66話:最初の戦闘
前の夜、ボグダンのところに行った。
ボグダンの部屋は、砦の鍛冶場の隣にあった。狭い。窓がひとつしかない。ベッドと、机と、棚。それだけだ。ランタンが机の上にあった。火が、弱く揺れていた。
「明日、出る」とドラガンは言った。
ボグダンは何も言わなかった。
止めることもできない。行けということもできない。どちらも言えないから、黙っていた。ドラガンにはそれがわかった。
ボグダンが何を考えているか、ドラガンには想像がついた。鍛冶師として、息子を戦に送り出すことの意味。マルコに評価されたことの意味。「変わるな」と言いたいけれど、言えば嘘になるかもしれないという、その躊躇い。それらが、ボグダンの沈黙の中にあった。
ドラガンも何も言わなかった。少しの間、父と同じ空気の中にいた。ランタンの火が、二人の間で、わずかに揺れていた。それだけで十分だった。
出て行くとき、振り返らなかった。振り返れば、ボグダンの顔を見ることになる。ボグダンの顔を見れば、何かを、聞きたくなる。聞けば、答えられないことに、二人とも気づく。それを避けた。
部屋を出るとき、扉が閉まる音だけが、後ろに残った。
***
夜明け前に出発した。
三十人の隊だった。マルコは来ない。副官のクリンが指揮を取った。クリンは四十代の、寡黙な男だった。命令は短く、無駄がなかった。ケシェドの東側から入る。焼かれた居住区の外縁を確保する。それだけの作戦だった。
ケシェドまでは、半日の距離だった。山を下り、街道を東に進む。道の途中で、夜が明けた。空が灰色から白に変わり、それから青に近づいていった。
行軍は静かだった。
静かというのは、声がないという意味だけではなかった。三十人が動くと、ある種の音が生まれる。鎧の擦れる音、地面を押す圧力、革帯の擦れる音、呼吸のリズムが重なる音。それが静かに積み上がっていく。一人ではなく、三十人がひとかたまりで動いている感覚だ。
ドラガンはその中にいた。
行軍中、何度か、自分の鎧の擦れる音が、隣の兵の鎧の音と同じリズムになる瞬間があった。意識して合わせたのではない。歩く速度が同じだから、自然に音が揃った。音が揃ったとき、ドラガンの中に、奇妙な、安らかさがあった。一人ではない、という感覚。それが、安らかさだった。
***
戦闘は、短かった。
エルフの警備隊はすでに引いていた。ケシェドの中心部で、焼けた建物が、まだ煙を出していた。煙の匂いが、街全体を覆っていた。木が焼けた匂い、布が焼けた匂い、そして——他の何かが焼けた匂いが、混じっていた。
残っていたのは、焼け跡と、逃げ遅れた数人だった。エルフの兵士が、撤退の殿として、街の北側に少数残っていた。それを、ドワーフ独立軍が押し出した。
居住区の外縁を確保するのに、一時間かかった。
ドラガンは中列にいた。剣を抜いたが、直接向かってくる相手はいなかった。建物の角を確認して、前進して、また確認した。確認の動作は、訓練で習った通りだった。武器を構え、視界を取り、一歩進む。それを繰り返した。
戦闘という感覚は、なかった。
作業のようだった。
頭の中の、ある場所が、静かだった。動くべき部分だけが動いている。それ以外は、動いていない。鍛冶場で、同じ刃を百本作るときに似ていた。同じ動作を、迷わずに、続ける。それと、似ていた。
***
確保が終わった後、遺体の整理が始まった。
ドラガンは指示された区画を確認しに入った。焼けた建物の脇に、エルフの兵士の遺体があった。引き揚げ損ねた者だろう。
若い顔をしていた。
ドラガンの年齢と、大して変わらなかった。十九か、二十か。緑がかった髪の色だった。エルフの兵士の制服を着ていた。胸の辺りに、刃の傷があった。そこから血が出て、すでに乾いていた。
足が止まった。
理由はわからなかった。止まろうとしたのではない。ただ止まった。膝が、勝手に動かなくなった。次の一歩が、出なかった。
(なぜ止まっているのか)
自分でもわからなかった。遺体を見たことがないわけではない。メシャラで、ノームの村で、すでに何度も見ていた。村が焼かれた後の遺体も、見た。
しかし——今は止まった。
目を逸らそうとした。逸らせなかった。若い顔が、視界の中央に、しっかりと固定されていた。
胸の奥で、何かが、上がってきた。
岩の陰に入った。
建物の壁と、別の建物の壁の間に、細い隙間があった。そこに入った。誰にも見えない位置だった。
嘔吐した。中身が出てしまうまで、止まらなかった。胃の中身、その下にあったもの、それより深いところにあったもの——順に、出ていった。
岩に手をついて、しばらく息をした。息が整うのに、時間がかかった。
誰にも見られていないと思っていた。
***
作業が終わって、隊が集まったとき、他の兵士たちは話していた。
笑い声も出ていた。作戦が成功したことへの安堵か。単に緊張が解けたのか。誰かが、誰かを、軽く小突いていた。冗談を言い合っていた。
ドラガンにはわからなかった。同じことを経験したはずなのに、自分は笑えなかった。声を出すことすら、できなかった。岩の陰での嘔吐の後味が、まだ口の中に残っていた。
自分は笑えなかった。理由がわからなかった。
マルコが来た。
マルコは隊の集まりの中央には来なかった。少し離れた場所にいた。ドラガンの方を、見ているような気もしたし、見ていないような気もした。
しばらくして、マルコがドラガンの隣に来た。一度だけ肩を叩いた。重くはなかった。だが、軽くもなかった。届くべき重さの、ちょうどそこにあった。
「最初はそういうものだ」
それだけ言って、去った。
ドラガンは何も言わなかった。
言うべき言葉が、見つからなかった。マルコが、岩の陰のことを知っているのか、知らないのか。知っていて言っているなら、それは、見られていたということだ。見られていたのに、責められなかった。むしろ、肯定された。
肩に残った感触だけが、しばらくそこにあった。
その感触は、温かくはなかった。冷たくもなかった。ただ、そこにある、という感触だった。
ドラガンは、その感触を、しばらく、受け止めていた。




