65話:ドワーフの誇り
山岳訓練は、三時間の行軍から始まった。
岩場の斜面を、重い装備を背負って登る。装備は、剣、盾、保存食、水、寝具——合わせて二十キロ近くあった。最初の三十分は、楽に登れた。次の三十分で、息が上がった。次の三十分で、足が重くなった。それでも止まらなかった。止まれば、列から外れる。
ドラガンは三十分で気づいた。
(俺の方が、速い)
訓練隊の前列には、兵士として鍛えられた者が多い。三年、四年と兵舎で過ごしてきた男たちだ。体型は均一で、脚力も十分だ。平地での行軍では、ドラガンは追いつくのが精一杯だったはずだった。
しかし斜面になると、差が出た。
上半身の重さが斜面では力になる。岩の段差を、腕の力で一段押し上げる場面が多い。下肢の力だけでは、登れない斜面がある。鍛冶場で金床を打ち続けた腕と腰が、そこで使えた。掴む、押す、引き上げる——その動作が、斜面の上で、続けてできた。
これまでずっと、鍛冶師の体は戦闘向きではないと思っていた。走ることが遅い。剣の扱いは習いたてだ。鎧の中で動くのに、まだ慣れていない。
しかし山ではそうではなかった。
(劣っていない。少なくとも、ここでは)
その感覚が、少し奇妙だった。劣っていない、と感じることが、何年ぶりかだった。鍛冶場では、ルシェンの隣で、いつも「劣っている」と感じていた。村の祭りでも、ドラガンの父親が褒める相手は、いつもルシェンだった。
今、山の斜面で、ドラガンは前列の中にいた。後ろではなく、前。それだけのことが、奇妙に、新鮮だった。
***
夜、たき火を囲んだ。
訓練隊の野営地は、山の中腹にあった。岩を組んで風除けにし、その中央に火を焚いた。十五人ほどが、火の周りに座っていた。
ヴラトコという老兵がいた。六十代に近い。砦の中で最も古い兵士の一人で、何度かの戦争を経験していた。普段は寡黙だったが、火を前にすると話すことがあった。火の光が、何かを引き出す効果があるのかもしれなかった。
その夜も、ヴラトコが話しはじめた。
「西山の鉄道を敷いたのは誰だと思う」
誰も答えなかった。質問の答えを知らないのではなく、ヴラトコが何を言いたいのかを、待っていた。
「ドワーフだ」とヴラトコは言った。「三年かかった仕事だ。岩を掘って、橋を渡して、百人が死んだ。岩の崩落で、滑落で、洪水で、肺の病で。百人だ。だが公式の記録には——」
ヴラトコは炎の向こうを見た。火の中の何かを、思い出しているような目だった。
「『連邦の開発事業』としか書かれていない。ドワーフの名前がない。誰が掘ったかが書いていない」
火が弾けた。誰かが薪を一本、足した。
「鉱山もそうだ。製錬所もそうだ。俺たちが作ったものに、俺たちの名前がない。連邦のものとして使われて、連邦の記録に残っている。それだけだ」
ヴラトコが、もう一度、火を見た。
「俺の父も、その百人の中にいた」とヴラトコは続けた。「鉄道の最初の年に、岩の崩落で死んだ。記録には、名前がない。俺は息子だから、父の名前を覚えている。だが、息子がいなければ、誰も覚えなかった」
ドラガンは火を見ながら聞いていた。
(鍛冶場では、ルシェンの方が先に先生に褒められた。腕で負けた。発想で負けた。繊細さで負けた——今、もっと大きな話として、同じことを聞いている)
個人の話だと思っていた。自分がルシェンより劣っているという話だと思っていた。鍛冶場の中だけの、二人の少年の間の話だった。
しかしヴラトコの話を聞いて——それが個人の話ではなく、もっと広いところに繋がっているかもしれないと、ドラガンは感じた。
感じた、というだけで、まだ言葉にならなかった。だが、感じた、ということは、確かだった。胸の中で、何かが繋がる音がした。音は出ていないのに、繋がる感覚があった。
ヴラトコが、ドラガンを見た。
「お前、鍛冶場の出か」とヴラトコが聞いた。
「はい」
「父も鍛冶師か」
「父も鍛冶師です」
「いい父だな」とヴラトコが言った。「いい鍛冶師は、必ず、いい父だ。仕事の手から、それがわかる」
ドラガンは何も言わなかった。ヴラトコの言葉が、胸の中で、もう一度、何かを繋いだ。
***
ヴラトコが話し終わって、少しの沈黙があった後、誰かが歌い始めた。
ボグダンが鍛冶場で口ずさんでいたのと、同じ歌だった。
ドワーフの作業歌だ。岩を掘るときの歌。炉の前に立つときの歌。リズムが一定で、旋律が低い。長い時間、同じ動作を続ける仕事のための歌だった。歌を歌うと、動作の疲れが、少し軽くなる。それを知っている者だけが、歌える歌だった。
一人が歌い始めると、もう一人が加わった。また一人。声が、低い旋律の上で重なった。重なっても、にぎやかにはならなかった。深くなった。
ドラガンは聞いていた。それからいつの間にか、口が動いていた。
気づいたのは、歌い終わった後だった。
(俺はこの歌を知っていた)
メシャラの鍛冶場で、ずっと聞いていたから。ボグダンが、火の前に立つときに、口の中で繰り返していた。ドラガンが子供の頃、その歌を聞きながら眠った夜が、何度もあった。
知っていた歌を、ここで歌った。隣の男たちと一緒に、同じ歌を歌った。
そのことに、奇妙な、温かさがあった。
***
その夜遅く、伝令が砦に着いた。
馬の音がして、山道を駆けてくる足音が続いた。野営地の端まで、馬を引いてきた。馬の息が、白く、夜の空気の中に上がっていた。
ヴラトコが立ち上がって、伝令を受けた。短い言葉のやり取りがあった。それから、囲んでいた者たちを見た。
「ケシェドが燃えた」と言った。「エルフの警備隊が入った。ドワーフ居住区が焼かれた」
たき火が揺れた。風ではなかった。誰かの息が、わずかに、火の角度を変えた。
誰も声を出さなかった。
ドラガンも声を出さなかった。出せなかった。ケシェドという名前を、ドラガンは知らなかった。だが、そこに住んでいた者の一人を、知っているような気がした。一人ずつの顔は、見えなかった。だが、「ドワーフ居住区」という言葉が、胸の中で、別の重さを持って落ちた。
ヴラトコが、火を見ていた。
その目に、午前中とは違う色があった。
長い、深い、燃えるような色だった。




