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七つの国境、ひとつの故郷  作者: Jint
第2章:灰燼の種子

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66話:最初の戦闘

 前の夜、ボグダンのところに行った。


 ボグダンの部屋は、砦の鍛冶場の隣にあった。狭い。窓がひとつしかない。ベッドと、机と、棚。それだけだ。ランタンが机の上にあった。火が、弱く揺れていた。


「明日、出る」とドラガンは言った。


 ボグダンは何も言わなかった。


 止めることもできない。行けということもできない。どちらも言えないから、黙っていた。ドラガンにはそれがわかった。


 ボグダンが何を考えているか、ドラガンには想像がついた。鍛冶師として、息子を戦に送り出すことの意味。マルコに評価されたことの意味。「変わるな」と言いたいけれど、言えば嘘になるかもしれないという、その躊躇い。それらが、ボグダンの沈黙の中にあった。


 ドラガンも何も言わなかった。少しの間、父と同じ空気の中にいた。ランタンの火が、二人の間で、わずかに揺れていた。それだけで十分だった。


 出て行くとき、振り返らなかった。振り返れば、ボグダンの顔を見ることになる。ボグダンの顔を見れば、何かを、聞きたくなる。聞けば、答えられないことに、二人とも気づく。それを避けた。


 部屋を出るとき、扉が閉まる音だけが、後ろに残った。


 ***


 夜明け前に出発した。


 三十人の隊だった。マルコは来ない。副官のクリンが指揮を取った。クリンは四十代の、寡黙な男だった。命令は短く、無駄がなかった。ケシェドの東側から入る。焼かれた居住区の外縁を確保する。それだけの作戦だった。


 ケシェドまでは、半日の距離だった。山を下り、街道を東に進む。道の途中で、夜が明けた。空が灰色から白に変わり、それから青に近づいていった。


 行軍は静かだった。


 静かというのは、声がないという意味だけではなかった。三十人が動くと、ある種の音が生まれる。鎧の擦れる音、地面を押す圧力、革帯の擦れる音、呼吸のリズムが重なる音。それが静かに積み上がっていく。一人ではなく、三十人がひとかたまりで動いている感覚だ。


 ドラガンはその中にいた。


 行軍中、何度か、自分の鎧の擦れる音が、隣の兵の鎧の音と同じリズムになる瞬間があった。意識して合わせたのではない。歩く速度が同じだから、自然に音が揃った。音が揃ったとき、ドラガンの中に、奇妙な、安らかさがあった。一人ではない、という感覚。それが、安らかさだった。


 ***


 戦闘は、短かった。


 エルフの警備隊はすでに引いていた。ケシェドの中心部で、焼けた建物が、まだ煙を出していた。煙の匂いが、街全体を覆っていた。木が焼けた匂い、布が焼けた匂い、そして——他の何かが焼けた匂いが、混じっていた。


 残っていたのは、焼け跡と、逃げ遅れた数人だった。エルフの兵士が、撤退の殿として、街の北側に少数残っていた。それを、ドワーフ独立軍が押し出した。


 居住区の外縁を確保するのに、一時間かかった。


 ドラガンは中列にいた。剣を抜いたが、直接向かってくる相手はいなかった。建物の角を確認して、前進して、また確認した。確認の動作は、訓練で習った通りだった。武器を構え、視界を取り、一歩進む。それを繰り返した。


 戦闘という感覚は、なかった。


 作業のようだった。


 頭の中の、ある場所が、静かだった。動くべき部分だけが動いている。それ以外は、動いていない。鍛冶場で、同じ刃を百本作るときに似ていた。同じ動作を、迷わずに、続ける。それと、似ていた。


 ***


 確保が終わった後、遺体の整理が始まった。


 ドラガンは指示された区画を確認しに入った。焼けた建物の脇に、エルフの兵士の遺体があった。引き揚げ損ねた者だろう。


 若い顔をしていた。


 ドラガンの年齢と、大して変わらなかった。十九か、二十か。緑がかった髪の色だった。エルフの兵士の制服を着ていた。胸の辺りに、刃の傷があった。そこから血が出て、すでに乾いていた。


 足が止まった。


 理由はわからなかった。止まろうとしたのではない。ただ止まった。膝が、勝手に動かなくなった。次の一歩が、出なかった。


 (なぜ止まっているのか)


 自分でもわからなかった。遺体を見たことがないわけではない。メシャラで、ノームの村で、すでに何度も見ていた。村が焼かれた後の遺体も、見た。


 しかし——今は止まった。


 目を逸らそうとした。逸らせなかった。若い顔が、視界の中央に、しっかりと固定されていた。


 胸の奥で、何かが、上がってきた。


 岩の陰に入った。


 建物の壁と、別の建物の壁の間に、細い隙間があった。そこに入った。誰にも見えない位置だった。


 嘔吐した。中身が出てしまうまで、止まらなかった。胃の中身、その下にあったもの、それより深いところにあったもの——順に、出ていった。


 岩に手をついて、しばらく息をした。息が整うのに、時間がかかった。


 誰にも見られていないと思っていた。


 ***


 作業が終わって、隊が集まったとき、他の兵士たちは話していた。


 笑い声も出ていた。作戦が成功したことへの安堵か。単に緊張が解けたのか。誰かが、誰かを、軽く小突いていた。冗談を言い合っていた。


 ドラガンにはわからなかった。同じことを経験したはずなのに、自分は笑えなかった。声を出すことすら、できなかった。岩の陰での嘔吐の後味が、まだ口の中に残っていた。


 自分は笑えなかった。理由がわからなかった。


 マルコが来た。


 マルコは隊の集まりの中央には来なかった。少し離れた場所にいた。ドラガンの方を、見ているような気もしたし、見ていないような気もした。


 しばらくして、マルコがドラガンの隣に来た。一度だけ肩を叩いた。重くはなかった。だが、軽くもなかった。届くべき重さの、ちょうどそこにあった。


「最初はそういうものだ」


 それだけ言って、去った。


 ドラガンは何も言わなかった。


 言うべき言葉が、見つからなかった。マルコが、岩の陰のことを知っているのか、知らないのか。知っていて言っているなら、それは、見られていたということだ。見られていたのに、責められなかった。むしろ、肯定された。


 肩に残った感触だけが、しばらくそこにあった。


 その感触は、温かくはなかった。冷たくもなかった。ただ、そこにある、という感触だった。


 ドラガンは、その感触を、しばらく、受け止めていた。


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