48話:武装する村
朝、北の街道に木の柵が立っていた。
一夜のうちに作られた。昨日はなかった。それが今朝はある。柵の手前に小屋が一つ。小屋の前に、武装した者が二人。緑と白の紋章。
ルシェンは遠くから見た。
交易路の北へ出るには、あの検問所を通らなければならない。エルフの民兵が、村の出入り口を管理している。
西の街道に向かうと、そちらにも柵があった。金と黒の紋章。ドワーフの民兵だ。二方向から、村が挟まれていた。
(南の街道は)
確かめに行くと、まだ何もなかった。南だけが開いている。今は。
***
昼前、荷物を担いで北の検問所に近づくと、エルフの民兵の一人が前に出た。
「どちら側についているか」
ルシェンは一瞬、言葉を選んだ。
「ヒューマンです。メシャラ村の住民です」
「どちら側についているか、と聞いている。エルフの管轄区域に帰属するか、ドワーフ連合に帰属するか、帝都政府に帰属するか」
「中央盆地領です」
民兵が少し間を置いた。
「ここはエルフの管轄区域に編入される予定の地域だ」と言った。「それを覚えておくといい」
通行を止めるわけではなかった。ただ言った。それだけ言って、脇に退いた。ルシェンは通った。背中に視線を感じた。通り抜けてから、視線が消えた。
***
夕方、ファトマが残留住民の集会を開いた。
十七人が集まった。いつもの面々だ。ヒューマンとオーク。顔を見渡すと、不安と疲れが等分に混じっている。
「二方向に検問所が立った」とファトマが言った。「南はまだ開いている。だが、いつまでかは分からない」
誰かが言った。「逃げましょう。今のうちに南へ」
「逃げてどこへ」と別の声が返した。「帝都も今は混乱している。親戚もいない」
「ここにいても、守れるものがあるのか」
声が重なって、収拾がつかなくなった。
ルシェンが立った。
声がまだ重なっていた。ルシェンは立ったまま、少し待った。
「自衛の手段が必要だ」
声が静まった。
「ここには鍛冶場がある。道具を武器に変える技術がある。師匠はいないが、師匠から教わったことはある。全部は作れない。でも、何もないよりはいい」
「そんなことをすれば刺激する」という声が来た。
「刺激しなければ助かるのか」と別の者が言った。
「鍛冶師なしにどうやって作るんだ」「やってみなければわからない」。また声が重なった。
ファトマが杖で床を叩いた。一回。音が止んだ。
「意見は聞いた。今夜は一旦解散する。考えてくれ」
人が散り始めた。ルシェンが出ようとすると、後ろから声がかかった。
振り返ると、若い男が三人立っていた。顔を知っている。村に昔からいる、ヒューマンの若者たちだ。その後ろに、ベシムがいた。
「手伝う」とベシムが言った。一言だった。
三人の若者も頷いた。
ルシェンは四人の顔を見た。それ以上は何も言わなかった。
***
夜、一人で鍛冶場に入った。
静かだった。
炉の前に立った。火口を整えた。木炭を積んだ。火打ち石を打った。小さな火が点いた。育てた。炎が安定した。
石壁に炉の光が揺れた。ボグダンの金床が赤く照らされた。工具棚の影が長く伸びた。
ルシェンは炉の前で、手を組んで、炎を見た。
自分が何をしようとしているのかを、改めて確かめた。
師匠から教わった技術がある。ボグダンの金床がある。それを使って、武器を作る。人を守るための武器を。守れるかどうかは分からない。でも、何もないまま夜を待つよりは——。
炎が落ち着いた。ルシェンは炉の火を見届けてから、その日は落とした。




