第2話「もっと大きく!」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、あの時そこに則人がいなかったら」
第2話「もっと大きく!」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
さとるは、街を歩き続けていた。
人を探して。
話を聞いてくれる誰かを探して。
少し先に、人影を見つける。
「あっ!」
さとるの顔が明るくなった。
今度こそ。
今度こそ、ちゃんと聞いてもらおう。
「ねえ!」
ブォン!
腹のスピーカーから声が響く。
相手が驚いて振り返った。
「今日ね!」
さとるは嬉しくなって続ける。
「ぼくの絵が――!」
「うるさい!」
「…………え?」
相手は両耳を押さえた。
そして。
そのまま、さとるから離れていく。
「待って!」
逃げていく。
「まだ話の途中だよ!」
それでも。
振り返ってはくれなかった。
◇
また。
人を見つけた。
「ねえ!」
逃げられた。
また。
別の人を見つけた。
「ちょっと聞いて!」
耳を塞がれた。
また。
見つけた。
「ぼくね!」
逃げられた。
何度やっても。
同じだった。
「…………」
さとるは、自分の腹についた大きなスピーカーを見る。
おかしい。
これだけ大きな声が出るのに。
どうして。
誰も聞いてくれないんだろう。
「もしかして……」
さとるは考えた。
「まだ、小さいのかな」
逃げる人にまで。
ちゃんと声が届いていないのかもしれない。
だったら。
答えは簡単だった。
「もっと大きくすれば――!」
スピーカーへ手を伸ばす。
音量を上げる。
ブゥゥゥン――。
「これなら!」
そして。
道の向こうにいた人へ向かって。
声を出した。
「ねええええっ!」
ドン!
空気が弾けた。
「っ!」
近くにいた人が。
その場にしゃがみ込んだ。
両耳を押さえている。
「聞こえた?」
さとるが近づこうとする。
すると。
「やめて!」
「え?」
さとるの足が止まった。
「うるさい! もうやめて!」
「…………」
その人は耳を押さえたまま。
さとるから逃げていった。
さとるは。
追いかけなかった。
ただ。
その背中を見つめていた。
「……うるさい?」
小さく呟く。
初めてだった。
聞こえない。
ではなく。
「うるさい」
そう言われた。
「…………」
胸の奥が。
ざわざわする。
「ぼくの話が……?」
違う。
そんなはずはない。
自分は。
ただ話したかっただけだ。
今日あったこと。
学校であったこと。
描いた絵のこと。
面白かったこと。
誰かに聞いてほしかったこと。
「違うよ」
さとるは小さく呟いた。
「ぼくは……」
周りを見る。
誰もいない。
「ただ、聞いてほしいだけだよ」
返事はなかった。
◇
その時。
遠くから声が聞こえた。
子どもたちの声だった。
さとるが顔を上げる。
自分と同じくらいの年の子たちが。
何人かで歩いている。
「…………」
さとるの顔が。
少しだけ明るくなった。
大人はダメでも。
同じくらいの子なら。
もしかしたら。
話を聞いてくれるかもしれない。
さとるは。
そちらへ一歩踏み出した。
すると。
子どもの一人が、さとるに気づいた。
「あっ!」
「…………!」
さとるが手を上げる。
「怪人だ!」
「逃げろ!」
「え?」
子どもたちが。
一斉に走り出した。
「待って!」
反射的に。
声が大きくなる。
ブォン!
「ぼく、怖くないよ!」
子どもたちは。
さらに速く走った。
「違う!」
さとるも追いかける。
「ぼく、話したいだけ!」
誰も止まらない。
「ねえ!」
遠ざかっていく。
「待ってよ!」
もっと。
遠くなる。
「聞いて!」
誰も。
振り返らない。
「…………」
さとるは。
腹のスピーカーへ手を伸ばした。
もっと。
大きくすれば。
きっと。
届く。
さとるは。
また音量を上げた。
「聞いてってば!!」
ドンッ!
声が。
街いっぱいに響いた。
子どもたちが耳を塞ぐ。
そして。
もっと速く。
さとるから逃げていった。
「…………」
さとるの足が。
止まった。
追いかけるのを。
やめた。
「なんで……」
声なら。
届いている。
絶対に。
届いている。
だって。
みんな耳を塞いでいた。
聞こえていないわけじゃない。
それなのに。
誰も。
聞いてくれない。
「…………」
さとるは。
初めて。
分からなくなった。
声が小さいから。
聞いてもらえない。
そう思っていた。
だから。
大きくした。
それでもダメだったから。
もっと大きくした。
なのに。
大きくすればするほど。
みんな。
遠くへ行ってしまう。
「……どうして?」
誰もいなくなった道で。
さとるは一人。
立ち尽くしていた。
◇
しばらくして。
さとるは。
また歩き始めた。
けれど。
今度は。
人を探しているのか。
人のいない場所を探しているのか。
自分でも分からなかった。
話したい。
でも。
話しかければ逃げられる。
だったら。
もっと大きな声で。
そう思う。
でも。
さっきの言葉が。
頭から離れない。
――うるさい!
――もうやめて!
「…………」
さとるは。
腹のスピーカーを見下ろした。
欲しかったはずの力。
誰にでも。
自分の声を届けられる力。
なのに。
「これなら、みんな聞いてくれると思ったのに……」
声は届いている。
今までより。
ずっと遠くまで。
それなのに。
聞いてほしい人たちは。
前よりずっと。
遠くなっていた。
「……まだ」
さとるが呟く。
「話の途中なのに」
返事はない。
その声だけが。
誰もいなくなった道に。
寂しく響いていた。
――つづく




