう」
天女は静かに受け取った。
「こちらこそ」
羽衣が、則人の手から離れる。
「…………」
則人は。
少し寂しそうに、それを見つめた。
そして。
ぽつり。
「……やっぱり欲しい」
モズキャッチャーが吹き出した。
「欲しいんじゃん」
「欲しいよ!」
「返したけど?」
「返した!」
「じゃあ」
モズキャッチャーが、少し笑う。
「それでいいのかもな」
「…………」
則人も笑った。
◇
欲しいものは。
欲しい。
その気持ちは。
なくならなくてもいいのかもしれない。
大切なのは。
欲しいと思った、そのあと。
どうするか。
則人には、まだ全部は分からない。
モズキャッチャーにも。
きっと、まだ分かっていない。
それでも。
二人とも。
少しだけ。
「欲しい」と付き合う方法を見つけ始めていた。
モズキャッチャーが、もう一度ぬいぐるみを見る。
「…………欲しい」
則人が笑う。
「うん」
「でも、取らない」
「うん!」
モズキャッチャーは。
クレーンアームを下げたまま、その場に立っていた。
則人は、羽衣のなくなった肩を触る。
「……また貸してね」
天女が笑った。
「必要な時なら」
「やった!」
「今返したばかりじゃろうが!」
ぬらりひょんの声が飛んできた。
則人が振り返る。
「だって、欲しいんだもん!」
「…………」
ぬらりひょんは。
しばらく則人を見つめた。
そして。
小さく笑った。
「それでよい」
「え?」
「何でもないわい」
「何それ?」
則人は首を傾げる。
モズキャッチャーは。
そんな二人を見ながら。
もう一度。
ぬいぐるみへ目を向けた。
欲しい。
その気持ちは。
消えていない。
消さなくても。
いいのかもしれない。
ただ。
欲しいからといって。
何でも取っていいわけではない。
それを初めて知ったモズキャッチャーは。
クレーンアームを。
上げなかった。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




