50話:虐殺
深夜の鍛冶場は静かだった。
仕事を終えて、床に横になっていた。炉の火は落ちている。炭の匂いと、鉄の匂いと、一日の疲れの匂い。目を閉じた。
馬の音が聞こえた。
最初は遠かった。だが近づいてきた。一頭ではない。複数だ。旅人の速度でもない。急使の速度でもない。もっとゆっくりで、だがもっと多くて——包囲するような速度と方向から、複数の馬が村に入ってくる音だった。
ルシェンは体を起こした。
同時に、北の端で光が上がった。窓から見えた。炎だ。建物が燃えている。一軒ではなかった。
***
戸を開けて外に出た。
通りに人が飛び出してきていた。
方向が分からないまま立ち尽くしている者、子供を抱えて走る者、倒れている者。叫び声。泣き声。遠くから、金属が何かに当たる音が断続的に聞こえた。
「こちらへ」
ルシェンは声を上げた。
この村の裏路地を知っている。鍛冶場の裏の細い通り。ファトマの宿の脇を抜ける道。広場を迂回して南の外れに出られる路地。十六年、この村の隅々を歩き回った記憶が、今の今、地図として頭の中に広がっていた。
「声が聞こえる方へ来い。こちらへ来るんだ」
人が寄ってくる。一人、二人、五人。ルシェンは路地に入った。先頭に立って走った。後ろから足音が続く。どれだけ続いているか確認する余裕がなかった。とにかく走った。
路地の角で、武装した者と正面から出会った。
気づいた瞬間に身をかわした。完全には避けられなかった。刃が来て、頬の皮膚を走った。熱い。次の瞬間に痛みになった。顎の方へ、血が流れた。手で押さえながら壁に体をぶつけ、そのまま走り続けた。
止まれなかった。後ろに人が続いている。止まれば詰まる。
***
別の路地に出た。
ハサンがいた。
三十年ここで畑を作ってきた男だ。先月の大市で、空の露台の隣でひとり野菜を並べていた、あの農夫だ。ルシェンの顔を見てほっとした表情を作った。ルシェンが「こっちだ」と言いかけた。
そこで、背後から何かが来た。
ハサンが前に倒れた。声が出なかった。倒れた後、動かなかった。
ルシェンの足が一歩だけ、止まった。
止まった。
だが後ろから人が押してくる。前に進まなければ詰まる。ルシェンは一歩を進め、また走り始めた。振り返らなかった。振り返れなかった。
走りながら声を出した。「こちらだ」「こっちに来い」。叫びながら、路地を曲がり、また曲がり、人を誘導し続けた。頬の血が顎から胸に落ちていた。
***
南の外れに出た。
村の外の空き地だ。木が数本ある。暗い。声を上げると、別の方から人が来た。カジミルがいた。子供を二人連れた女性がいた。ベシムがいた。老人が二人。
「他に誰か」
「分からない。来る途中で」
「待つ。少し待つ」
木の陰に潜んで待った。しばらくして、また数人が来た。それから来なくなった。
村の方を見ると、複数の建物が燃えていた。叫び声がまだ聞こえた。遠くなっていた。
ルシェンは木に背をもたせかけた。頬を押さえていた手を離した。血は少し止まっていた。浅い傷だ。深くはない。だがまだ痛んだ。
空が、少しずつ白んできていた。
***
夜明けが来た。
炎が落ち着いていた。馬の音が遠くなり、やがて聞こえなくなった。村の中から声がしなくなった。良い意味ではない。
白んだ空の下で、ルシェンは村の輪郭を見た。燃えた屋根。黒い煙が空に伸びている。立っている建物と、立っていない建物がある。
その光景を見ながら、前世の記憶が来た。
押し寄せるのではなく——漂うように。いや、漂うよりも速く。堰を切ったように溢れた。夢の中で何度も見た炎の色。あの橙と黒。砕けていく地図。走る影。崩れる建物。煙。叫び声。
夢の中で見た光景が、今の目の前の光景に重なった。
同じだった。形が違う。場所が違う。種族が違う。だが起きていることは——ルシェンはそれを知っていた。夢の中で見た。前の生で、本の中で読んだ。本の中の話だと思っていた。遠い土地の、遠い時代の話だと思っていた。
それが、今夜、この村で起きた。
(知っていた)
声がした。自分の声か、誰かの声か分からない形で、その言葉が来た。
(ずっと知っていた。こうなることを。こういう夜が来ることを。知っていたのに——)
声が途切れた。それ以上は来なかった。
空き地の木の陰に、十数人が潜んでいた。泣いている者がいた。震えている者がいた。黙っている者がいた。
廃屋の影から、声が聞こえ始めた。
「誰かいるか」
別の方向からも。
「こちらに来い」とルシェンは声を上げた。「こっちだ」




