第1話「欲しがっちゃダメ!」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、則人が最初に『欲しがっちゃダメ!』と言ってしまったら」
第1話「欲しがっちゃダメ!」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
「欲しい……」
モズキャッチャーは、店先に並んだぬいぐるみをじっと見つめていた。
大きな鳥のような頭。
巨大な翼。
胸には筐体。
そして、何かをつかみ取るための大きなクレーンアーム。
欲しいものを見つけるたびに、アームを伸ばそうとする。
一つ取れば、また次。
その次。
目に入るたびに――。
「欲しい」
また、同じ言葉が出た。
「…………」
則人は、その横顔を見上げた。
「ねえ」
「何?」
「もうやめようよ」
「なんで?」
「だって、いっぱい取ったじゃん」
「でも、あれはまだ持ってない」
モズキャッチャーが、ぬいぐるみを指す。
「だから欲しい」
一歩、前へ出た。
「待って!」
則人が慌てて、その前に回り込む。
「何だよ」
「もう取っちゃダメ!」
「…………」
モズキャッチャーが足を止めた。
ここで止めなければ。
また何かを取ってしまう。
則人は、そう思った。
だから――。
「そんなに何でも欲しがっちゃダメだよ!」
言い切った。
その瞬間。
モズキャッチャーの動きが止まった。
◇
「……なんで?」
「え?」
思っていたのとは違う反応だった。
怒るでもない。
また取りに行くでもない。
モズキャッチャーは、ただ則人を見ている。
「なんで、欲しがっちゃダメなの?」
「だって……」
則人は少し考えてから答えた。
「いっぱい欲しがるから、モズキャッチャーになったんでしょ?」
「…………」
「だったら、欲しがらなければいいじゃん!」
則人の中では、単純な話だった。
欲しいと思う。
だから取る。
一つ取っても、また欲しくなる。
そして、止まらなくなった。
だったら。
最初から欲しがらなければいい。
それで全部解決する。
――はずだった。
「じゃあ」
モズキャッチャーが、ぬいぐるみを見る。
「これ、欲しいって思うのもダメなの?」
「うん!」
則人は迷わず答えた。
「ダメ!」
「…………」
「欲しがらなければ、取ろうとも思わないでしょ?」
「かわいいって思うのも?」
「それは……」
則人が一瞬詰まる。
「かわいいは、いいんじゃない?」
「じゃあ、かわいいから欲しいって思うのは?」
「それはダメ!」
「なんで?」
「だって、また取ろうとするじゃん!」
「取らなきゃいいんじゃないの?」
「でも、欲しいんでしょ?」
「欲しいよ」
「じゃあダメじゃん!」
「…………」
モズキャッチャーは黙った。
そして。
ぬいぐるみへ伸ばしかけていたクレーンアームを、ゆっくり下ろした。
則人の顔が明るくなる。
止められた。
「ほら!」
得意そうに言う。
「欲しがらなければ大丈夫だよ!」
「…………」
けれど。
モズキャッチャーの顔は、少しも晴れていなかった。
◇
少し離れた場所。
天女が、二人の様子を見つめていた。
隣には、ぬらりひょんがいる。
「……それで、いいのでしょうか」
「さてのう」
「止めなくていいんですか?」
「何をじゃ」
「則人さんを」
天女は心配そうにモズキャッチャーを見る。
「なんだか、さっきより苦しそうです」
「そう見えるの」
「見えませんか?」
「見える」
「でしたら――」
「自分で気づかねばならんこともある」
ぬらりひょんは、それ以上何も言わなかった。
その視線の先では。
則人が、まだモズキャッチャーに話していた。
◇
「欲しいって思わなかったら、取りたくもならないでしょ?」
「…………」
「だからさ」
則人は簡単そうに言う。
「欲しいって思うの、やめればいいんだよ」
「どうやって?」
「え?」
則人が目を瞬いた。
「どうやったら、欲しいって思わなくなるの?」
「それは……」
「教えてよ」
「…………」
則人は答えられなかった。
モズキャッチャーが続ける。
「お前はできるの?」
「ぼく?」
「欲しいものを見ても、欲しいって思わないの?」
「…………」
則人は、反射的に自分の肩を見た。
そこには。
天女から借りた羽衣がある。
空を飛べる。
ふわふわしている。
何より――。
ものすごく楽しい。
できることなら。
ずっと使っていたい。
「…………」
則人は羽衣を見つめた。
モズキャッチャーが、その視線に気づく。
「それ」
「え?」
「お前の?」
「違うよ」
「じゃあ、何?」
「天女さんから借りてるの」
「欲しくないの?」
「…………」
また。
則人の口が止まった。
「欲しいんだろ?」
「……ちょっと」
「ちょっと?」
「…………すごく」
