第3話「帰りたい」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、あの時そこに則人がいなかったら」
第3話「帰りたい」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
夕方になった。
空が、少しずつ赤く染まっていく。
さとるは。
一人で歩いていた。
話を聞いてくれる人を探して。
何度も声をかけた。
何度も逃げられた。
そして今は。
どこへ向かえばいいのかも分からないまま。
ただ。
歩いていた。
「…………」
少し前なら。
この時間になれば。
家へ帰っていた。
玄関を開ければ。
兄弟たちがいる。
みんな好き勝手に話していて。
うるさいくらいだった。
お母さんも。
家の中を忙しそうに動いている。
その中で。
自分も話していた。
学校であったこと。
友達のこと。
描いた絵のこと。
今日見つけたもののこと。
聞いてほしくて。
たくさん。
たくさん話した。
でも。
いつも最後まで聞いてもらえたわけではなかった。
『あとでね』
何度も言われた。
お母さんが忙しい時。
兄弟の誰かが話している時。
何か別のことをしている時。
『あとでね』
あの言葉が。
嫌だった。
どうして今じゃダメなの?
ぼくの話なのに。
ぼくは今。
聞いてほしいのに。
だから。
思った。
誰にも無視されない。
どこにいても届く。
そんな大きな声があればいい。
そうすれば。
絶対に。
みんなが自分の話を聞いてくれる。
そして。
その願いは叶った。
今のさとるには。
街中に響くほどの声がある。
誰にも。
「聞こえない」
とは言わせない声がある。
なのに。
「…………」
誰も。
話を聞いてくれなかった。
◇
さとるは足を止めた。
いつの間にか。
見覚えのある道まで来ていた。
「…………」
この道を進めば。
家がある。
「……帰ろうかな」
ぽつりと呟く。
帰れば。
お母さんがいる。
兄弟たちもいる。
知らない人は逃げた。
同じくらいの子どもたちも逃げた。
でも。
家族なら。
「…………」
さとるは。
ゆっくりと歩き出した。
◇
家が近づいてきた。
けれど。
いつもと様子が違う。
「……あれ?」
家の前に。
何人もの大人が集まっていた。
近所の人。
知らない人。
誰かが電話をしている。
ざわざわと。
みんなが話していた。
さとるは。
少し離れた場所で立ち止まる。
その時だった。
「さとる!」
「…………!」
聞き慣れた声。
絶対に。
間違えない声。
「お母さん!」
さとるの顔が。
ぱっと明るくなった。
いた。
お母さんが。
自分を見ている。
自分の名前を呼んでくれた。
やっと。
やっと。
逃げずに。
自分を見てくれる人がいた。
「お母さん!」
さとるは一歩。
前へ出る。
「聞いて!」
嬉しくなった。
話したいことが。
いっぱいあった。
「ぼくね!」
今日あったこと。
みんなに逃げられたこと。
怖かったこと。
寂しかったこと。
全部。
全部。
お母さんに聞いてほしい。
「今日――!」
ブォン!
腹のスピーカーから。
大きな音が響いた。
「っ……!」
お母さんが。
両耳を塞いだ。
「…………え?」
さとるの声が止まる。
お母さんの顔が。
苦しそうに歪んでいた。
「お母さん?」
何かを言っている。
口が動いている。
必死に。
何かを叫んでいる。
でも。
「……なに?」
聞こえない。
「お母さん、何て言ってるの?」
自分のスピーカーから出た音が。
まだ耳の奥で響いている。
お母さんの声が。
聞こえない。
「もっと大きな声で言ってよ」
そう言いかけて。
さとるは止まった。
「…………」
今。
自分は。
何て言おうとした?
◇
「お母さん!」
さとるが近づこうとする。
すると。
「危ない!」
周りにいた大人たちが。
お母さんの前へ出た。
「近づかないで!」
「下がって!」
「違う!」
さとるが叫ぶ。
ブォン!
また。
大きな音が響いた。
「その人、お母さんなんだよ!」
大人たちが耳を塞ぐ。
お母さんも。
顔を歪める。
「ぼくのお母さんなんだよ!」
また一歩。
近づこうとして。
止まった。
「…………」
お母さんが。
苦しそうだった。
自分が話すたびに。
お母さんが。
苦しそうな顔をする。
「…………」
さとるの足が。
動かなくなった。
お母さんは。
何かを言っている。
「さ……と……」
微かに。
聞こえたような気がした。
「お母さん……?」
もっと近くへ行けば。
聞こえるかもしれない。
そう思って。
一歩。
足を前へ出しかける。
けれど。
自分が近づけば。
また。
お母さんが苦しむかもしれない。
話したら。
もっと苦しませるかもしれない。
「…………」
さとるは。
初めて。
自分から。
一歩。
後ろへ下がった。
◇
お母さんが。
手を伸ばした。
さとるも。
反射的に手を伸ばす。
「…………」
届かない。
あと少し。
歩けば届く。
それなのに。
二人の間は。
縮まらない。
「お母さん……」
声を出したい。
聞いてほしい。
今日あったこと。
怖かったこと。
知らない人に逃げられたこと。
子どもたちにも逃げられたこと。
本当は。
泣きたいくらい怖かったこと。
全部。
全部。
聞いてほしい。
「…………」
でも。
声を出したら。
また。
お母さんが耳を塞ぐかもしれない。
苦しそうな顔をするかもしれない。
「…………」
さとるは。
伸ばしていた手を。
ゆっくり下ろした。
そして。
もう一歩。
後ろへ下がる。
お母さんが何かを叫ぶ。
「さとる!」
今度は。
ほんの少しだけ聞こえた。
「…………」
自分の名前。
ずっと。
呼んでほしかった。
自分を見てほしかった。
話を聞いてほしかった。
なのに。
今は。
「……なんで」
さとるは。
小さな声で呟いた。
「ぼく……」
お母さんを見る。
「ただ、聞いてほしかっただけなのに……」
それだけだった。
誰かを困らせたかったわけじゃない。
怖がらせたかったわけでもない。
お母さんを。
苦しませたかったわけなんて。
絶対にない。
ただ。
聞いてほしかった。
それだけなのに。
「…………」
さとるは。
ゆっくりと背を向けた。
「さとる!」
お母さんの声がする。
けれど。
さとるは振り返れなかった。
今。
振り返って。
何かを話したら。
また。
お母さんを苦しませてしまう。
だから。
歩いた。
一歩。
また一歩。
自分の家から。
お母さんから。
離れていく。
帰りたかったはずなのに。
帰る場所は。
すぐそこにあるのに。
さとるは。
自分から。
遠ざかっていった。
――つづく
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




