83話:初陣
北の民兵展開を知らせた斥候の報告から、二週間が経っていた。
ドワーフ民兵の動きが具体化していた。シャヘル北の小村ヨレシュへの侵入が、傍受された伝令から確定した。日付は、三日後。兵力は、約四十。
ヨレシュには、ヒューマンとエルフが住んでいた。約百五十人。武装した自衛団は、ない。
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作戦会議が、革なめし職人の地下で開かれた。
六人が円卓を囲んだ。ミラ、ルシェン、ベシム、それに三人の小隊長。
「ヨレシュを守る」とミラが言った。「住民を見殺しにしない。これは原則の話だ」
誰も異論を出さなかった。
「兵力は二十。先方の半分だ」とミラは続けた。「正面からの戦闘では勝てない。地形を使う」
ミラが地図をルシェンに向けた。
「地形分析と防衛ラインの立案をやれ」
「わかりました」
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ヨレシュの地形は、ルシェンの頭の中にすでにあった。一週間前に、自分で歩いて確認していた。
村の北側に小川があった。深さは膝下。だが水量は速い。渡渉に時間がかかる。
川の手前で、地形が一段下がっていた。畑が広がっている。畑の向こうに、雑木林。
ルシェンは図を引いた。
「ここに防衛ラインを引きます」と図の上を指した。「小川の南岸、畑の縁。雑木林を背にする。エルフの弓兵を雑木林の中、ヒューマンとオークの近接を畑の縁。ドワーフ出身の重装は、村の入り口を固めて、突破された場合の二重防衛」
ミラが図を見た。それから顔を上げた。
「敵が川を渡る最中に、雑木林から射る」
「はい。射手は最初の一射で配置を変える。同じ位置から二射目を出さない」
「お前の根拠は」
「弓兵は固定位置を狙われやすい。一射ごとに移動すれば、敵の弓兵が反撃を組み立てる前に、こちらの被害を減らせます」
ミラは少し間を置いてから、頷いた。
「やる」
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戦闘前夜。
ルシェンは村の南端の小屋で、書類を整理していた。配置図を最後にもう一度見ていた。
扉が叩かれた。ベシムだった。
「眠れるか」とベシムが聞いた。
「眠ろうと思っていない」
「俺もだ」
ベシムが椅子を引いて座った。ルシェンの向かいに座った。しばらく二人で黙っていた。
ルシェンが先に言った。
「怖いか」
「怖い」
「俺もだ」
それで足りた。
ベシムは少し笑った。笑いというよりは、頬を緩めた。それから、立ち上がって、出ていった。
***
夜明け前、配置についた。
ルシェンは村の中央の見張り台にいた。ここからなら、川と畑と雑木林の全体が見える。伝令を介して、各部隊に指示を出す予定だった。
最初の異変は、予想より早く来た。
夜が明ける前に、北の地平に動きがあった。ドワーフ民兵が早朝の渡渉を選んだ。朝霧を利用するためだった。
ルシェンは見張り台から、雑木林に伝令を走らせた。
「予定より一刻早い。配置を維持。最初の渡渉が始まったら、合図」
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戦闘が始まった。
最初の一射は、雑木林の中から放たれた。ドワーフ民兵が川を渡っている最中だった。
六人が倒れた。最初の一射で六人。雑木林からの射程と角度が、想定通りに機能した。
ドワーフ民兵が動揺した。隊形を崩した。残りの渡渉が止まった。
しかし、止まったのは長くなかった。ドワーフの指揮官——ルシェンの位置から旗が見えた——が、配置の再編を始めた。重装の兵を前に出して、軽装を後ろに置いた。
ルシェンは合図を出した。雑木林の弓兵に、位置の変更を伝える。
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戦闘の中盤、伝令が走れなくなった。
ヒューマンの伝令兵——名前はキレロという、十八歳の若者——が、流れ矢を受けて倒れた。命に関わる傷ではなかったが、走れなかった。
ルシェンは見張り台を降りた。
降りるべきか、判断を一秒で出した。降りなければ、雑木林の弓兵への次の指示が届かない。届かなければ、固定位置で射続けることになる。固定位置は狙われる。
ルシェンは自分で走った。
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雑木林に着いたとき、エルフの弓兵が三射目に入ろうとしていた。
「位置を変えろ」とルシェンは言った。「東の三本目の樫の下に移動。それから次の射」
弓兵長が頷いた。
「敵の重装が前列に出ている」とルシェンは続けた。「足を狙え。胴は鎧で通らない」
「わかった」
ルシェンは雑木林を出ようとした。出る直前に、隣のエルフの若者が声を上げた。
ルシェンが振り向くと、その若者が——カイルだった。三日前にルシェンと数字暗号の使い方の話をしたばかりの——倒れていた。
矢が、首筋に刺さっていた。
「カイル」とルシェンが言った。
カイルが目を開けていた。何か言おうとした。声が出なかった。
ルシェンは膝をついた。
しかし、戦闘は続いていた。指示の続きを伝えなければならなかった。
ルシェンはカイルの手を握った。三秒だけ握った。それから、別の弓兵に指示を続けた。
***
戦闘は、一時間で終わった。
ドワーフ民兵は撤退した。死者十二名、負傷者多数。パルチザン側の死者は一名——カイル。負傷者は四名。
村は、無事だった。住民は地下の退避所にいた。誰も死ななかった。
ルシェンは、戦闘後の処理が一通り終わってから、カイルのところに戻った。
遺体は雑木林の外に運び出されていた。布で覆われていた。
ルシェンは布を少しだけ開けた。
カイルの顔は、静かだった。三日前に、数字暗号の使い方を笑いながら聞いていた顔と、同じ顔だった。少し冷たかった。
***
ルシェンは立ち尽くした。
動けなかった、というのとは違う。動こうとしなかった。動く必要が、しばらくはなかった。
手帳を取り出した。
まだ、一度も名前を書いていなかった手帳だった。新しい紙束を、二週間前に綴じたものだった。
ルシェンは羽根筆を取って、最初の頁に書いた。
「カイル・テラエン。エルフ。十九歳。ヨレシュ防衛戦、首筋を射られて即死。三日前に数字暗号の使い方を笑っていた」
書いてから、しばらく見た。
書き加えた。
「俺の指示の延長線上で、彼は死んだ」
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夜、革なめし職人の地下に戻った。
ミラが待っていた。一人だった。
「お前の判断で、村が守れた」とミラが言った。「だが、一人死んだ。それを忘れるな」
「忘れません」
ミラは何も言わなかった。
ルシェンは机に向かった。手帳を開いて、また閉じた。閉じたまま、しばらく見ていた。
手帳の最初の頁に、カイルの名前が、書かれたままだった。




