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七つの国境、ひとつの故郷  作者: Jint
第2章:灰燼の種子

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61話:入隊

 翌朝、ファトマのところへ行った。


 治療師の家の一室を借りている。窓が小さい。日の光が、部屋の半分にしか届かない。残り半分は、ランタンの明かりに頼っていた。


 治療師がファトマの脇腹を処置した後、静養が必要だと言った。脇腹の腫れの中に、古い炎症があった。メシャラを出る数日前から、おそらく始まっていた。本人は気づきながら言わなかった——治療師の見立てだった。


 ベシムが日に三回、食事と薬を届けている。朝、昼、夕方。一人で運ぶ。誰にも頼まない。ファトマは横になっているが、意識は鮮明だった。


「座れ」とファトマは言った。ルシェンが座った。


「話したいことがあるような顔をしている」


「種族を問わない抵抗組織がある」とルシェンは言った。「パルチザンという。昨夜、会ってきた」


「知っている」とファトマは言った。


 ルシェンが少し間を置いた。驚いたが、よく考えれば、驚くべきことではなかった。ファトマは、シャヘルに入った日から、何かを見ていた。


「いつから」


「シャヘルに入った日から。宿を紹介してくれた人間が、そういう話に詳しかった」


「入るか、と聞くつもりですか」


「聞こうとしていた。が、お前がその顔で来た時点で、もう決まっていると思った」


 ルシェンは答えなかった。ファトマには、見えるものが、見えるべきものだけ、いつもよりずっと多く、見えていた。


「入ります」


 ファトマが頷いた。それだけだった。


 ***


「ひとつ言っておく」とファトマは続けた。「組織に入れば、組織の論理がお前を動かそうとする。それは避けられない。どんなに正しい理念を掲げていても、組織は組織で、別の論理を持つ。理念を守るためにする決定が、いずれ、理念を裏切ることもある」


「わかっています」


「わかっていて、入るのか」


「わかっていなければ、入りません」


 ファトマが、わずかに笑った。笑いというより、口の端が少し動いただけだった。


「だが——」とファトマは続けた。「お前がお前でなくなったとき、それに気づく者がいるかどうかが問題だ。組織の中で、お前は、少しずつ変わる。変わったことに、お前自身は、しばらく気づかない。気づくのは、外から見ている誰かだ。お前を、お前として知っている誰かだ」


「ファトマさんがいます」


「私がいつまでいられるかは、わからない」ファトマは言った。「脇腹の話ではない。そういうことだ」


 ルシェンは何も言わなかった。


 ファトマは、自分の死期を語っているのではなかった。地理的なこと、政治的なこと、状況的なこと——いつ、二人が離れる日が来てもおかしくない、ということを言っていた。あるいは、そのすべてかもしれなかった。


「もう一人、いるか」とファトマが聞いた。


「ベシム、ですか」


「あの子は、お前を見ている。お前が変わったとき、気づくはずだ。だが、気づいて、それをお前に伝えるかどうかは、別の話だ。あの子は、寡黙だ。言わないで終わることも、ある」


「ベシムにも、伝えます」


「いずれ、必要になる」とファトマは言った。「お前が、お前を保つのは、お前一人ではできない」


「行け」とファトマが言った。「返事の期限があるだろう」


 ルシェンは立ち上がった。戸口に向かいかけて、止まった。


「知っていたのに、何もしなかった」と言った。「メシャラで。ノームのことも、連邦の崩れ方も、どうなるかはわかっていた。わかっていて、ずっと見ていた。もう——傍観者にはならない」


 ファトマは何も言わなかった。目だけで頷いた。


 ルシェンは出ていった。


 ***


 革なめし職人の地下に戻ると、ミラが一人でテーブルにいた。


 他の十二人はいなかった。各々の役目に出ているのか、別の場所で会議しているのか。ミラだけが、ルシェンの返事を待つために、ここに残っていた。


「返事を持ってきた。やる」


「理由は」


「知っていたのに何もしなかった。もう傍観者にはならない」


 ミラが少し間を置いた。


「知っていた、というのは。何を」


「いろいろと」とルシェンは言った。


 ミラがルシェンの顔を見た。三秒ほど見た。じっと見た。何を測っているのか、ルシェンにはわからなかった。だが、ミラは何かを、ルシェンの顔の中に、確認していた。


 それから「わかった」と言った。それ以上は聞かなかった。


 ***


 ミラが「名前と、何ができるかを言え」と言った。


「ルシェン。メシャラ出身。言語が話せる。観察が得意だ。先のことを少し考えるのが好きだ」


「どの言語だ」


「エルフ語、ドワーフ語、ヒューマン語、オーク語。一通り話せる。読み書きも、四つとも」


「どこで覚えた」


「メシャラで。鍛冶場の師匠がドワーフ語を、隣家の長老がエルフ語を、村全体がヒューマン語を、難民の子供がオーク語を、それぞれ自然に。意識して習った言語は、ひとつもありません」


「四つの言語を、意識せずに、覚えたのか」


「結果として、そうなりました」


 ミラがしばらく、ルシェンを見た。


「参謀だな」とミラは言った。


 ルシェンは否定しなかった。


 そのとき、地下への扉が開いた。


 ベシムが降りてきた。


 ミラが「誰だ」と言った。手は、何かに伸びかけていた。だが、伸ばし切らなかった。ベシムの体格と歩き方を、瞬時に判断して、敵意がないことを確認した動作だった。


「ベシムというオークだ」とルシェンは言った。「俺と一緒にメシャラから来た」


「俺のことは俺が言う」とベシムが言った。ミラに向いた。「力がある。重いものを運べる。言われたことをやる。使い道があるなら使ってくれ」


「なぜここに来た」とミラが聞いた。


「宿のおばさんから聞いた。種族を問わないと言っているところがある、と。本当かどうか確かめに来た」


「本当だ」


「じゃあいる」とベシムは言った。椅子を引いて座った。座る動作に、迷いがなかった。確かめに来て、確認したから、座った。それだけだった。


 ミラが少し間を置いてから「面白い」と言った。


 ***


 最初の任務が告げられた。


「三つの居住区に、三つの言語で、同じ警告を届けろ」とミラは言った。「明後日の夜明けまでに。それぞれの区の連絡先は、案内の者から聞け。内容は昨夜伝えた通りだ」


「わかった」


「ベシムは、ルシェンに同行しろ。夜の道を一人で歩くのは、お前でも危険だ」


「わかった」とベシムが答えた。


「ひとつだけ確認する」とミラが言った。「お前が三つの言語を使うのを、俺たちは確かめたことがない。本当に話せるのか」


 ルシェンはエルフ語でミラに言った。「本当に話せます。疑うなら試してもいい」


 ミラはエルフ語で「十分だ」と返した。


 短いやり取りだった。だが、確認としては、十分だった。アクセントの位置、語尾の微妙な変化、相手の言葉への返し方——それらで、母語に近い習熟度かどうかは、判断できる。ミラには判断できた。


「明日の夜、最初の警告を届けろ」とミラは言った。「明後日の夜明けまでに、三つすべて。失敗すれば、ドワーフ民兵が動く。動けば、住民が死ぬ。失敗を、最初の任務に選ぶな」


 ルシェンは頷いた。


 ベシムも頷いた。


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