第4話「聞こえない」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、あの時そこに則人がいなかったら」
第4話「聞こえない」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
夜。
さとるは、一人で歩いていた。
街の明かりを避けるように。
人のいる場所を避けるように。
誰にも会わないように。
「…………」
昼間までとは。
まるで逆だった。
あれほど。
人を探していた。
誰かいないかな。
誰か、ぼくの話を聞いてくれないかな。
人影を見つけるたびに。
嬉しくなって。
声をかけて。
追いかけて。
もっと聞いてほしくて。
声を大きくした。
なのに。
今は。
人影を見つけると。
さとるの方から道を変えた。
話したら。
相手が苦しむ。
近づいたら。
逃げられる。
だから。
誰にも会わない方がいい。
「…………」
さとるは。
ずっと黙っていた。
こんなに長い時間。
誰にも話しかけなかったのは。
いつ以来だろう。
もしかしたら。
初めてかもしれない。
◇
話したいことは。
たくさんあった。
今日あったこと。
怖かったこと。
みんなに逃げられたこと。
そして。
お母さんに会ったこと。
「…………」
お母さんは。
自分の名前を呼んでくれた。
手を伸ばしてくれた。
何かを。
一生懸命。
伝えようとしていた。
でも。
聞こえなかった。
「…………」
さとるは。
足を止める。
どうして。
聞こえなかったんだろう。
答えは。
分かっている。
自分の声が。
大きすぎたから。
「…………」
今まで。
そんなことを考えたことはなかった。
自分の話を聞いてほしい。
そのことばかり考えていた。
相手が何を言っているのか。
相手が何を伝えようとしているのか。
そんなことを。
考えたことがあっただろうか。
「…………」
さとるは。
また歩き始めた。
◇
しばらくすると。
道の端に。
小さな水たまりがあった。
街灯の光が。
ぼんやりと映っている。
さとるは。
その前で足を止めた。
「…………」
水面に。
何かが映っていた。
大きな頭。
セミのような姿。
背中には羽。
腹には。
大きなスピーカー。
「…………」
さとるは。
しばらく。
その姿を見つめた。
「……ぼくじゃないみたい」
本当に。
小さく言ったつもりだった。
けれど。
ブォン。
腹のスピーカーが。
低く震えた。
「っ……!」
さとるは。
慌てて口を塞いだ。
静かになる。
「…………」
水面の中の怪人も。
口を押さえている。
自分と同じ動きをしている。
それでも。
さとるには。
それが自分だと思えなかった。
「…………」
ゆっくり。
その場に座り込む。
水面が揺れた。
怪人の顔も。
ぐにゃりと歪んだ。
「どうして……」
さとるは。
膝を抱えた。
どうして。
こうなったんだろう。
自分は。
ただ。
話を聞いてほしかっただけなのに。
それだけだった。
なのに。
みんなが逃げた。
怖がった。
耳を塞いだ。
お母さんまで。
苦しそうな顔をした。
「……ぼくが悪いのかな」
返事はない。
当たり前だった。
ここには。
自分しかいない。
「みんなが聞いてくれないからだよ」
ぽつり。
「だから、大きな声にしたんだよ」
誰も答えない。
「聞いてくれたら……」
そこで。
言葉が止まった。
もし。
みんなが聞いてくれたら。
本当に。
それだけでよかったのだろうか。
「…………」
さとるの頭に。
お母さんの姿が浮かんだ。
耳を塞いでいた。
苦しそうだった。
それでも。
何かを叫んでいた。
自分に。
何かを伝えようとしていた。
「…………」
でも。
聞こえなかった。
自分の声が。
大きすぎたから。
◇
さとるは。
ゆっくりと。
腹のスピーカーに手を置いた。
「もしかして……」
初めて。
ほんの少しだけ。
違うことを考えた。
みんなは。
自分の話が嫌だったから。
逃げたんじゃないのかもしれない。
自分が嫌いだから。
逃げたんじゃないのかもしれない。
ただ。
「ぼくの声……」
スピーカーを見る。
「痛かったんだよね」
あの人は。
言っていた。
『うるさい! もうやめて!』
子どもたちも。
耳を塞いでいた。
お母さんも。
苦しそうに。
耳を塞いでいた。
「…………」
声が届いていなかったんじゃない。
届きすぎていた。
「…………」
さとるは。
ようやく。
そのことに気づいた。
◇
今までは。
聞こえなければ。
大きくすればいいと思っていた。
もっと大きく。
もっと遠くまで。
どこにいる人にでも。
自分の声が届くように。
そうすれば。
きっと。
誰かが聞いてくれる。
そう思っていた。
でも。
違った。
大きくすればするほど。
みんなは。
遠くへ行った。
「…………」
さとるは。
スピーカーに手を置いたまま。
少しだけ。
音量を下げた。
カチ。
小さな音。
「…………」
もう一度。
カチ。
また。
少し下げる。
そして。
恐る恐る。
口を開いた。
「……聞こえる?」
今までより。
ずっと。
小さな声。
夜の道に。
静かに響いた。
「…………」
誰もいない。
返事もない。
それでも。
さとるは。
音量を上げなかった。
もう一度。
「……誰か」
少しだけ。
声が震える。
「聞いてくれる?」
静かな声。
今までなら。
返事がなければ。
すぐに大きくしていた。
聞こえないなら。
もっと大きく。
それしか。
知らなかったから。
でも。
今は。
「…………」
待った。
誰かが答えてくれるかもしれないと。
ただ。
待った。
夜の道は。
静かなままだった。
誰も。
答えてはくれなかった。
「…………」
寂しかった。
それでも。
さとるは。
もう。
音量を上げなかった。
聞いてもらうことと。
大きな声を出すことは。
同じじゃない。
そのことに。
ようやく。
気づき始めていた。
けれど。
まだ。
一つだけ。
分かっていないことがあった。
声を小さくしただけでは。
誰かが話を聞いてくれるとは限らない。
では。
どうすれば。
誰かに。
本当に聞いてもらえるのか。
「…………」
その答えを。
さとるは。
まだ知らなかった。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




