84話:混成部隊
ヨレシュ防衛戦の総括会議が、三日後に開かれた。
革なめし職人の地下、いつもの円卓。今回は十二人いた。各小隊長と、ミラとルシェン。それに、ベシム。
ミラが「戦果の振り返りはしない」と最初に言った。「やったことの中で、次に使えるものを抽出する。それだけだ」
ルシェンが地図を広げた。地図の上には、ヨレシュ防衛戦の配置が、印で残っていた。三日前の戦闘の痕跡が、紙の上で、まだ生きていた。
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「混成の編成が、有効でした」とルシェンは言った。
円卓の十二人が、ルシェンを見た。
「エルフが射、ドワーフ出身者が押し、ヒューマンが繋ぎ、オークが回り込む。ひとつの戦場で、四種族が別々の役割を持って動いた。これが、ヨレシュで機能しました」
「偶然じゃないか」と古参の小隊長の一人——リアンというヒューマン——が言った。「あの地形だから機能した」
「地形が機能を引き出したのは、その通りです」とルシェンは答えた。「ですが、地形だけでは説明できない。エルフの弓兵が、ドワーフ出身の重装が前にいるから、安心して背中を守れた。重装が、エルフの援護があるから、前に出られた。各種族の長所が、互いを補完した」
ルシェンは少し間を置いた。
「これを、正式な戦術として、確立したいと思います」
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反対意見が、すぐに出た。
「混ぜると、指揮系統が乱れる」と別の小隊長が言った。「言語が違う。号令が通らない」
「言語の問題は、解決済みです」とルシェンは答えた。「数字だけの共通暗号——三月から運用している、一から十六までの符牒。あれを各部隊で徹底すれば、号令の壁は越えられます」
「文化が違う」と別の声が言った。「エルフの戦い方とドワーフの戦い方は、根本から違う。混ぜると、互いの邪魔をする」
「邪魔をしないように、役割を分けます」とルシェンは言った。「全員が同じことをするのではなく、種族ごとの得意を、組み合わせる。それぞれの種族が、自分の戦い方をする。互いの戦い方を、変える必要はない」
古参のリアンが、しばらく考えてから、言った。
「お前の言うことは、頭ではわかる。だが、現場で動くかどうかは、別の話だ」
「試したいと思います」とルシェンは言った。「次の作戦で。試して、動かなければ、撤回します」
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試験運用の作戦が、決まった。
ドワーフ民兵の補給隊への襲撃。八人編成、四種族。襲撃地点は、シャヘル北西、街道の屈曲点。補給隊の通過予定は、五日後の午後。
編成は——
エルフ二名(弓)。
ドワーフ出身者二名(重装、待ち伏せの押し)。
ヒューマン二名(連絡、合図、撤退の道案内)。
オーク二名(近接、突撃、殿)。
指揮は、ベシムが取ることになった。混成部隊の最初の隊長は、ベシムだった。理由は、ベシムが各種族の言葉をすべて少しずつ覚えていたからだった。完璧ではなかった。だが、各種族の兵に、各自の母語で、最低限の挨拶ができた。それで足りた。
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作戦前夜、ルシェンはベシムと打ち合わせをした。
「号令は、数字だけで出せ」とルシェンは言った。「一、開始。三、前進。七、退避。十、合図待ち。十二、解散」
「わかった」
「敵が補給を放棄して逃げ始めたら、追わない。物資を確保して、撤退する」
「わかった」
ベシムは少し笑った。
「お前は、本当に作戦官だな」
「俺は参謀でいい」
ベシムが「わかっている」と言った。それだけ言って、出ていった。
扉が閉まった後、ルシェンは、自分が「参謀でいい」と言ったことを、頭の中で繰り返した。繰り返しながら、それが本当に「いい」のか、自分でも、わずかに疑いが残った。だが、その疑いは、深く追わなかった。
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作戦の日。
ルシェンは現場に行かなかった。シャヘルの本部で、伝令を待った。
最初の伝令が、午後の早い時刻に来た。
「補給隊、屈曲点に進入。八人編成、こちらは予定通り配置」
次の伝令が、半刻後に来た。
「襲撃開始。エルフの一射目、御者を倒した。ドワーフ出身者が、押し出した重装で道を塞いだ」
次の伝令。
「敵、抵抗の組み立てに失敗。オークが回り込んで、後方の警護を分断。ヒューマンが、撤退路を確保」
最後の伝令。
「物資確保、撤退完了。損害ゼロ」
ルシェンは、伝令の言葉を、ひとつずつ書き取った。書き取りながら、頭の中で、各場面を再構成した。混成部隊の動きが、図として、頭の中で組み上がった。
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夕方、八人が戻ってきた。
全員が無傷だった。物資の荷車を二台、引いて戻ってきた。米、塩、薬、布。一か月分の食料補給。
ベシムが、ルシェンに荷を引き渡した。
「数字だけで、回した」とベシムは言った。「一回も口頭の号令を使わなかった。エルフもドワーフも、同じ数字に同じ反応をした」
「動いたか」
「動いた。最初は不思議だった。終わってみれば、当たり前だった」
ルシェンは少し頷いた。
古参のリアンが、後ろから言った。
「お前の言う通りだった、ルシェン。悪かった」
「いえ。試させてくれて、ありがとうございました」
「次も、こうやるんだな」
「やります。手順書を作ります。他の小隊にも、共有できるように」
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夜、ミラがルシェンを呼んだ。
二人だけの部屋だった。
「成功した」とミラが言った。
「はい」
「次から、混成部隊を、正式編成にする。お前の手順書を、組織の規定に組み込む」
「わかりました」
「ひとつ、言っておく」とミラは続けた。
ルシェンは姿勢を正した。
「これは、戦術じゃない」
ルシェンは聞いた。
「思想だ」
ルシェンは何も言わなかった。
「人を、種族で扱わない、というのは——戦い方ではない。世界の見方だ。お前は、戦術として組み立てたつもりかもしれないが、組み立てたのは、世界観だ。気をつけろ」
「世界観の何を、気をつけるのですか」
「思想は、人を変える」
ミラは少し笑った。
「お前が変える側になるか、変えられる側になるか、まだわからない。だが、どちらかになる」
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ルシェンは部屋に戻った。
机に向かった。手順書の表題を書こうとして、しばらく筆を止めた。
「混成戦術」と書いた。
書いてから、しばらく見ていた。
名前を付けると、それは独立した存在になる。書いた瞬間に、自分の頭の中にあった概念が、紙の上で、自ら離れた存在になっていた。
(思想は、人を変える)
ミラの言葉が、頭の中で繰り返された。
ルシェンは、手順書を書き始めた。書きながら、自分が今、何を組み立てているのか——それを、深く問わないことに決めた。




