第十五話 ゲームに例えたら不正行為を疑われる
寅吉は匕首を握りしめた拳で、オークのどてっ腹を殴りつける。
彼は血反吐を吐くオークを殴った勢いで地面に押し倒すと、ゴブリンたちが放った矢を睨みつけて『ふんッ!』と、手を横に降り気合で払い除けた。
俺には小鬼の放った矢が貧弱なのか、寅吉が手を振って起こした風圧が凄いのか、一瞬のことで判断できないが、
「すげえ……寅吉さんは魔法とか魔力に頼らず、覇気だけで矢を落としやがった」
とりあえず勇者として転生した寅吉は、ゴブリンの放つ矢如きで傷を負うことがないらしい。
弓矢を持つゴブリンにも、それが伝わった様子だ。
及び腰になった小鬼たちは、じりじりと包囲網を広げて背後にある森に敗走するようだ。
となれば、寅吉が一匹倒した残りはオーク四匹だ。
「寅吉さんッ、俺も加勢します!」
攻撃魔法が使えない俺は、錫杖をバットのように持ち替えて、寅吉に襲いかかるオークの顔面に振り抜いた。
俺は必死で、鼻血が吹き出したオークを錫杖で滅多打ちにする。
錫杖は魔法使いの武器なのに、物理攻撃でも有効なんて万能だ。
豚面一匹を沈黙させた俺が、寅吉に振り返れば、彼は左右から襲いかかるオークの顔面を、二匹同時に蹴りと拳で粉砕していた。
彼は皆から『勇者』と呼ばれるだけのことはある。
ステゴロの戦闘スタイルは、繁華街で見かけるヤクザの喧嘩だが。
「寅吉さん、あと豚面一匹ですね。小鬼の奴らは、勝てねえと諦めて逃げるみたいです」
いや、残り一匹になったオークも逃げるつもりだ。
及び腰のゴブリンをチラ見しながら、自分もゆっくり後退りしている。
最後の一匹は棍棒に丸い盾を装備しており、他のオークより立派な体格をしていた。
こいつが化物パーティーのリーダーに違いない。
「ゴブリンどもッ、親分置いて何逃げてやがる! とっととかかってこんかいッ、この腰抜けどもが!」
「寅吉さんっ、なんで挑発してるんですか!? いいじゃないですか、あいつら逃してやりましょうよ」
「タクミは、俺の背中に隠れていろ」
あんたは良いよっ、ゴブリンの矢を覇気で無効化できるからさ!
俺は、そんな芸当できねえんだよ!
化物が見逃してくれるなら、万々歳じゃねえか!
と、言えるはずもないので、俺は素直に寅吉の背中に隠れた。
「さあ三下ども、全員でかかってきな」
お言葉に甘えて、と、言ったかどうかはわからないけど、リーダー格のオークが雄叫び棍棒を振り下ろせば、森まで逃げていたゴブリンが反転攻勢に出た。
不敵な笑みを浮かべた寅吉は『俺をタマ取るには兵隊が足りねえよ』と、錆びたナイフを手に飛びかかってくるゴブリンに、走り込みながら一匹ずつ拳で叩き落とす。
彼の拳で粉砕する錆びたナイフ、小鬼の頭蓋骨、肋骨をおられた奴もいる。
七匹いた小鬼は、すれ違いざまに瞬殺された。
「反則的な強さだ……こんなのゲームなら不正行為キャラじゃねえか」
俺は空を見上げて、雨のように降り注ぐ化物の血を浴びた。
それからリーダー格のオークと向き合った寅吉の背中、龍に喰らいつく虎の入墨を見た。
「てめえで終いだぜ、親分さんよお」
「ぶ……ぶひぃ……ぶひぃ」
戦意喪失したオークは、へたり込んで失禁している。
俺はビビってションベン漏らす化物なんて初めて見たが、これじゃどっちが化物かわかりゃしねえな。
「あばよ」
寅吉の拳がオークの顔面に振り下ろされて、化物との戦闘は終わった。
彼は匕首を使わずに素手で戦ったので、その理由を聞けば、オーク如きの血のりでドスの切れ味を落としたくなかったと言う。
こんな化物の仲間で、俺はラッキーだ。
こんな化物に命を狙われる魔王のやつが、俺は不憫でならない。




