96話:狙撃手通り
シャヘル中央通りは以前は商人の行列で埋まる通りだった。
ドワーフの干物屋、エルフの織物屋、ヒューマンの陶器屋、オークの肉屋——朝から夕方まで種族の声が混じり、子供たちが走り回り、犬が吠えていた。
その通りに今は誰もいなかった。
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包囲二週目、ある朝、変化が起きた。
北側の高い建物の窓から、矢が飛んできた。
最初の標的は犬だった。野犬が通りを横切ったとき、矢が来た。犬は通りの真ん中で倒れた。
誰も犬を回収しなかった。回収に行けば、次の矢が人間に来る。
犬は通りに半日、横たわっていた。
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その日のうちに市民の口から口へ情報が広がった。
「中央通りにエルフの長弓兵がいる」
「窓から狙ってくる」
「通りを横切るな」
市民は最初、信じなかった。城壁の上のエルフ軍の話は知っていたが、街の中の建物にエルフがいるというのは理屈に合わなかった。
しかし、夕方までに三人が通りで撃たれた。一人は死んだ。
市民は信じた。
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翌日から、中央通りは空になった。
市民は脇道を使うようになった。脇道は回り道だった。通常の三倍時間がかかった。それでも、通りを横切るよりは安全だった。
しかし、用事によっては通りを横切る必要があった。水を汲みに井戸に行くとき。市場に買い物に行くとき。医療所に薬を取りに行くとき。
市民は横切るとき、走った。あるいは這った。あるいは瓦礫の陰を繋いで進んだ。
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ルシェンは視察として、中央通りを見に行った。
脇道の角に立った。中央通りには出なかった。出れば、撃たれる。それは明白だった。
通りは空だった。瓦礫が所々に転がっていた。最初の砲撃が二日前にあった。少しだけ建物の壁が崩れていた。
脇道の反対側に市民が数人いた。水を汲んだ後、戻ってきた一団だった。井戸まで危険な道を二刻かけて回ってきていた。
ルシェンが彼らに話を聞いた。
「井戸の使い方はどうしていますか」
「順番制にしています」と若い女が答えた。「同じ時間に集中しないように町内ごとに時間を分けて」
「井戸まで何分かかりますか」
「以前は十分。今は四十分。回り道だから」
「水の量は」
「以前の半分にしています。一日二度、汲みに行きます」
ルシェンは頷いた。彼らはすでに適応していた。誰の指示も待っていなかった。生活が新しい現実に合わせて、組み直されていた。
ファトマが言っていた——「街の地図が動いている限り、街は生きている」。
市民は新しい地図を自分たちで描き始めていた。
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ルシェンが市民と話していたとき。
脇道のもう一方の端に母親と子供が現れた。子供は七歳くらいに見えた。ヒューマンの男の子。水筒を抱えていた。母親が子供の手を握っていた。
彼らは井戸からの帰りだった。あと、中央通りを一度横切れば、家に着く。
母親は子供の手を握ったままだった。脇道の端で止まった。
母親が子供に何かを言っていた。「ここで待っていて。母さんが先に走る」と言っているようだった。
子供は頷かなかった。喉が乾いていた。家に早く帰りたかった。母親の手を振り払おうとした。母親がもう一度、子供の手を握った。
しかし、子供はもう待てなかった。
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子供は走り出した。
母親が声を上げた。声にならない声だった。
子供は中央通りに出た。三歩走った。四歩。五歩。
矢が来た。
矢は子供の背中に刺さった。子供は通りの真ん中で倒れた。
母親が走り出そうとした。ルシェンの隣にいた若い女が母親を押さえた。
「行けば、あなたも撃たれる」と若い女が言った。
母親は声を出した。声というよりは息だった。長く続いた。
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子供は通りに横たわったままだった。しばらくして、子供は動かなくなった。母親の息も止まった。
ルシェンはその場に立っていた。何もできなかった。
もし、ルシェンが通りに出れば、ルシェンも撃たれる。撃たれれば、組織が動揺する。動揺すれば、明日の作戦が崩れる。崩れれば、何人かが死ぬ。
その計算がルシェンの頭の中で自動的に回った。
計算が回ったことにルシェンは気づいた。
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夕方、子供の遺体は回収された。エルフ側が夕暮れの間、射撃を止めた。理由はわからない。たぶん、交代の時刻だった。
遺体は母親の元に返された。
ルシェンは母親に近づいた。
「子供の名前を教えてください」
母親はしばらく声が出なかった。
「カズ」と最後に言った。
「お母さんのお名前は」
「マリヤ」
「ご家族は他にいますか」
「夫がいます。前線の見張り台です」
「わかりました。お伝えに行きます」
ルシェンは頭を下げた。
マリヤは何も言わなかった。子供を抱いたまま、座り続けた。
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ルシェンは夫に伝えに見張り台に上がった。
夫の名前はヤンといった。三十代のヒューマン。パルチザンの守備隊にいる。
ルシェンが言葉を選んでから、ヤンに伝えた。
ヤンは立ち尽くした。それから、見張り台の床に座り込んだ。声は出さなかった。
ルシェンはしばらくヤンの隣に座っていた。声を出さなかった。出す言葉がなかった。
***
夜、自室に戻った。手帳を開いた。
書いた。
「カズ。七歳。ヒューマン。中央通り、井戸からの帰り。背中を射られて、即死。母マリヤ、父ヤン」
書いてから、しばらく頁を見ていた。
ルシェンはペンを取り直して、書き加えた。
「俺は通りに出なかった。出れば、組織が動揺すると判断した。判断はたぶん、正しかった。だが、判断したという事実が俺の中に残っている」
***
ファトマのところに寄った。
「ファトマさん。今日、市場はどうでしたか」
「明日も開く」とファトマは答えた。
「ファトマさん、なぜ、市場を続けるのですか」
ファトマはしばらくルシェンを見た。
「市場が死ぬとき、希望が死ぬ」
「希望」
「市場が動いている限り、人は明日のことを考える。明日の食事のこと、明日の値段のこと、明日の天気のこと。明日のことを考える人は生きている」
「明日が来ない人もいます」
「来なかった人のために市場を開く」とファトマは言った。「来なかった人の分も明日のことを考える」
「カズが死にました。七歳。中央通りで」
「わかっている」
「明日、ファトマさんが市場を開くとき、カズの分も考えますか」
「考える」
ルシェンは何も言わなかった。ファトマも何も言わなかった。二人でしばらくお茶を飲んでいた。
***
部屋を出る前にファトマがもうひとつ言った。
「ルシェン」
「はい」
「お前は通りに出なかった」
ルシェンは止まった。
「正しい判断だった」とファトマは言った。「だが、お前が出なかったことを覚えておけ。出なかったということはお前が選んだということだ。選ばずに出なかったのではない。選んで出なかった」
「わかっています」
「わかっていれば、それでいい」
ルシェンは扉を閉めた。夜の街を歩いた。脇道を通った。中央通りには出なかった。明日も出ない。明後日も出ない。
しかし、出ないと選び続けることの重さを今夜は少しだけ感じた。