小さな声で答えた。
モズキャッチャーが言う。
「じゃあ、ダメじゃん」
「え?」
「欲しがっちゃダメなんだろ?」
「…………」
今度は。
則人が黙る番だった。
◇
「でも!」
則人は慌てて言った。
「ぼくは取らないよ!」
「でも欲しいんだろ?」
「欲しいけど!」
「じゃあ同じじゃん」
「同じじゃないよ!」
思わず声が大きくなる。
「ぼくは借りてるだけだもん!」
「でも、欲しい」
「返すよ!」
「欲しいのに?」
「うん!」
「なんで?」
「だって――」
則人は羽衣を握った。
そして。
当たり前のことのように言った。
「ぼくのじゃないから!」
「…………」
モズキャッチャーが黙る。
則人も。
黙った。
「…………」
自分で言った言葉が。
なぜか。
則人の中に引っかかった。
欲しい。
でも。
ぼくのじゃないから返す。
「…………あれ?」
則人が羽衣を見る。
欲しい。
本当は。
すごく欲しい。
それでも。
返そうと思っている。
だったら――。
「ねえ」
則人がモズキャッチャーを見る。
「何?」
「欲しいって思うのと」
ゆっくり。
言葉を探す。
「取っちゃうのって……」
「…………」
「同じじゃないのかな」
「知らないよ」
「…………」
さっきまで。
則人は同じだと思っていた。
欲しいと思うから取る。
だから。
欲しいと思うこと自体が悪い。
そう思っていた。
でも。
自分は羽衣が欲しい。
欲しいけれど。
返す。
「…………」
則人の顔から、さっきまでの自信が消えていった。
モズキャッチャーが聞く。
「じゃあさ」
「うん?」
「俺は、欲しいって思ったらダメなの?」
「…………」
今度は。
則人はすぐに答えなかった。
◇
少し離れたところで。
天女が、ふっと笑った。
「気づき始めましたね」
ぬらりひょんが髭を撫でる。
「まだ入口じゃ」
「教えてあげないんですか?」
「答えだけを渡すのは簡単じゃ」
「はい」
「じゃが、自分で間違えたのなら」
ぬらりひょんは則人を見る。
「自分で考えた方がよい」
天女も、則人を見る。
「難しそうですね」
「難しいじゃろうな」
「則人さんですし」
「それはどういう意味じゃ」
「そのままです」
「…………」
ぬらりひょんは天女を見た。
天女は。
何も言わなかったことにした。
◇
「欲しい……」
則人が、小さく呟いた。
「何が?」
「羽衣」
モズキャッチャーがすぐに言う。
「欲しがっちゃダメなんだろ?」
「うーん……」
「ダメなんだよな?」
「でも……」
則人は羽衣を触った。
「欲しいって思うの、勝手に出てくるよ」
「そうだろ?」
「うん」
「俺もだよ」
「…………」
則人は、モズキャッチャーを見た。
そこで初めて。
自分とモズキャッチャーにも。
同じところがあるのかもしれないと思った。
「じゃあ……」
則人は考える。
「欲しいって思うのがダメなんじゃなくて……」
「じゃなくて?」
「…………」
考える。
けれど。
続きが出てこない。
「分かんない」
「分かんないのかよ!」
「だって、今考えてるんだもん!」
「さっきは『ダメ!』って言い切っただろ!」
「間違えたかもしれないじゃん!」
「急に弱くなったな!」
「うるさいなあ!」
モズキャッチャーが。
ほんの少し。
笑った。
則人は、それに気づかなかった。
◇
目の前には。
モズキャッチャーが欲しがっていたぬいぐるみ。
則人の肩には。
自分が欲しいと思っている羽衣。
二人とも。
欲しいものがある。
でも。
何かが違う。
「…………」
何が違うのか。
則人には。
まだ、うまく言葉にできなかった。
欲しいと思うこと。
欲しいから取ること。
欲しいけれど我慢すること。
欲しいけれど返すこと。
全部。
同じ「欲しい」なのに。
何かが違う。
「ねえ」
則人が言った。
「何?」
「ちょっと待って」
「何を?」
「ぼく」
羽衣を見る。
それから。
ぬいぐるみを見る。
そして。
モズキャッチャーを見る。
「もうちょっと考える」
「何を?」
「欲しいって思うのが」
則人は、少し困った顔で答えた。
「本当にダメなのか」
「…………」
モズキャッチャーは。
しばらく則人を見つめていた。
そして。
クレーンアームを下ろしたまま。
小さく答えた。
「……俺も考える」
「うん」
二人は。
欲しいものを目の前にしたまま。
しばらく。
そこに立っていた。
欲しいと思うことは。
悪いことなのか。
それとも。
本当に大切なのは。
そのあと。
どうするかなのか。
則人はまだ。
その答えを言葉にはできなかった。
ただ。
さっきまでのように。
「欲しがっちゃダメ!」
とだけは。
もう言えなくなっていた。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




