43話:残された者
炉の前に立ったとき、何かが広く感じられた。
鍛冶場の大きさは変わっていない。炉の石壁も、作業台も、工具棚も——あるべきものはあるべき場所にある。ボグダンの金床が作業台の横に残っている。それだけだ。
だが炉の前の空間が、いつもより広かった。
師匠が立っていた場所に、誰もいない。ドラガンが動き回っていた場所にも、誰もいない。二つの不在が、石造りの部屋の体積を変えた。
ルシェンは火口を整えた。木炭を積んだ。火打ち石を打った。一人でやった。
火が点いた。
それだけだ、と思った。師匠がいなくても、炉は動く。鉄は熱くなる。打てば形が変わる。それだけのことだ。
だが——それだけのことが、昨日まではそれだけではなかった。
***
窓の外から、木箱を動かす音が聞こえた。
通りを挟んだ向こう——ティセラの家だ。重いものを運ぶ足音。戸の開く音。荷台に積む音。リューバの声が短く何かを言い、ティセラの父が低く返す声がした。
ルシェンは窓を見なかった。
炉を見た。火を見た。火が安定して燃えるまで、ただ火を見た。見えないふりをすることと、見ないことは違う、とルシェンは思った。今は後者だった。本当に見ていなかった。見る準備ができていなかった。
音は続いた。一時間ほどして、止んだ。
***
昼過ぎ、ファトマが残留住民を広場に集めた。
ルシェンが着いたとき、すでに人が来ていた。数えた。十七人。
皇帝崩御の日に、この広場に百人近くが集まった。あの日のことをルシェンは覚えている。各家の戸が開き、老人も子供も、まだ寝間着のままの者もいた。誰が呼んだわけでもなく、鐘の音だけで集まった。
今日は十七人だ。ヒューマンが十二人、オークが三人、どちらとも言えない者が二人。エルフの顔もドワーフの顔も、広場にはない。
ファトマが中央に立った。杖をついて、腰を曲げて。声は小さかったが、広場に届いた。
「この村はまだある」とファトマは言った。「私たちはまだここにいる。いなくなった者たちのことを嘆く前に——残った者たちで何ができるかを考えよう」
誰も反論しなかった。だが、誰も元気づけられた顔もしていなかった。
食料の確認。水の管理。夜の見回り。簡単なことを確認して、会議が終わった。簡単なことしか、まだ確認できなかった。
***
夕方、鍛冶場に戻った。
朝に入れた炉の火が、まだ燃えていた。一日保った。ルシェンは炉の前に立ち、その火を見た。
師匠は朝に火を入れ、夜に落とした。三十年以上、それを繰り返してきた。ルシェンはその横で、火の入れ方を学んだ。火の落とし方を学んだ。
今日、初めて、一人でその一日を通した。
(それだけだ)
それだけが、今日の成果だった。それで十分かどうかはわからない。ただ、炉が一日燃え続けた。それだけは、確かにあった。
***
会議の帰り際、ファトマがルシェンを呼び止めた。
広場の隅で、二人だけになった。
「ルシェン」
「はい」
「お前は、複数の種族の言葉が話せる」
ルシェンは答えなかった。
「複数の種族の習慣を知っている。複数の種族の人間を、名前で知っている」ファトマが杖の先を石畳に当てた。「それは、これから先の村には——何にも代えがたい道具になる」
「道具、ですか」
「道具だ」とファトマは言った。「使い方次第で、人を繋ぐこともできる。使い方次第で、傷つけることもできる。道具というのは、そういうものだ」
ファトマが歩き始めた。ルシェンはその背中を見た。
十七人しかいない広場に、夕日が長く伸びていた。




