40話:夜の会話
「丘に行こう」
ドラガンが言い出したのは、夕方だった。
理由はなかった。「なんとなく」と言った。それだけだった。
ルシェンはドラガンの顔を見た。いつも理由を持つ男だ。「飯を食う」「仕事をする」「鉄を打つ」——ドラガンの行動にはいつも、明確な目的がある。「なんとなく」は珍しかった。
「ティセラも呼ぶか」
「ああ。呼ぶ」
三人で坂道を登った。村の東の外れにある、低い丘だ。子供の頃から何度も登った。頂上から村が見下ろせる。交易路の白い線が見える。その先に山の輪郭。空は、夏が終わる前の透明な青だった。
***
頂上に着いた。
三人で横に並んで、村を見下ろした。
橙色の灯りがいくつか。夕暮れ時の、家々の明かりだ。ルシェンは自然と数えていた。先週まで灯りがあった場所が暗い。エルフの家々の窓が何軒か、光っていない。ドワーフの家も数軒、暗くなっていた。
「減ってるな」とドラガンが言った。
「うん」
「まあ、仕方ない」
ドラガンが草の上に寝転がった。両手を後頭部に組んで、空を見る。ティセラが隣に座った。ルシェンも座った。
暗くなっていく空に、星が出始めていた。
「俺、実は星の名前を知らないんだ」とドラガンが言った。「どれがなんて名前なのか、一つも知らない」
「エルフ語で教えてやろうか」とティセラが言った。
「いい。知らなくていい」
「なぜ」
「知ったら、名前で見るようになる。名前を知らない方が、ただ光って見える。そっちの方がいい気がする」
ドラガンが笑った。
その笑い方が、少年期のあの笑い方だった。鍛冶場で失敗して、それでも懲りずにまた打ちにいく、あの顔だった。屁理屈だけど本気の顔。威張っているようで、どこか無防備な顔。
ルシェンはその笑い方を見て、胸の中に何かが来た。温かいものが来て、すぐに冷えた。
***
しばらく、三人で黙って空を見ていた。
村の灯りが少しずつ増えていった。夕暮れが深まって、家々が明かりをつけ始めた。だが、つかない明かりもあった。
ルシェンは決めて、口を開いた。
「何があっても、俺たちは友達だろ」
沈黙が落ちた。
言い方が直接すぎたかもしれない。だが言わずにはいられなかった。三人でいられる夜がいつまであるかを、ルシェンは骨の髄で知っていた。知っていたから、言った。
ティセラが言った。「覚えている」
静かな声だった。語り部の声だった。完全記憶の声で、一字一句を受け取って、刻む声だった。
ドラガンが少し間を置いた。草の上で寝転がったまま、空を見たまま。
「まかせとけ」
それだけ言った。
三人で笑った。笑い声が丘の上に短く響いた。本当に笑えた。下の村の灯りが揺れて見えた——目が滲んでいたからかもしれない。ルシェンは気づかないふりをした。ドラガンもティセラも気づかないふりをしていた。
それが三人のやり方だった。ずっと前から、そうだった。
***
帰り道、坂道を下りながら、ドラガンがルシェンの肩に手を置いた。
一度だけ、ぽんと叩いた。
「お前はいいやつだ」
照れ隠しのような言い方だった。いつものドラガンの、感情を直接言わないときの言い方だった。
だがルシェンにはその言葉が、「ありがとう」に聞こえた。「俺はお前を友達だと思っている」に聞こえた。言葉ではなく言葉の裏が、ルシェンの耳には届いていた。
ドラガンの手が肩から離れた。三人は村に向かって歩いた。
その夜が——どういう夜であるかを、ルシェンは感じていた。感じながら、何も言わなかった。
***
翌朝、鍛冶場に行くと、ボグダンが工具を並べていた。
いつもの並べ方ではなかった。どの工具も丁寧に磨かれ、一列に置かれている。必要なものと、そうでないものを分けているような並べ方だった。
ルシェンは「おはようございます」と言った。
「ああ」とボグダンが答えた。
それだけだった。
炉に火を入れながら、ルシェンはボグダンの背中を見ていた。この並べ方は知っている。何かを選んでいる並べ方だ。何かを決めているときの、師匠の背中だった。




