第十四話 モンスターに囲まれる勇者と遊び人
池梟の村を旅立った俺と寅吉は、転生者のサブたちが歌舞伎街に集まっていると知らずに、円形に配置された村や街を逆方向に歩いていた。
「タクミ、池梟の村を出てから二日、そろそろ次の街に辿り着いても良いんじゃねえか」
「ええ、村を出てすぐの塚を登ったところから、素鴨の村が見えるはずなんですが……もしかしたら北にずれちゃったかな?」
「てめえは高校中退のくせに、ちゃんと地図も見れねえんだな」
「へへへ、見れねえから高校中退なんじゃないですか」
「おいッ、タクミ!」
「な、なんですか、寅吉さん?」
「次に高校中退を鼻にかけたら、ぶっ殺すからな」
鼻かけてねえよ! どこの世界に高校中退を自慢するバカがいるんだよ!
てめえこそ、さすがに嫌味込めて言ってんだろうが!
小学校も出てねえわけねえだろう! 中学校までは義務教育ってことくれえッ、バカな遊び人にもわかちゃいるんだぜ!
と、言えるはずもなく、言い返せば殴られるので愛想笑いで誤魔化した。
「まあ、魔王軍に抵抗する最後の砦ですけど、村や街の外には化物がうじゃうじゃいますからね。道だって内側のように整地してない未舗装ですし、外苑部を移動すれば迷っても仕方ないです」
あれ、寅吉のやつが頭を抱えている。
もしかして俺の説明が、飲み込めなかったのかな。
なんかイライラしてるし、あの人はわからないことがあっても、プライドが高くて質問してこないんだよな。
しょうがねえ――
「ここらの地名は、日本の地名や配置と類似してるんですよ。うちらがいた池梟の村が池袋、これから向かう素鴨が巣鴨みたいな感じです。たぶん二つの世界は、お互いに何かしら干渉してるんでしょうね」
「おう、俺もそれくれえのことわかっていたぜ」
「本当かよ……まあ! 要するに山手線の駅のように環状に配置された街や村は最後の砦と呼ばれてて、お互いに集落周辺を防衛して、化物が内側にある都市部に侵入しないようにしてるんです。俺らは、その最後の砦の外苑部をサブたちを探して旅しているんです」
「おおっ、そうか! ずいぶん説明くせえ台詞だったが、タクミの話はわかりやすいのお」
「あざっす!」
こんな情報は、半年も異世界の街で暮らしていたら身について当然だろう。
ここらの地理が日本と類似してるなんざ、高校中退の俺だって気付いたんだぜ。
いいや、ここらだけじゃねえ。
この世界には世界地図なんてものはなかったが、魔王に支配されちまった中つ国、ナメリカ公国、ノーロッパ連合国……街の連中の話を聞けば、異世界エチカが、俺たちが住んでいた地球と同じような地理だとわかる。
「ところでタクミ、なんで俺たちは身内を探すのに外苑部を旅しているんだ?」
「俺ら転生者は無一文なので、生きていくには冒険者のように化物狩りするしかないじゃないですか。内側には化物いないし、最後の砦から外側にも人間の住んでいる街や村はあるけど、魔王軍の支配地域に単騎で挑むほど強くないでしょう」
「なるほど、だからサブたちも外苑部の何処かにいるってわけか」
「時計回りでも逆周りでも、ここらの街や村は環状してるから、一周するまでに再会できるはずです」
「タクミは、やっぱりインテリアだな。向こうに戻れたら、小松組の金庫番にならねえか? てめえは賢いしよ、なんならフロント企業を任せても良いぜ」
「俺は生来の風来坊で、インテリヤクザって柄じゃねえです」
「まあ渡世のてめえに、極道は似合わねえかもな」
「すいやせん」
それにしても化物を退治しながらとは言え、池袋から巣鴨までの道のりを考えれば、素鴨まで二日は時間がかかり過ぎだ。
最後の砦を外れたとなると、俺と寅吉は魔王の支配地域に迷い込んだんじゃねえか。
だとすると北東方面で人間の暮らしている街は、成増周辺に一つ、それを過ぎたら大宮周辺まで歩かねえとなかったはずだ。
「寅吉さん、やっぱり道を間違えたみたいです。ここから南下して、最後の砦に戻りましょう」
「おお、そうか。でもよ、西も東もわかんねえぜ?」
「幸いなことに、こっちの世界でも太陽は東から登って西に沈みます。今は正午過ぎなので、太陽は西南方面にあります」
「タクミ、てめえは博士か!」
「いいえ、高校……ただの遊び人ですよ」
来た道を振り返った俺は、寅吉の背後を尾行していたオークとゴブリンの混成パーティーと目が合った。
オークは棍棒、ゴブリンは錆びたナイフや弓矢を装備している。
奴らは道を外れた俺たちを尾行して、襲う機会を窺っていたらしい。
「寅吉さんッ、化物に囲まれてます!」
「なんだとお!」
俺は錫杖を構えたものの、覚えた攻撃系の呪文は付火の奇跡だけ。
ここまでの旅で、倒した化物から何冊か魔導書やスクロールを手に入れているが、誰かにご教授してもらわなければ、使い方がわからねえ。
「タクミは、俺の背中に隠れてやがれ」
「寅吉さんっ、まさか一人であいつら全員を相手にするつもりなんですか?」
「ああ、てめえには煙草の火と傷を癒やしてもらえればいい。斬り込みは、俺だけで十分だ!」
寅吉は絶対防御の白い上着を脱ぎ捨てると、腰を落として手を前に向けた。
勇者クレイジータイガーは、仁義を切って龍に喰らいつく虎の入墨を化物どもに見せつけている。
言葉の通じるかもわからねえ化物に、わざわざ前口上で仁義を切る必要があるのか。
ジャパニーズトラディッショナルマフィアスタイル、まさにクレイジータイガーだ。
「お控えなすってッ、お控えなすって! てめえ生国と発しまするは足立区竹ノ塚の生まれ、姓は富田、名は寅吉、人呼んでクレイジータイガーと申します。ケチな勇者でござんす。異世界では一宿一飯の恩義にあずからしていただきますおり、隅から隅までズズいとお見知りおきいただくよう存じやす」
化物どもは顔を見合わせていたが、匕首をチラつかせて仁義を切る寅吉を真似して頭を下げた。
「これはこれは、皆々様ご丁寧な挨拶ありがとうでござんす。しかしながら、てめえと皆々様とは相容れない関係と存じませば、ここで斬り合うのも仕方のねえ話でござんす」
寅吉の口上を聞き飽きたのか、先頭に立っていたオークが棍棒を彼の頭上に叩き落とした。
しかし殺気を感じ取った勇者は、腕をクロスして振り下ろされた棍棒を防いだ。
「そうかい……てめえらみてえな化物には、仁義を切る必要なんてなかったようだな」
「寅吉さんっ、そんなん端っからないでしょう!? あとっ、なんで物理耐性の上着を脱ぎ捨ててんですか!?」
両手を下げたまま腰を伸ばした寅吉は、ゆらゆらと揺らしていた肩をピタリと止めて、総勢十二匹のオークとゴブリンにガンを飛ばす。
「てめえらッ、死にてえ奴からかかってきな!」
やべ……ちょっと惚れ直したわ。
意味わからないけど。




