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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
セミスピーカー編 3

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12/21

第2話「もっと大きく!」

着ぐるみモンスター


Another Story


「もし、あの時そこに則人がいなかったら」


第2話「もっと大きく!」


内田紀人 作


※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。


さとるは、街を歩き続けていた。


人を探して。


話を聞いてくれる誰かを探して。


少し先に、人影を見つける。


「あっ!」


さとるの顔が明るくなった。


今度こそ。


今度こそ、ちゃんと聞いてもらおう。


「ねえ!」


ブォン!


腹のスピーカーから声が響く。


相手が驚いて振り返った。


「今日ね!」


さとるは嬉しくなって続ける。


「ぼくの絵が――!」


「うるさい!」


「…………え?」


相手は両耳を押さえた。


そして。


そのまま、さとるから離れていく。


「待って!」


逃げていく。


「まだ話の途中だよ!」


それでも。


振り返ってはくれなかった。



また。


人を見つけた。


「ねえ!」


逃げられた。


また。


別の人を見つけた。


「ちょっと聞いて!」


耳を塞がれた。


また。


見つけた。


「ぼくね!」


逃げられた。


何度やっても。


同じだった。


「…………」


さとるは、自分の腹についた大きなスピーカーを見る。


おかしい。


これだけ大きな声が出るのに。


どうして。


誰も聞いてくれないんだろう。


「もしかして……」


さとるは考えた。


「まだ、小さいのかな」


逃げる人にまで。


ちゃんと声が届いていないのかもしれない。


だったら。


答えは簡単だった。


「もっと大きくすれば――!」


スピーカーへ手を伸ばす。


音量を上げる。


ブゥゥゥン――。


「これなら!」


そして。


道の向こうにいた人へ向かって。


声を出した。


「ねええええっ!」


ドン!


空気が弾けた。


「っ!」


近くにいた人が。


その場にしゃがみ込んだ。


両耳を押さえている。


「聞こえた?」


さとるが近づこうとする。


すると。


「やめて!」


「え?」


さとるの足が止まった。


「うるさい! もうやめて!」


「…………」


その人は耳を押さえたまま。


さとるから逃げていった。


さとるは。


追いかけなかった。


ただ。


その背中を見つめていた。


「……うるさい?」


小さく呟く。


初めてだった。


聞こえない。


ではなく。


「うるさい」


そう言われた。


「…………」


胸の奥が。


ざわざわする。


「ぼくの話が……?」


違う。


そんなはずはない。


自分は。


ただ話したかっただけだ。


今日あったこと。


学校であったこと。


描いた絵のこと。


面白かったこと。


誰かに聞いてほしかったこと。


「違うよ」


さとるは小さく呟いた。


「ぼくは……」


周りを見る。


誰もいない。


「ただ、聞いてほしいだけだよ」


返事はなかった。



その時。


遠くから声が聞こえた。


子どもたちの声だった。


さとるが顔を上げる。


自分と同じくらいの年の子たちが。


何人かで歩いている。


「…………」


さとるの顔が。


少しだけ明るくなった。


大人はダメでも。


同じくらいの子なら。


もしかしたら。


話を聞いてくれるかもしれない。


さとるは。


そちらへ一歩踏み出した。


すると。


子どもの一人が、さとるに気づいた。


「あっ!」


「…………!」


さとるが手を上げる。


「怪人だ!」


「逃げろ!」


「え?」


子どもたちが。


一斉に走り出した。


「待って!」


反射的に。


声が大きくなる。


ブォン!


「ぼく、怖くないよ!」


子どもたちは。


さらに速く走った。


「違う!」


さとるも追いかける。


「ぼく、話したいだけ!」


誰も止まらない。


「ねえ!」


遠ざかっていく。


「待ってよ!」


もっと。


遠くなる。


「聞いて!」


誰も。


振り返らない。


「…………」


さとるは。


腹のスピーカーへ手を伸ばした。


もっと。


大きくすれば。


きっと。


届く。


さとるは。


また音量を上げた。


「聞いてってば!!」


ドンッ!


声が。


街いっぱいに響いた。


子どもたちが耳を塞ぐ。


そして。


もっと速く。


さとるから逃げていった。


「…………」


さとるの足が。


止まった。


追いかけるのを。


やめた。


「なんで……」


声なら。


届いている。


絶対に。


届いている。


だって。


みんな耳を塞いでいた。


聞こえていないわけじゃない。


それなのに。


誰も。


聞いてくれない。


「…………」


さとるは。


初めて。


分からなくなった。


声が小さいから。


聞いてもらえない。


そう思っていた。


だから。


大きくした。


それでもダメだったから。


もっと大きくした。


なのに。


大きくすればするほど。


みんな。


遠くへ行ってしまう。


「……どうして?」


誰もいなくなった道で。


さとるは一人。


立ち尽くしていた。



しばらくして。


さとるは。


また歩き始めた。


けれど。


今度は。


人を探しているのか。


人のいない場所を探しているのか。


自分でも分からなかった。


話したい。


でも。


話しかければ逃げられる。


だったら。


もっと大きな声で。


そう思う。


でも。


さっきの言葉が。


頭から離れない。


――うるさい!


――もうやめて!


「…………」


さとるは。


腹のスピーカーを見下ろした。


欲しかったはずの力。


誰にでも。


自分の声を届けられる力。


なのに。


「これなら、みんな聞いてくれると思ったのに……」


声は届いている。


今までより。


ずっと遠くまで。


それなのに。


聞いてほしい人たちは。


前よりずっと。


遠くなっていた。


「……まだ」


さとるが呟く。


「話の途中なのに」


返事はない。


その声だけが。


誰もいなくなった道に。


寂しく響いていた。


――つづく

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