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七つの国境、ひとつの故郷  作者: Jint
第2章:灰燼の種子

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96話:狙撃手通り

 シャヘル中央通りは以前は商人の行列で埋まる通りだった。


 ドワーフの干物屋、エルフの織物屋、ヒューマンの陶器屋、オークの肉屋——朝から夕方まで種族の声が混じり、子供たちが走り回り、犬が吠えていた。


 その通りに今は誰もいなかった。


 ***


 包囲二週目、ある朝、変化が起きた。


 北側の高い建物の窓から、矢が飛んできた。


 最初の標的は犬だった。野犬が通りを横切ったとき、矢が来た。犬は通りの真ん中で倒れた。


 誰も犬を回収しなかった。回収に行けば、次の矢が人間に来る。


 犬は通りに半日、横たわっていた。


 ***


 その日のうちに市民の口から口へ情報が広がった。


「中央通りにエルフの長弓兵がいる」


「窓から狙ってくる」


「通りを横切るな」


 市民は最初、信じなかった。城壁の上のエルフ軍の話は知っていたが、街の中の建物にエルフがいるというのは理屈に合わなかった。


 しかし、夕方までに三人が通りで撃たれた。一人は死んだ。


 市民は信じた。


 ***


 翌日から、中央通りは空になった。


 市民は脇道を使うようになった。脇道は回り道だった。通常の三倍時間がかかった。それでも、通りを横切るよりは安全だった。


 しかし、用事によっては通りを横切る必要があった。水を汲みに井戸に行くとき。市場に買い物に行くとき。医療所に薬を取りに行くとき。


 市民は横切るとき、走った。あるいは這った。あるいは瓦礫の陰を繋いで進んだ。


 ***


 ルシェンは視察として、中央通りを見に行った。


 脇道の角に立った。中央通りには出なかった。出れば、撃たれる。それは明白だった。


 通りは空だった。瓦礫が所々に転がっていた。最初の砲撃が二日前にあった。少しだけ建物の壁が崩れていた。


 脇道の反対側に市民が数人いた。水を汲んだ後、戻ってきた一団だった。井戸まで危険な道を二刻かけて回ってきていた。


 ルシェンが彼らに話を聞いた。


「井戸の使い方はどうしていますか」


「順番制にしています」と若い女が答えた。「同じ時間に集中しないように町内ごとに時間を分けて」


「井戸まで何分かかりますか」


「以前は十分。今は四十分。回り道だから」


「水の量は」


「以前の半分にしています。一日二度、汲みに行きます」


 ルシェンは頷いた。彼らはすでに適応していた。誰の指示も待っていなかった。生活が新しい現実に合わせて、組み直されていた。


 ファトマが言っていた——「街の地図が動いている限り、街は生きている」。


 市民は新しい地図を自分たちで描き始めていた。


 ***


 ルシェンが市民と話していたとき。


 脇道のもう一方の端に母親と子供が現れた。子供は七歳くらいに見えた。ヒューマンの男の子。水筒を抱えていた。母親が子供の手を握っていた。


 彼らは井戸からの帰りだった。あと、中央通りを一度横切れば、家に着く。


 母親は子供の手を握ったままだった。脇道の端で止まった。


 母親が子供に何かを言っていた。「ここで待っていて。母さんが先に走る」と言っているようだった。


 子供は頷かなかった。喉が乾いていた。家に早く帰りたかった。母親の手を振り払おうとした。母親がもう一度、子供の手を握った。


 しかし、子供はもう待てなかった。


 ***


 子供は走り出した。


 母親が声を上げた。声にならない声だった。


 子供は中央通りに出た。三歩走った。四歩。五歩。


 矢が来た。


 矢は子供の背中に刺さった。子供は通りの真ん中で倒れた。


 母親が走り出そうとした。ルシェンの隣にいた若い女が母親を押さえた。


「行けば、あなたも撃たれる」と若い女が言った。


 母親は声を出した。声というよりは息だった。長く続いた。


 ***


 子供は通りに横たわったままだった。しばらくして、子供は動かなくなった。母親の息も止まった。


 ルシェンはその場に立っていた。何もできなかった。


 もし、ルシェンが通りに出れば、ルシェンも撃たれる。撃たれれば、組織が動揺する。動揺すれば、明日の作戦が崩れる。崩れれば、何人かが死ぬ。


 その計算がルシェンの頭の中で自動的に回った。


 計算が回ったことにルシェンは気づいた。


 ***


 夕方、子供の遺体は回収された。エルフ側が夕暮れの間、射撃を止めた。理由はわからない。たぶん、交代の時刻だった。


 遺体は母親の元に返された。


 ルシェンは母親に近づいた。


「子供の名前を教えてください」


 母親はしばらく声が出なかった。


「カズ」と最後に言った。


「お母さんのお名前は」


「マリヤ」


「ご家族は他にいますか」


「夫がいます。前線の見張り台です」


「わかりました。お伝えに行きます」


 ルシェンは頭を下げた。


 マリヤは何も言わなかった。子供を抱いたまま、座り続けた。


 ***


 ルシェンは夫に伝えに見張り台に上がった。


 夫の名前はヤンといった。三十代のヒューマン。パルチザンの守備隊にいる。


 ルシェンが言葉を選んでから、ヤンに伝えた。


 ヤンは立ち尽くした。それから、見張り台の床に座り込んだ。声は出さなかった。


 ルシェンはしばらくヤンの隣に座っていた。声を出さなかった。出す言葉がなかった。


 ***


 夜、自室に戻った。手帳を開いた。


 書いた。


「カズ。七歳。ヒューマン。中央通り、井戸からの帰り。背中を射られて、即死。母マリヤ、父ヤン」


 書いてから、しばらく頁を見ていた。


 ルシェンはペンを取り直して、書き加えた。


「俺は通りに出なかった。出れば、組織が動揺すると判断した。判断はたぶん、正しかった。だが、判断したという事実が俺の中に残っている」


 ***


 ファトマのところに寄った。


「ファトマさん。今日、市場はどうでしたか」


「明日も開く」とファトマは答えた。


「ファトマさん、なぜ、市場を続けるのですか」


 ファトマはしばらくルシェンを見た。


「市場が死ぬとき、希望が死ぬ」


「希望」


「市場が動いている限り、人は明日のことを考える。明日の食事のこと、明日の値段のこと、明日の天気のこと。明日のことを考える人は生きている」


「明日が来ない人もいます」


「来なかった人のために市場を開く」とファトマは言った。「来なかった人の分も明日のことを考える」


「カズが死にました。七歳。中央通りで」


「わかっている」


「明日、ファトマさんが市場を開くとき、カズの分も考えますか」


「考える」


 ルシェンは何も言わなかった。ファトマも何も言わなかった。二人でしばらくお茶を飲んでいた。


 ***


 部屋を出る前にファトマがもうひとつ言った。


「ルシェン」


「はい」


「お前は通りに出なかった」


 ルシェンは止まった。


「正しい判断だった」とファトマは言った。「だが、お前が出なかったことを覚えておけ。出なかったということはお前が選んだということだ。選ばずに出なかったのではない。選んで出なかった」


「わかっています」


「わかっていれば、それでいい」


 ルシェンは扉を閉めた。夜の街を歩いた。脇道を通った。中央通りには出なかった。明日も出ない。明後日も出ない。


 しかし、出ないと選び続けることの重さを今夜は少しだけ感じた。


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